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その英雄は赦されなかった。
赦されるはずもなかった。
それでも、心残りを刺激するようにそれはやってくる。
英雄は懐古する。
あの時、あの時でさえなければと。
英雄に懐古は赦されなかった……そんないつかの英雄譚
ああ、またやってきた。
英雄はからくり仕掛けのハリボテ物語を演じる。
英雄の目の前には、信号と横断歩道が広がっている。
そして、自分の背丈と同じぐらいの女性が存在していた。
もう、見たくもない。
英雄は目を逸らす。助けなければならない者を直視するのはもうやめたのだ。
彼女を見てしまうと、懐古主義に傾倒していた頃の自分が蘇ってしまう。
さて、そんな英雄のことは知らぬ存ぜぬ。物語は進んでいく。
信号が青に変わり、ピポピポという音が聞こえる。
まただ。このクソ物語に長くいるせいで、この後の大体の予想がついてしまう。
今回こそは、今度こそはと、前へ進もうとする足を手で収める。
次の瞬間、ハリボテ達の悲鳴と、ゴムが擦れる音がする。
英雄は手に力を入れ、勝手に動こうとする足を全力で抑える。
………ああ、クソ
英雄は逸らしていた視点の焦点をある人物に合わせた。
手で抑えていた足は前へと進む。
やはり、私はまだ懐古的なのだ。
ああ、まただった。これでもう何回目なのだろう。
英雄は周りを見回した。
その目の前には、青く、広く、罪深い、そんなものが広がっていた。そして、それは英雄の懐古主義を大きく揺さぶった。
ハリボテ達の騒がしい音が耳を刺激する。
この物語はどこまで私を痛めつけるのだろうか。
英雄の視覚は、懐古に包まれる。
そんな八方塞がりな彼の目は行き場を失い、自然と深く目を瞑る。
しかし、懐かしさを纏った太陽は忌々しいほど燦々としており、目を瞑っても、それを拒絶することは叶わなかった。
この似非物語は、英雄を休ませるつもりなどないのだろう。もしかしたら、ここが本来の地獄というものかも知れないと英雄は思う。
目を瞑ってから数分たった後、ハリボテ達の悲鳴が英雄の耳へと響いた。
その悲鳴の先にあるものに反応しようとする体を必死に抑えつけようとする。
しかし、もう遅かった。思考など、体に染みついたものには敵わない。
気づけば、溺れそうな彼女を助けようとする自分の体がいた。
何故私は彼女を助けてしまうのだろうか。
英雄は自問自答する。
もう、やめにしたい。赦されることなど、これを続けたとしても、もうないのだ。
最初はかすかな希望を抱いていた。しかし、もう頭では数えられないほどの苦しみと、何も赦してくれない彼女への希望など、もう抱きつづけることはできなかった。
過去を、彼女をどれだけ懐古しようが、どれだけ自分を捧げようが、赦しを得ることなど、もうないのだ。
…………赦されたかった英雄は動きを止めた。決心がついたのだろう。
目の前の彼女はブクブクという音を鳴らしながら、青く、罪深い海に呑まれようとしていた。
彼女は英雄に憐れな目を向ける。
しかし、過去に赦しを乞うていた惨めな英雄はもう、そこにいないのだ。
彼女の手足の動きがどんどん鈍くなっていく。
英雄はその場から動かない。ただ沈みゆく彼女を眺めている。
彼女の体は海へと沈んでいく。
英雄はその場から動かない。
……バシャバシャという、忌々しい過去の音はパシャリと消えた。
過去から英雄は背を向ける。
その英雄は懐古を振り切った。
表題「愛する者を我が身犠牲に助けた、一途な男の英雄譚」
改題後「愛する者を、…………物語」
それは突然のことだった。
SCP-268-JP-Aが死体の状態で出現した。
それは、もともと決まっていたことであったし、整理はおおよそついていた。
ああ、またこいつの犠牲者が出てくるのだろう。
私はそう思いながら、この英雄譚を他の英雄達がいるロッカーに並べる。
この英雄は956回も耐えてくれた。それは、英雄と言って差し支えはないだろう。
ただ私は、この英雄に純粋な感謝を向けることは叶わなかった。
私の中にあったのは、過去への後悔、そして、英雄への妬みと、羨ましいという感情であった。
私の愛する者を救った英雄は、どうやって諦めることができたのだろうか。
………あのとき、あのときに私が動いていれば。
忘れようとしていた記憶が蘇り、私の後悔を攻撃する。
英雄は赦されなかった。しかし、過去からの赦しを得ずとも、何かを得ることが出来たのだろうか。
私はいつか赦される日が来るのだろうか。
私の心は、過去の罪に侵食されていく。
あの日に帰りたい。
そんな幻想を孕んだ頭は、ある場所へと体を誘う。
薄暗い路地裏。その奥に進んでいくと、古ぼけた明かりが現れる。
そう、この場所こそが、私の求めていた場所であった。
その明かりの前へと早足で向かう。照らされた扉は、どこかノスタルジックな雰囲気が漂っていた。
本来、私はこんな場所にいてはならないのだ。
過去に浸食されたとも残っていた理性の残り香が、扉の前に立とうとしている体を止めようとする。
無駄だった。残り香は、あの明かりの源を押さえつけている扉から香る、ノスタルジックな匂いにかき消された。
それは匂うだけで、どこか懐かしさを感じてしまうほどの匂い。それは、どこまでも禁忌的な香りであった。
彼は扉に手をかける。
過去に服従した、懐古主義の奴隷。
彼は小さき力であったとしても、世界を守る英雄であり続けるはずだった。
彼の英雄として過ごした日々は、懐古する対象と成り果てた。
もう英雄には戻れない。
改題「愛する者を、我が身可愛さに助けなかった、臆病者の物語」
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任意A任意B任意C- portal:7861685 (30 Jan 2022 05:32)
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