SCP-3000-JP - 幻実世界-B

茶色の執務机に大きな安楽椅子がある部屋に私は来ることになる。その部屋は副支部長室と十分言えるほど立派な部屋だった。

安楽椅子にはほっそりとした体の男性が腰かけている。

「柊が世話になったな。ありがとう。」

「いやいや。私がこの場所に連れてきているんだ。しかもこいつは私がいなければ今頃財団の被害者の1人に……」

「少し黙れ。はあ。全く、こいつは財団職員時代からこうなんだ。」

目の前で漫才の真似事をされているのを見ると、さっきまで戦闘に駆り出ていたことを忘れる。

「さあて、本題に入ろうか。柊君。少し席を外してくれるかな?」

こう話す人物は世界オカルト連合旧日本地区副支部長の蓮見、というらしい。日本が旧日本地区と彼らに呼ばれているのは、SCP-169と呼ばれていたKeterクラスオブジェクトに起因する災害で日本各地が壊滅的な被害を受けたことによるそうだ。おかげで太平洋沿岸のありとあらゆるサイトが壊滅し、残存した日本支部もほぼ機能を果たさなかった。そのため大多数の日本支部の職員達がカオス・インサージェンシーや世界オカルト連合に離反し、レジスタンスの中心的な拠点になったそうだ。その中でも彼らはサイト-81██から出張中に災害を経験し、そのまま離反するという奇異な運命に立ち会った人物であったようである。

柊司令はこの旧日本中央司令部に移動するまでの間、上記の自分の経験したことをまるで人ごとのように語った。その話し方はどこか過去を懐かしむ様子で、尚且つ自らの本心と距離を置いているように聞こえた。

「はいはい。穂竹君、そいつ手強いから気をつけてね。」

柊司令は真意をとらえかねる発言をし、別の部屋へと去った。

「彼女は財団職員時代はもっと冷淡でな。あんな様子じゃあなかったんだ。どちらがいいとは言わないけども、違和感はどうも拭えなくてな。おっと、無駄話を挟んでしまったな。すまない。」

蓮見副支部長はどこか遠くを見つめるようだった。

「それで話って何でしょうか。」

「ああそうだったな。重要なことを話す。よく聴いていてくれ。」

息を吞む。副地区長は深刻な顔になる。そして彼は自らの背中を見せようとする。そこには大量の斬撃の痕が刻まれており、致命傷だったはずであろう斬撃痕も何本も存在した。

「どうだい。いつかの戦闘でやられたんだ。」

傷の痛ましさから目を逸らさずにはいられない。副支部長は続けて話す。

「この世界ではな。人は死なないんだ。世界オカルト連合ってのは元々異常な物体を破壊する機関だったのに、皮肉だよな。まさか自分達が破壊される側の異常存在になっちまうなんてな。」

「まあすなわち、人に使えるリソースは半永久的に存在するし、長期的な滞在をしないのであれば逆に君のような流浪人はすぐに死んでしまうから、本来は後衛以外には採用しないことになってるんだ。本来は……な。」

少しばかり沈黙が流れる。彼の眼には決意ともとれる真剣な眼差しが浮かんでいる。私は喋ることも出来ない。

「この世界が複数のタイムラインの結合点であることは説明を受けたか?実際のところ我々が死ぬことはなくなったのも、この世界に太陽が存在せず永遠に暗いままなのも、CRITICSなんていう団体がふらっと現れて世界中にのさばっていた肉の連中をぶっ潰したのも、この世界がありとあらゆるタイムラインを吸収しているからなんだ。」

一体どういうことなんだ。

「待ってくれ。私の知っている限りここは危険なアノマリーを吸収する場所のはずなんだ。つまりは世界ごとが収容室のようなもので……なのにどうして世界を吸収しているんだ?」

「どうやらK-クラスシナリオが発生するとその世界はいずれこの世界に吸収されちまうらしいんだな。危険なアノマリーとやらはK-クラスが起きた世界っていうのも含むのかもしれない。私も詳しい原理の解明はできていないから、真実は財団こそ知る、ということなのかもしれないな。」

私は黙りこくってしまう。言っていることは理解出来ても

「そして、今最近吸収された世界に興味深いのがあってだな。並行世界群PJ998-αという混線した世界群だ。その影響からか、どうやら旧日本第2地区に大規模な現実崩壊型災害が発生し、この世界に穴が開いた状況となった。私はこれを好機だと考えたんだ。」

副支部長は執務机の引き出しを開け、資料を取り出す。

「ついに我々はこの世界に終止符を打てるのだ。この資料を見てくれ。」

私は驚かなかった。世界オカルト連合が異常物品を破壊するのは真っ当であるからだ。但し、私はピチカート、という言葉が気になった。

「ピチカート、ということは、あなたはこの世界が破壊されても良いということですか?」

「無論。そうだ。そもそも我々という存在自体が異常なんだ。どこかの平行世界に流れ着いたっていい。この世界を破壊すべきであると同時に、我々は我々自身を破壊する必要があるんだ。」

「そんなのって……ありなんですか?」

沈黙が流れる。

「そこで、なんだ。君は異常では無い人間であるから、作戦に参加するか否かを選ぶことが許される。もし、参加しないのであれば行く宛があるからそこへと行ってもらう。もちろん、私は積極的に参加して欲しいのだが……どうする?」

答えは既に決まっていた。


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