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アイテム番号: SCP-3000-JP

オブジェクトクラス: Thaumiel¹

特別収容プロトコル: SCP-3000-JPは、その存在を秘匿することに焦点が当てられます。SCP-3000-JPについての研究を行っていると判断された機関、組織については、関係者に適切な記憶処理を施した後に随時監視下に置かれます。SCP-3000-JPの研究は財団の管理下でのみ行われます。

説明: SCP-3000-JPは、知的生物の二次性情動の発生の原因となる感覚質を構成する最小単位で、質量はありません。SCP-3000-JPはその種類と構造によって異なる性質のクオリア連結体²を構成します。クオリア連結体は、それ自体が生物のように情動を示しますが、必ずしもそのクオリア連結体を保持する生命体の情動と合致するとは限りません。

クオリア連結体の種類は以下の式で表されます。

A 98-A-25-D 99-100

1列目のアルファベットは、そのクオリア連結体の等級を示しています。等級に対応する性質は以下の通りです。

レベル	概要
レベルA	レベルAクオリア連結体を起点に発生する知的生命体の情動反応は、そのクオリア連結体自体が示す情動反応とほぼ一致します。ヒトの99%以上はこの等級のクオリア連結体を保持していると思われます。
レベルB	レベルBクオリア連結体を起点に発生する知的生命体の情動反応は、そのクオリア連結体自体が示す情動反応と8割程度一致します。稀にこの等級のクオリア連結体を保持しているヒトが存在します。血液型がBの人物はよりこの等級のものを保持しやすいという仮説も存在しますが、詳細は不明です。
レベルC	レベルCクオリア連結体を起点に発生する知的生命体の情動反応は、そのクオリア連結体自体が示す情動反応と5割程度一致します。
レベルD	レベルDクオリア連結体を起点に発生する知的生命体の情動反応は、そのクオリア連結体自体が示す情動反応と3割程度一致します。
レベルE	レベルEクオリア連結体を起点に発生する知的生命体の情動反応は、そのクオリア連結体自体が示す情動反応とほぼ一致しません。
レベルZ	レベルZクオリア連結体を起点に発生する知的生命体の情動反応は、そのクオリア連結体自体が示す情動反応の感情ベクトルを5割以上反転したものと等しくなります。

強度指数	概要
00~17	知的生命体に与える影響は皆無であり、この値のクオリア連結体を保持する知的生命体の振る舞いは"チャーマーズのゾンビの定義³"のそれと同様です。この値は多くの知的生命体には見られませんが、特定の種類の棘皮動物などから検出することが可能です。
18~54	知的生命体に与える影響は比較的少なく、この値のクオリア連結体を保持する知的生命体の振る舞いは"哲学的ゾンビ"のそれと同様です。
55~119	一般的なヒトはこの範囲内の強度のクオリア連結体を保持しています。収容対象ではありませんが、観測されている生命体の内で110以上の値を示すケースは稀です。
120~134	この強度のクオリア連結体を保持するヒトの例は、現在までに1件のみ確認されています。[削除済み]。
140程度	この強度のクオリア連結体は未発見です。予測通りであれば知的生命体に与える影響は膨大なものです。このクオリア連結体を起因とする情動反応は保持している知的生命体に限らず周囲にまで影響を及ぼすのではないかという仮説も存在します。
150以上	この強度のクオリア連結体は未発見です。

構造名	概要
A型構造	SCP-3000-JPの結合角が全て等しいかつ90°未満。最初に発見された。
U型構造	そのクオリア連結体が球状になるようにSCP-3000-JPが連なる。
F型構造	可能な限り自己相似性を持つようにSCP-3000-JPが連なる。
V型構造	基本的にはA型構造と同様だが、他のクオリア連結体からのミーム的性質を受けることでことで僅かに変形する。
T型構造	SCP-3000-JPが平面的に連なる。

