クレフは予定より5分程早く、サイト-17へ到着した。
彼は思わず顔をしかめた。状況は酷いものだ。
腐卵臭。そこに混じる微かなシンナーの臭い。サイトの外壁はもぬけの殻となっていた。丁寧に閉じられたサイトの窓の隙間からは、ドライアイスのように煙がとめどなく流れ出ており、時折ピンクの光体がまたたいて回廊を通過している。更に、君は最も悪いニュースを授かることになるだろう チャンバー&27が実在したのだ。
仕事は長くなりそうだった。そう言うのも、これらの惨状に加えて彼の前には異様な男が立っていたからだ。
そいつはパイプを口に咥えた中年の男だ。肌は日に焼けて不健康に浅黒く、頭は禿げかかっていた。黄ばんだポロシャツを着込み、亜麻色のチノパンを履いている。両手の爪までもが酷く黄ばんでおり、一目で何か肝臓病の一種だと判断できる。まるで胡散臭さを擬人化したような身なりだ。⭐おい待て、いったい誰がこいつの拘束をしたんだ?⭐
古めかしいラジオから代わりに声が溢れ出た。「ようこそ旧きカレフハイトの神々よ!」
それで二人の内、どちらか片方の男がこう呟いたらしい。
「うーん、これは意想外だったな」
ここにかいわの記録
しばらくしてクレフは結果だけを得た。
数分後、クレフはエレベーターにいて、男もまたそこにいた。
男が叫んだ。「ようこそ同志よ!嬉しいよ、アンタは斯くして星の輝きへ導かれた」
クレフは一度、そいつが認識できない素振りを見せた。ひょっとしたら。
男は風に溶け込む煙のように、次はクレフの真ん前に現れた。「私にはわかりますぞ! 君は自分を健全だとお思いの人間だろう。しかし、そういった買い被りは止めなさい。私らは元より誰がツケを払うのか存じ上げていましょうね」
クレフは彼のショットガンの残弾に大いに感謝した。「わかった、それなら、お前は何だ?」
クレフは一瞬男が立ち上がったように見えた。
「五番目の枢軸にして、煙の脳髄にも満たない。輩は私を、ビッグ“ホレス”と呼ぶ。タレントと同じようにだ。セレブレーション・ビッグ・アルコン“ホーレス”とね」
男の口角と顎が吊り上げられる。「アンタの由緒を聞かせてもらいましたよ、イットボーイ。君は思わせられるがままに我々のそれに釣られた。しかし事実として私は君から信者と同じやつを感じ取った。それはアンタの陳腐なアイデアと同義ではなかろうか?」
「そりゃ違うな」クレフは肩をすくめた。
「これはこれは心地の良い、君は今すぐに臨時政府の掘っ立て小屋を脱する。そして彼らのだけの台所の付いた世界を産み落としてしまいそうな勢いだろう。君のような人間を待っていた! 私が知るからには、君は他に多くの名刺を持ち合わせているようだ」
「どうとでも呼べ、クソッたれ」クレフは男を可能な限り視界の隅へと追いやった。
だが……奴の声は既にクレフの背中に張り付けられている。「ジーザス! 兄弟、これはアルコンから授かる供物のようなものですぞ。神聖なる海にして、神をも穿つ! 腐れ落ちたプラタナスのように。何も意義を持たないことよりかは、行儀のよろしいクソだ」
クレフは思わず足早に歩き出した。あの男と話していては、まるで頭がどうかしてしまいそうになる。こう、突発的なものじゃないが……言ってみれば、慢性的にやってくる胃もたれみたいなものだ。
彼はカウンターを素早く通り抜け、2階へと向かった。背後にエレベーターのドアが閉まったことで、奴の拘束を振り切ったことを知った。
数分が経ち、彼は耳栓の感覚を思い出した。
……………
数分後、クレフはカフェテリアにいた。男もまたそこにいた。
カフェテリアも同様に酷い有り様だった。全ての椅子机がひっくり返され、ところどころタイルまでもが引き剥がされていた。スプリンクラーが動作した形跡があり、厨房へ通じる空間は防火シャッターで閉ざされていた。
しかし奇妙なことに、その中央のテーブルが一つだけ、まるで来客を予期していたかのように完璧なセッティングがなされていた。そして勿論、奴はその場にいた。
「待ちかねていましたよ、兄弟!」男が唸った。「さあさ早いとこお座りなさい。アンタもアンタの席も、とっくに私の狂言を聞かぬに堪えられんでしょうからね」
クレフは用意された席にしぶしぶ向かった。
✈️
「ふむ、アンタはともかく、第五教会の浸透意識がどうこうについて聞きたかろう!須くここへ招かれた運命とやらは、完全自由主義でも避けえないものだとも!」
