「なぜウミネコは泣いたのか?」

このページの批評は終了しました。

SCP TALE 「なぜウミネコは泣いたのか?」
http://scp-jp.wikidot.com/how-the-seagull-kill-themself

評価: 0+x
blank.png

その教授は言った。4回目のタナトーマ基礎講義のオリエンテーション、終わり間際のことだった。

「というフレーズを知っていますか」

既に暗転したスクリーンを、半ば放心状態で眺める研修生たちに、突然問いかけたのだ。これまでの講義とは違った調子に、観衆は息を飲んだように静まり返る。

微かなざわめきと笑い声。何の話? ウミネコ? 困惑したり、興味を惹かれたような表情がそこかしこを凝視する。どういうこと? いや全く。何で? 何のことやら。

ざわめきが収まるまで待って、教授は続けた。

「最後に一つ、伝えておきたいことがあります。おそらくあなた方は、皆タナトマを抜きたい、と考えられていることでしょう。そういった気持ちでサイトへの配属を望まれた方もいると思います」

教授は如何にも勿体ぶった様子で、言葉を選んでいた。それでも、時計を横目に見るともう休憩時間まで20秒も無いぞ。

「そう考える方々に、今一度こう問いかけます」

針の音さえ聞こえるかと思うほど、講義室は静まり返った。

「なぜウミネコは泣いたのでしょうか?」

皆のどよめきをよそに、終業のチャイムが鳴り始めた。


なぜウミネコは泣いたんだろう?

大講義室のすぐ横は休憩スペースになっている。わらわらと研修生たちが持ち場へ戻る中、僕の足は無意識に休憩スペースへと向かっていた。休憩中であるというのに講義の内容が頭から離れない。それもオリエンテーション全体を通してではなく、全てラスト1分の出来事だ。

数人がたむろする前を通り抜け、自販機スペースを抜け、誰もいない角のベンチに腰を下ろす。まだあのワードが頭の中で反芻している。考えるだけ仕方がないのに、なぜだか心に引っかかっているのだ。なぜウミネコは泣いたんだろう? それも、なぜウミネコ? どうしてこのサイトの研修で? どうしてタナトマの研修で?

「何か腑に落ちないって顔だね」

肩越しに声がしたと同時に、缶ジュースが差し出された。冷ややかな感触に驚いて思わず振り替える。タチバナ研究員、もといタチバナさんが、自分の缶を口に運びながら立っていた。気だるけに着ただけの財団衣に、やる気のなさそうなポニーテール。同期の方々は今まさに次のオリエンテーションの準備に追われているというのに、仕事が割り振られないからってこの調子。僕の職場先輩はそういう人だ。きっとタナトマだってもう抜いてるだろうな。

軽く感謝し、何気なく「いつものことですよ」と返事をして受けとった。許可を取ってもいないのに、タチバナさんは隣に足を組んで腰かけた。

彼女も3年ほど前にここのサイトへ転属になった職員だ。先頭に立ってタナトマを研究するこのサイトへ。だから先輩も3年前、例の講義を受けていることになる。僕と同じように。

「タチバナさん」

「何?」

「なぜウミネコは泣いたんですか?」

タチバナさんは一瞬、意表を突かれたような顔をしたが、すぐにいつもの悪戯好きな表情に戻った。

「なるほど、丁度あの講義終わったところだよね?」

「……はい」

タチバナさんはニヤニヤしながら僕の顔を覗き込んだ。

「『なぜウミネコは泣いたのか?』何でだろうね?」

"あの講義"というのは、ここ一帯のサイトでは割りと有名なものらしい。このサイトへ異動になった職員は、一般はもちろん、たとえ他部署のタナトマの権威であっても受講することになっている。

その全貌は、決まって担当教授が『なぜウミネコは泣いたのか?』と問いかけて締め括る、という何とも訳のわからない話で広まっている。肝心の講義の中身も至ってシンプル。タナトマという超常技術か表向きになり、一般社会に何の恩恵をもたらすか? というものだ。

そしてなぜか一貫して、この妙な命題はタナトマの議論の引き金になる。誰かが「なぜウミネコは泣いたのか?」と問えば、また誰かが個人的なタナトマの見解を打ち明けることになる、という因果律がある。らしい、だとか。