アルファベット	由来
タイプA	グノーティ=セトヌス知能指数⁴がおおよそ1.0以下の生物。植物などが当てはまる。
タイプB	グノーティ=セトヌス知能指数がおおよそ2.0以上かつ本能純度80%以上の生物。節足動物、魚類、大部分の爬虫類などが当てはまる。
タイプC	本能純度80%未満の生物。一部の爬虫類、鳥類、哺乳類などが当てはまる。
タイプD	第一次高等生物⁵。主にヒトが当てはまる。
タイプE	第二次高等生物⁶。SCP-███など。
タイプM	一部の知的存在。SCP-███など。
タイプU	[削除済み]

　
以下はクオリア連結体をDクラスに適合させ、3か月間観察して得られた総合的な反応結果のデータです。

投与するクオリア連結体	被験体	特筆すべき反応	備考
A101-A-31-D99-100⁷	D-2199	D-3919と同様なふるまいを示した。また、再度対象からクオリア連結体の抽出を行った結果、クオリア連結体の適合率は31%であった。	自分のクオリア連結体を他人のものに置き換えた場合、適合率は低下するものの情動反応の役割は果たすようだ。
A98-F-29-D96-75⁸	D-3459	D-3459に変化は見られなかった。また、再度対象からクオリア連結体の抽出を行った結果、クオリア連結体の適合率が52%まで低下していた。	クオリア連結体を取り出すと、身体との適合率が大幅に低下するようだ。
B87-U-10-C88-79。⁹	D-3802	低下した。実験後、普段よりも態度が改善されていた。	モルモット由来のクオリア連結体は人間に対しての影響が小さいものと思われる。
E100-F-39-D91-93。	D-3722	D-3722の行動パターンに大きな変化は見られなかったが、平均的なストレス値が上昇していた。	ストレス値が高い理由は、自身に発生した感情が以前のものと全く異なるからだと思われる。
Z99-F-41-D89-99。	D-3677	D-3677の行動パターンに大きな変化は見られなかったが、平均的なストレス値が上昇していた。	上記の実験と同様。
E133-U-412-E00-337。	D-4332	D-4332はクオリア連結体が適合された直後に｢█████｣と叫びながら暴れ始め、5名の負傷者を出した後に無力化された。	破壊力こそ抑えられていたが、この挙動はSCP-███に似通っていた。由来タイプEに分類されるクオリア連結体を用いた実験は今後禁止する。

発見: 2009/10/2、ロイ博士が行った"マリーの箱庭実験"によってはじめてクオリア連結体の存在が確認されました。その後2010/6/11にクオリア連結体はSCP-3000-JPから構成されていることが判明しました。

補遺3000-JP:V型構造のクオリア連結体について
2011/10/2に行った、Dクラス職員へのA102-V-28-D88-351のクオリア衝突実験の際、被験者であるD-4002が実験後約2時間昏睡したのち、覚醒しました。以下はその際に行われたインタビューのログの書き起こしです。

対象: D-4002

インタビュアー: 朝日研究員

<記録開始>

朝日研究員: こんにちは。気分はどうですか。

D-4002: どうってことはないが、なぜそんなことを聞くんだい。

朝日研究員: あなたには実験に参加してもらった後、2時間ほど昏睡していました。あのとき、何が起こったか教えてほしいのです。

D-4002: 実験なんて受けたっけ？

朝日研究員: 覚えていないのなら、無理に答えていただかなくても構いません。では、少しテストをします。

朝日研究員は同様にテストを行う。特筆すべき点はないため省略。

朝日研究員: ありがとうございました。テストを終了します。

D-4002: あー、うん。

朝日研究員: では、もう少しここにいてください。異常がないことを確認できれば、寮に帰ってもらいます。

D-4002: えーと、寮？

朝日研究員: はい、あなたが他の皆さんと休んでいる場所です。

D-4002: ああ、あそこか。久しぶりだな、最後にいたのって何か月前だったっけ？

朝日研究員: あなたは先ほどの実験をまで、そこで休んでいたはずですが。

D-4002: ええと…..実は最近の記憶がないんだ。まるで寝てる間にカレンダー数枚分の時間が飛んでたみたいな感覚で。眠りに落ちる前の不明瞭な意識が、何万倍にも引き延ばされてたんじゃないかって思うくらい、俺が活動していたっていう事実が信じられない。