彼は反射的に断ろうとしたが、男はそれをわざと遮って言った。「よろしい? 今、君は理性に毒されている。そしてこうとも思うだろう。早く目と鼻の先の汚泥を拭い去ってしまいたいと。しかしそれは頭のイカれた科学者の考えるだけ悪疫なのですよ、アルト同志」
クレフは無駄だと知り、黙って席に着いた。
「良いとも!」男はしばらく黙ってから鼻をすすり、叫んだ。
「これまでアンタら看守よろしく灰色コート野郎共は、道化だか異邦人だかと喚いて長い間私ら教会を排斥していた。しかし元より教会はアンタのがなり立てるクソ共の陳列と同じような輩でない。私ら教義の真髄を知ることこそが、第一の追っ立てとなるでしょうね」
「それならおたくらがフェアにならないだろう」
男はクレフの気を引くために首を振った。「教会は祈るとかはあまりしない方でね。我々はアンタの思う通りの偏見と緩やかなる仲間意識の弛みではあるが、何れの型にも合わない哀しい、哀しい連中なのですよ。して、相応の質疑はあるんでしょうね?」
「しかし……うむ……教徒にとっても見えることは信じることであるだろう」
そう言うと、男はアクアリウムを投げて寄越した。クレフはキャッチし、まじまじと中を覗いた。ガラス球の内側には黒いもやに包まれた、小さなヒトデのような……いやクモのような……とにかく触手の塊のようなものが揺蕩っている。
「こいつは?」クレフが訊いた。
「వだ」男が応えた。
「は?──」クレフは思わず手を滑らせ、それを落とした。
彼はガラス片から飛び出したグロテスクな代物が、頭に寄生するところまで予想できた。それには痛みさえ伴ったが……しかし現実ではなかった。ガラス球は床面を転がる彼をただただ見つめていた。
クレフは一度大きく息を吐き、左手で目を覆った。「勘弁してくれ、ビッグチーズ」
男は不気味にほくそ笑んだ。「ええ、アンタの浸透意識はもう始まっている。今に私らは罰当たりのありったけを始末しなくちゃならん。星々に至る階段へようこそ。賛同してもらえるかな、同志よ?」
……………
「こちらはこと'79年の友人、クソッたれ売国奴 」奴のパイプからは、古くさいラジオが流れ出ている。「奴が家の扉を叩いた日のことを覚えているよ! 返り血をあびるほど飲み干した兄弟。いずれは皆還ってくるものだ、母の作る温かいスープに招かれて。サンディ、そいつを裏口の方へ追い払ってくれないか。そいつはいずれ私は……あ?……」
「第五は星の昇る世紀には常としてただそこにあった。しかしスピリチュアルは常に流動的だ。それは何故かって?そんじょそこらのにわか信者どもは、自分が祈る以外にするべきことを知らない。それを決めるのは教祖、いわばマリオネットなのですよ。それについて我々は本能的に、より精錬された本能的に感じることができる」
私は五である必要意義を知らんぞお!大五教の意思には反吐が出る!奴らは畜生 ああ、畜生。つまるところ、私は今それに値するカタルシスが、まだ十分ではないのだよ。君は、君ならわかってくれるだろう?
しかしだ。しかし、そこらかしこの辺縁系やらに巣食っていたボウフラの集合体だったり、ともかく、アンタの知るような ではなかったことだけが確かな事実だ。私らの を話そう。謀叛の時代だがね、私はナラカに古い友人を持っている」
「ナラカだと?」クレフは無造作にファイルを引っ張り出しながら言った。
「ああ、そうだと言った」奴は低く唸る。ダエーワの低俗な獣のように。「イオン、ことグランドカルキスト・イオン。奇っ怪な手妻遣い。肉剥いだれのイオンめ」
「イオン?イオンだと?」純粋な疑問を仕向けてやった。これは本心からだ。
「我々は彼らの教義の何たるかを聞きましたよ。そのどの知識も取るに足らない学びだ。底の抜けたジョッキでは酔っ払いはせんよ。しかしだ、そう演じることはできる」「それで、私がそいつの奴隷だかを演じていたのは、ほんの数世紀だけの逸話だ」
「奴と私は史実的な、或いは外宇宙的な因果律に巻き込まれたのだろう。隣人程度のもつれ現象だとか、定かなことは何も知らん。しかし今や私らは既に縛られてなどいない。これは大いに祝われたるべきことだ」
クレフ「オーケイ。星狂い共の過去の狂言を聞くのは別の日にしてやるから、今はとにかく説明してくれ、わかるか? より合理的っていうのはこういうことだ」
「私と私の魂は死にゆくまで合理的なのですよ、兄弟。私は常に真実を垂れ流している。世の摂理の皮を持つクソッたれた本当のことをね。身内の異端は早い目に始末しておくに限りますよ。ほら見てみなさい、今に手の届かない」