「不思議だよね。ずっとここに残るんだよ」
タチバナさんはこめかみの辺りを軽く叩いた。
「どうしてウミネコが? どうしてこのタナトマに? 何の関係が? ってね」

しかし、なぜウミネコは泣いたのか、そのフレーズの起源は全くわからない。なぜウミネコなのか。なぜ泣いているのか。誰が始めに言ったのか。一つだけ判明しているのは、このサイトにタナトマ部門が創立された頃には既にあった、ということだけ。それなのにどうしてか、今やこの謎は勤務する職員たち皆の共通認識であるようだ。

「なる……ほど?」
確かに、異様に心に引っ掛かっていたと思うけれど……

奇妙な文化だと感じた。実際、タナトマが世に出回ってから、変な文化が増えたような気はしていた。キャッチコピー、誘い文句、政界、伝統や慣習にまで。あの教授の上手くしてやったというような、ほくそ笑む顔がまた目に浮かぶ。

実際、そのウミネコとやらがこのサイトと何ら関係がないとは思わない。時々サイトの渡り廊下からでもウミネコの群れを目にするし、鳴き声が煩わしく感じることだってあるほど身近な存在だからだ。

ただ、『なぜウミネコは泣いたのか?』?

「色んな説があるんだけど、その内の一つが」と、タチバナさんは僕にクリアファイルを投げてよこした。そして「見て」と言わんばかりに僕と、その使い古されたファイルを交互に睨んだ。

「サイト-8181広報誌の切り抜き。タナトマ部門が創立された頃からのやつまで。つまり、あの問題のウミネコが始まった頃からのね」

タチバナさんは目を輝かせて言った。

「カミカワは「カモメ実験」って聞いたことないよね?」

「カモメ?」

実験? タチバナさんは指を立てた。

「知りたいんでしょ? どうしてウミネコが泣いたのか」

由来は、財団にタナトマ部門が創設されてまだ間もない頃に行われたある実験に基づくという。


クリアファイルを開く。財団広報誌の切り抜き、それも2004年度のものばかりだ。

世間を揺るがしたゼーバッハの記者会見が強く印象に残っている。タナトマが社会にどんな影響を及ぼすかについて検証が繰り返されていた頃だ。どのような役に立てるか、安易に手を出すべきでない、いやどんどん運用すべきだと、財団内でも派閥が分かたれていた。

元々、ここのサイトの部門も数人の好奇心に刺激された研究者が寄ってたかって立ち上げたところだと言う。元々サイト-8181は有力なサイトではなかった。今やタナトマ研究の最先端をゆく部門を有している。

見開きのページに、支部評議会による討論記録と「PLLP1抽出施工により致死的要因が排除されるかについての対象実験」とある。

「そうそう、これが俗に言うカモメ実験」

その実験とは、ある動物からタナトマを抽出した後の経過観察のことである。動物が不死性を会得することで、後のどのような行動に作用するかの試験検証だ。

「当たり前だけど、いきなり人間から抽出するのは危険だったんだよね」

ことの発端は、とある会議にて。いつも通りタナトマについての終わりなき論争が繰り広げられる最中、窓際に座っていた一人の職員──それもこのサイト直々に勤務していた一般の──が、不意に窓の外を見て思い立った。それは当たり前の光景だったのかもしれないが、タナトマをテーマにする上で重要な意味合いを持つようにも思えた。人間がダメなら、試しに一度“ある動物”でやってみるのはどうだろう、というもの。

「その、ある動物に選んだのが……」

「カモメだよ」

⤴️👌

%E3%82%AB%E3%83%A2%E3%83%A11.jpg

「カモメ」

「うん、カモメ」

少し前まで、ここサイト-8181には貿易港があった。サイト自体が海岸沿いにあり、物資の中継地点として使われていた。今となっては急遽始まった埋め立て工事で、見る陰もなく収容練が伸びている。

「今もその名残だよ」
タチバナさんはちょいちょいと指をやって窓の外を指す。ここの講義室は最も海岸線に近いのだ。

財団とはいえ当時はまだ地方サイトのセキュリティは甘く、現場もそれほど厳重な管理ではなかった。そのせいか、現場作業員は気まぐれで休憩を取っていたし、よくカモメやウミネコなんかも住み着いていた。

