芸術とは

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我らが神は我々を作りたもうた。我らが神の芸術は「創造」であった。我らが神は我々の望むものを作り、我々は様々なものに囲まれ不自由のない生活を送っていた。空は青く太陽は燦燦と輝き、花は咲き誇り木々は生い茂る。まさにこの世の楽園に相応しいと言える地だ。

 しかし、何かが物足りない。全てはこの地に満ちているはずなのだ、与えられるべきものも望むものも全てが与えられているはずなのだ。この胸に宿る感情の出所はどこだ?私は確かに幸せなはずなのだ、愛する妻と子供と尊敬する友人が居る私は、飢えることも苦しむこともない私は、望んだものがすべてこの地にある私は。
 友人と話をしたが、私と同じ考えを持つ人物は誰一人としていなかった。皆自分は満ち足りている、これ以上の幸福など要らないと言う。私だって本当は満ち足りているはずなのだ、この生活に不満があるわけじゃない。だが、この物足りなさはなんだ?
 無礼を承知で創造主にも聞いた。しかし、創造主でさえも答えることが出来なかった。私は普通ではないのか?いや、創造主が作りたもうた作品に欠落は有り得ない、それが我々であったとしても。

 ある時宇宙へ旅立つ計画が立ち上がった。六枚羽の飛行機を作ってこの地から飛び出していこうというものであった。私はそれに志願した、もしかしたら私が探しているものは此処ではない別の場所にあるのかもしれない。計画は滞りなく進み、遂に出発の日が来た。
 六枚羽の飛行機に燃料が注がれる。整備員が最後の点検を終え、点火の準備に入る。点火、体が潰されるほどの力に耐え、機体が地上から離れる。
 私達はこの地を離れ様々な星を見た。様々な形をした星、リングに囲まれた星、漆黒の中で燃える星。しかし、我々の星ほど美しいものは無かった。そして、私が探し求めていたものも。

 私達が最後に見たものはこの世の物とは思えない程悍ましいものであった。その笑い声は宇宙に響き渡り、私達の耳にも届いた。創造主と同じぐらいの大きさだったが、文字通り星々を玩具にしていた。いくつかある腕で二つの星をぶつけたり、星を掴んではパンをこねるように弄りまわしたり、殴りつけて粉々に砕いていた。
 私たちは最初その光景に慄き、ただ見ている事しか出来なかった。しかし、私は心のどこかで高揚感を感じていた。破壊していた星々には素晴らしいモノが有ったかもしれない、それを気にすることなく破壊をし尽くす化物に。どれくらいの間私たちは見ていただろうか、化け物は私達に気付いた。まるで無邪気な子供のような笑顔がここまで恐ろしいものとは知らなかった。
 私達はすぐさま全速力で逃げ出した。しかし、その化物は我々のことを知ってしまった。最後尾にいた飛行機は化物の腕に捕まった、草をちぎるように六枚羽の一枚一枚をもぎ取り、船員を引きずり出した。化物は彼らを観察していたが、暫くすると化物は彼らで遊び始めた。一人は勢いよく投げられ星に激突した、もう一人は火だるまになった、数人をひとまとめにしてボールに作り替えた。一人、また一人と命が消えていった。船に乗っている私たちは悪態をつきながら必死に逃げた。

『僕は君たちの記憶を頼りに追いかける。もっと素晴らしいモノが見たいなら今日のことを皆に伝えてよ』

  化物が追いかけることを止め、私の脳に直接話しかけた。最初は皆にあの化物の声が聞こえているかと思ったが、そうではなかった。
 私達は必死に逃げた。船の中であの化物のことを皆に知らせるか、それとも自分たちだけの秘密にしておくかを話し合った。皆は自分たちだけの秘密にしておくべきだと、あのような恐ろしい化物を知るのは我々だけで良いと言った。

 私以外の人が話し合う中、私は一人で考え事をしていた。あの化物はもっと素晴らしいモノが見れると言っていた。化物が言っていることが本当であれば、私が探しているものは彼が与えてくれるのかもしれない。あの高揚感をもう一度得ることが出来るのかもしれない。他の皆は時が経てば化物を忘れてしまうかもしれない。しかし、私は違う。あの興奮をあの高揚感を知ってしまった。それを知ってしまった以上終わりだ、二度と忘れることは出来ない。
 しかし、化物は私達の仲間を殺したのだ。皆をこれ以上危険な目に遭わせるわけにはいかない。そうだ、今日のことは自分だけの秘密にしてしまおう。そして私は口を開いた。

