爛れた口

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「応答願う、此方は威力偵察部隊総指揮官丸山」
「前方に確認されるガス弾は我々の技術の複製品だ、現時点で我々が所持する装備品では太刀打ちは困難になる」
「よって、現時点で威力偵察作戦を中止し、撤退命令を下す」
「我々E班のみ前方に見える敵部隊との交戦を行い、その他全隊は即座に帰還せよ」
「ロストによる通信干渉防止の為、現時点でE班は通信から離脱する」
「無事を祈る」


ごく平凡なマンションの一室で一人の女が口を開ける。

「朝食が出来ました」

声を向けられた男は前方に見えるトレイを凝視しその内容を把握する。

「ありがとう」

その空間に居るのは男と女の2人だけと見られた。
男は椅子に着き左手のみを用いてやや蕪雑に食事を摂る。男の右腕ははや8年程動かされていなかった、免許を持たぬ医師は彼に神経の障害と告げた。

食事を必要量のみ摂取した男は7割程残された料理を女に差し出し食べるよう促す。女が足を引きずり椅子に着くのを確認し、財布から一粒の錠剤を取り出し服用する。2年前から中毒気味に服用している錠剤は、年月を得て男の精神を安定させるのに必要不可欠な工程の一つへと昇華されていた。

「行ってくる」

男はそう告げてマンションを後にする。男は稼がなければならかった。男は女を匿っていた、出会ったのは2年前であった。路地裏で座っていた所を男が発見した。男から見るに、女は一般的に[異質]として嫌悪される外見を有していた。男は出会ったその瞬間に女を匿うを事を決断した。それは決して容易な事ではなかったが。男の職業柄、それを行うのは容易かった。男と暮らすうち、女の外見の異様さは増しているかの様に見られた。しかし、決して男は女を嫌悪視する事は無かった。その要因の一角には男が服用する薬物の影響があると思われた。


男は職場に向かう間に、人の顔をした人物と出会う事は無い。男は世間一般で言われるブローカーであった。その職業柄、相対した人間が抱いている感情を感じ取る事ができた。その能力は日常生活でも遺憾なく発揮されていたが為、人間と相対する度に精神が摩耗していった。その結果、重度の鬱を患い、その身は醜く変貌していった。


男は手慣れた動きで路地裏を進み目的地まで歩を進める。そこは町の風景から特出した一棟の高層ビルであった。周囲には不自然な程に人気が無く、それは却って男を安堵させた。入口に見える警備員を潜り抜け目的の部屋番号に到着し、依頼人にアタッシュケースの対価として金銭を要求する。その刹那男の直下から銃声が添えられた轟音が鳴り響く。男は瞬時に有り得る限りの可能性を予測し、その内最も現実性が高い可能性を選択した後、足元に置かれたボストンバックを掴み取り部屋を後にする。男にとってこのような経験は少なくはなかった。だからこそ、その状況がもたらす可能性を、その危険性を熟知していた。

男は懐から輸送品として所持していた拳銃を取り出し正面に確認できる煙幕に向かって二発の発砲を行い、それと同時に左方に見える会議室に転がり込み、出入り口に銃口を向ける。数刻が経過した後に、前方に白色のパワードスーツを装着した人型の影が見える。男は銃口を下ろし非常口に向かい部屋から退避する。男の銃の腕は熟練された物であり、人影が見えた瞬間に各急所に銃弾を撃ち込む事は容易かった。しかし、その腕を持って逃亡した要因は男も理解できていなかった。本能、直感的な逃亡であった。

男は非常口から高層ビルの側面に取り付けられた点検用の梯子に飛び移りビルを後にした。


男は寅の刻を過ぎた頃に帰宅した。扉を開けると、そこには外出時に見えていた光景が何一つ変化する事無く広がっていた。窓際に揺れるカーテンの隙間からは月光が不気味に輝いていた。

椅子の上には人影が見え、それは微動だにせず男を見つめている


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