「肝心の問題がね、そのカモメにあるんだ」
タチバナさんは窓からカモメの群れを指差した。
「カモメというか、カモメを取り巻いた人たちの問題だけどね」

時々、作業員が食べ残しや配給の残りをカモメにやることがあった。カモメは波止場から車両の通る通路側へ群がる。それでいざ仕事が始まると、作業員たちはカモメがまだそこにいることを知っていて、わざと車両を走らせるのだという。

当然、通路に取り残されたカモメは車に轢かれる。

作業場のいくつかのエリアには監視役は疎か、カメラさえなかった。だからか、そういった死角にはカモメや他の海鳥が“転がっている”こともさほど珍しい光景ではなかったらしい。

「……酷い話ですね」
思わず顔をしかめる。そういえば、今はどんな場所でもカメラが配置されていたな。それと関係があるのかまでは分からないが。

窓からウミネコの群れが飛び立つのを見ながらタチバナさんも呟いた。
「全くね」

しかし先輩の言うには、それ以上に不可思議な問題があったそうだ。

「一番厄介なのがね、運悪く死ねなかったカモメもいたことなんだ」

中には、ぶつかっても羽や足が折れたりするだけで、命からがら助かるカモメもいる。しかし、そうなったものはもう飛べない。件の職員は飛べなくなったカモメがその後どうしていたかを、たまたま会議室の窓から見つけたという。

僕は空きカンを弄くりながら言った。
「何なんですか」

「自殺だよ」

「自殺?」

「そ、トラックの前の地べたに座って、じっと目を閉じた。当たり前だけど、そのカモメは轢かれちゃった。車が自分を轢いたとわかってて、でも目を閉じたんだ」

カモメ、自殺。全く結び付かない二つ。

自殺について向き合う時期は、自分でも人生で何度かあったと勝手に思っていた。タナトマが現れたことで、どの年齢層でも自殺率は急激に落ちていることも知っている。クジラやレミング、都合よく人間が自殺と定義しているものもいくつか思い浮かぶ。でも……カモメ?

「実際のところ、それが自殺かどうかはわかってない。けど、どうしてか考えてみることは大事だと思う」

確かに、人は落ちるとわかっていて飛び降りる。死ぬとわかっていて毒を飲む。つまりカモメは、車が自分の命を奪うものと知っていて車の前にうずくまっていた。

「それで、そのカモメからタナトマを抜いたってことですか?」

タチバナさんは首を振った。
「ちょっと惜しい」

「その……自殺しようとするカモメを、救えるかもしれないから?」

タチバナさんは頷いた。
「そういうこと」

%E3%82%AB%E3%83%A2%E3%83%A12.jpg

「実験概要なんだけど、実はゼロ公開2されているんだよ。ほらほら」

タチバナさんはタブレットを取り出した。画面にはある動画が映る。「how the seagull kill themself3」とタイトルにある記録映像。研修にも使用されるようなカテゴリーのものだった。しかし、まるで素人が撮ったのか、と思わせるくらい味気ないサムネイルだ。

まず画面には羽の折れたカモメを回収する調査団が映る。診察台の上には、弱々しい目をしたカモメ。取り押さえるまでもなく、その胸元のあたりに、静かに注射針が入る。二回、三回。カモメは暴れない。餓死、轢死、病死、衰弱死。そうやって繰り返すと、ついに不死身のカモメが完成する。調査団はカモメをまた元通りにそっと返してやる。カメラは移動し倉庫の影からカモメを映し、経過日数を示すテロップが流れる。

「こんな動画言われませんでしたよ」

覗き込みながら嫌味に呟いてみたが「多分、あえてだと思う」と神妙にタチバナさんは言うだけだ。

1日目になった。画面を凝視する。10秒が経った。20秒が経った。

カモメは動かない。

全く動かない。研究員の一人がその場から立ち去った後も、作業通路上で座ったままだ。羽ばたきも、立ち上がりも、瞬きさえほとんどしないようだ。

「動きませんね」

何もない。何も起きない。貨物を積み込むガコガコという音はする。しかし当のカモメだけは時間が奪われたように、画面の中に固定されたままだ。

「うん、動いてない」

やはりカモメは動かない。

何だ、僅か30秒にも満たない1日目を見て、率直に「この後に何が起こるのか」と感じたが、実際予感は当たっていた。2日3日と過ぎようと、カモメは全く動くそぶりを見せなかったのだ。

