安らかに召し上がれ

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「とびきりロマンチックに死んでみるか」
 
言葉を吹きかけるようにそう恋人に囁いた。
 
紅碧がかった瞳を2度、3度瞬かせた恋人はこう言った。
 
「ああ、死んでもいいぜ」

月が綺麗ですね、と言いたいところだが。
 
あいにく高層マンションから見る月は、息で白く濁った硝子のおかげでぼやけて見えた。
 
ロマンチックな死、と。そう言ったものの、とんと検討もつかない。
 
ニール橋から愛を誓って手を繋いで飛び降りるか、いっそ自殺配信して画面のうえの物語になるのも良いかもしれない。
 
 
恋人は言った。
「美味しいものを食べて、生きた気になってそれで死にたい」
 
ロマンチックとはかけ離れた言葉遊びだが、なんでも良かろう。
 
わたしは「魔法のレストラン」の情報を手に入れていた。
感情を練った魔法の料理でひとの心を掴み、笑わせ、悦ばせ、時に泣かせる。
 
そんな童話のようなレストランで最期の食事を為すことはロマンチックの一言に尽きるだろうから。
 
 
「魔法のレストラン」の目撃情報が多い日本へと飛んだ。
海外でも料理を出しているようだが、日本が本拠地のようだったから。
 
そっと開けたホテルのドアの外、これから心中を決行するまちを見渡した。
「見知らぬまちのはずだが、やっぱりなにか思い入れを感じるような、目線が違ってくるな」
恋人はそう呟いた。
 
冷たい息を吐き吐き空を眺める。いつも濁っていたはずの暗天は、祝福するように星々で飾られている。
 
繋いだ手から伝わる訴えるような体温をわたしの手の冷たさで打ち消し、黒く沈んだ水流をじっと睨み据える。
 
「魔法のレストラン」と思わしき店を、全て当たっていくのだ。大きな苦労と少しの覚悟が必要であろう。
 
恋人は言った。
「この橋を渡るのもこれが最後なんだろうか。母さんと見たかったかもしれねぇ」
 
何を見たかったのか、わからないが。
いつも主語が抜けるのは愛おしい癖だが、大抵の人には煩わしく感じるのだろう。
 
「その代わりにわたしがいるんだと思ってくれて構わない」
 
すこし妬いたイントネーションを絡めつつ、冗談っぽく言ってみた。
わたしにしては珍しいかもしれないが、対して驚かなかったのか、少し微笑んだ。
 
母さん、父さん、息子。
とっくに音信不通だから、人並みの家族愛などなくとも生きていける
 
が、恋人が紡ぐお伽噺のような美しい家族愛の語りはいつまでも聞いていたかったものだ。
わたしは恋人から汲む愛しか知らない。
 
目的と思わしき店へ入ると、ひとびとがやわらかい表情で話していた。
ハズレのようだが、入ってすぐ出るのは無作法というものだ。

わたしも恋人もスープをオーダーして外を眺めた。

スープ皿が机へ着陸した。
 
熱い湯気がふわふわと漂い、顔にまとわりついて少々煩わしく感じるが、またそれも味がある。
  
ただ少しのパンが沈んだだけの質素なスープが、最後の晩餐の幕を開けた。
 
 
からりからりと鳴くドアを開ける。
恋人の顔は寒さで赤く染まっていた。 
 
「なにか、大富豪になった気分。」
目を細めた恋人は、可愛らしい表現で感想を述べた。
「ずいぶんと安っぽい富豪だな」
ツンと言い返してやったが、楽しそうに笑っていた。
 

混沌としたまちで魔法のレストランを探して2時間。
 
空きっ腹に疲労が刺さる。
  
恋人は、星空を眺めて言った。
「あれがカシオペア、プロキオン、一角獣。冬の大三角形って、ここからでも見えるらしい。」
 
瞳に空漠と輝く空を隠して笑う。
 
わたしの母も、あんな瞳をしていたっけ。
毎夜毎夜眩いばかりに塗られた紅い口紅を付けて、街に繰り出していた。
 
きっとわたしも赤い口紅が似合う。
とても醜く写るのだろう。
 
2店目に入る。
古くぬるく澱んだ空気と対比的に聞こえる声は、この店が生きてまだ活のあるものだということを証明している。
 
 

ワインと少しの肉を食べ、腹を慰める。

 
恋人は言った。
「全然見つからないな。今日は一旦帰る?」
 
わたしはまだ粘りたかったが、帰りたいという意思表示だと判断してタクシーを拾う。
 
おぼつかない日本語でホテルを指定する。
 
ホテルのベッドへ倒れ込んだ恋人は、心底幸せそうに笑った。
「見つからなかったね」
「明日も、日が暮れたら探して行くか」
「いや、いいよ」
「え?」
「あなたとならどこでもいい、魔法のレストランじゃなくてもそこらのレストランで毒を混ぜて死んじゃっても全然いい」

拍子抜けだ、が、恋人の顔を見るに無理に言ってはいないようだ。

ああ、やっぱりわたしは幸せ者だった。
 
 
以下、スポイラー。

「弟の食表品が見つからないから幸せを掴めた」という話があってもいいんじゃないかと思い書きました
DV・NV・UV、その理由、感想、改善点をよろしくお願いします。

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  1. portal:7923631 (09 Mar 2022 00:58)
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