とある教授の悪夢のような日(改稿Ver2)

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 職場は財団。確保、収容、保護を理念とし、異常な存在を人類から遠ざけける秘密組織。ここはサイト-8181。財団の日本支部で、結構大きな、言わば研究所。時は2013年、9月20日の12時過ぎ。仕事の都合で、今は秘書もいない。やる事もないので一人廊下をぶらついている。さっき食堂で居眠りしていたくらい暇なのだ。

「……やる事ねえな。何か愉しい事でも起きないものか」

「おや? 葦原教授ですか」

「げっ。鳴蝉博士……」

「そんな顔をせずともいいでしょう。ところで蝉いります?」

「……いらない」

 よりによって鳴蝉博士と鉢合わせてしまった。ただでさえ今朝も顔を合わせて話したというのに……。彼女は厄介だ。何せ無類の蝉好きである。できる事なら蟻や蚊ですら遠慮したいというのに、蝉なんぞ死んでしまう。いや、死にはしないが精神が死ぬ。滅茶苦茶自信がある。今までも何度か話した事があるが、得意になれない。だって肩に留まってるもの。他人の趣味嗜好に口を挟むつもりはないのだが、それでもやっぱり虫は無理なのだ。気持ち悪すぎる……。

「そういえば、何故ここに?」

「仕事がないんだ。みんなそれぞれやる事があって散らばってるから、俺一人だよ」

「……珍しい気がしますね」

「何がだ?」

「いえ、いつもの一人称は”私”でしたから」

「ああ、それか。今は仕事モードじゃないからなあ……。特にする事もないからぶらついてたんだよ」

「では一緒に食堂へ行きましょう。そろそろお昼ですから」

「……なんだか嫌な予感がするが、いいぞ」

「ではれっつごー、ですね」

 ……不安だ。個人的に、虫と関わるとろくなことが無い。財団に雇用される前もニッソ共のせいで散々な目に遭った。今はまだ鳴蝉博士との交流の中で問題は起きていない。だが、近いうちに最悪な目に遭う気がしてならないのは何故だ…? いや、分かる。勘だ。……クソである。神は死んだ。

「おや、かなり賑わってますね」

「……そうだな。席は取れるかねえ」

「探せば見つかるでしょう。……ああ、丁度二席ありましたよ」

「そうかい。んじゃ注文しに行くぞ」

「あ、私は席を確保しておくので、私の分もお願いします。鯖の味噌煮定食で」

「ちゃっかりしてやがる……」

 ……まあ、少し安心だ。いつ蝉を吐き出すかと警戒する必要もなくなる。注文が被るとは、案外趣味が合うのか…?
いや、よそう。この先は深淵だ。引きずり込まれてしまう。早く注文してしまおう。そうこうしてるうちに自分の番だ。

「鯖の味噌煮定食を二つ」

「ん? 一人でかい?」

「いや、もう一人の分も含めてだ。彼女は今席を確保してる」

「そういう事か。ちょっと待っててな」

「おう」

 ここの鯖の味噌煮定食は絶品だ。昔から鯖の味噌煮が好きだった事もあってか、ここで昼食を摂る時は決まってコレを頼む。鯖が上物なら、味噌は最上だ。ここの料理長が趣味で作っていると聞いた事がある。……時間がある時にでもレシピを教えてもらおうか…? いや、料理人にとってレシピは大事だ。流石に無理だろうな。

「はいよ! 鯖の味噌煮定食二人分だ!  持てるかい?」

「ああ、大丈夫だ。持てるよ。ありがとうな!」

「いいって事よ! それが仕事なんだから!」

「ははは、それでもだよ」

 相変わらずいい香りだ。早く食べたい。鳴蝉博士は……いた。なんかぐでーんとしてる…。

「ほら、持ってきたぞ」

「お腹すいた」

「同意する。早く食べようか」

 ……美味い。やはり最高か? にしても不気味だな。さっきから一言も話さない。更に、なんだか肩に留まっている蝉がこちらを見ているような気がする。何故かその蝉から無数の視線を感じる。最低でも八つは視線を感じる。気のせいであってくれ……。っていうか、何かおかしい。鳴蝉博士がなんか挙動不審になってる。プルプルしてる。非常に怖いからやめてほしい。

「……鳴蝉博士? どうした?」

「……」

「おい、鳴蝉博士? ……へ? ヒッ!?」

 蝉が! 蝉が!? 手にくっつていた!? なんでだ? 意味が分からない!? 怖い、怖すぎる。なんなんだ!? 鳴蝉博士はまだプルプルしてるし、手に付いた蝉はどっか飛んで行ったし……。

「おい鳴蝉博士! 今のはなんだ!?」

「……」

「せめて何か喋ってくれ!」

「……あ」

「あ?」

「うぼぁ!」

「……は?」

 ……なんだ? 何が起こった? いや、そうだ。鳴蝉博士が蝉を大量に吐き出しやがったんだ。それで……それで? なんだ? 俺は虫が嫌いなんだ。……そう、嫌いなんだ。なのに……もう、嫌だ。なんだ? 鳴蝉博士が何か言っている。「~の続きはまた今度」だの「刻んで███から~」だの……理解できない。したくもない。嫌だ。もう、嫌なんだ……。

 ああ……もう、分からない…。

  ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!   あ?」

 ああ、そうか。寝ていたようだ。中々恐怖に満ちた悪夢だった……。妙にリアルな夢だったが、それだけ夢に入り込んでいたのだろうか? まだあの……嫌悪感が、恐怖が残っている。二度と見たくない類の夢だ。

「食堂……だな。こんなところで居眠りとは、疲れてんのかね」

 時計を見れば、もうすぐ12時を回りそうだ。サイト内をぶらついて暇を潰す事にしよう。今日は仕事で自分以外の全員が出払っている。いつも一緒にいる秘書でさえそうなのだから、暇で暇で仕方ない。廊下に出て、何をしようか?

「……やる事ねえな。何か愉しい事でも起きないものか」

「おや? 葦原教授ですか。丁度よかった。”先程の続き”を話しましょう」

 なにやら、嫌な予感を感じてしまう。言わば天敵である彼女には、あまり会いたくなかったが……たまにはいいのかもしれない。得意には決してなれないが、彼女の人柄自体は好ましい。こんな日もありだろう。


「……それで、あのバカが食堂で気絶して、辺りが二人ごと鳴蝉博士の蝉まみれになったわけか」

「流石に葦原教授には同情します。最も苦手な虫まみれになったのですから」

「……そうだな」

「……それにしても不思議な事もあるものです。彼は鳴蝉博士と食事する前に、食堂で突然絶叫したそうですから」

「まあ、葦原だからな。ところで」

「? なんでしょう、”獅子”?」

「私は、危険がないとはいえ興味本位で”これ”を聞いた事を後悔している。珍しくも奴が被害者だったと聞いたから、早めに仕事を切り上げて聞いたのだとしても、な」

「え、ええ。彼も珍しく自分から記憶処理を申請したそうですから…」

 ”獅子”はPCに表示された「葦原教授の絶叫」と題されたMP3ファイルをぼんやりと眺める。

「そしてだ。今回の件で分かった」

「……何がです?」

「葦原教授は今後、昆虫にまつわる異常性を持った職員との物理的な接触を禁止する。あんな大惨事は二度と御免だ」


jp tale 鳴蝉博士 昆虫 三題噺言霊競演21



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執筆者: prof_hellthing
文字数: 5206
リビジョン数: 60
批評コメント: 2

最終更新: 03 Jan 2023 15:27
最終コメント: 04 Jun 2021 09:12 by ponhiro

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