「あの化物のことを皆に伝えるべきだ。あのような化物が皆を危険にさらすかもしれない、創造主の力を貸していただければあの化物にも対処できるかもしれない」

 違う!何故私はそのようなことを言ってしまった!
 取り消そうと思ったが既に遅かった。私が後悔に苛まれているうちに一人、また一人と意見を翻し最終的に今日のことを皆に伝えることになった。あの日から私は一人船室で後悔に苛まれていた。
 数日間飛行をして遂に帰ってきた。いや、帰ってきてしまった。船員の一人があの化物のことを皆に伝えた。いかに恐ろしいか、いかに残虐な行為を行ったか。そして、皆が化物のことを知ってしまった。

 数日が経ち、皆が化物のことを忘れかけていた頃終末は訪れた。どこからか高笑いが聞こえ、空が赤く染まり化物が地に降り立った。
 悲鳴と笑い声が響き渡り、化物は手当たり次第に殺戮を始めた。死体が辺りに散らばり、人の形を外れた物体が転がった。化物が歩くたびに足元にいた人は踏みつぶされ、蹴とばされた人は宙を舞い建造物にぶち当たった。建造物はあたかも玩具のように捻じ曲げられたり引きちぎられたりした、飛行機で宇宙へ逃げようとした人は飛行機ごと真っ二つに引き裂かれた。
 私はすぐさま物陰に隠れ、その様を観察した。すぐさま逃げるべきだと悟ったが、私は逃げずに彼の行動を観察した。そして、私は遂に探し求めたものが目の前に有ることを理解した。私は破壊を求めていたのだ。全てが与えられる安寧で退屈な世界、それを変えてくれたのが彼の神なのだ。
 彼の神が行っている行動は殺戮や破壊ではなく「芸術」なのだ、創造主は「創造」こそが芸術だと語った。しかし彼の神は「破壊」こそが芸術だと感じているのだろう。根拠は無いが、本能的に察した。

我らが神は我々を作りたもうた。我らが神の芸術は「創造」であった。我らが神は我々の望むものを作り、我々は様々なものに囲まれ不自由のない生活を送っていた。空は青く太陽は燦燦と輝き、花は咲き誇り木々は生い茂る。まさにこの世の地獄に相応しいと言える地だった。
彼の神は我々を破壊し尽くした、彼の神の芸術は「破壊」であった。彼の神は私の望むものを作りたもうた、私は様々な芸術品に囲まれ心を満たす権利を有した。空は赤く太陽は曇り、花は散り木々は枯れる、まさにこの世の楽園に相応しいと言える地だ。

 彼の神の芸術は留まることを知らなかった、逃げ惑う人間どもを殺戮することに飽き足り、彼らで芸術品を造り始めた。手足を不自然な方向に捻じ曲げ塔の頂上に突き刺し、数人の手を結合させて輪を作り指で振り回した。
芸術活動は昼も夜も関係なく行われ、数日が経過した。創造主はこの状況を酷く悲しみ、我々を別の世界に送ると仰った。そして、彼の神を此処で食い止めると。
 その場にいる全ての人が創造主の慈悲深さに感激し涙を流した。創造主はすぐさま別の世界に繋がる穴を創造し、我々に逃げるように仰った。しかし、私はそれを拒んだ。最期の時までご一緒にいますと嘘をつき、命果てるその時まで彼の神の芸術を見届けることにした。

 私は再び彼の神の芸術活動を見届けた、時間が経つにつれ芸術作品は数を増やしていった。創造主が作りたもうたモノは彼の神の手に依って素晴らしい作品へと生まれ変わっていった。
 遂に二人の芸術家が出会った。彼の神は創造主すら芸術作品に仕立てようとしていた。創造主は必死に抵抗したが、彼の神の芸術に貴賤は無かった。創造主は幾本の腕が芸術的に破壊され、地に倒れた。一層大きな笑い声が地に響き渡った。
 次の材料を探すために辺りを見回した彼の神、私の新たな神と目が合った。遂に私も彼の芸術作品の一つに加えられるのだ、これ以上の幸福はもう感じないだろう。私は私の神と遂に対面した。

 そして   


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  1. portal:7653692 (25 Sep 2021 22:19)
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