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クレジット
タイトル: 夜より黒い空の下に
著者: ©︎Tutu-sh
作成年: 2022
http://scp-jp-sandbox3.wikidot.com/draft:7450069-22-d12b
どこまでも黒く沈んだ天球にミルキーウェイの粉は降らない。
産声の世界は瞳を刺し、焦げた帳の下で大地が育つ。伸びゆく地面、汚れた雪と萌える草は読み込まれていくCGだ。半球は天候を塗り潰す。広がる壁の向こうからは森羅の続きが染み出でて、濾された野山が生まれていた。
戸を開き、肺に外気を込めた。黒衣の空が星を喰う中、普段通りに酸素は巡る。肌は光のぬくもりを帯び、草木の傍には影が落ちる。
鼓膜を警告音が蹴りつける。異様な日食をさておいて、冴え切った人工知能は電波暗室の異変を告げる。耳に攻め込むサイレンは黒の空間の収容違反──消失の事実を突き付ける。別れを口にすることなく、SCP-280-JPは既に部屋を旅立っていた。
私のせいか。
プトレマイオスの天動説も、アインシュタインの宇宙項も、素朴理論は誤りを拓く。轟音と共に常識が破れることを、信念が薙ぎ倒されることを怖れ、人は想いを守り難色を示した。しかし古代バビロニアより4000年、エイダ・ラブレスから200年。人の子たる計算機群は冷徹さを保ち続ける。
私は逃げた。脚を棒にして走り続け、爆縮しかける筋をなだめ、この宇宙の縁を求めた。どれだけ駆けようと理解が残酷に脳を蝕み、私は叫び己を悔いた。体を伝う汗と涙は加速する体温をすうと奪い、まだらな熱が後に残った。
…
…
…
誕生した世界を覆う空と鍾乳洞のブラックダイヤは、脳細胞に連想ゲームを巣食わせていた。
観測の拒絶、絶無の亜空。ブラックホールと呼ばれる代物だ。
ルーズソックスの高校生がケータイをいじり向かって来る。丁度私と同世代だったかもしれない、スクールバッグを振り子にした彼女たちからは、平成の香が漂って来る。なびく髪が視界から外れ、牛が水田に波を立てた。重たい装具を引きずる牛は足を沈める農夫と共に、開けて間もない昭和を見せる。
全てを吸い込む悪魔の星は腕をずるりと伸ばして贄を獲る。健脚たる光までも、かの魔の手から逃れられず、捕らわれ呑まれ散っていく。因果の奴隷は如何に軽やかに舞おうとも、無関係には居られない。
気配を感じ振り向くと天突く馬体が迫っていた。背を打ち付けた頭上から「気を付けろ」と荒い声を浴びた。御者の背後で過ぎゆく窓から西洋かぶれが視線を送り、同席の婦人が口角を隠す。
アキレウスは走り、留まることなく走り、指に絡め取られてなお走り続ける。彼の脚は腕と釣り合い、やがて綾取りのごとく手繰られる。クロノスの矢は捻じ曲がる。彼の駆けていく向きこそが矢の向かう先に他ならない。
狼の遠吠えがこだまする。
枝葉を揺らし朱鷺トキが飛び立つ。
蹄に遅れ、武者の鎧が擦こすれ合う。
悪魔の庭では符号が捻じれ、時計と分度器は役目を終える。
──濡羽のケージに集まった、混沌の歴史の生け簀だった。
繰り広げられたありとあらゆる歴史事象が一斉開花を遂げていく。紙面と石墨、電子と液晶、流した知識が前を歩く。誰かの砕けた年表は潮の流れに揺られた末に異国のメッセージボトルとなる。削れたカセットテープのように時空は地べたを這いずり回り、循環の中をとぼとぼ戻る。
遺物は彼方へ遡り、時間の波も整合する。1次元時間軸を揃えること、それこそ黒い悪魔の為せる業だ。
…
…
…
熱は低み低みへ漏るよう流れる。高低を消し去り全てを均し、秩序なき均衡を目指し続ける。ぱしゃんと地に染む覆水は決して盆に返ることなく、ふうと吹かれたダンデライオンは果てなど知らず広がっていく。
