Tale 夢を見る戦艦
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「総員退避命令!総員退避命令!」

真夏の蝉のような野太い声が甲板に響き渡る。加藤一佐の声だ。私は躊躇なく艦艇中部の緊急脱出ボートに向かってダッシュする。鈍い爆発音が加藤一佐の声を搔き消した。私が今までいた62mm5インチ砲はもうただの鉄クズになってしまったようだ。

「砲撃担当になんてならなきゃ良かった」

そういう思いでいっぱいだったが今は走ることに集中する。穴ぼこだらけの甲板は走り辛いが死ぬよりはマシだ。緊急脱出ボートがもう壊されているのではないかという最悪な予想は甲板から飛び降りる仲間たちを見て的中したことを悟った。

「ふざけんなぁぁ!!」

今度は声に出して言ってしまった。1月の北太平洋に飛び込むのは自殺行為に近い。しかし艦の後ろ半分は蜂の巣状態でもはやいつ沈んでもおかしくないので飛び込むほかないだろう。鉄柵に足を掛け、飛び降りる。そして直ぐに圧倒的な寒さに後悔する。
しかしその思いは反ミーム装置が破壊された特殊護衛艦「いが」の艦橋と共に破壊された。艦橋を突き抜けても尚、後方にいる2番艦の下部に当たり風穴を空ける600mm超電磁砲による砲撃は死神そのものだ。まもなくあの2番艦もスクラップになるのだろう。そしてさっきまでいた3番艦にさらに轟音が響く。今は見えないがこの反対側に512mm貫通弾が当たったのかも知れない。それにしても軽く5,60発の砲撃音を聞いた気がするのだが「習志野」は弾切れにならないとかいう砲撃手からしたら寿命の半分と引き換えに欲しい能力がある。しかもできることはそれだけじゃないそうだ。「習志野」についての説明はよく覚えていないのだがひゅーむちとか、なんとか改変とかでそうなるとは言っていた。多分。
それにしても寒い。寒すぎる。もう3分はたっただろうか。救命ジャケットを着ているにしろ下半身は凍結ギリギリの海水に浸かっている。しかもこれは極秘作戦なので近くの艦に助けて貰うことができない。一部の限られた艦がくるまでこの状態はかなりきつい。

ドォォォン

本日何度も3番艦は轟音を北太平洋に木霊させているが、これは特に凄かった。何故なら「習志野」が3番艦に乗り上げているからだ。

「っっ…!」

声にならない声が出る。それは異常な光景だった。いや、「習志野」自体が異常なのだが。艦の上に艦が乗るにはどれ程の馬力が必要なのだろうか。もしくはなんとか改変の影響なのか。そんな思考をしている間に 

バッシァァァン

いや。最初からそういう目的だったであろうことは分かっていたのだが目を疑う。「いが」の全長約180mの船体は全長400m近くある「習志野」により砕氷艦が氷を砕くように粉砕された。海に飛び込んだ全員がその後に到達した大波に巻き込まれたがそこはやはり特殊部隊。見た感じは一人も欠けていないようだ。

「パートナー居ないやつはいないかぁぁ!」

死んだと思っていたが、さすがゴキブリ不死の加藤。幾つもの特殊作戦をしてきただけあり、冷静に人数を確認しようとする。パートナーというのは同じ場所を担当する人物と二人で組むシステムだ。こういう時に素早く被害者を見つけだす時に便利だ。そういう時の熱血漢は頼りになるのだが、私は苦手だ。私のパートナーは水野先輩だが、どうやら生きているようだ。その長い黒髪が海を漂ってはいるが。遠目にパートナーを識別するための私達が決めたサインである「ぱーてぃーちゃんポーズ」をしている。1どうやら生きていたようだ。だがその時

ドォォォォォォォン!!!

前方500m程にいる「習志野」が512mm三連装砲による協奏曲を演奏した。先程より音は大きく聞こえる。そしてなにより衝撃波が海と空を駆け抜けた。一瞬空間が歪んだような錯覚に陥るほどだ。「習志野」により見えないがおそらくその先には沈没していく「いが」があるのだろう。そして、

バシュゥ—-

ドゴォォォォォン!!!

