護衛任務
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防衛省とSCP財団が共同運営している特殊輸送艦隊、第一特殊輸送艦隊はSCP輸送艦一隻、ミサイル護衛挺三隻という粗末な構成だ。確かにSCPの輸送は隠密に行わなければならない。とは言っても輸送艦一隻とミサイル護衛挺一隻が基本行動なのは余りにも無防備過ぎはしないだろうか。この艦隊に配備される艦や隊員は特殊作戦群かと言わんばかりの機密に守られている。表向きは海上自衛隊だが財団職員と同じような教育も施されている。

SCP-████-JPを輸送しているのはLST-4004、輸送艦「ぼうそう」だ。今はまだ浜田艦長からも目視で確認できる距離3kmほどの地点にいる。SCP財団からの要請により特殊輸送部隊である浜田艦長らが日本本土のサイトから太平洋上の秘匿サイトに輸送している状況だ。毎回なのだがあんな恐ろしい生物を輸送しているなんてずっと気が休まらない。いや、そもそもあのSCPに生と死の概念があるのかは疑問だ。

「はぁ…」

ため息を付く。ウォータージェット推進を緩やかに働かせているPG-830、ミサイル護衛艇「ゆきたか」には常に緊張感が漂う。レーダー隊員は首が心配になるほど前のめりになって緑と黒の画面に目を光らせ、観測員は一刻たりとも望遠鏡から目を離さない。一応この付近の海域には「海獣の頻繁な目撃情報」が出されており、民間船の航行は禁止されているので普通に考えれば他の船と出会うことはないはずだ。

だが日本の沿岸から約120海里、「ゆきたか」の対水上レーダーであるOPS-18-3が不穏な影を捉えた。それはすぐさまレーダー画面に光点という形で現れた。それはおよそ25ノットで近づいているということも確認した。

「船舶発見!」

トランシーバーから聞こえてきた声に浜田艦長は内心動揺したが、こんなことで狼狽える特殊部隊ではない。まずは「ぼうそう」と財団に連絡しなければ。冷静にそう考えた。

「ぼうそう」の艦長、松島は耳を疑った。そしてそれが事実であることを自艦のレーダー員の大声で知ると脳内で幾つもの仮定が描かれた。偶然入った民間船、漂流したボート、極秘軍事活動、そして最も最悪かつ、最も可能性が高いのは…

「要注意団体かもな」

「あぁ。同じことを考えていた」

浜田艦長も同じことを考えていたそうだ。そりゃそうだろう。元々民間船の可能性はカバーストーリーによりほぼゼロと言っても過言ではない。漂流ボートでもないだろう。ここはとっくに黒潮の流れから外れている。漂流なら北の方に流されるはずだ。軍事活動の可能も捨てられないが、何も知らない軍がわざわざこちらに近づくことはないだろう。軍か団体かの結論を出すのはまだ後にしておこう。

浜田艦長はトランシーバーに向かってこう言った。

「対水上戦闘用意!17式発射体勢!砲塔旋回左36度!」

「おい浜田。あまりにも早すぎやしないか?もし相手が何も知らない軍隊だったらどうする?もし相手がこちらを確認したら戦闘体勢とみて被害が及ぶかもしれない」

松島艦長が制止するも、浜田艦長はこう返す。

「いや、その可能性は低いと見たね」

「なぜだ?」

「普通、遠征の艦隊ならもっと光点が見られてもおかしくない。単艦で行動する遠征なんてことは潜水艦くらいしかしない。だが水上を25ノットで航行する潜水艦なんて聞いたことがないだろう」

「ふむ…」

確かにな。そう思った時にすることは一つだった。

「全艦に告ぐ。対空迎撃用意。レーダー員は目を光らせておけ」

「対空迎撃了解」

「レーダー厳重監視了解」

とりあえず一息ついた。その直後、財団日本支部軍事本部から通信が入る。支部なのに本部なのはいつも気になる。

「こちら、本部。聞こえるか?ゆきたか、ぼうそう」

「ゆきたか、問題なく聞こえます」

「ぼうそう、同じくです」

「うむ。早速だが状況を説明してくれ。なるべく素早くな」

「では私から」

浜田艦長が状況を説明する。その時にはトランシーバー越しにも財団が焦っていることが伺えた。 

「なるほどな。こちらでは対策を考えているがまずは距離をとれ。時間稼ぎにもなるし、サイトの位置を教える訳にいかない。最高速力で逃げろ」 

「ぼうそう、了解。面舵30度に切る」

「ゆきたか、了解。面舵25度。ぼうそうの後ろに付く」

浜田艦長は艦内に速度を25ノットに上げるよう指示した。「ぼうそう」も同じ速力まで上げた。これにより不審船、ゆきたか、ぼうそうが一直線に並んだ。正体不明の艦が発見されたということは既に全搭乗員に伝わっており、一層緊張感が増していた。

