有人探査記録-01: 日付20██/07/01
SCP-2745-JP-Aを探索中のD-34745-JP
目的: SCP-2745-JP-A内の"出入り口"の捜索
実施方法: 3名のDクラス職員(D-34745-JP・D-44237-JP・D-72901-JP)を潜航させた。Dクラスには水中交信用のヘルメット・記録装置のほか、ルート開拓用のリールと自衛用の水中銃(スピアガン)、GPSを装備させた。なお3名は元米国海兵隊員で、通常のDクラスよりも高難度な指令を遂行可能である。
[記録開始]
(潜水までの過程を省略)
D-34745-JP: こちらD-34745-JP、聞こえるかな? 現在水深50m 地点。ケーブルを伝っている。
司令部: 聞こえていますD-34745-JP、そのまま下降してください。もう十数m 降ると横向きの水路が見えてきます。そうしたら水路へ侵入してください。それと、ここからはリールを張ってください。帰還時にはこれを辿ってもらいます。
D-44237-JP: おいおい、水深ウン十m ってだけで大概なのに、さらに潜らせるのか。帰りの酸素はもつんだろうな?
司令部: 問題ありませんD-44237-JP。こちらでも残量は把握しています。帰還時は折を見て指示します。万が一酸素を使い過ぎてしまったら、その時は改めて報告してください。
D-44237-JP: そいつぁ結構。せいぜい働きますよっと……ん、アレかな?水中洞窟は。このままケーブルを辿っていくが……しっかし素っ気ないプールだな。魚の1匹もいねぇし。
司令部: D-44237-JP、無駄口は酸素の消費を早めます。慎んでください。 D-72901-JPは問題ありませんか?
D-72901-JP: こちらD-72901-JP、あぁ問題ないとも。このクソッタレな迷路で迷いさえしなければな。
** 司令部**: 聞こえましたD-72901-JP。遭難時はGPSを元に帰還ルートを指示します。そもそもケーブルさえ辿れば、迷うこともないでしょう。
D-34745-JP: こちらD-34745-JP。 現在水路、えっと"柱並木"だったか、そこを30mばかし進んでいる。さっきから小魚がチラホラ出てきた。今カメラを向ける。
[D-34745-JPのカメラには、無人探査で確認されたような小魚や節足動物が映っている。ただしこれらは、既存のよりも色彩に富み、多様性が高まっていることが示唆される。また周囲の岩壁にはカイメンの類いも確認できる。そのため周囲の様相は、先ほどまでの無味乾燥とした暗がりとは真逆の、むしろ熱帯のサンゴ礁か何かを思わせるものとなっている]
司令部: D-34745-JP、もう少しカメラを接近させてください。……はい、確認できました。以前無人探査機を潜水させたところ、そのあたりで消失しています。近くに破片などは散乱してませんか? それから帰還時に周囲の生物を2~3種ほど捕獲してください。貝・ヒトデ・カイメンなど、何でも構いません。
D-44237-JP: あいよ。悪態ついたと思ったら、途端に竜宮城か、まんざらでもないな。
D-72901-JP: 破片……破片……ないな。あるのは、貝だの気味の悪いエビモドキだのの殻だけだ。聞こえるか観測班、こちらD-72901-JP、ご所望のガラクタはネジの1本も残ってねぇぞ。
D-34745-JP: こっちも見当たらないな。……ん、えっ、アレって……
[D-34745-JPが泥をまさぐる。途端に堆積物が舞い上がり、カメラの視界が著しく妨げられた]
D-44237-JP: ちょ、何すんだ[判別不能]
D-72901-JP: おい馬鹿やめ[判別不能]
司令部: D-34745-JP、気をつけてください。泥でカメラが効きません。
[D-34745-JPは慌てて泥の煙幕を掃おうとする。以後十数秒間カメラは水の濁りを映し、動くものは棘だらけの小魚だけとなった]
D-44237-JP: [咽る音] よしてくれや大将、逸れたらどうする?
D-72901-JP: ガキじゃあるまいし、泥遊びは他所でやってくれ。何なら俺たちが先頭になろうか?
[2人の批判にD-34745-JPは反論できず、大人しく最後尾へ移動。カメラはD-44237-JPへ渡され、D-44237-JP→D-72901-JP→D-34745-JPの順で隊列を組みなおす]
司令部: 問題は解決したようですね。では探索を再開してください。 D-44237-JP、カメラをもう20°ほど上向きに、これでは進行方向を確認できません。
D-44237-JP: へーい。[D-44237-JPがカメラを持ち直しつつ、3名は前進を続ける] んで、結局お探しのメカは見つからず終いだが、次は本命だったか?たしか出口を見つければ良いんだよな?
