SCP下書き　ゲームバトルシンドローム

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クレジット

タイトル: SCP-XXX-JP - ゲームバトルシンドローム
著者: ©︎Genryu
作成年: 2023

+ 気になっている点

アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはその性質上、完全な収容は困難です。SCP-XXX-JP-1とSCP-XXX-JP-2を発症していると考えられる人物を発見した場合は速やかに勾留し、Aクラス記憶処理を行ってSCP-XXX-JPの影響を取り除いてください。

説明: SCP-XXX-JPは2種の妄想症状(以下それぞれSCP-XXX-JP-1,-2)の総称です。SCP-XXX-JP-1,-2は対となって発症し、昨年度では約██組みの発症が確認されています。SCP-XXX-JPを発症する条件は不明であり、好発年齢や性差、対となる人物間においての規則性も確認されていません。

SCP-XXX-JP-1は以下のように症状が進行します。対となるSCP-XXX-JP-2が記憶を喪失、または死亡した場合は次のフェーズへ移行せず、異常性は取り除かれます。

フェーズ1	SCP-XXX-JP-1を発症した人物（以下、対象）は約3日間にわたって安静時・運動時問わず動悸を感じます。バイタルに異常はみられず、対象は症状を積極的に訴えることは少ないため、この段階での鑑別は困難です。
フェーズ2	動悸に加えて、約2ヶ月間にわたって漠然とした高揚感を感じます。
フェーズ3	対象はより強い高揚感を感じます。また、対戦を行うコンピューターゲームや玩具等の娯楽1つに異常に執着し始め、日常生活に支障をきたし始めます。執着する娯楽は対象が現在も好んでいる趣味や、以前好んで行っていたものである傾向があります。
フェーズ4	SCP-XXX-JP-2の罹患者の所在地を概ね把握することが可能となり、対象はSCP-XXX-JP-2の所在地へ娯楽による対戦が可能な位置まで移動します。その後対戦を行い、完遂した場合は勝敗に関わらずSCP-XXX-JP-2の異常性は取り除かれ、SCP-XXX-JP-1の罹患者と対戦に関する記憶は消失します。

SCP-XXX-JP-2は以下のように症状が進行します。SCP-XXX-JP-2の発症者が記憶を喪失、または対となるSCP-XXX-JP-1が死亡した場合は次のフェーズへ移行せず、異常性は取り除かれます。

フェーズ1	SCP-XXX-JP-1のフェーズ1と同様の症状が確認されます。
フェーズ2	動悸に加えて、約2ヶ月間にわたって漠然とした緊張感を感じます。
フェーズ3	対象はより強い緊張感を感じます。また、SCP-XXX-JP-1罹患者が執着し始めた娯楽に対し、対象の好みとは関係なく執着するようになります。この時、対象はなぜ自分が娯楽に執着しているかを説明する事が不可能です。
フェーズ4	SCP-XXX-JP-1の罹患者の所在地をその異常性によって概ね把握することが可能となります。SCP-XXX-JP-1の罹患者が対象に接触し、娯楽による対戦を申し込まれた場合、対象は承諾して対戦を始めます。この行為を完遂した場合は勝敗に関わらずSCP-XXX-JP-2の異常性は取り除かれ、SCP-XXX-JP-1の罹患者と対戦に関する記憶は消失します。

+ インタビュー記録-XXX-JP-1

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インタビュー記録-XXX-JP-1-1

回答者: 喜多川陽一氏

インタビュアー: 桜井研究員

追記: 喜多川氏はSCP-XXX-JP-1を発症し、フェーズ4まで移行した20代男性である。対としてSCP-XXX-JP-2を発症したのは安倍氏と考えられている。

<記録開始>

桜井研究員: インタビューを始めます、よろしくお願いします。いくつか質問をしてもよろしいですか？

喜多川氏: 少し右の方、大体40m前後でしょうか。いるのは分かってるんです。早く合わせてください。

桜井研究員: どうしましたか？右に45mとはどういう意味でしょうか？

喜多川氏: やばい、もうすぐそこ、すぐそこに俺の……。

桜井研究員: 落ち着いて下さい。右に45mの地点に何かがいると分かるのですか？

喜多川氏: 俺の対戦相手がいる。俺の宿敵、ライバルが。この日のために修行を重ねてきたんだ！早く会わせろ！

桜井研究員: インタビューが終われば会えますから、落ち着いて質問に答えてください。あなたはそのゲームで対戦がしたいのですよね？何故そこまでゲームでの対戦に執着するのですか？