松島艦長は足をカタカタと鳴らす。レーダーの光点が着実に近づいてきている。およそ速力30ノットを出しているようだ。これはもうこちらに敵意を持っているに違いない。

「チッ…」

思わず悪態をつく。「ぼうそう」を含むおおすみ型輸送艦の通常速力は22ノット。今ですら最高速の25ノットなのだがそれよりも速いとなるともはや逃げ切ることはあるまい。となれば手段は「撃沈」のみだ。

「本部、こちら松島。あの船の撃沈命令を求める」

「いや、まだ早い。落ち着け。あの船が武装を搭載しているかどうかもまだ分からない。相手が攻撃してきたら反撃しろ。徹底的にな」

「ゆきたか、了解。攻撃状態は維持する」

「ぼうそう、了解。厳戒態勢で監視を続ける」

浜田艦長は内心思う。レーダーによると全長約60m程度を示しているが、もしステルス性を持ったズムウォルト級のような巨大艦だった場合、先制攻撃されたら…と考えるだけで身の毛がよだつ。対艦ミサイルを避けるような操舵性を「ぼうそう」は持ち合わせていない。CIWSを2基搭載しているが、それも100%ではない。となればこの「ゆきたか」で先制攻撃をして先に相手の艦を沈めることが最善策だ。
だがそうはさせなかった。

「飛翔体接近!距離150km!」

レーダー員の声が六畳ほどの「ゆきたか」のCICに響く。そしてその動揺はすぐに「ぼうそう」にも伝わった。

「CIWS用意!」

松島艦長の声がトランシーバー越しに聞こえる。「ゆきたか」含む、はやぶさ型ミサイル艇にはCIWSは搭載していない。唯一の対空兵器は62口径76mm速射砲のみだ。しかも対空特化ではないため信頼性はCIWSより低い。

「それでもやるしかない!対空砲撃用意!」

こんな時に対空ミサイルがあれば…そんなことを考える余裕もなくSSMは近づいてくる。

「ミサイルの速度は!?」

「およそ音速程度!」

「音速…今発射から何秒だ!」

「およそ15秒です!現在位置、約125km!」

「クソッ…着実に近づいてる」

まずい、まずい、まずい。撃ち落とせるのか?4kmなんて音速ミサイルなら4秒もかからない。この主砲は精々1秒に一発撃つのが精一杯だ。射程こそ約20kmあるが、4kmまで近づかないと肉眼で捉えられない。レーダーだけでミサイルに砲撃をぶつけるのはかなりの技術が必要だ。このタイミングで松島から無線が入る。

「確かに艦対空ミサイルは俺らの艦には無いから砲撃で落とすしかないよな?」

「おい、時間が無いんだ。言いたいことは先に言え!」

「だが、こちらは輸送艦だ。中のドックにSCPコンテナが入っているとしても全通甲板には十分積載できる」

「だから何が言いたい!?」

「わかった。わかった。準備は良いか?高射特科!撃ちーかたー始め!」

「了解」

誰か知らない声が入る。野太い声だ。そして高射特科だと?陸自がなんでここにいる?そう思った時には「ぼうそう」から3つの光が放たれていた。

「まさか…」

「こんなこともあろうかと…ね」

「ぼうそう」から発射された03式中距離地対空ミサイルはあっというまに飛んで行き、水平線に隠れて見えなくなった。レーダーを確認すると、新たに3つの光点が近づいて来る光点に向かって飛んで行く。 

「いつから積んでいた?」

「そちらには伝わっていないだろうが、SCPとヴェールを守るために幾らかの機材と人員は特殊部隊から連れてこれるんだぜ?」

「ということはこの隊員もしかして…」

「あぁ。特殊作戦群だ」

特殊作戦群だと?いつも何してるか分からない未知の部隊だと思っていたが我々と同じような部隊だったとは。そう思っているとレーダーから光点が2つ消える。恐らくミサイルが当たったのだろう。誤爆だ。

「おい、対空ミサイル同士でぶつかったぞ。良いのか?」

「予想通りだ。心配は無い」

「当たったのがミサイルの斜め右前です。この爆発により発生した熱はどうなると思います?」

特殊作戦群の男が言った。そんなこと言われてもな…と思った時一つの考えが頭に浮かんだ。

「もしかしてと思うが…ミサイルの熱と破片をチャフの代わりに?」

「大正解です」

レーダー上の近づいて来る光点は向きを変えたように別の方角に向かった。そこにあったのはそこに向かう光点だった。

「おいおい…」

「ま、結果オーライかな」

光点が重なって、消える。CICに歓声が巻き起こる。

そんな中松島は後悔していた。無駄に3発のミサイルを撃ってしまったのだ。6発しかないミサイルを。だがそんなことを言えるはずもなく沈黙していた。もうミサイルは来ないでくれ…そう思った時だった。