「私は親愛なるブマロ卿を、常に愛しておりますよ。私ら星のアルコンは複雑で神経質でありながら、至極単純なのです。言うなれば、彼らはしたいようにする。つまり何が一番最善なのかを知り得ているのです。これは、正しい法悦への近道でありはしませんか?」
クレフは頷いた。ひとまず。
「恐ろしい既知の波に呑まれ、窒息し、アンタらは再び何事もなかったように目が覚めるでしょうね。その夜は星の降る限り永劫に、人々は少しずつ古くなる。そして波の内に目を開くことを知る時、初めてアンタらの島を持ったと言えるのだ」
「そして然るべき受難が訪れる日、それは授けてくださる。私らは見えざる音を目にし、聞かざる光を耳にする。ビッグブラザーは消え、私らもまた同様に消える。ダイスクイーンは消える。チャペルは消える。焚書者のゴロツキ共もまた消える」
ホレスの身体はピニャータのように内側から破れ四散し、すぐに隣から現れた。
「ああ、希釈され、拒絶と交接するというのは、私らに許された最も手っ取り早い権義であり、私はそれに愛を注ぐことを止められない。どうです、類いまれない者どもと一服やるというのは?」
「あー……」クレフは返答に困った。
「今や真実は檻より出でましたよ!さあさわかるだろう、兄弟!」
男の額に皺が寄った。「ダエーワは今やくだらん血となっている、サーカイト共は──畜生、私はあのような血を啜る冒涜をやり込めてやりたい。あの老獪なカルキストと手駒共にクソを与えてやれ! 少なくとも、アンタがそう望むのなら」
………
私らは常日頃から前進を続けていた
これでインタビューも5度目だ。
5度目。5度目。彼の中で何か引っ掛かっていた。
………
数時間が経ち、クレフは外にいて、既に日は沈んでいた。彼はすっかり瓦礫に化けたサイトを大股で歩き、
「勤しんでもらえたかな?」男は言った。男は、かつてクレフの友人だった。
「私は煙霧だが、我々は一つには留まらない! 私はこの矛盾が如何にして世のしみったれた自由の四肢をもいでいるのか、至らしめてやりたいだけなのだよ」
クレフは投げやりに言った。「お前の垂れ流すクソッたれが何とかなるような日は来ないのか?」
「残念ながら、信者は教会の権限ではない。信者の矛先やら牙やらがどこへ歯向かうか、決めてやるのは仕事ではない。ただ私はそいつに賭けてやりたいと思っているのですよ、兄弟。今日はきっと素晴らしい夜になる」
クレフは内心頷いてしまったことを認めざるを負えなかった。そして歩き出し、振り返り、ピンク色の夕陽がサイトに消えゆくのを見た。夕陽も彼を見た。
去り際に、クレフが言った。「最後に一つ、尋ねておきたいことがあったんだった」
男は不気味に薄ら笑う。「信者の権限だ。好きなように答えよう、同志よ」
「どうして、“5”なんだ?」
クレフは内心、意味のある返答を少しなりとも期待していた。今までの不条理やしがらみをすっかり解説してくれるような。が、その予感は外れた。いや、端から外れるべくものだったのかもしれない。
ホレスが言った。「そいつは多分、私が今までに吸った葉巻の数だ」
タグ: jp tale クレフ博士 第五教会 サーキック 崇高なるカルキストイオン ビッグチーズ・ホレス
5つの場面、ビッグチーズが5つの見た目でサイトのクレフの前に表れる話
(真実)
サイトは第五におかされ、残る人は一人だけ
ビッグチーズはヤクをきめたやつが見る幻覚?!
┗過去、少年時代をダエーワの奴隷で過ごす、商人が持ってたヤクを奪う、反乱が起こってダエーワ滅ぶ、脱出
全ての宗教は第五教会から派生したもの
┗元々宗教はミームの連続
・パターンスクリーマー…第五教会が第五世界へ進むため一歩踏み出した結果、破壊された世界
・第二ハイトス…第五を恨む連中、第五とは違ったミームの形成
・サーキック…第五の異端、アルコーンを肉の天使と呼んだやつら
・壊教…一見サーキックとたまたま出会っただけに見えるが……6柱の天使が何なのかは言うまでもない
・緋色の王…第五教会はヒッピー文化で野生生活への解放を求めることで第三の法を達成しようとしてる
・アラガッダ…
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任意A任意B任意C- portal:7707552 (15 Oct 2021 16:17)
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