喜多川氏: デュエリストだからな［カードの束をシャッフルする］。

<記録終了>

インタビュー記録-XXX-JP-1-2

回答者: 安倍重紀氏

インタビュアー: 加藤研究員

追記: 安倍氏はSCP-XXX-JP-2を発症し、フェーズ4まで移行した80代男性である。対としてSCP-XXX-JP-1を発症したのは喜多川氏と考えられている。

<記録開始>

加藤研究員: お忙しいところすみません。すぐ終わりにするので、よろしくお願いします。

安倍氏: いえいえ。いやぁしかし緊張しますよ。こんな若者の遊びはやったことないもんで。難しいねぇ。

加藤研究員: 何故、突然ゲームを？

安倍氏: なんでだろうなぁ……。誰かは分からないんだけど、若者が自分のところに遊びに来てくれるって思っちゃってさ。なんでかは知らないんだけど、その、なんだっけな……なんとか王、そうこれ！これで遊ばないとって！

加藤研究員: 来るであろう人を知覚できる理由や、遊びに夢中になっている理由は分からないと。

安倍氏: ごめんね、変な爺でね。もうボケちゃってっかなぁ？なんて。でも、最近楽しくて楽しくて。娘は巣立ち、妻には先立たれ……寂しい生活だった。でも、このなんとか王を始めてからは娘と楽しく遊んでた時の気持ちを思い出せるみたいで、童心に帰った感じです。娘がまた会いに来て遊んでくれるかのような感覚。頑張って相手をしなければ無作法というもの［カードの束をシャッフルし、数枚を床に落とす］。

加藤研究員: 落ちましたよ……。でもそんな難しいゲーム以外でも楽しめる事はあるように思えます。遊びといっても、なぜその遊びを選んだのですか？

安倍氏: 相手がやりたい遊びじゃないと意味がない。お互いに全力でぶつかって、全力で楽しめるものじゃないと。今の私たちにとって、心から楽しんで熱くなれるのがこのなんとか王ってだけの話です。

加藤研究員: その遊びが終わった後はどうするのですか？

安倍氏: それは……分からない。知らない人だしなぁ。でも、仲良くなれるんじゃないかな。遊びも全力で取り組めばコミュニケーションですから。人柄なんかも分かります。きっと遊び終わった後は仲良くなってることでしょうね。

加藤研究員: 分かりました。ご協力ありがとうございました。

安倍氏: ルールを守って……えっと……そう、楽しくゲーム！

<記録終了>

+ インタビュー記録-XXX-JP-2

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インタビュー記録-XXX-JP-2-1

回答者: 浅井菜津美氏

インタビュアー: 桜井研究員

追記: 浅井氏はSCP-XXX-JP-1を発症し、フェーズ4まで移行した20代女性である。対としてSCP-XXX-JP-2を発症したのは伊南川氏と考えられている。

<記録開始>

桜井研究員: では浅井さん、あなたが最近困っているという漠然とした不安感や幻覚についてお話を伺ってもよろしいですか？

浅井氏: はい…その、何というか、私を追う人がいる感じがして。それも具体的にどこにいるかも分かる気がするんです。今は45mほど右にいるような気がします。

桜井研究員: 確かに、あなたと似たような症状に苦しんでいる方が45mほど離れた部屋でインタビューを行っています。気がするというより、完全に知覚しているようですね。

浅井氏: 私にはどうしていいか分からない。一体どうすれば…。

桜井研究員: 逃げても逃げても追いかけられるような気がするんですよね？逃げることに疲れて、どうしていいか分からないといった気持ちでしょうか？

浅井氏: いえ、逃亡を続けるか、このまま捕まってあげた方がいいか、分からないのです。

桜井研究員: 捕まってあげた方がいいとも思えるのですか。それは何故ですか？

浅井氏: 私が彼に会うことは直接的な解決にはならないし、むしろ彼を最終的には不幸にしてしまうと思うんです。だから逃げていたんです。でも、もう彼が苦しむところを見るのが辛くてね。彼はすごく不器用だけど、とっても優しい人なんです。私は彼を助けたい。だから、彼の為にどういう選択をすればいいのか悩んでいるのです。

