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ジョシーは財団の新たな試みに疑念を抱いていた。指令の順守がモットーである彼女だが、倫理観を殺すことは未だ出来ていなかった。壁を眺め続けること20分、溶接されたかのように重い足を踏み出した。彼女は現在刑務所に居た。向かう先は独居房、ドアに手を掛ける看守に封筒を渡し中を覗き込む。
「イリヤス・ジョーディ」
彼女の耳は自身の声が反響する様を伝えるのみである。
「出てきなさい、イリヤス・ジョーディ」
錆びついた金属の擦れる音が彼女の耳を捉える。
「はいはい、時間ですね」
人の顔を剥ぎ取り、そのまま壁面に押し付けたような表情の男がその全貌を顕にする。
看守の靴が擦れる音を蔑ろに彼女は口を開く。「貴方の死刑は急遽取り止めとなりました、ご同行いただきます」
イリヤスは少し怪訝な顔になるが、彼女が吹き付けた睡眠薬によって表情筋は動きを止める。彼女は胃薬を口に押し込む。
ジョシーは眼前に横たわる男性を見つめながら考え込んでいた。これから行われるのは、人の命を弄ぶ行為であったからだ。勿論、その呼び方を否定する材料は余る程あった。28人、イリヤスが殺害した人数だ。動機は些か同情できるものではあったが、目的を果たした後も彼は殺人行為を止めなかった。通常の人間であれば、彼の事を快楽殺人鬼として捉えるだろう。それはイリヤス自身であってもそうだ。しかし彼女は些か善性が強すぎた。天秤にかけられれば即座に持ち上げられるであろう犯行の動機に、同情してしまったのだ。
サイトに到着して1時間後、イリヤスが起床する。ジョシーは緊張と罪悪感を握りつぶし、彼と相対する。
「イリヤス・ペーパーク、状況を把握できていないとは思いますが」ジョシーは口を開いた。彼女の考えうる中で最も当たり障りのない言葉だった。
「俺に何をする気だ? 解剖か? 臨床試験か?」彼の返答は、ジョシーの言葉選びの失敗を十分に表していた。
かさ増しされた重力を振り払うべく、彼女は言葉を綴った。「そんな事はしません、貴方にはとある密林地帯へ侵入を行って貰うのみです」彼女は言葉を止められまいと話を続けた。「事が終われば、貴方を開放する予定です」
イリヤスは反応しなかった。ジョシーは彼に少しでも表情を緩めてほしかったが、期待通りの結果は得られなかった。ジョシーのその気持は懺悔からくるものだったか、後悔を塗り潰す為のものだったか、彼女にも理解できていなかった。
ジョシーの倫理観は未だ揺れていた。彼にとっての唯一の任務である調査は、決して安全とは言い難かった。彼女にもその全貌は伝えられていないが、彼女の経験はそれを判断するに十分な情報だった。彼女は懇願した。彼が任務中に死亡する確率を減らす為、調査隊へエージェントを5名追加し、調査メンバー全員に食料と小銃を所有させる旨であった。上層部は彼女の懇願を2度拒絶したが、部外者を用いて行われる初の調査という事も加味され、彼女の懇願は可決された。
ジョシーは彼を殺さない事を第一目標としていた。それは、イリヤスが死亡した際に後味が悪い等といった理由ではなく、純粋に1人の人間として死んで欲しくなかっただけの事である。
調査が始まって2分が経過した頃、彼女の胃は限界に達していた。先頭を進むイリヤスを見つめる目は霞んでいた。
「怖く、無いですか?」
彼女の財団職員としての意識は最早微塵も無かった。ジョシー・ペンシルバースという一人の人間として、イリヤスの事を気遣った。イリヤスは無言で後ろを振り返ったが、表情に変化は感じられなかった。
調査範囲の中枢区域に到達した地点にて、ジョシーが口を開いた。「今回の調査は此処で引き上げとする」彼女は、現地点が本来の調査区域より1km手前であることを知っていたが、最早気にすら留めていなかった。彼女の危惧していた事態は起こりうらなかった。その事実だけで彼女は救われていた。彼女はプラスチックの味が染み付いた水を飲み、後方を向いた。彼女の心は安堵で埋め尽くされていた。しかし、その直後、彼女の安堵は恐怖へと変貌した。前方に見えていた2名のエージェントの頭部が四散したのだ。彼女が小銃を引き抜くことが出来たのは、彼女の胴体を鉛が通過した後だった。彼女の脳は事態を読み込めなかった。読み込もうとしなかった。後方を振り向くことを彼女は本能的に拒否した。彼女は自身の中でイリヤスが神格化されていた事を漸く理解した。彼女は倒れ込んだ。彼女の目には、未だかつて見れていなかった物が映し出された。彼女の眼球に血液が付着した後も、こびり付いた笑顔が拭われる事は無かった。
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ジャンル
アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意C- portal:7713699 (23 Oct 2021 07:52)
読みました。イリヤス(Dクラス)がジョシーをはじめとするエージェントたちを殺したってことでいいんでしょうかね。
現段階では少々生き残るのが難しいかもしれません。話に起伏が少ないことと(読者が先を予測したり、感情を動かされる余地が極めて小さいこと)、最後に何が起きたのかがわかりにくいことの2つが大きなネックであると思います。
もう少し視点をジョシーに寄せて読者が彼女の感情や思考に寄り添いやすくするところから始めるといいかなと思います。
ご批評ありがとうございました。
その解釈で大丈夫です。
成程、でしたらイリヤス視点を消して完全にジョシーの目線で話を進めるようにしてみます。
個人的には、最後の方は少し濁した表現にしておきたかったのですが、わかりにくくなっていたかも知れません。もう少し描写やジョシーの感情を書いてみます。
成程、やっぱり視点を頻繁に切り替えたのが良くなかったですね。ジョシー視点のみに改稿を行ってみます。
追記: 改稿しました。
拝読しました。
表現について
比況表現が長いのは一般的ではないように思います。あと、普通の人は顔を剥ぎ取られて壁に押し付けられた経験がないので分かりにくいです。
文章の構成的にイリヤスに胃薬を飲ませてるように見えます。
ジョシーではないですか?
この前に「些か同情できる」と書かれているのでくどいです。また、「些か同情できる」という文があることでジョシーが同情したことがジョシーの善性が強いことの説明になっていません。
句末の殆どが「〜だった」「〜であった」であるためくどい印象です。
内容について
全体的に「ジョシー可哀想」「Dクラス何やってんだ」といった感想が出てくることはなく、ジョシーを中心とした財団全体が無能すぎる、と思いました。感情移入できるようなキャラクターもおらず、ストーリー性も薄いため現状DVです。
執筆頑張ってください。
ご批評ありがとうございます。
細かい所まで指摘していただいてありがとうございます。読者に中太割りやすい表現に変えていこうと思います。
なるほど。財団初期という設定なので少し無能にしてみたほうが良いかと思ったのですが、これでは無能すぎたかも知れません。
うーむ。taleの経験が浅いので試行錯誤中なのですが、どうも魅力的なキャラクターを描けないのですよね。キャラクターの性格等に重点を置いて改稿をしてみようと思います。
ご批評のほど、重ねてお礼申し上げます。