苦難の王位

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宮廷は、一つの檻の壊れたる姿を見た。

吊られた王は死したままだった。しかし、それらに疑念を抱くことは出来た。そう考える時には、全く異なることが起きようとしている予兆を、神の形をした穴から這い出る戦慄を、深く感じ取ることを強いられた。遥か昔に失った恐れを再び抱いていた。

大使はその姿を見た。そして、否定した。この宮廷においては、大使だけが全てを知り、その軸を掌握していた。それ故に、彼の次なる行動は欲望によって定められる。それは主の見えぬ地で芽を出し、何れ雛が産み出されるだろう。それを実行するため、無貌と穴と対峙する。最後の肉を回収するために。

吊られた王は予見する。これがある形の彼の終焉であり、アラガッダの終焉である。贖罪の機会を得ぬままに、彼の肉は腐り堕ちる。跡を残さず、完全なる処刑を遂行するために。それは彼が何よりも恐れていた。

その掲げられた斧の如き腕は、抵抗せぬ王を弾頭すると見た。ここまでは、彼の予見通りだった。大使は彼を吊り下げるそれに手を掛け  

断ち切った。

苦難の王位

もっとも親愛なる読者へ。私はあなた方に伝えなければならないことがあります。近々、私は異形の不穏を感じていたことを明かします。リーギグスの堂守の偉大な学者達は、アラガッダには何れ変動が訪れると警鐘を鳴らしていました。お分かりかと思われますが、今日がその日にあたると預言されています。

私は以前アラガッダを訪れ、アラガッダの王と対峙したがために、私への預言はまた違った形で──より自然的且つ鮮烈に伝えられました。私には宮廷の内側の様子が、まるで壮大なジオラマのように感じ取ることが出来ました。

大使の霊的な放射が消滅しました。ええ、そこから消失したのです。

これは学者達が見抜いていない事象です。私はこれらの確信を得るため、再びアラガッダの次元に赴きました。そこには、連盟の求める答えがそのままの形で残されていました。

吊られた王の体は王座に落とされた。忌々しい錆の装飾がその肉の触手を寸断した。大理石に打ち付けられ、錆びた骨が塵と化した。何れにしても、更なる血の流れは見られない。

彼は儀式によって空費された全ての時代を、衝撃と共に頭の中に復活させた。口に含んだ全ての食物を、考えた全ての思想が逆流するように。燃やされたパズルのピースを再び額に収めるように。各々を自らの素手で。

大使はただ屹立し、王を見下げていた。彼は空腹を感じている。人智を超越した、あらゆる空腹。彼の主は満たされたが、彼は未だ十分でない。彼はそうなることを危惧し、しかし恐れてはいなかった。

王は呻いた。蝿の羽音が如く、徐々に低音の声となった。それは大使の思考回路を十分には阻害できなかった。

私は朦朧とした意識が明るくなり、久しい感覚が戻って来たことを知りました。まるで私に悟らせる必要があるために、目前の霧が避けるようにして、アラガッダに到着したことを報告したのです。そして私は、今再び市民権の如き陶器の仮面を嵌められると予想していました。

しかし、その予想は外れていました。私の視界は開けていました。言い様のない不快感や色彩の制限は消え、また痒みに鳴くことも必要としませんでした。同時に、その住民も仮面を必要としなかったのです。

苦痛に堪え兼ね、王は叫ぶ。彼の体は引き摺られ、灰の山脈を伸ばした。しかし、その行為は彼が盲目であることに気が付いたために、一度諦められた。恐らくそれらは、彼自身の意思によって。

“予はアルコンの奇術師を知っているぞ! 予は汝が一体何者であるのかを知っている、汝らが一つの場に留まらないことを見抜いているぞ! ”
彼の声は宮廷を引き裂こうと試みた。

その叫びは、大使と言う名の空虚を掴む。王は骨粉を吐き、胎児のようにその場に蹲った。

“予は汝らの策略の前に立ち塞がるだろう。それは汝らと予は誤った過去であり、予のみが未来と成り得るからだ。”

彼の身は既に不可逆的な崩壊を迎えていた。

アラガッダの庶民は、彼らの歴史や慣例を除けば、我々の生活と大差はありませんでした。豪奢な仮面や装いの消えた彼らの庶民的な生活の方がより一層鮮やかにも見え、むしろ私の方がより異物のように思えました。これがアラガッダの本来の姿なのでしょう。

私は確認すべきことを思い出し、街と図書館を離れました。すぐにアラガッダの中心、吊られた王の宮廷へと向かいました。その道中、どの君主とも交わることはありませんでした。これが幸運の結果であるのかは判断できません。もしかすると、単に彼らは仮面を外していただけなのかもしれません。

王は混沌に一つの意味を与え、目的を得た。彼は神であることを望まなかった。彼はもはや吊られてはおらず、国はそれがために用意された断頭台ではない。今こそ、その言葉は武器となり、法律となり、生命となる。そして、一つの王国を統治する喜びとなる。

大使は王を不自由だと罵るように見えた。それが彼の得た現実であり、虚構であると。その口は持たないが、嘲るように。彼の絞首の傷がより刺激されるように語る。

“ 苦悶せし王の中で我らは血とならない。堕落した者は、ただ一つの杯に過ぎない。”
大使はダエーワの槍を手に取る。

“我らは壊れている。それ故、その身は時の摂理によって構築されるだろう。予の予見は完成され、汝らは壊れたままにある。”

