「おーよちよちよちよちよちよち! 可愛いでしゅねぇぇぇぇぇぇぇえ!」
サイト-81██に配属されて初日の上前津博士はSCP-███-JPを撫で回す。SCP-███-JPは満更でもなさそうな様子で撫でられていた。
「……なぁ、いつまで撫でて褒めちぎればいいんだ? そろそろ手相が消えそうなんだが。あと手が痛いんだけど」
上前津博士は首だけを鈴子博士に向け、目に涙を浮かべながら懇願した。
「生命線が無くなるまでは撫でてちょうだい。こら、手を止めない。サボったら首が物理的に飛ぶと思いなさい」
「ウッソだろお前。……よぉーしよしよしよし! 可愛いでちゅねぇぇぇぇぇぇえええぇぇえ!」
そのまま3時間ほど撫でていると、SCP-███-JPの外殻により上前津博士の手は無数の切り傷を負い、血が滲み始めた。
「そろそろ生命線が、消えそうなんだけどぉぉ!」
「おーけー、そろそろいいわよ。飼育ケースに戻してあげて」
「投げちゃダメ? 触ってるだけで痛いんだけど」
「いいわよ? 私があなたの頭を財団サッカー部に寄贈してもいいならね」
「うぇぇ……」
上前津博士は顔を顰めながらSCP-███-JPを真っ黒い布で覆われた飼育ケースにそっと入れた。手に伝わる無数のSCP-███-JPの感覚に思わずオウッと声が出た。
「何でこんなこと俺がやるんだよ! 手はいてぇしクソ気持ちわりぃしでよぉ! Dクラス職員を呼んでこい!」
「あなたがDクラス職員にセキュクリ41を付与できるなら考えるわ」
「あれがそんなに重要なのか!? ただのクソでかいゴキブリだ……モガモガ!」
鈴子博士は上前津博士が言い終わる前に口を塞いだ。そして極めて真剣な表情で口を閉じろと命じた。
「命が惜しければその言葉は言わない方がいいわよ」
「モガ……っぷ、せめて、なんで手を傷つけながら撫で回して、心にもねぇ言葉を言わなきゃいけねぇかぐらい教えてくれよ。気になって飯も喉を通らねぇんだ」
「栄養剤とかゼリーならあるわよ?」
鈴子博士が懐から財団印の栄養ドリンクを5本取り出す。
「なんで常備してんだよ」
「私だってゴキ……SCP-███-JPを見て気持ち悪いと思うわよ。食欲なんてもうどこにも無いわ」
鈴子博士は諦めたように溜息をつき、栄養ドリンクの蓋を開け一息で飲み干した。
「このサイトだってSCP-███-JPを隔離するためだけに、贅沢に使ってる。なぜだと思う?」
「わからん。それに隔離? 俺たちは収容しているんじゃねぇのか?」
鈴子博士は飲み干した栄養ドリンクの瓶をゴミ箱に投げ捨て、手袋の嵌められた手をパンパンと叩いた。カランカランとかわいた音が響き、一拍をおいてからガラスが碎ける音がする。
「セキュクリ4、持ってる?」
「またそれか! クソ!」
上前津博士はゴミ箱を蹴った。どうやら角が靴の防御を貫通したようで、足を抑えてのたうち回った。
「かわいいでちゅね、かわいい。かわいい。かわいいでちゅぅ」
配属されてから1ヶ月、手の痛みはとうに感じなくなっていた。ただ肉を削りながらSCP-███-JPを撫で回し褒め讃えるだけの虚無な作業は確実に上前津博士の精神を蝕んでいた。
「そろそろいいわよー」
合図とともにSCP-███-JPを飼育ケースに戻した。上前津博士は立ち上がり、手袋を嵌めてフラフラと部屋を出る。
コツコツとかわいた靴の音が廊下に響いた。
「へい、ウッチー。いつものくれ」
自室へ戻るとドカッと身を投げ出すように椅子に座り込み、話し相手であるAIのウッチーを呼び出す。ウッチーは即座に財団印の催眠曲を流した。
流れる音楽を聴きながら上前津博士は目を閉じる。
上前津博士は夢を見ていた。
研究員として財団にスカウトされ、精力的にアノマリーの研究をしていた日々を追想していた。
葉加瀬博士と共に取り組んだ実験はどれもエキサイティングでファニーなものであり、己の知的好奇心を思う存分満たしてくれたのだ。
夢の中で上前津研究員はビーカーに入った死霊にブラックライトを当て、悶え苦しむ様子を事細かに観察する。その横で葉加瀬博士は死霊相手に格闘している。
なんと楽しい時間だろうか、と思いながらビーカーに目をやると、そこにはあのゴキブリが鎮座していた。ブラックライトを受けながら黒く光るソイツはビーカーを突き破り、上前津研究員の腕をよじのぼり始めた。
そして横を見ると葉加瀬博士がソイツらに群がられ、押しつぶされるように倒れた。
叫び声と共に目が覚める。ぐっしょりと汗をかいた額をタオルで拭った。
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