司令部: はいD-44237-JP。我々の予測では、もうじき出口らしきものが見つかるはずです。周囲に気を配ってください。発見時は報告も忘れないように。
[その後も3名は前進を続ける。周囲の生物は賑わいを増していく。だが出口らしきものは一向に発見されない]
(10分ほどの無関係な会話を削除)
D-44237-JP: なぁ本当に出口はあんのか?行けども行けども同じ景色ばっかで気が狂いそうだ。経験があるとはいえ、こういう環境は得意じゃねぇーんだぞ? 聞こえてるか学者先生よ?
司令部: ……聞こえていますD-44237-JP。無駄口は慎んでください、我々も出来る限りのことはしています。もう少し……のはずです……だから [機材を動かす音。職員同士の会話も混ざっている] そうですね、酸素残量も際どいですし、もう30m進んだら引き返しましょう。
D-44237-JP: 見かけによらず話が分かるじゃねえか先生よ。OK、2人もまだイケるな?
D-72901-JP: 問題ない。
D-34745-JP: こっちも同じく。 え、何だこれ葉っぱか? 何でこんなところに?
[D-44237-JPがカメラを向けると、そこには南国風の枯れ葉を手に取ったD-34745-JPが映された。大きさは掌ほどもあり、まだ緑色の部分も残っている]
D-72901-JP: 枯れ葉ごとき放っておけ、時間考えろ。
D-34745-JP: いや違う、待ってくれ。これは [D-34745-JPが暫し考え込む] ……これは、森の木の葉だ。それがこんな洞窟の奥深くまで流されるなんて、そう多くはない。だから……[D-34745-JPはやや自信なさげに口どもる]
D-72901-JP: つまりなんだ?
D-34745-JP: ……これが流入した"穴"があるはずなんだ。地上か河川か、どっちにしろ
D-44237-JP: [食い気味に] 出口は近いってか? こんな風に?
[D-44237-JPがさも得意げに指を指す。指の先に出口と思しき水面が口を開けている]
司令部: D-44237-JP、カメラを向けてください。
[カメラが水面を映す。同時に奥から微かな歓声。オペレーターは冷静に指示を飛ばす]
司令部: 確認できました。現在の地点、水深70m・"柱並木"・進行距離350m。では本日の探査はここまでとし、引き返しま[D-44237-JPの声が乱入]
D-44237-JP: せっかくここまで来たんだ、ちょっとぐらい好きにさせろっての、ほらよっと [司令部の制止命令を無視し、D-44237-JPは水面へ顔を突っ込む。ゴボゴボ・バシャバシャという水音に混じり、何か叫ぶ声がする]
D-72901-JP: D-44237-JP! 何やってん [D-34745-JPが脇を掠めて浮上する] お前まで!? あぁもう何やってんだ、クソ餓鬼ども!!
[一人取り残されたD-72901-JPも水面へ浮上。指令部も収集が着かず、半ば黙認する形となった]
D-34745-JP: D-44237-JP、大丈夫か? [マスクとゴーグルを外しながら] あんまり先走ってると [D-34745-JPが絶句] ……嘘だろ。
[D-44237-JPがカメラを構える。そこには山を覆う緑の木々と、足元に生えた莫大な下草が映された。木はおそらく針葉樹の高木で、高さは40m を超えるものも少なくない。下草は種類は不明ながらコケ・シダ・トクサなどが繁茂しており、特にコケは赤・橙・黄など様々な色の種が確認できる。また植物の間を不明なトンボ類が飛び回っている]
SCP-2745-JP-B内の森林
(手前の水源がGate-01)
D-72901-JP: なんだよコレ、どうなってんだ? さっきまで俺たちウン十、何百m も潜ってたよな。なんでこんなことに……ってか下向きに潜ってたのに、出てくるときは上向きって、意味が分からねぇ。司令部聞こえるか? こちらD-72901-JP、現在3名ともに浮上のち、上陸した。聞こえるか観測班?
司令部: 聞こえていますD-72901-JP。我々も予想外の事態です。が、これより貴方がたへ新たな任務を与えます。内容は「上陸先の探査」。繰り返します、貴方がたの任務は「上陸先の探査」に更新されました。
D-72901-JP: 分かった分かった、残業かよ。でもな先生、更新の必要はなさそうだぞ。
[D-44237-JPのカメラが、足ヒレも脱がずに上陸したD-34745-JPを映す。D-34745-JPの手には、先ほど映り込んだ南国風の葉が、しかし今度は枝葉に付いたまま握られている]
D-34745-JP: おかしい……この類いはたしか図鑑で……[ブツブツと呟きながら、D-34745-JPは葉を裏返す。すると裏にはクモのような生物が付着しており、クモは驚いて飛び跳ねる]
D-44237-JP: あ~危ねぇ~、噛まれたらどうすんだよ。てか今のクモやたらとデカくなかったか? たしか昔兄貴が飼っていたタランチュラぐらいあったような。
D-34745-JP: ……気のせいだろ。それにデカいクモはタランチュラだけじゃない。日本にもアシダカグモっていう皿ぐらいはありそうな種類がいるって何かの本で読んだから、その類いかもな。タランチュラにしては脚が細かったし。
D-44237-JP: あの一瞬でそこまで分かったのかよ、無駄にすごいな。 ……え、すると何か?お前はここがサムライとニンジャの国だって言いたいのか?
