病めるときも健やかなるときも
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パーラーが見えてきましたよ、ケンゾウさん。
もう数十年ぶりかしら。楽しみだわ。
少し、お店の外装が変わっているのかしら。それでも雰囲気は変わっていないみたいで、よかった。


あら、ベルはもう付けていないのね。
 
わたくし、若い頃にドアが開くときのベルの音が大好きで何度も開けて閉じてしちゃっていたわ。
怒られてしまったんだけどね。


ほらケンゾウさん、座ってくださいね。
お席はあんまり変わっていないみたい。
予約札もレースが飾っていてとてもお洒落ね。
このお水、レモン水なのかしら。爽やかで臭くなくて、とても美味しいわ。
わたくしも作れたらいいのですけど…。


さて、そろそろ注文をしましょうか。
呼び鈴はもうないのね。
そこのボーイはこちらに気づいているのかしら?
ちょっと前までは視線にすぐ気づいてすぐ注文を取りに来てくれたのに。
いえいえ、大丈夫よ
呼び寄せましょう。


わたくしは…この''コロッケカレー''で。
ケンゾウさんも同じでおねがいします。
飲み物?飲み物もセットになったのですね。
じゃあ、このホットティーで。
食後に出してくださるかしら?
あら、もうえらべなくなったのね。
では一緒に出してください


今日は他にお客さまがいないのね。
少し不安だけれど、きょろきょろしても誰にも変な目で見られないから良いわ。
きょろきょろしちゃう癖、この歳まで治らなかったけどおかげでケンゾウさんと出会えたから感謝してるわ。
わたくしが二十の時でしたっけ。
歌舞伎か何かを見に行ったとき、わたくし早々に飽きちゃって。
観客のみなさんを観察なんかしていたわ。
わたくしの隣のおじさまがなぜか泣いていたの、今でも覚えてるわ。
ケンゾウさんは私から三つ後ろの席でしたっけ。


ケンゾウさんのそのお洋服、そういえばこの前来た時と変わっていないわね。
もしかして合わせてくれたのかしら。


もうお皿がきたわ。
はやいのね、ひとが少ないからかしら。
このお皿の模様も変わってしまったのね。
ロゴが違うわ。
さぁ、いただきましょう。ナプキンはつけられる?
やっぱりわたくしがつけましょうか。


フォークっていつ握ってもワクワクします
どういう味なんだろうとか。
たくさん考えてから食べるのが一番楽しくて美味しいの。
あぁ、美味しい。
やっぱりこの味は変わっていないのね。
式のときと変わっていないわ。
コロッケのじゃがいもが大玉なのも、カレーににんじんが入っていないのも。
全部含めて思い出の味ですわ。


このカレー、普通のものよりとろとろしていて美味しい。
ケンゾウさんのお皿はあまり進んでいないようですけれど、ケンゾウさんの分まで食べられそうだわ。


ごめんなさいね。何か涙が出ちゃった。
美味しいのもあるんだけど、色々思い出しちゃって。
楽しい記憶ばっかりだわ。
幸せね。


あと一口で終わっちゃう。
また来たいわね、ケンゾウさん。
いえ、また来ましょう。


何かもやもやするわ。
あんなに美味しかったのに、何か忘れているような。


まぁいいですわ。
今日は思い出のパーラーでお食事する、特別な日なんですから。
ほらケンゾウさん、行きましょう


 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
  
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
一人のお客様が退店なされた。
食事中に泣かれていたようだった。
いつものようにテーブルを拭く。
いつ気づくのだろうか。
しかしそれまで私たちは彼女に思い出を提供し続ける
それが私たちの使命だから。
手がつけられていない一皿を、厨房へと運んだ。

読んでくださりありがとうございました!
改善点・DV・NV・UVとその理由を教えていただけると幸いです。

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  1. portal:7923631 ( 09 Mar 2022 00:58 )
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