貿易港は普段と同じように稼働しているようで、時度通過するエレカ4やリフトはカモメを迷惑そうに迂回するだけだ。勿論、カモメがそこにいることに気付いているから、の話だったが。

その証拠に5日目。ここに来て初めてトレーラーの一台がカモメを轢いた。運転席から見えるわけもない。タイヤに飲み込まれ、一瞬カモメの姿が消えるが……程なくしてまた現れる。まだ動いてないのか。ひび割れたコンクリートの隙間から、もたげた頭だけが飛び出している。力無さげに。

しかし、やっぱり動くことはない。

視線を動かさずに言った。
「タナトマを抜いても全く動かなかったってことですか」

たとえパレットの雪崩に驚いてウミネコが一斉に飛び立とうが、すぐ隣でAGV5が行列を作ろうが、またトレーラーに押し潰されようが、カモメはずっと塞ぎ込んだままだ。轢かれたくないのであれば、通路上から避ければ良いというのに。

「でも、まだ動くかもしんないよ?」
タチバナさんは応えつつも、目は画面から離れていない。

「自分がタナトマ抜かれたのを知らなかっただけ、とか」
カモメに気を取られながら、無意識に呟いた。

その時、さっきタチバナさんが言ったことを思い出した。カモメは死ぬ瞬間に目を閉じていた。そう、カモメは自分の轢かれるその瞬間、目を閉じていたのだ。画面の中のカモメの目も、またしっかりと閉じられていた。

タチバナさんはただ「そうかもね」と返すだけだった。両目は画面に釘付けだ。

その後も全く同じ。6日目、7日目、とただただ何の変哲もなくテロップが入れ替わる映像。時々ウミネコの鳴く声や撮影者の咳、手前を通り過ぎるエレカが写り込むだけで、カモメには何の動きもない。たとえカモメが轢かれようとも、やはり動画は何もなかったかのように振る舞う。

12日目を過ぎたところで、動画は突然途切れた。結局のところ、最後の暗転までカモメはそのままにされた。試しに待ってみるが、追加検証も、事後処理報告もない。

とうとう何も起こらなかったか。タチバナさんは言い放った。

「単刀直入に言うと、何にも起きなかったんだよね」

%E3%82%AB%E3%83%A2%E3%83%A13.jpg

「結局、何の成果もないままこんなのが1年も続いた。その頃にはもうね、実験の見方が変わってたんだ。意味ないことがまるでホントに意味がある、みたいに考えられることはよくあることでさ。これを機に実験を取り止めることにしたんだ。それでカモメにタナトマを返してあげたんだ。この一年間余り、カモメが求めてたものがやっと叶ったんだよ」

結局のところ、最後に残ったものは何の異常もないカモメの轢死体だけだった。調査団はこれ以上の議論に意味はないだろうとすぐさま解散となり、数年後に港は埋め立てられあの場所は姿を消した。これがカモメ実験の全貌だと言う。

「動物にとって死っていうのは単なる現象に過ぎないって考えてた。例えばさ、猫も自分の死期を悟ると、ふらっと飼い主の前からいなくなるって言うじゃん。でもそれはさ、猫は全くわからない痛みからただ逃げようとしてるだけで、助かると思ってるだけでさ。だから、あの時カモメが目を閉じたっていうのがずっと引っ掛かってるんだ」

「言いにくいんですけど、それでカモメは助かったと思いますか」

助かった、という表現はマズかったか。しかしタチバナさんは少し押し黙って、こう返すだけだった。

「多分、タナトマを抜いちゃダメだったんだよ」


僕らが普段感じているものより、カモメと人間の考える自殺は違うからだろうか?