絶対たる秩序の物差しは全ての状態を予言する。0と1の二進法、二重螺旋の四進法、衛星廻る十二進法──情報は設計をコードする。3の3乗のルービックキューブ、10の13乗のホモ・サピエンスも、皆が定理の下に縛られる。原子が暴れ、数字が躍り、エントロピーは詳しさを増す。物差しとは情報量だ。
堕ちた林檎はアイデンティティを悪魔に託す。悪魔はアーキビストを兼任し、ぱりとしたスーツと共に事象地平に指を添わす。果を定める数字の羅列は黒く敷かれたヴェールに撒かれ、緻密たる地上絵として化けていく。両界曼荼羅に溶けていく。
…
地平の従う変数群はたったの2つぽっちに過ぎない。ちっぽけなZ軸さえ持たぬまま、鳥が飛び、人も歩き、魚の泳ぐ次元へ至る。絵に描いた餅は実を持ち、河床のスッポンは月を生む。隔たる変数を跳び越す破綻、待ちに望んだ世界へ上る反跳がそこに横たわる。
最早我々は平面上の0と1の射影に過ぎない。私が見て触れるもの、そして思惟する私自身も、全てがコードの投影だ。第3の軸はまやかしに過ぎず、立体を棄てこびり付く。目を覚ましたアーキビストが真摯な指で個々に紡ぎ、壁を照らすプロジェクターが光子同士を重ね合う。大気を纏った遺物たちは、皆が複製、全てが虚像、徹頭徹尾架空だった。
翼竜が空を飛び、甲冑魚が川を泳ぐ。
三千世界を跨ぐ虚空は知りうる全てを呑み込んでいた。
画面を歩くスーパーマリオは己の虚数を眺めていた。
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- portal:7450069 (16 Nov 2021 13:06)
全体的に
あまり面白いようには感じませんでした。テーマと着眼点は良いのですが、描写をする力が足りていないように感じます。改善のために、似たようなテーマや着眼点をもっている作品を読み、描写力を鍛えることを提案します。
テーマと着眼点について
SCP-280の新しい解釈を提示しているように読めます。過去に向かって拡大する特異性をふまえて、過去の事物が析出する発想は非常に良いと思います。しかし、この特異性から過去の事物が析出するという現象の間に論理の飛躍が生じているように感じました。よって、この間の流れをもう少し詰めるといいかと思います。
描写について
まず、一回読んでもなにが起こっているのかわかりませんでした。二回目を読ませる力も弱いと感じましたが、二回目でようやく理解が追いつき、そして理解させる以上の描写がないように思えました。個人的な所感ではありますが、時間をテーマにしているので、いま書かれているようにぶつ切りの描写はあまり合わないかと思います。特にエントロピーのくだりは、教科書を読んでいるような感じがしました。
描写を"詩的文学"タグがつくくらいに盛り上げると良いかと思います。このtaleにはまず登場人物が一人いて、その人がスケールの大きすぎる話をしているので、そこになにか共感するところも引き込まれるようなところも無いように思えます。スケールが大きすぎるままだと緩急が生じません。比較的に一文を長くし、描写のスケールの大小をうまくコントロールし、単語単位で管理をするとうまい具合に緩急が出ます。
似たような着眼点をもって書いている作品として、少々毛色は違いますが、(そして手前味噌ではありますが)『氷河─水』を挙げます。Discussionに解説がございますので、そちらをごらんください。
また、ブラック・ホールを取り扱った映画として、すでにご覧になったかもしれませんが『インターステラー』を挙げます。
最後に
上に述べた通り、テーマと着眼点は非常に新規性があって良いので、描写さえ改善してしまえば、比較的良い数のUVを貰えるかと思います。しかし、現状のままだと残るとは断言できません。以上、取捨選択のうえ今後に生かしていただけるとよいかと思います。
This is 2MeterScale, the one makes you pale and writes tale
ご批評ありがとうございます。