600mm超電磁砲の砲撃音は奇妙なものだが静かだ。電気と磁石が磁界で撃つと言っていたがこれは覚えてる。「フレミングの法則」を使っていた。そして間を置かずして鳴り響く何番艦かの悲鳴。速度があり得ないくらい速いことに加えて口径600mmとかいう大和の1.5倍にも及びそうな大口径。もはや対鑑ミサイルより破壊力があるのではないか。いや、あるだろう。
九条により小さくせざるを得ない海上自衛隊の艦艇を蹂躙していった「習志野」は満足したように踵を返た。そしてまた南下を始めた。


ミッドウェー沖に大海戰
アリューシャン列島猛攻
米空母二隻{エンタープライズ、ホーネット}沈没
わが二空母、一巡洋艦に損害

どこまで本当の情報かは分からないが、ミッドウェー沖で戦闘があったらしい。日本政府は隠しているつもりなのだろうが日本軍の中でこの情報を鵜呑みにしている奴は少ないだろう。

「まったく…」

思わず溜息が出る。先程幽体離脱を引き起こして見てきたが空母四隻が沈んでいた。復活させてあげてもいいのだが戦争は早く終わることより良いことはない。空母を復活させればまた長引くことは間違いないだろう。あくまでも俺は平和主義なのに戦闘機乗りとして徴兵された。戦争が早く終わればと思いこの能力を活用して戦闘機を今まで数え切れないほど墜としてきたが、さすがに政府に目を付けられているらしい。まぁ政府から表彰されることは悪いことじゃないが、戦争で表彰されるのは良い気持ちがしない。人類の歴史は戦争の歴史とも言われるが、数十年後の日本人に戦争はしてもらいたくないな。


「なんなんですかあのチート戦艦は!?」

救助に来たアメリカの遠征用高速輸送艦スピアヘッド級の館内で思わず水野先輩に聞いた。さすがに聞かざるを得ないだろう。水野先輩はこれまで何度か「習志野」と戦っている。だから何かは知っていたのだろうと思ったのだが、

「あれはああいうものだからなぁ。」

と、いうことらしい。

「ああいう物ってなんですか…」

「だってお前も戦っただろう。今さっき。」

「戦いましたけど、そういうことじゃないですよ…」

「じゃあどういうことだよ。」

ウッ。確かにそうだ。つまり、あの戦艦はあの戦艦であることしかない…?考えれば考えるほど公立中で底辺を彷徨っていた脳が熱を帯びていく。まぁ今は中卒でSCP財団のエージェントとして働けているのだが。

「こんなの言うのもあれだが、要するに財団も世界も何も分かってないんだ。」

完全に未知の最強戦艦「習志野」は調査こそ進められているものの、当時は恐らく公にされていない計画だったのだろう。何も情報がないのだ。まったく、迷惑な物を作ってくれたものだ。

「はぁぁ…」

溜息が出る。いくら財団のエージェントに志願したと言っても、まさか新しくできた海上部隊に行くとは思ってなかったのだ。財団は「習志野」を破壊することを最終目標にするかもしれないと聞いたが、できるのだろうか。いや、保護が目的なはずだ。破壊を目的にするのは本当に世界が危ない時だけだろう。そんなヤバいやつを新入職員にやらせるなよ。

「ところで風間、お前あの戦艦についてどのくらい覚えてる?」

「へ…?」

「覚えてないんだな。」

「グゥ…」

「ぐぅの音は出たか。ってそういうギャグはいいんだよ。」

「でも、なんとか改変とかなんとか値は覚えてます!」

「なんとかってなんだよ。改めて教えてやろう…」

またあの講習を受けている間に艦はアリューシャン列島沿いを航行している。

「だから、周囲のヒューム値を下げて自分のヒューム値を上げることで、自らの現実を押し付ける。それが現実改変だ。これを使って…」

「あ、あの…」

「なんだ?」

「ダッチハーバーです…」

「もう着いたのか。さすがスピアヘッド級。」

そして上陸したのはアラスカの海軍基地、ダッチハーバー。この基地は島に作られている。しかし、ダッチハーバーの本港には人が多い。なので、

ザァァァ

人が少ない深夜3時、静かに島が割れて基地が現れる。基本、ここで「習志野」の対策を練る。安心、安全な海中基地だ。そして、ここに「習志野」を沈没させるのに重要な人物が訪れているそうだが、、、

「誰なんですか。そいつは。」

「私と同じ現実改変者だよ。だけど私がレベルⅢ改変者なのに対してそいつ…三廻部はレベルⅥ現実改変者らしい。」

うわぁ。えげつない。Ⅲの水野先輩で狙撃銃レベルの質量を作り、消せるというのに。Ⅵともなれば何でも出きるだろう。


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