桜井研究員: あなたを追っている人物は赤の他人ですよね？なら何故、あなたは彼の為にそこまで思い詰めているのですか？

浅井氏: 似てるんですよ、随分と前に亡くなった旦那にね。

<記録終了>

インタビュー記録-XXX-JP-2-2

回答者: 伊南川榮次郎氏

インタビュアー: 加藤研究員

追記: 伊南川氏はSCP-XXX-JP-2を発症し、フェーズ4まで移行した60代男性である。対としてSCP-XXX-JP-1を発症したのは浅井氏と考えられている。また、他のSCP-XXX-JP-2の罹患者には見られない抑うつ症状の併発が確認されている。

<記録開始>

加藤研究員: すみません、お忙しいところ。あなたの言う幻覚症状について話を聞かせてください。

伊南川氏: 左に45mのところにいるだろう？1人の女性が。その人を無性に追いかけたくなってたまらない。変だよな、俺。自分でもどうしていいか分からない。このままだと狂っちまいそうだよ。

加藤研究員: あなたも、あなたのいう女性も我々が保護しています。ただ、今後のためにもお話をお伺いしたいのです。治療の手段も確立できるかもしれないので。

伊南川氏: そうか…分かった。話せるだけのことは話す。俺はその女性が…恥ずかしい話だが、妻に見えるんだ。いつも穏やかで、こんな俺にも尽くしてくれた優しい妻に。もう、会えるはずも無いのに。

加藤研究員: もう亡くなっているのですか？

伊南川氏: ……あぁ。

加藤研究員: その奥さんについて伺ってもよろしいですか？話せる範囲で結構です。

伊南川氏: 見合いで会って、50年近く一緒にいた……が、俺はあいつのことを何も分かってなかったのかもしれない。俺は仕事で殆ど家にいなかったし、帰っても話をすることがなかったんだ。

加藤研究員: 失礼ですが、あまり仲は良くなかったのですか？

伊南川氏: そうだな……そうじゃなくても、そう見えるかもしれない。俺、自信がなかったんだよ。見合いで会って間もなく結婚して、こんな無愛想な男を好きでいてくれるはずがない……愛されてる自信がなかった。夫婦らしく接するのがユウコにとって嫌なんじゃないかって勝手に思って、冷たくしちまった。愛想が尽きれば出てくだろうと思ってた。そうすればお互い楽になるなんて、バカなこと考えながらな。

加藤研究員: あなたは奥さんを好きだったんですか？

伊南川氏: その時は好きとか嫌いとかじゃなくて、不気味に感じてたよ。考えれば考えるほど俺といる理由がないのに、献身的に俺を支えるんだ。どれだけ冷たくしても、ずっと、ずっと。いつしか、優しくされるのが怖くなった。優しくされる度に混乱するし、罪悪感も強くなる。真意を聞きたかったが、聞く勇気もなかった。嫌われていると完全に認めたくもない、弱い男だよ。

加藤研究員: 考えるところもあって疎遠になってしまったと。

伊南川氏: その調子でずっと過ごしてきたある日、妻は病気で倒れた。

伊南川氏: そう、なのかもしれない。よく分からない。今追っかけてる人が本当の妻じゃないのは分かってる。もう2度と会えるはずがないことも分かってる。妻に恋焦がれて、幻覚でも見てるんだろうか、全く無関係の人を妻に見立てて追っかけまわしてる。おかしくなっちまった。でも、それでも。会いたい。会いたくて仕方がなくなっちまうんだよ。例え幻だとしても、無意味だとしても、全て忘れてしまうとしても。俺は会って、妻に、ユウコに…［嗚咽する］。

加藤研究員: 会ってどうするのですか？

伊南川氏: 謝りたいんだ。いつも無愛想で、自分勝手で、優しくしてやれなくてごめんって。そして伝えたい。感謝の気持ちを。俺の本当の気持ちを。こんな俺を支え続けてくれてありがとうって。ユウコ、俺もお前を…［嗚咽する］。

加藤研究員: 大丈夫ですか？インタビューの継続が難しければ無理はしなくて結構です。

伊南川氏: 俺はどうすればいい？飾りを追いかけたって意味ないって分かってんのに、追わずにはいられねぇ。助けてくれよ、なぁ。どうしてあんなに綺麗なんだよ。どうして。

加藤研究員: …これ以上の継続は困難なようです。インタビューを中断します。

伊南川氏: ユイは死んだ、死んだんだよ。とっくに受け入れたはずなのに、俺はまだ綺麗な思い出を…。

<記録終了>