アイディアとテーマの方、好評いただけたようで良かったです。ご提示いただいた作品にも目を通し、表現のほどを学びたく思います。今の方向性を維持したまま、より理解を促せるよう、改稿に努めます。
追記(05/01): 1文1文を伸ばし、また時系列に手を加え、理解の平易化を目指しました。「論理の飛躍」についてはSCP-280-JPに呑まれた物体が内部に投影されているというシンプルなことで、全体を通じて主張していることでもあるため、手の加え方は時間をかけて考えてみようかと思います。
Tutu-sh
全体的に
初稿よりはかなり良くなったようではありますが、いささか説明過多だと思います。また、読者にある程度の教養を要求しているようにも読めます。さらに、このままだとSCP-280の話だと読者に理解させることに失敗していると思います。
改善された点
冒頭で引き込む力がかなり強くなりました。少なくとも、書き出し3行を読んだあとに読むことをやめる人はいないと思います。この書き出しを読んで、読者はまず『多元宇宙とたんぽぽのお酒について』のような、奇妙で静かでいて、かつ興味を惹くような世界観がこのような文章で全編を通して書き上げられることを期待します。
文章そのものについて
書き出しで世界観に引き込まれたところ、以下の文章が出ます。
「言うなれば」という語が、引き込まれている状態の読者を少しだけ現実に戻します。視点人物が唐突に語りだしているからです。このような文章を書く場合、読者と視点人物はある意味で同調している状態なので、ここに限らず、全文において全てを言い切ってしまったほうがいいかと思います。
また、途中で難しい単語(ここでは中学生がわからないような単語)が出てくると今までの流れを切られて単語の意味を調べに行かなければいけないので、それは可能な限り削ったほうがいいかと思います。
説明過多
これは先ほど述べた文章そのものの問題にも通じる問題です。このtaleは書き出しにおいて説明らしい説明を一切していないので、読者はSF的な理論や現実にある理論の説明を望みません。ここでいう「説明らしい説明」とは、初稿にあったようなエントロピーのくだりのような部分のことを指します。
本稿における例として、以下の部分を挙げます。
ここでは現実世界の話をしています。読者はすでにブラックホールの中にいるという前提を飲み込んでいるので、ブラックホールや熱力学といった語で説明を挟む必要はありません。この場合、一つ目の文章を削り、「ここにはいつも熱の移動がある。温度の~」といった感じで進めるとよいかと思います。
このとき、現実に存在する理論の名前や概念などの単語を念頭に置いておくことは重要です。しかし、それらの単語が何であるかを説明する必要はありません。それらを全てメタファーで済ませるだけで十分です。読者はブラックホールそのものの解説文が読みたいのではなく、Tutu-shさんの描く「ブラックホール/SCP-280の中にいるとはどのような感じなのか」ということを感じたいためです。
これを達成するには、(わたしは好みですが)「観測の拒絶、絶無の亜空」などの強い単語を並べたうえで、より五感、特に視覚に訴える形で単語を使用して描写の厚みを増すと良いと思います。この場合、日本語の文章として意味が通っている必要は特にないので、可能な限り自由に単語を選ぶといいと思います。
SCP-280の話
結論を一番最初、あるいは文章で世界観に引き込んだ後に提示すると、話の見通しが立ちます。k-calさんのおっしゃるようにこのtaleは物語ではありません。ですので、いわゆる「オチ」も存在しません。このような状況においては、情報を出す順番は完全に自由です。この方向性を突き詰めるならば一発でこれがSCP-280の話であると理解できるのは相当に読解力が高い人であり、普通の読者にも理解させるならば相当の技量が必要です。