「飛翔体発見!」

「はぁ?」

「おい松島、言葉遣い」

「いや、すまん。で、何発だ?」

「それが…確認できるだけで6発です!」

「おいおい嘘だろ…」

こうなれば艇ではなく艦のサイズだ。絶望する。対空ミサイルはあと3発。全てが直撃したとしても3発は砲撃で落とさなければならない。しかも艦との距離はさっきより短くなっている。およそ110km。時間は無い。

「やれ!対空ミサイル!撃て!」

「了解!」

さらに3発の光が飛んで行く。当たれ…と心の中で願う。

「そういえば財団に撃沈許可は取ったのか?」

「だった!」

すぐさまトランシーバーに向かって言う。

「本部!こちらぼうそう!ゆきたかに不審艦の撃沈命令を!」

だがもうここは沿岸から210海里。

「こち………だ。…っと……が……いな。……命令を……。やれ!」

「電波が悪くなってるな」

「そんなん気にしてる場合か!『やれ!』と聞こえたんだからはやく対艦ミサイルぶっぱなせ!」

「待て、まずはミサイルの迎撃だ」

レーダーの光点が幾つか重なり、消える。後残っているのは3発だ。

「流石に全迎撃は無理だったか」

「だろうな…だけどここらはこっちのターンだ」 

浜田艦長はレーダー画面を見つめた。現在の距離はおよそ50km。あと25秒で射程内だ。

あと20…

15秒…

10秒…

「5、4、3、2、1!」

浜田艦長は叫んだ。

「撃ち-かたー始めー!!」

「待ってました!」

砲雷科の隊員が叫ぶ。そして76mmの轟音が太平洋に響き渡る。また響く、また響く。そんな中無情にもレーダーの光点は消えない。

「チッ…」

轟音、轟音、轟音。そして7発目を撃った時、光点が一つ消える。
思わずガッツポーズをするが、まだミサイルはある。冷静にレバーの前に座っている砲雷科は緊迫した顔をまだ続けている。轟音がまた響く。だがまだ消えない。焦りだけが募る。
15発目を撃った瞬間、光点が一つ消えた。
艦橋から水上にミサイルが確認できる。あと5kmになった時、松島は指示した。

「撃ちーかたー始め!」

後方のCIWSが僅かに左に動き、赤熱した金属の塊が空を切る。連続した音が艦橋の中にも聞こえてくる。だがそれはミサイルに当たらず3kmまで接近した。

「総員、衝撃に備えろ!」

まずい…と思った時、思ったよりも小さい衝撃が艦を揺らす。頭を上げて、とりあえずミサイルが直撃してないことを確認して安堵する。

「被害は!?」

「軽微です!少々装甲に罅が入りましたが」

よかった…と安堵するが、もうもはやあの艦にはどのくらいのミサイルが積んであるのかは未知数だ。

「とりあえず後はあの艦を沈めるだけだな」

「おう。やってしまえ!」

「言われなくてもな。本艦、取り舵いっぱい!」

不審艦の進行方向に対して垂直に曲がる。そしてS字軌道を描きながら「ぼうそう」に再会を誓い、不審艦との距離を詰めていく。速力は現在40ノットを示している。こうして進むことでより対艦ミサイルや機関銃の攻撃を受けづらくなる。そうしている間に距離は80kmまで迫っていた。だがレーダーに光点が出現する。

「飛翔体確認!」

「関係無い!そのまま全速力で前進!」

ミサイルが水平線に見えたころ、艦内は空気がより張り詰めたが、浜田艦長は落ち着いていた。

「チャフ!そして面舵いっぱい!」

チャフを左に置き去りにして今や時速42ノットを出す「ゆきたか」は右側に大きく舵を切った。ミサイルはチャフに誘われ左側数mの海上に着弾し、爆発した。

「取り舵いっぱい!」

進路を戻し、S字走行をする。相変わらずいい船だと考える。小型こそのスピードを生かしてさらに距離を縮める。相手との間隔はもはや60kmに達している。

「まだまだ行けるだろう!最大速力!46ノット!」

46ノット。それは「ゆきたか」の前艦長から伝えられた幹部クラスしか知らない最大速力。三基のウォータージェットエンジンが唸り声を上げて大量の水を後ろに吐き出す。白波が船体を包む。そして波をかき分けた時、光点がレーダーに映し出された。…だがそれは「ゆきたか」を狙った物では無かった。

「この飛翔体、ぼうそうに向かっています!」

「なんだと…今すぐぼうそうに連絡!」

ぼうそうと連絡は繋がらなかった。さっきから考えていたが、恐らく相手は電波妨害装置も持っているだろう。

「今、ミサイルは何kmだ?」

「現在、25kmです!」

「よし!対空砲撃用意!」

「撃ち落とすんですか?!」

「あぁ。撃ち落とす!」

対空砲撃用意は完了、
 

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