僕らがカモメならどうしていただろう? 僕らがあのカモメと一緒にいたなら、どうするだろう? どこかに救う方法はないか。解決の糸口はないか。しかし僕らは、カモメが何に苦悶したり怯えたりしているのか、その真相は知ることはできない。ましてや、死を選ぶほどのものなんて想像も。実際、箱を開けて出てきたのは……空白だけだ。

あのカモメにとって「今」というのは、この一瞬一瞬にしかなかった。彼らには、未来も過去も同じように見えていて、一番重要なことは自分が今「生きているか」それか「死んでいるか」の二つに一つなんだろうか?。だから、カモメは絶望したがために死のうとしてるんじゃない。自由や出口を求めて、言わば今ある羽ばたけない姿からの「解放」を考えて死を選ぶ、と僕は考えた。

3度。動画に納められた12日間だけでも、カモメは3度は死んでいた。つまり、自殺を3回も試みて、その全てで失敗したということだ。

端から失敗するように仕組まれていたということだ。

これらの結果は、カモメに何をもたらしたのか。何かを働きかけることができただろうか。いずれにしても、実験を続けたところでカモメが語ることはない。カモメがめげずに死に向かう様子を、調査団は指を咥えて眺めるしかない羽目になる。しかし、もし僕らがただ辛抱強くタナトーマを抽出し続けたのなら、いつかカモメが車の前に座るのを諦めてくれるときが来るのだろうか。

もしかしたら、世間はそれを救済だとでも呼ぶのかもしれない。


「時々だけど、カモメは他にも人間みたいな行動をすることもある。仲間の死を悲しんで鳴いたり、どうにかして救えないかとか、考えたりするやつもいる。何でそんなことするのかなんてわかっちゃいないし、結局私の憶測に過ぎないのかもしれない」

その場にいたら彼女だって、僕らだって思い付いただろう。カモメからタナトマを抽出しようと思えば抽出できた。カモメにもう死ぬ必要がないことを教えられた。ただそれでも──

「けど、やっぱりあのカモメは救えなかったんじゃないかな。たとえタナトマがあったとしても、全部が全部解決してくれるわけじゃなくて、私たちにはただ泣いて見送らなくちゃいけないときもある」

それは僕らは苦痛を忘れる術を知ったからだ。それはカモメたちが苦痛を忘れられるものではないと知っているからだ。

「たとえそうだとしても、私たちはいつも最善を尽くさなきゃいけない」

それは救いだろうか? 誰かが救われるのだろうか? 救われることは良いことなのか?

「凄く小さいことだけど、カモメの死ぬ勇気がそれを教えてくれたと思うんだ」


「どう?」
一通り話し終えると、タチバナさんは向き直り、またいつも通りおどけてみせた。
「面白かった?」

「いえ、面白いってわけじゃないですけど……何となくわかった気はします」
僕はまた無意識に空缶をいじりながら、どことなく居心地悪そうにしてみせた。正直、理解できた自信はなかったが、何とか頷いてみせた。

「何か納得いかないって顔だね?」

「……はい。カモメの話は分かりました。けどそれって……」

「そうだねー、気持ちはわかる。だってカモメ実験も『なぜウミネコは泣いたのか?』の一説の、それも噂に過ぎないからね」
タチバナさんは難しげな表情を見せた。
「他にも色んな話があって、前の管理人がタナトマを使って自殺したとか騒がれてるし、元々埋め立てられた海岸は廃タナトマを再利用した埋立土砂だとかも言われてるし」

僕は重々しく頷いた。
「でも、そのどれもが問題の"ウミネコ"とは関係ありませんよね?」

「……そういうこと」
タチバナさんも最もらしく頷いた。

その後も、他の説についてタチバナさんに問い質してみた。しかし、話の中には泣いたウミネコに対するアンサーはおろか、ウミネコさえ登場しないものまであった。もうあと一歩まで近付くが、確信には至らない。即ち、ウミネコが泣いた理由は僕らが考えなくちゃいけないということだ。

「本当はアノマリーだったり? 調査部門でも調べてるらしいしね」
ファイルをパラパラめくって、最後のページをちょいちょいと指差した。片隅に超常調査部門のコラムで「なぜウミネコは泣いたのか?」の調査資料が掲載されている。それも面白おかしく。

それでも、なぜウミネコは泣いたんだろう? 僕は幾分か消化不良に感じながら、頭の中で反芻してみた。これまでのタナトマを抜きたいと考えた瞬間。やっぱり怖いと思った時。それでも抜くべきだと考えた時。僕は自分の生き方について、どれほど懸命に捉えてきたんだろうか?