SCP-280の開示タイミングを早めた場合、読者はすぐにこの文章がSCP-280の新解釈を提示しているものと気がつきます。このとき、いわゆる読者にとっては見通しがたった状態なので、安心して世界観に浸ることができます。
最後に
あまりJPで見ることのないタイプの作品であり、かつ先の批評にも書いた通りの良いアイデアでもあり、非常に高いポテンシャルを感じます。少し曖昧な言葉を用いての批評になってしまいましたが、いっそのことブラックホールにまつわる現実の概念を念頭に置いた上で、単語選びは全て無意識に任せるオートマティスムめいたやり方もありなのではないかと思いました。
以上、取捨選択していただければよいかと思います。
This is 2MeterScale, the one makes you pale and writes tale
再度のご批評大変ありがとうございます。前進しているようで良かったです。
『多元宇宙とたんぽぽのお酒について』、なるほど、確かに設定等近い雰囲気を感じさせうるものですね。客観的視点から位置づけを明確にしていただき助かります。
説明については十分に削り比喩を加え最低限にしたつもりでいましたが、そもそも不要ということで新しい認識を得られました(先に提示いただいた『氷河─水』がヒトの死という日常スケールの事象を壮大に描いているのに対し、本作は扱う事象自体が世界規模であるため説明が必要と感じ、完全に暗喩に走ることに躊躇していました)。ご提案いただいたオートマティスムなる手法の使用にも目を向け、改稿していきたく思います。SCP-280-JPの開示のタイミングについても検討します。
重ねて、この度はご批評ありがとうございました。曖昧な言葉を用いての批評とのことでしたが、必要な具体性は帯びており方針が明確に定まったように感じております。感謝いたします。
追記(05/06): 改稿を加えました。SCP-280-JPへの言及を冒頭部へ移した都合上、ブラックホールの比喩と作中世界の描写を交互に組み込む形で暫定的に順序を変更しています。
Tutu-sh
現状DVです.ですが,SCP-280-JPの新解釈の試みであり,ブラッシュアップされて投稿されるのが楽しみです.
1. 上記スポイラー上段の内容を読み取れるか
現状では読み取れませんでした.
全体的に文章と文章のつながりが読み取りにくく,バラバラの表現が並んで置かれている,という印象を受けました.
2. 展開が急ではないか、あるいはダレていないか
今のところ,かなり急であるように思います.というよりはTaleとしての文章の構築がまだできておらず,まとまった文章・物語として受け取るのが難しいです.
3. 順序を入れ替えた方が良さそうな場所、拙く見える表現などはあるか
ブラックホールの説明,エントロピーの説明あたりが浮いているように思います.
全体的に抽象的・比喩の多いように感じますが,ここは知識を噛み砕いて書き切れておらず,他と比べて説明的だなと感じました.
4. その他気になる点
・「光速以上の速度で以て時間の矢を捻じ曲げるエルゴ領域」
すみません,詳しくないのでエルゴ領域のことは知らないのですが,この文章では「そもそも何が言いたいのか」がわかりませんでした.「謎の専門用語」として機能させるにしても,もう少し伝わりやすくするか,あるいはエルゴ領域という説明的な単語をそもそも使わないか,どちらかに振れさせると良いのではと思います.
・「ブラックホールは一つの熱力学系として機能」
すみません.熱力学はあまり詳しくないのですが,「一つの熱力学系として機能」とはどういう意味でしょうか.
熱力学とはある一つの体系化された学問だと思っていたのですが,熱力学にも複数の体系が存在している,ということでしょうか?
それとも「孤立系・閉鎖系・開放系」などのような感じで「ブラックホール系」とも言えるような熱力学のシステムが存在するのでしょうか?
