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僕はふぅ、と一息ついてコーヒーを飲んだ。縁あって生まれ故郷に仕事が見つかり、たった今引越しが終わったのだ。借りたトラックの座席にもたれかかり、自販機で買った缶コーヒーを空にする。乾いた喉に苦い水が流し込まれていく。
初夏の風が鼻腔をくすぐる。夕焼けは赤く爛々と輝き、身体に熱を持たせる。ぼんやりとした僕の耳に子供の声が響く。6人の小学生たちが公園でドッヂボールをやっているのだ。男の子も女の子も元気に駆け回り、玉は宙を舞う。当てられた男の子が悔しそうに外野へ走り、ボールが飛んでくるのを待つ。内野の子は必死に飛んでくる玉を避けたり、取ったり、投げ返したり。まるでそれが己の全てだと言わんばかりに。
彼らの様子を見ていると、昔の思い出が蘇る。まだ自分も幼い小学生だった頃の。
僕は聡明な子でも活発な子でもなかった。成績表はいつだってオール〇。◎なんて1個あったら飛び跳ねて喜ぶような、そんな子だった。僕は放課後になると決まって家に鞄を投げ捨てて、親に10円を強請る。そして友達といつもの公園に集合する。滑り台があり、ブランコがあり、砂場や少し開けた場所がある普通の公園だった。でも漫画でよく見る土管が置いてある公園よりもずっと素敵な場所だと思っている。
その公園のすぐそばに駄菓子屋さんがあった。遊ぶ前に僕らは瓶に入った飴玉を買う。甘くて優しい飴玉が無いと始まらないのだ。橙色に光る真ん丸な玉は口の中でコロコロと転がり、舌の上で飛び跳ね、歯によって解放される。僕らにとって、その10円の飴玉は10円以上の価値があった。
飴玉を舐めながら今日は何をするか話し合う。大抵鬼ごっこだったりドッヂボールだったり。たまに親が参加してこちょこちょ鬼をやったりもした。遊んでいるうちに時間は走り去り、夕日とお母さんがやってくる。それらがやってくるタイミングを僕らはみんな知っている。口の中の甘い味が消えた時にやってくるのだ。
ある日、1人が飴をずっと舐めないで居たらどうなるんだろう?と聞いたことがあった。やってみる価値はある、とリーダー格の少年が言い、僕らは試してみることにした。買った飴玉をポケットに入れ、舐めずに遊ぶ。その日はあまり楽しくなかった。みんながみんなポケットの中の飴玉に気を取られ、遊ぶどころではなかったからだ。それでも時間は過ぎる。それらがやってきた瞬間、一斉にポケットの中に手を突っ込んだ。それは夕焼けの光と全く同じ色放っていた。僕らが驚き、しげしげとそれを眺めるとまるで夕焼け空に溶け込むように消えていった。みんな不思議に手を握ったり開いたりしたけれど、飴玉が戻ってくることは無かった。
次の日、僕らはその話題でもちきりだった。飴玉が空に溶ける超常現象に興奮が止まなかった。しかし、その場にいなかった同級生や先生にその事を話しても、集団で騙そうとしていると思われ、信じてくれる人はいなかった。そのせいで僕らがその事について二度と口にはしなかった。
休日、僕はなけなしの勇気を振り絞り、父親と一緒に駄菓子屋さんに行った。あの飴玉の謎を解明するためだ。おばあちゃんに飴玉2つ分の代金20円を手渡した後、ありのまま起きた出来事を話した。僕の話を聞き終わったおばあちゃんは、歯の抜けた口を大きく開けて愉快そうに笑った。そして僕の耳元に口を寄せてそっと囁いた。
帰り道に父親にも飴玉を舐めさせた。僕が美味しい?と聞くと、水を飲みながら美味しいよ、と答えた。その日の夜はぐっすり眠れた。
僕はおばあちゃんが囁いた言葉を彼らに伝えなかった。自分の口から語っても信じてくれるとは到底思えなかったからだ。
それから僕は中学受験のため、放課後は塾に通うことになった。今までろくに気にしなかった成績に振り回され、親の期待に添えない自分に落ち込んだ。テストの度に憂鬱になり、公園で遊んでいる友人たちを見ると寂寥感で涙が溢れ出したこともあった。
幸いにも受験に成功した。そして引越しをした。住み慣れた家を手放し、学校の近くにマンションを借りた。新しい生活が始まり、僕の心から飴玉がすっぽりと抜け落ちていた。そのことに気がついたのは大学生になってからのことだった。
空缶をゴミ箱に入れる。かつて駄菓子屋があった場所にはマンションが建てられていた。古臭い街並みは高級感溢れる都市になり、かつて通っていた学校は真新しく輝いている。変わりきった光景の中で、唯一馴染みがあるのが子供たちの遊ぶ姿だった。
ポケットに丸い物体が太ももに当たるのを感じる。手を入れ、それを取り出す。いつの日にか舐めていたあれが手のひらを転がる。ビニール袋を破り、ひょいと口に入れる。じんわりと唾液で溶け始め、口に青草の味が広がる。その舌と喉に絡まる苦味と鼻を突き抜ける青臭さに顔を顰めながら子供たちに近づく。
「やぁ、飴は要らないかい?1個、11円だよ」
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- portal:7812793 (23 Dec 2021 04:25)
読ませていただきました。
おそらくはタイトルのまま、ということなのでしょうかね。
全体的に、何処に面白みを感じればいいのかが曖昧としている印象です。おそらくは太陽と連動する飴だということなのでしょうが、それを示唆する部分、第7パラグラフ付近でも非常に曖昧で結論は出ません。もちろん、不思議、奇妙という雰囲気で謎を謎のまま突破させるTaleも多く存在しますが、全てを謎のまま、なんとなくしんみりする雰囲気で終わらせる、というのは読者に不満を残したままで終わってしまいます。
このTaleであればもっと説明が必要でしょう。飴の正体へ正確に触れずとも、正体を示唆するワードを放り込むことが求められると感じます。また、あまりこのワードを使いたくはないのですが"このTaleがSCP創作でやる"理由をもう少し考えてみてもいいかもしれません。"SCP創作である"必要などはありませんが、その土壌で創作をする"SCP創作でやる"理由は、melt aplさんがこのTaleで何を書きたいのか、どういったものを書きたいかという考察に繋がるのではと思います。
以上、個人的な意見でしたが記事作成の一助となれば幸いです。
ご批評ありがとうございます。
子供の楽しい時間を飴として表現したかったのですが、まだまだ必要なキーワードが足りていないようですね。そこら辺をもっと増やして考察しやすくしたいと思います。
ご指摘いただいた通り、SCPは怪異を主にした恐怖系サイトであることを再認識するきっかけとなりました。ありがとうございます。