「でも、」
タチバナさんは唐突に言い放った。
「その起源がどうとかなんて探ることは重要じゃないと思う。誰がタナトマを考えるきっかけを作りたかったのかもしれないし、そうじゃないかもしれないけど。大切なのは、自分が生きることとタナトマについて考えることだから。だから、私はこう思うことにしてるんだ。なぜウミネコは泣いたのか、その答えは、」

タチバナさんは気恥ずかしそうに、それも恐る恐る申し出た。その意味ありげな立ち振舞いに、いつもと違う調子に、なぜだかタチバナさんなりの熱意を汲み取ったような気がした。

「多分、私たちがカモメを救えなかったからだよ。それでも救いたかった」

似合わず、自信なさげにぽつりと呟いた。しかし同時に、横顔は微かな熱意も感じさせる。

突然、タチバナさんは我に返ったように取り乱した。
「いやいや、ごめん、忘れて! 忘れて良いよ! 今のは。世の中には意味のあることより無いものの方が多いしね」

その調子に、思わず迷いが吹っ切れたような気がした。

「いや、 意味なんてあっていいと思いますよ」

らしくないな、なんて感じながらクリアファイルを突き返した。ファイルは何度も開かれた形跡があり、もうすぐ朽ちてしまいそうだった。

『なぜウミネコは泣いたのか?』

時々、僕らは何のために戦っているのかわからなくなる時がある。死を恐れる人。死を恐れるがためにタナトマを抜き、死の恐怖を克服した人。そして永遠の生に怯え初める人。僕らは戦うためにタナトマを抜いている。僕らは戦い続けるためにタナトマを抜いていない。人生に問われる意味が滅茶苦茶になって、何もかも試験的な白紙みたいになったんだ。

それでも、このボロボロのファイルのように少しは意味があることを信じても良いんじゃないか。こんなにやる気のない先輩が、こんなに大事そうに抱えるファイルの、自分自身の主張のように。カモメが自殺する理由に意味があるなら、ウミネコの泣く理由ももしかしたら………

「じゃあ、じゃあさ、それなら」と、タチバナさんは遮って時計を指差した。気づけば、次の講義まで残り10分を切っている。

「歩きながら話そうよ。君は何でウミネコは泣いたと思う?」

タグ: jp tale thanatomania

ファイルページ: カモメ1

ソース: https://commons.m.wikimedia.org/wiki/File:Three_L%E2%81%A0arus_canus_sitting_on_a_pole.jpg
ライセンス: CC BY-SA 4.0

タイトル: カモメ1
著作権者: Marius Vassnes
公開年: 2023
補足:

ファイルページ: カモメ2

ソース: https://commons.m.wikimedia.org/wiki/File:2009-10-25_1_(23)_Gull,_M%C3%B6we.JPG
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: カモメ2
著作権者: Vera Buhl
公開年: 2009
補足:

ファイルページ: カモメ3

ソース: https://commons.m.wikimedia.org/wiki/File:Larus_canus_canus_Le_Hourdel_20181103_t142233.jpg
ライセンス: CC BY 4.0

タイトル: カモメ3
著作権者: Marie-Lan Taÿ Pamart
公開年: 2018
補足:

画像はmatcha_tiramisu、tutu_sh_、makodotより

なぜウミネコはないたのかは このサイトで流行っている 出所のわからないフレーズの一種 これには出処があらゆる説があり カモメ 実験もそのうちの1つである このサイトではそのフレーズが 棚ともに対しての個人的見解を述べさせるものであり調査部門が調査している→ なお このtaleではこれについて 意味がないことよりも 意味を与えることの方が重要だと述べている

⭐⭐タナトマを最前線で研究しているのに、なぜかこのサイトではタナトマを抜いている人が一人もいない、プライベートでも仕事でも、エージェントでも機動部隊でも、何で?
主人公はここに新しく配属された→しばらくしたらタナトマを抜こうと思っていたが、周りの人は全く抜いていない→なんでか聞くと、カモメ実験の存在により、ここの人々は日常レベルでタナトマがどういう力をもって影響を与えるのかを知っているから→タチバナ「でも使うなというわけじゃなくて、もう少し慎重になってみても良いんじゃないかな。本当に生きるために必要な要素が何なのかを」「また自然とそうなっていく(タナトマを使わないようになっていく)こともあるかも」