ご批評ありがとうございます。
「文章と文章のつながり」が読み取りにくかったのは、文同士の繋がりなのか、パラグラフ同士の繋がりなのか、あるいは三点リーダで区切った纏まり同士の繋がりなのか、どれを指していますでしょうか。もし文同士の繋がりを指すのであれば、申し訳ありませんが現状自分で一切の違和感を抱けていないため、何が問題なのか分からず、修正はかなり厳しいかと考えます。もし「こういうことだ」という具体例を示せるのであれば、批評中断中でも構いませんのでポストしていただけると大変助かります。
「Taleとしての文章の構築がまだできておらず」も同様です。1つだけでも良いので、例を示していただけると幸いです。
エントロピーとブラックホールの説明に関してはk-calさんからも指摘されたように、より噛み砕いてみようと思います。一応擬人法など平易にするための工夫はしてみたのですが、より強めてみることにします。
「光速以上の速度で以て」で示されているように、重力に引かれる物体の速度が光速を上回る、ブラックホール外縁部の領域となります("以上"は厳密さを欠く記述でした。修正しておきます)。私自身こうした物理学は専門ではないため、このあたりは語順を入れ替える、さらに噛み砕くなどして対応したく思います。
ただし、「エルゴ領域」は残します。私が「エルゴ領域」という語を初めて耳にしたのは映画『GODZILLA 星を喰う者』の1シーンでしたが、エルゴ領域が何たるかという解説は一切なく、数秒で流されてしまいました。見ていて「何じゃそれは」とは思いましたが、超次元を扱う当該作の雰囲気に強く寄与したフレーズの1つと感じました。当該作へのリスペクトも兼ね、雰囲気出しの要素として残しておきます。
前段で仰られているような或る学問の体系ということではなく、自然科学における「系」を指します。上手く言語化できませんが、閉鎖系/孤立系/開放系と並列の関係というよりは、「生態系」「慣性系」「惑星系」などより広義な「系」の意味になります。
熱力学に関連する講義資料(例1)や日本物理学会誌(例2)にも見られるため誤用ではないと思いますが、「熱力学的な一つの系」などとする方が意味を明確に捉えられるでしょうか。
ここでの主旨は「ブラックホールにも熱力学の法則が働いていてエントロピーがあるよ」というものになります。
Tutu-sh
拝読しました。あまり面白くありませんでした。
面白かった点からですが、女子高生のあたりから鎧のあたりまでの描写は、「一体何が起こっているのだろう」と興味を引いてくれる、面白い描写でした。やや仰々しい表現は多いきらいがありますが、日本語の使い方にも問題はないと思います。
次に問題点です。
敢えてキャッチーな言葉で表現するのであれば、このTaleは物語ではありません。
物語では、いくつかの出来事が起こり、変化が発生します。多くは主人公が何かを得たり、失ったりします。ワンシーンの物語というのもありますが、基本的には複数のシーンが連なって、一つの変化の流れを表現します。
このTaleはシーンが複数に分かれていませんし、何も大きな変化も起こっていません。これは一人称で描かれた世界の設定の記述であり、物語ではないと思います。したがって、「展開が急ではないか」という問には、そもそも「変化がないため、展開がない」とお答えすることになります。
物語でないことは悪いことではありません。詩やエッセイなど、文学作品の形態というのは様々です。おそらく、2MeterScale氏が詩的な表現に注力するように指摘されているのは、この作品の現状から、物語的なものというより、詩的な部分の改善が効果的だと考えられたからだと、勝手に推測します。
ここで重要なのは、Tutu-sh氏が結局このTaleを物語にしたいのか、それとも詩等の物語ではない文学作品にしたいのか、という望みだと考えます。
物語にしたいのであれば、このTaleにおいて変化するもの、その過程を考え直して、ストーリーラインを組みなおす必要があるでしょう。「シーンの連なり」という観点で既存の商業小説や映画、漫画等を読んでいただければ、シーンの分け方や展開の仕方などもつかめると思います。
詩的な魅力を押し出していくのであれば、なぜ描写をするのか考えなければいけません。物語の様子を読者に直感的に感じてもらうのであれば、「天地開闢、具象の誕生」といった難しい言葉遣いで圧倒するような表現は好ましくないでしょう。どちらかというと、より五感を用いた表現や比喩を用いる必要が出てきます。
表現の面白さ、新奇性で攻めるのであれば、もっと独自のものの見方を展開する必要があるでしょう。
