花葩と命の彼方に

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花が咲いた。捨てられた遊園地、まだ真新しい家。いつしかコンクリートジャングルと呼ばれたそれにも、隙間を縫って可憐で儚い花々が咲き始めた。
生き物達は命を散らした。大人に憧れた子供も、戦いを知るかつての勇者も。
人々は死を恐れた。ある人は神へ許しを乞い、ある人は投げやりに暴虐の限りを尽す。
もちろん財団も原因を特定しようと躍起になる。
そして彼らは気づいた。
命あるものは全て死ぬと。それが命の理だと。
その日から、無慈悲な楽園が花開いた。老若男女、全てが心穏やかにその時を待った。街は凪いだ海のようだった。
とある村で、少女が母を看取った。小さな荒屋の隙間には、彩るようにサルビアが咲いていた。母親は最期まで娘を思いながら死んでいった。母を見送った後、少女は花一面の景色を見ようと家を出た。数歩歩いたところで、彼女は自分の心臓の鼓動が止まっている事に気づく。あ、という声を最期に娘は花畑に伏した。彼女の亡骸は微笑をたたえていた。あるいは歪んだ口がそう見えたのかも知れない。
とあるサイトでは、不死身の爬虫類とアベルが談笑していた。彼らですら生き物を殺す気にならない平和な世界がそこにあった。死体がそこらに転がっている事を除けば。何を話しているか興味が湧いたので近づいてみた。死んでいた。二人とも。アベルの目は固く閉じられていたが、楽しげに微笑んでいた。爬虫類は何か言おうとしたのか、口を開いたまま事切れていた。彼らの座っている近くにはエーデルワイスとツユクサが咲いていた。どうやら花々を踏まないよう座ったらしい。トカゲの巨躯に踏み潰されている花は一本もない。アベルの黒い髪が、花びらと共に宙を泳いだ。
少し歩くと、切り株に星眼児が座って息絶えていた。頭にはカラーとブバリアで作られた、彼女の頭には大きすぎる花冠が乗っていた。ようやく彼女にも''おともだち''ができたのだろう。6歳くらいの女児が星眼児に寄り添うように死んでいた。
基地の近くにある森の小川の石には、カインが座っていた。彼にしては珍しくあぐらを掻いて空を見上げている。その瞳の青さに劣らない、青い、青い空が目に映っていた。手にはディアスシアとカンパニュラ、ヒヤシンスが握られていた。なぜか彼の周りの花々は枯れておらず、木だけが枯れていた。誰よりも恋しがっていた弟には会えたのだろうか。
ビルダーベアが歩いていたのを見かけた。A,B,Cがクマに並んで歩く。これがおぞましい化け物でなければ幼子が誰しも夢見た光景だろう。彼らはロベリアが咲く花壇に腰掛けると、そのまま動かなくなった。
博士達はかつての同僚と握手をして研究所から出て行った。多分、彼らが握手するのはこれで最後だろう。笑っていた。みんな、みんな。これからすぐ死ぬというのに。何で笑えるんだろう。
花々の最後の足掻きはこう名付けられた。
-リリーの提言-うつくしい世界へ-と。

                
                    

''そんなこと分かっていたさ''と彼は言った。
     
でも、何度だって仲間が死ぬ所、見てきたのにね。やっぱり自分が死ぬ前に怖くなるってのは本当だったか
     
''まあ、もういいさ。楽しめたし。ところで、その散らばっている薬はなんだい''
     
やだなぁ、あなたならわかるはずでしょ
     
''ジフェンヒドラミン…抗アレルギー薬だね。君、オーバードーズする気でしょ''
       
そうそう。一足先にいっちゃおうと思って。
      
''もうすぐみんな死ぬのに?''
        
この世界は私には眩しすぎる。
         
''やめなよ。君はみんなと死ねるんだからさ。幸せ者じゃないか''
        
''人は一度しか死ねない。だからこそ花のように儚くて美しいんじゃないか''
        
''生まれてきたからにはちゃんと生きなきゃならない。それがヒトに託された使命なんじゃないか?''
   
幸せになりたかった。
    
''生きていることが幸せなんだよ。この財団で働いていてもまだ分からないのか。普通に生きて、普通に死ねる。それが幸せなんだ''
    
生まれた時から名前も何も貰えなかった。孤児院に売られて、なんとか生き延びて。必死に生きて行き着いた先がこの財団だった。でも。命だけは自分のものだ。命だけは自由にさせてくれ。
    
''違う。命はみんなのものだ。お前が死ねば遺された奴が辛いんだ。みんな死ぬのが怖いよ。それでも笑ってるんだ。他の人のために。そんな奴らを苦しませていいのか?自分で命を絶つとか、考えられないよ。奴ら、きっと泣くぞ。''

''人は一度しか死ねない。だから生きなきゃならない。それが幸せってもので、それが人生ってものじゃあないか?''
         
''でも、彼は死ぬ事で幸せになった。なんて数奇な運命なんだろう''
     
''私も幸せになりたかったよ''      
   


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  1. portal:7923631 (09 Mar 2022 00:58)
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