D-34745-JP: そうじゃない。でも周りの景色にしたって、少なくとも3時間前までいたメキシコのジャングルとは違う。気温もそうだろ?
D-72901-JP: たしかに。ここは寒くはないが、でもアッチみたく息苦しい暑さはないな、せいぜい二十数℃って感じだ。暑いってか、暖かいって感じかな。俺たちが濡れているせいかもしれないが。
D-34745-JP: それから時刻も。ほら太陽が傾いている、たぶん朝なんでしょう。午後は少し暑いかもしれませ [D-72901-JPの悲鳴]
D-72901-JP: [舌打ち]……痛ってー、何か踏んだな。酒ビンか何かの破片かな。
D-44237-JP: ラッキー、俺は足ヒレ脱いでなかったからな。どれ見せてみろ、ううん [D-44237-JPが傷口を確認する] ちょっと深く切ってるな。こんな傷抱えて森に突入したら、下手しなくとも破傷風になりかねない。先生聞こえるか? D-72901-JPが足を切った。傷が酷く、このまま探査するとマズいことになりそうだ。可能なら撤退したい。
司令部: 聞こえていますD-44237-JP。傷を確認させてください。[カメラがD-72901-JPの足の裏を映す。そこには幅5cm ほどの傷が鮮血を滲ませている] 確認できました。そうですね今回は満足な装備もありませんし、撤退しましょう。D-34745-JP、貴方のバックパックに止血用の包帯があります。それで傷を手当してください。手当でき次第、帰還とします。今度は必ず命令に従ってください。
[D-34745-JPがバックパックから包帯を取り出す。その間にD-44237-JPは件のビンの欠片を探している。やがてD-44237-JPは薄灰色の石のようなものを拾い上げた]
D-34745-JP: これで良しっと、足は動かせますかD-72901-JP? [D-72901-JPは頷く] D-44237-JP、こっちは終わりました、引き上げましょう。
[3名が帰還すべく水中へ飛び込む。以後"柱並木"を抜けるまで省略]
D-44237-JP: 先生、今"柱並木"を抜けた。 2人は遅れていないな?
D-34745-JP: あぁ問題ない。でもD-72901-JPの足からちょっと出血しているな。
D-72901-JP: 俺もだが、イテテ……やっぱ足が痛いな。塩水は沁みる。
D-34745-JP: あとは70m ぐらい泳ぐだけだ。潜水病だけ気を付けて、ゆっくり行こう。
[3名は"ケーブルを伝いながら慎重に浮上する。だが突如として黒い影が一向へ割り込んだ。衝撃でD-72901-JPはケーブルから引き離され、水底へ引きずり込まれる]
D-72901-JP: うわぁぁぁぁぁぁぁ[判別不能]、クソッ! 離しやがれ!!
D-44237-JP: デカ物に襲われた! 司令部! デカい魚だ!!
[パニック気味ながらD-44237-JPのカメラが下方へ向けられる。襲撃者は全長3~4m のシーラカンス(Latimeria)に似た大型魚型生物だった。差し渡し60cm 近い顎と光沢のある鱗、筋肉質な胸鰭などが特徴的な姿をしている。生物はD-72901-JPの片脚へ嚙みついているが、D-72901-JPの蹴りに怯み、顎を緩めて距離を取った。そのまま胸鰭を動かしながら、大きく旋回しつつ再びD-72901-JPへ迫る。素早い泳ぎに両者の距離は約10m を切った]
D-72901-JP: [怒気を孕んだ罵声]てめぇ!魚の分際で!!
[D-72901-JPは支給された水中銃を構え、罵声とともに生物の顔面目掛けて発射した。銛は一直線に放たれるも、生物は余裕を持って回避する。D-34745-JPも援護するが、銛は鱗を掠めただけで弾かれる。どうやら生物の鱗は岩のように頑丈らしい。生物は僅かにも怯む素振りすらなく距離を詰めてくる]
司令部: 応答せよD-34745-JP! D-44237-JP! D-72901-JP! 応答せよD-34745-JP! D-44237-JP! D-72901-JP!!