つまり、目的、すなわちこの作品の魅力をどこにするかを決め、その目的のために最善の手段を取る必要があります。ここで、現状の目的意識に対するコメントをさせてください。
改稿するのであれば、まずはこの作品の魅力を改めて定めなおすところから始めるとよいと思います(そしてそれをスポイラーに書いていただけると批評者側としてもうれしいです)。
もう一つの大きな問題点は、この物語が読者層の知識量を無視しているということです。スポイラーの内容について、一応私は一読で理解できています。しかしこれは、私が情報理論をかじっているためエントロピーについてある程度の理解があったことと、ホログラフィック理論についても趣味の範囲で僅かな理解があったためです。普通の読者はホログラフィック理論なんて知りませんし、エントロピーも「部屋が汚いときに増大するもの」くらいの認識しかありません。
文学表現とは語りです。語りとは語り手と受け手がいるコミュニケーションです。友人と会話しているときに、友人が私にわからない専門用語をまくしたててきたとしたら、私は嫌です。それと同じで、Taleを書くならば、読者が付いてこれるように、もっと具体的に言えば中学生相手でも理解してもらえるように書かなければいけません。
この伝え方では、中学生は理解できないと思いますし、納得もできないと思います。また、一気に語りすぎて脳の処理が追いつきませんし、授業のようになってしまっています。こういった難しい情報は、物語の流れの中で小出しにしていった方が良いと思います。
なお、SFは専門用語で圧倒するジャンルですが、ある程度知識不足でも読めるようになっていますし、多少知識不足でストレスがかかってもそれを超える物語的な面白さがあります。テネットを見てきた友人は、「理解できないけど面白かった」と言っていました。この作品をSFにしていくのならば、専門知識がわからない読者でも物語の筋を理解し、楽しめるような構成にする必要があると思います。
批評に対するご意見・ご質問で返信が必要なものにつきましては、ディスカッションで返信の形で投稿いただいたうえで、PMにご一報ください。SB3のフォーラムは追っていませんので、ディスカッションへの投稿だけだと気づけない場合がございます。
ご批評ありがとうございます。他の批評者の方の意図まで踏まえた俯瞰的なコメントに頭が下がります。
女子高生から鎧のくだりがフックとして機能していたとの点、嬉しく思います。むしろここが分かりにくさを助長してはいないかと思っていたため意外なご意見でした。ありがとうございます。
「物語がない」との指摘や、物語とそれ以外の文学作品の区別の提示など、考えてもみなかったことなので新鮮でした。一応、現状の下書きは 語り手がサイト外へ出て天蓋を視認する→異変を知って世界の中を駆け回る→諦め、道中で歴史が同時進行している様を目撃する→サイトへ戻る という流れを作り、そこを所謂"詩的"な表現で補強した形になります。しかし、それを物語性を主体にするように計画したわけではなく、むしろメインは世界設定の方に置いていました。自身の中での小説や物語の定義が漠然としていたため目から鱗でした。
「物語にしたいのか、それとも詩等の物語ではない文学作品にしたいのか」とのことですが、特にここからストーリーラインを大きく追加する──例えば、主人公に脱出作戦を立案させたり、出会った人間と恋に落とさせたり、といったことは現状考えていません。となると、後者の選択肢になるのかなと思います。その際に役立つ言葉遣いなども具体例を挙げた上で指南していただき大変助かります。
具体的な目的などはつい先ほど概念を提示いただいたばかりなのでこの場では決定しきれません。ゆっくり考えたく思います。
また、読者に対する説明についても仰る通りだなと感じました。例に挙げていただいた『TENET/テネット』は難解さで観客を置いてけぼりにするような作風になっており、またそうした作品には他にもいくつか目を通していたため、「好きにぶっ飛ばして構わんな」と考えていました。確かに友人との会話の喩えなどを鑑みるに、詩的な路線を目指すのであれば平易なものに変えた方が良いように思えます。
ここについて、もう少し詳しくお聞かせ願います。
「説明を聞かずとも」と前置きがなされていますが、第3パート(「どこまでも暗い空を見て~神経細胞に掘り起こされていた」)において、ブラックホールで起こる諸現象と作中世界で発生している事象の結び付けを行っています。ここの解説については「中学生は理解できない」とコメントされている通りまだ課題がありますが、ひとまずこれをクリアしたと仮定します。