“ 予言は王と彼のものを存命させない。我こそが否定であり、破滅であり、後に遺る虚無である。”
大使は槍を持ち、王座の前に佇んだ。

大使に一片の火が灯り、王の目を焼き尽くすように見えた。彼は目を覆おうと試みたが、失われた指の感覚に気が付いた。同時に、彼の視界を蝕んでいた穴が姿を消した。

重力に歪みが加えられている。アラガッダの変化に対する騒ぎの声が遠退き、宮廷に彼らだけを残して去った。火は炎へと変わり、大使を巻き付いた包帯を焼く。王は異様な程の熱と不穏を感じ、それらは苦痛へ変換された。彼は酷く恐れた。

王は見た。四の肉の羽を。玉虫色の神使を。

それは無貌の神の形であった。

宮廷の内部は、誰一人として役を演じる住人はいませんでした。王座の周りでさえも。これは外側のアラガッダと比較すると、非常に奇妙なことです。私はその中心で──恐らくそれが起きた時から孤独だったと思われる──吊られた王の身体を見つけました。

それにはまだ息がありました。王は酷く衰弱しており、彼自身の神の形をした穴に魘されているようでした。彼の素顔を確認し、神の形をした穴はそこにはありませんでした。そして私は、そこに複数の不可逆な傷を見つけ出し、それを否定するように動き続ける心臓を見出だしました。

私は、を手に取ることに若干の迷いがあったことを明かします。

王は無貌を覗き、

彼の身は堕落した。

王の鎖は再び無慈悲に

のたうつが如く蠢き始める。

彼自身が鎖へと昇華し、

繋ぎ止められ

王への挑戦となった。

彼は大使に這い寄り、

そしてまた一歩離れる。

それは時間を経て強靭となり、

王の欲望を絞首する。

彼は自らの錆を破壊し

鮮烈とした

民の狂乱の嘆き、

幸福、

渇き、

それらを読み取り、

否定する。

縛るものの足は

ただ慈悲深く、

王へと歩み寄る。


大使は王に槍を捧げた。それは彼の心臓の内に。

王の声は途絶え、虚無が訪れた。道化が笑い、三羽の烏が退屈に堪えかねたようにアラガッダを飛び立つのを見た。

程無くして、煮え滾るような音と共に彼は目を開きました。

私は彼と初めて顔を合わせた時のことを鮮明に覚えています。それは吊られた王と対峙したことよりもはっきりと記憶していました。それは無為的であり、より自然的に。アラガッダの王である前に、一つの仮面を被る人間であったのです。

私は飽くまで協力的に接しました。以前の探索レポートでの事案を忘れたわけではありません。それは、彼の持つ知識を貯蔵するためであり、我々の不穏を説明するためでもあります。私は、いくつかの重要な知識を得ることに成功しました。以下に記します。

……………

“何故、貴方はこのような形に陥ったのですか?”

“実に明快なことだ。予はもはや彼らの内に近付き過ぎてしまった。自らの責務を厭うがばかりに、予が新たなるアルコーンへと。”

“貴方はアルコーンの存在を知っているのですか?”

“そうだ。大使の存在した時代に、予の視界は生きていた。予は彼らの花弁を見、自らの失墜を見た。しかし未だ胚珠の姿を見せてはいない。予は彼らの振り撒いた種の一つでしかない。実を腐るままに捨て置けば、何れ雛が孵ってしまうだろう。”

“それは一体、どういう意味を持つのでしょうか?”

“予のみがこの歴史を辿るのではない。アルコンの空腹が満ち足りぬ限り、吊られる者は増大し続けるだろう。予は彼らの内の二人目を既に見出だしている。”

“二人目は、誰のことを示す言葉でしょうか?”

“それは失墜を映す鏡だ。何れ汝も会うことになるだろう。予はそれに呑まれ、全てを失い虚無を得た。予の肉体は虚となり、もはや予の鎖が総てとなった。予の怠惰と強欲はそれによって吊られ……今ここに、死んだのだ。 ”

……………

私の目には、彼はとても堕落した王のようには写りませんでした。彼は忠実であり──且つ、壊れていました。私は自身の記憶をできる限り否定し、彼と向かい合いました。あの時、恐らくは死んだ彼と出会っていたのでしょう。

そこで、私は彼に余分に持っていた多元宇宙の地図の切れ端と、彼の歩けぬ足のために羽を渡し、彼に「手掛かりにして欲しい」という旨だけを伝えました。これは彼への同情より発せられた行動ではありません。彼の力は本物です。何れ偉大な知識と成り得るでしょう。

大使の去った宮廷を、彼の民は熱狂的に、かつ狂信的に祝福した。全ての民が彼らの仮面を引き裂き上空へと掲げると、風がそれらのガラス片を攫った。空の黄色が鮮烈に煌めいて見えた。以後、彼らはそれを復興の象徴とするだろう。

彼の剥がれた爪が痩せこけた肌を引き裂いた。それにより血は生じず、灰となって王座の傍らに再び降り積もらせる結果となった。

今や彼は王座に還った。全てが彼の崩れた手の内に戻った。彼の背後には、彼に救われたであろう君主が存在する。彼に救われるであろう民が存在する。王はそれらを操る百の術を有し、彼はその総てを保有している。もはや彼は吊られてなどいない。それは王国が彼自身のものであることの証明に成り得るのだろう  その時には、一体何が欠落していると言えようか?

そして今、私は帰還しました。私がアラガッダにおいて覗いた全ては、虚無ではありません。吊られた王の君臨はもはや脅威にはならないことを証明しています。そうして私は爪を執っています。アディトゥムの魔術師ならぬものを引き留めるために。或いは、彼の語った大いなる所作を書き留めるために。

気まぐれのイッキス、クル=マナスの堂守 ‐ 幽界を歩くもの、天の海を渡るもの、そして次元の深みを探索するもの

誰もが一つの仮面を被る。

タグ: jp tale アラガッダ サーキック 吊られた王 堂守連盟 brother-of-death


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