「ハンバーグは美味しかったか、裕也」
「うん、美味しかった」
「そうかなら良かった。次は裕也がほしいって言っていたヒーローのベルト買いに行こうか」
「ヤッター、パパありがとう」
抱きついてくる息子を抱え近くのおもちゃ屋へ向かう。普段はフィールドエージェントとしてあちこち駆け回っているが、今日は息子の5歳の誕生日ということで念願の有給申請が通り、妻と一緒に息子の誕生日を祝っている。妻とは同じ大学で知り合い意気投合しそのまま結婚した。妻は財団職員ではないので自分は警察官であると伝えている。
息子を抱えたまま大型ショッピングセンターに入りそのまま玩具屋に入る。中は多くの家族連れで賑わっていた。
「裕也はなんでこのヒーローが好きなんだ」
「悪者と戦うのがかっこいいから。僕もヒーローになりたいな」
「そうか」
「キャァァァァァァァァァ」
とっさに悲鳴の聞こえた方へ向かう。そこには人の頭を食べるSCP-939と腰を抜かして倒れている女性がいた。
「何があったんですか」
「む、息子がと、突然、あ、頭がば、化け物」
動揺していて話を聞ける状態ではない。
「とりあえず立って下さい逃げますよ」
女性の肩を持ちその場から離れようとする。既に店内はSCP-939を見て逃げ惑う人で大混乱だった。
「真砂子、手伝ってくれ、この女性の方を持ってくれ」
「わかった。何があったの」
「それは後で話す。とりあえずここから逃げてくれ。それと裕也」
妻に女性を預け息子の方を掴む
「ママの言うことはしっかり聞くんだぞ」
「うん」
息子の返事を聞き急いでSCP-939のところに向かう。
「あなたどこ行くの」
妻の呼びかけに体が止まる。
「仕事だ」
妻の返事を聞かずそのまま向かう。ポケットから連絡用の端末を出す。
「こちらエージェント佐藤。エージェントIDは81te36。緊急のため要項のみ連絡する。トイザらス・ベビーザらス 池袋サンシャインシティ店にてSCP-939が出現応援を求めます」
「こちら財団司令部エージェントIDの確認が取れました。近隣のエージェントを直ぐに派遣します」
連絡が取れたのを確認し、端末をしまい護身用の拳銃を出す。特別収容プロトコルには防護服を着用してから接近するようにと書かれていた気がする。しかしそんなことを気にしている場合ではない。
拳銃を構えながら角からSCP-939の様子を確認する。獲物がいないか確認しているようだった。
(このまま大人しくしていれば応援が来るまで時間を稼げる)
急にSCP-939がこちらを向いた瞬間飛びかかってきた。とっさに避けると、SCP-939はそのまま商品棚に激突し倒れてきた商品棚の下敷きになった。恐る恐る近づくと急にSCP-939が商品棚の下から飛びかかってくる。回避できず後ろに吹き飛ばされ後ろのレジカウンターに背中をぶつける。幸いにも背中に痛みが走るだけで、目立った外傷は無い。
顔を上げるとこちらに突進してくるSCP-939が目に入ってきた。急いで左に回避する。SCP-939は方向転換が間に合わずそのままレジカウンターに衝突した、そこに銃弾を打ち込む。
バンッ バンッ
銃声を聞いたからか再び悲鳴が聞こえてきた。急いでSCP-939との距離をとる。
バンッ バンッ
再び射撃するがSCP-939は何事もなかったように再びこちらに突撃してくる。
体を反転し急いで距離を取ろうをするが間に合わず、飛びかかってきたSCP-939の下敷きになってしまう。噛み付いて来ようとするSCP-939と揉み合いになり左腕を噛まれ激痛が走るがそれを物ともせずSCP-939の額に銃口をつけ。
バンッ バンッ バンッ
流石にゼロ距離での射撃は効いたようでSCP-939は逃げるように距離を取って行った。そこに銃撃を叩き込む。
バンッ バンッ カッチ カッチ
弾切れを知らせる音が鳴り響く。急いでマガジンポケットから弾を取り出そうとするが、
「な、無い」
驚く声が響く。
(今日は非番だからマガジンポケットを持ってきていない。しまった)
好機と見たのかSCP-939はこちらに向かって走ってくる。とっさに商品棚にある玩具をSCP-939に投げつけるが止まるわけもなく再び左腕に攻撃をもらってしまった。
すぐさま蹴りを入れ距離を取り、タイミングを見計らって追撃に来たSCP-939を商品棚の下敷きにする。