すると、第3パートで説明されたブラックホールと作中世界の結びつきを踏まえた上で、読者は第4パートに入るわけです。第4パートではブラックホールでは説明しきれないことが言及されており、"地球上に存在し"かつ"強大な潮汐力を発生させない"、ブラックホールに類似する物体、とまで正体が絞られています。ここでSCP-280-JPの関与を明かしたとして、既に第3パートと第4パートを通して大部分の説明がなされています。
そして「事象の平面だとか時空の崩壊だとかは、パッと結びつくものではない」とのことですが、
これらの点と、匂わせる要素が整っていることから、SCP-280-JPと各要素の結び付けは容易ではないかと考えています(Nekokuroさんからはスポイラーを読み取れなかったとのご意見を頂いておりますが、どの段階で躓かれたのか把握しておりません……)。
「説明が無いから理解できない」というのは「現状でブラックホールの説明が機能していないために理解できない」なのか、「ブラックホールの説明が丁寧であったとしてもSCP-280-JPと作中の事象を直接結びつける説明をしなければ理解できない1」なのか、どちらでしょうか。これに関してご意見等あれば、是非伺いたく思います。
Tutu-sh
「説明を聞かずとも」の表現が分かりにくかったようで申し訳ありません。ここでの「説明」は事前説明ではなく、後付け説明を指しています。直前になぞかけの例えを出しているので、なぞかけで例を出します。
このなぞかけは、「ひょうかがなければ生きていけない」がオチにあたります。評価と氷菓が掛かっていることに瞬間的に気づければ、このなぞかけは面白く感じられるかもしれません。一方で、その気付きに時間がかかるのなら、面白さは幾分減少すると考えられます。最も避けたいのは、聴衆の頭のうえに?が浮かんでしまい、「これは評価と氷菓がかかっていて~」と後付け解説をしなければいけないケースです。
最悪のケースを回避して面白さを出すためには、最低限オチを聞いた時点もしくは少し考えた後で、後付け説明なしにそのオチを理解し、納得できなければいけないと考えられます。
つまり、「説明を聞かなくても理解できるでしょうか」と申し上げたのは、「オチのあとに後付け説明を付けずとも読者の独力で理解し、納得できるでしょうか」ということを言いたかったということです。そのために「ブラックホール等の事前説明」を丁寧にすること自体は必要だと考えています。
さて、以上を踏まえたうえでのご返信となります。
確かに、SCP-280-JPとブラックホールの関連性は強そうですね。ここの結びつきはクリアできるかもしれません。おっしゃる選択肢の中だと、「現状でブラックホールの説明が機能していないために理解できない」が近いでしょうか。
また、少々ご確認いただきたいことがあるのですが、「SCP-280-JPを明かすことによりストンと腑に落ちること」は「何が腑に落ちる」ことを想定されていますでしょうか。
おそらく「読者の中に謎の不自然として残っている要素」があり、「SCP-280-JPを出す」ことで「その謎が解明される」ことを「腑に落ちる」と表現されていると思うのですが、一旦「謎となる要素」を箇条書きで整理してみるとよいと思います(例えば、「様々な時代のものが混合していること」)。そして「SCP-280-JP」の関与が明示されたとき、その一件一件の謎が提示した情報を使って解明されうるかを図式化し、推論の飛躍がないかを確かめると、著者の中にある隠れた前提が明確化され、納得感のある結論を生み出すための助けになると思いますし、、語るべき情報も自ずから限定されてくると思われます。
批評に対するご意見・ご質問で返信が必要なものにつきましては、ディスカッションで返信の形で投稿いただいたうえで、PMにご一報ください。SB3のフォーラムは追っていませんので、ディスカッションへの投稿だけだと気づけない場合がございます。
ご返信ありがとうございます。事前情報が必要であろうということ、また現状の説明に難があったため理解が阻害されていたとのこと、コンセンサスが得られたようで幸いです。
「読者の中に謎の不自然として残っている要素」ですが、
となります。下2つは最終パートで回収していたため、記述が不足していたのは2MeterScaleさんからも論理の飛躍として指摘をいただきつつ改稿できていなかった1つ目かなと考えています。
ひとまず先ほど大幅な改稿をいたしましたが、この時刻ですので、批評受付の再開は起きてもう一度目を通してからにしたく思います。
Tutu-sh