朝日研究員: 5日前、実験中に大規模な収容違反が起きて、20人以上が死んだことすら覚えていないのですか。

D-4002: …..あー、言われればそんなことがあったような気がしてきたな。でも覚えてねぇ。俺が直接見たわけでもないのに。

朝日研究員: 実験を受けたのも、生き残ったのもあなただけだったはずですが。

D-4002は黙ったまま首をかしげる。

朝日研究員: 少し、追加の検証が必要かもしれません。

<記録終了>

D-4002は実験後、記憶を一部喪失したような言動が見られました。興味深い点として、この状態はクラスA記憶処理を受けた際に近しいという点が挙げられます。

私たちは常に何かを感じながら生活しています。壮大な自然が描かれた絵画を見たときは"美しい"と感じますし、何の変哲もない赤の絵具を見たときでさえ、"赤い"と感じます。それらは全てクオリア連結体から発生した反応が、私たちの脳に電気信号を走らせることで生まれる感情です。

しかし、そのクオリア連結体が機能しなくなったなら、その感情は生まれません。同様です。そして感情を伴わない記憶を思い出すことは困難です。下地の白色すら抜け落ちた、無色のキャンバスのイメージを思い出すように。

今のD-4002はその状況です。これを踏まえて考えると、クオリア連結体の情報子的挙動を利用することで、新しい記憶処理の方法を開発することができるかもしれません。それは内服薬ではなく、外服薬、それも視覚からの刺激によるものです。
—ロイ博士

2011/11/6の大規模な収容違反によって情報災害に暴露されたソフィア研究員に対し、試験的に対クオリア変換式記憶処理を実施しました。結果としてソフィア研究員は暴露状態から回復し、92日間Eクラス職員として配属されたのちに元の職場に復帰しました。これを受け、対クオリア式記憶処理を特定のインシデントや収容違反が発生した際に使用可能にするよう申請がなされています。

[レベル4/3000-JPセキュリティ資格情報を入力]

[資格情報を承認]

Eクラス職員として配属されていた間にソフィア研究員につけさせていた日誌の中で、以下の内容が筆記されたページが発見されました(一部検閲済み)。

2011/1/22 今日、私の身に何が起こったのかのかサイト管理官に聞いた。あの日、私はとある情報災害のせいで狂いかけていたらしい。既存の記憶処理では対抗できず、最終手段として開発途中であった対クオリア式記憶処理を行った結果、私は助かったらしい。研究員としても被験体としても、この措置が成功したことを喜ばざるを得ない。

2011/1/27 意味がわからない。なぜ思い出せないのかわからない。闇とでも形容するべきものが頭の中を駆け巡っている。あの日、何人かが死んだ。死んだ仲間のことを、なぜ思い出せないのだろうか。

あの日のことを思い出せないのはわかる。記憶処理を受けたからだ。しかし、他の仲間が死んでいたことについて覚えてすらいなかった。

管理官に頼んで、以前自分がつけていた日記を読み返してみた。2008/6/16のページに、はっきりと｢[検閲済み]が死んだ｣と書かれている。その後にはつらつらと後悔やら自責の念やらが書かれていたが、そんなことはどうでもいい。私は仲間の死を忘れてしまっていた。

私なりに仮説を立ててみた。対クオリア式記憶処理は、端的に言うなら記憶中で生まれていた感情を中和することで思い出すのを困難にする技術だ。つまり、私の場合で例えるなら、｢情報災害に暴露して怖い｣という感情(本当にこんな風に思っていたのかは知らないが)を消すことで疑似的に記憶処理を行おうとしたのだろう。しかし、私はインシデント中の事象全てを忘れている。つまり、｢仲間が死んで悲しい｣という感情も消えたと考えていい。だから私は、このような有様になったのではないだろうか。

[乱雑な線で消されている]