「当たり前だけど、本気で死にたいなんて考える人はそうそういないと思う。ほとんど全部逃げるためだと思ってる。多分、逃げられない苦痛とか、どうしても越えられない壁とか、理解できない他の人には見えない何かが、そこにはある。それは、カモメにも」

「まあどっちにしても、生きることとタナトマについて考えるきっかけは大事だと思うよ」

実際、タナトマを使えば必ずしも良くなることではなく、タナトマを抜いた結果、大きく外れた結果になった。これは自然の摂理に反した行動だった。人間の自殺問題を解決したタナトマをむやみやたらに使えば解決するというものではなく、必要以上に苦痛を与えてしまうケースもある。それが、タナトマを使う上での戒め

「余りにも世の中がタナトマで溢れ過ぎて、すっかり抜け落ちてたんたんだ。」

まあきっかけがどうあれ、生きることとタナトマについて考えるのは大事なことだと思うよ」

「あとね、初めの質問に答えるなら、実は私もタナトマ抜きたくないってわけじゃないんだ」
「うん、交通事故の」

どうして嘘なんか……と問いただす前に、時計指差し

「後悔してますか?」
うつむくタチバナ
「……後悔してるんですね」

⭐結局、「なぜウミネコは泣いたのか」の語源は?
⭐カモメである必要はわかったが、ウミネコである必要は?
⭐どうしてそういう課題があるのか?
⭐作り話である必要は?、またどこまでが作り話なのか?
⭐最後の展開が臭い(セリフ)
⭐謎が多く、うやむやにされたまま終わっているため、スッキリしない
⭐作り話、課題の要素をすっかり取り除くこと


ページコンソール

批評ステータス

カテゴリ

SCP-JP

本投稿の際にscpタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

GoIF-JP

本投稿の際にgoi-formatタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

Tale-JP

本投稿の際にtaleタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

翻訳

翻訳作品の下書きが該当します。

その他

他のカテゴリタグのいずれにも当て嵌まらない下書きが該当します。

コンテンツマーカー

ジョーク

本投稿の際にジョークタグを付与する下書きが該当します。

アダルト

本投稿の際にアダルトタグを付与する下書きが該当します。

既存記事改稿

本投稿済みの下書きが該当します。

イベント

イベント参加予定の下書きが該当します。

フィーチャー

短編

構文を除いた本文の文字数が5,000字前後か、それよりも短い下書きが該当します。

中編

構文を除いた本文の文字数が短編と長編の中間程度の下書きが該当します。

長編

構文を除いた本文の文字数が20,000字前後か、それよりも長い下書きが該当します。

事前知識不要

特定の事前知識を求めない下書きが該当します。

フォーマットスクリュー

SCPやGoIFなどのフォーマットが一定の記事種でフォーマットを崩している下書きが該当します。


シリーズ-JP所属

JPのカノンや連作に所属しているか、JPの特定記事の続編の下書きが該当します。

シリーズ-Other所属

JPではないカノンや連作に所属しているか、JPではない特定記事の続編の下書きが該当します。

世界観用語-JP登場

JPのGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。

世界観用語-Other登場

JPではないGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。

ジャンル

アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史

任意

任意A任意B任意C
    • _


    コメント投稿フォームへ

    注意: 批評して欲しいポイントやスポイラー(ネタバレを含んだ作品解説)、改稿内容についてはコメントではなく下書き本文に直接書き入れて下さい。初めての下書きであっても投稿報告は不要です。批評内容に対する返答以外で自身の下書きにコメントしないようお願いします。

    新たなコメントを追加

    批評コメントTopへ

ERROR

The four Boretto's portal does not exist.


エラー: four Borettoのportalページが存在しません。利用ガイドを参照し、portalページを作成してください。


利用ガイド

  1. portal:7707552 (15 Oct 2021 16:17)
特に明記しない限り、このページのコンテンツは次のライセンスの下にあります: Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License