D-44237-JP: こうなりゃ食らえっ! [D-44237-JPも水中銃を取り出し、生物の背中目掛けて撃ち放つ。ところが焦ったあまり照準が狂ったらしく、銛は掠りさえせず画面外へ消えていった。生物は勢いよくD-72901-JPへ襲いかかり、下半身を丸呑みにする。D-72901-JPは両腕で抵抗するが、それを生物が意に介す様子はない。
D-34745-JP: 司令部!! D-72901-JPが魚に引きずり込まれた! 水中銃も効かない! どうすれば良い!?
司令部: D-72901-JP!忌避剤を放出してください!!
[ D-72901-JPがヘルメットのピンを抜く。淡い桜色の忌避剤が噴出し、魚とD-72901-JPを瞬時に飲み込んだ。一瞬遅れてD-34745-JPとD-44237-JPも薬剤の煙幕に飲み込まれる。2名は逸れないようケーブルへ掴まっており、マイクには格闘するD-72901-JPの呻きのみが響く]
D-72901-JP: [流入した水で苦しそうに咽ながら] は、離せ……た、たすけ [一際大きなゴボリという音。以降D-72901-JPは沈黙した]
[煙幕から生物が姿を現す。口にはグッタリとしたD-72901-JPが咥えられている。残る2名との距離は15m ほど。魚は捕らえたD-72901-JPを玩具のように振り回し、その弾みでマスクや足ヒレが抜け落ちる。その後もD-72901-JPは何度も執拗に振り回された]
司令部: D-34745-JP! D-44237-JP! 聞こえますか? もはや間に合いません。早急に浮上してください。こちらからも救出部隊を派遣しました。ケーブル上で落ち合ってください。それから追撃を防ぐため、ここで忌避剤を放出してくささい。
[忌避剤が続けて噴出され、桜色のベールは益々濃くなった。この中をD-34745-JPとD-44237-JPはケーブルを頼りに浮上する。その後水深40m 地点で救出部隊と合流。潜水病を防ぐため数分の休息を挟んだのち、地上へ帰還した]
[記録終了]
終了報告: D-72901-JPはKIAもしくはMIAと判断された。録画映像を解析したところ、D-72901-JPを襲ったのは絶滅した大型肉鰭類の一種(マウソニア科)だと判明。なお探査後D-34745-JPがインタビューを希望したため、内容を下記に記述する。
D-34745-JPインタビュー記録: (20██/07/01)
インタビュアー: 悟研究員
悟研究員: それで話とは何かな、D-34745-JP?
D-34745-JP: お時間取らせてすいません。実は見せたいものがありまして。
悟研究員: [腕時計を確認しつつ] ウーン、次のミーティングまで5分 あるから、それまでなら構わないとも。
D-34745-JP: ありがとうございます、実はさっき"柱並木"でコレを拾ったので。
[D-34745-JPは卓上へ10cm ほどの小石のようなものを置く。それは3つのパーツからなり、ゴルフボール状の突起が2つと無数の節が特徴的。何かしらの節足動物のように見える]
悟研究員: これは何だ? 三葉虫……化石か? こんなものをどうして?
D-34745-JP: [首を横に振りながら] 違います。裏面を見てください。
[D-34745-JPが三葉虫を裏返す。裏面には、今にも蠢きそうなほど生々しい歩脚や口器、ジットリと濡れた鰓などが確認できる]
悟研究員: [驚嘆] なんだこりゃ、まるでさっき死んだみたいに新鮮じゃないか。
D-34745-JP: この三葉虫、さっきの探査でD-72901-JPが踏んで怪我をしたものなんです。D-44237-JPから預かったものなんですが、おっしゃる通り真新しいんです。 それにカメラの映像を見てもらえると有り難いのですが、洞窟内にはこいつに似た生物がワラワラいましてね。それから上陸先にも… [D-34745-JPが上陸先で観察した動植物について長々と語る。悟研究員は少々うんざりした様子] …でして……
悟研究員: [D-34745-JPを遮り]興味深いな……それは回収させてもらう。[三葉虫を懐へ] 情報感謝する。私はそろそろ失礼させてもらおうか。
[悟研究員が退出しようとする]
D-34745-JP: 待ってください!
悟研究員: どうした?もう時間がないのだが……
D-34745-JP: 最後に1つ頼みが。もし可能でしたら、私に1冊ばかり図鑑をいただけませんか?生物系の図鑑です。
悟研究員: 私が要請すれば不可能じゃないが、どうしてそんなものを?
D-34745-JP: たぶん何日か、あるいは何週間か先、また私はあの水中洞窟へ派遣されるでしょう? その時にあの類の知識があれば少しは役立つと思いまして。
悟研究員: ……確約はできんぞ。
D-34745-JP: 分かっています。ありがとうございました
追記: 悟研究員の提案は承認され、D-34745-JPには植物・動物・化石の書籍が数冊支給された。
コメント投稿フォームへ
批評コメントTopへ