(落ち着け。銃がなくてもやれる。俺の目的はあいつを倒すことじゃない、応援が来るまで時間を稼ぐことだ。逃げ回ればそれなりの時間は稼げるはずだ。今日は息子の誕生日だ、誕生日に父親が死ぬわけにはいかないだろ)
急いで距離を取ろうと背を向け走る。走り始めた瞬間。
ドンッ
物音がし後ろを見る。そこには自分に飛びかかってくるSCP-939の姿があった。
(しまった。避けられない)
事案SCP-939 2022/5/17
トイザらス・ベビーザらス 池袋サンシャインシティ店にてSCP-939が発生。休暇中であったエージェント佐藤による緊急連絡及び対処により本事案による被害は怪我人3名、死者1名です。関係者には記憶処理及びカバーストーリー「テロ未遂」を流布しています。
██夫妻に養子として育てられた██ ██氏がSCP-939であったと考えられており現在██夫妻はインタビュー及び精密検査のためサイト-8123に一時収容を行っています。これらの作業が完了次第██夫妻は記憶処理をした後開放します。現場にいた妻の██ ██氏は錯乱状態に陥っているため作業の進行状況は著しく低下しています。
現場の状況などからSCP-939幼体がその場で成体に変化した可能性が指摘されています。この指摘が正しい場合既存の実験結果と一致しないため本事案によって収容されたSCP-939実例は精密調査に回される予定です。
巣鴨警察署内
「すみません。佐藤真砂子さんで間違い無いでしょうか。今はお辛いでしょうが事情聴取があるので息子さんと共についていただけますでしょうか」
「はっ、はい」
女性は泣き声混じりの返事とともに息子の手を取り調べ室に入る。
「ご主人の件については大変お悔やみ申し上げます。辛いでしょうが事件について教えていただけますでしょうか」
「はい」
そこからの会話は何回もやってきたものと同じものだった。何が起こったのかを詳しく聞くだけの単調な作業。
「ありがとうございます。事情聴取は以上となります」
ここまではいつもと同じだった。あとは記憶を消し虚偽の記憶を入れるだけだった。
「すみませんが、主人は一体どんな仕事をしていたのですか」
「はい?ご主人は非常に優秀な警察官ですが」
女性はいきなり胸ぐらを掴むと泣き声混じりの怒号で、
「主人は仕事だと言って化け物に向かっていきました。化け物と戦うのが、警察の仕事なんですか。主人の本当の仕事を教えて下さい。私たちは家族ですよ、家族がどんな仕事をしているのか知っちゃいけないんですか」
全てを言い終わると女性は胸ぐらを掴んだまま座り込み嗚咽する。
「すみません」
ポケットから記憶処理剤を取り出し女性に吹きかける。女性はそのまま意識を失い倒れる。
「僕。変な匂いするかもしれないけど我慢してね」
一部始終を見ていた男の子にも記憶処理剤を吹きかける。端末を操作し虚偽の記憶を入れ、二人を部屋の外の椅子に座らせる。
(一回でもいいから親子二代で財団エージェントとして任務をしたい)
笑顔で夢を語るあいつの顔が忘れられない。
「親子二代でやるんじゃなかったのかよ」
親友兼相棒を失った喪失感から哀しみがこみ上げてくるのかと思っていた。しかし実際に出てきた気持ちは
(また同僚が死んだ)
だけだった。先輩エージェントからは「この仕事をするなら、仕事を円滑に進めるため自分の心を守るために感情を殺せ」と言われてからは感情を殺してきた。仲間や恩師が死んでも何も思わないようにしてきた。その結果がこれだ。10年近く死戦を共に潜り抜け、背中を預けた相棒が死んでも深く哀しむことができない人間になっていた。
ピピッ
携帯の着信が入る
「こちらエージェント山口」
「サイト司令部です。異常存在が関与している可能性のある事案が港区の高輪地区で発生しました。直ちに向かって調査をお願いします」
「了解しました」
ピッ
仕事だ。仕事をすれば考えなくていいアイツのことも薄情な自分のことも。
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任意A任意B任意C- portal:7856033 (24 Jan 2022 12:28)
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