私達に明日は来ない。
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早朝という時間はどうにも淋しくて、子供の頃から世界に1人取り残された様な孤独を気に入っていた記憶がある。当時なけなしの小銭をポケットに詰めてコンビニに向かった私と今の私に、見受けられる連続性など何処にも無い。思えば随分と薄汚れてしまった。

早朝5時。閑散とした街中に一人、片足を引きずりながら歩いている。ブラック・スーツ全体に纏わり付いた血は、返り血か自分の物か最早分かった物じゃない。左脚に深々と刺さった杭は、全身の筋肉を動かす度に滲む様な膿と痛みを呻いている様だった。

大した傷じゃない。これは決して自分を鼓舞するための出任せではなく、深めたGOCの技術の知見、そして経験則から来る判断である。時折掴んだ標識の白棒、その冷やかな感触が、熱を帯びた手のぼやけた輪郭を再度定義してくれる。救護ヘリが止まるポイントまでは自分で歩ける筈だ。痛みに歯を食い縛りながら、一歩ずつコンクリートの地面を踏み締めていく。

薄汚れた代償として、どうやら私は生きる事にも汚くしぶとくなった。平気で泥水を啜り、色褪せた気高さに目を背ける様になってしまった。その事が何故か持て囃されて遂に班長に任命された時、私はどの様な顔をしていたのだろう。今となってはもう思い出せない。

それでも、確かに3人の班員が私に信頼を寄せてくれている。
その事が嬉しかったと言うのは、罪だったのだろうか。

彼らが死亡していると決めつけるのはまだ早い。何度繰り返したかわからない台詞を呟いた。だが、瓦礫の下に深く埋もれた彼らが生きている可能性は、客観的に見て、低い。とにかく今確定している事は、明日にでも班員は全員変わるであろう事。ついでに、もう二度と4人で酒を飲みながら潰す夜は訪れないであろう事。たったそれだけだった。

枯れた宵闇が肌と混じり、柔らかに融けてゆく。彼等が瓦礫に轢き潰される瞬間、咄嗟に私の身体を引き留めたのは油断でも慢心でもない。それはただ圧倒的な無力だった。助けられた筈も無かった。哀しくても涙を流せない子供は、悔しいと途端にぽろぽろと涙を溢す事がある。私はもう子供じゃない。それでいて、正しく泣ける大人でもなかった。

……脂汗の滲んだ額を拭う。痛みのせいで精神が後ろ向きになっているというのは否定できない。いや、きっと痛みのせいだ。疲れているだけだろう。そんな戯言を言って足を止めている暇など、私達には無いのだから。

ふと、眩しさに目を細める。

光。漸く目を覚ました太陽、その朧気な熱が薄明の世界を朱く照らしていた。冷たく暴力的な暖かさ。その絶望的で幻想的な矛盾に、幼少期の自分は心惹かれていたのかもしれない。地平線間際、絵の具を好き放題混ぜたような汚い空の終わり。その縁を眺めながら、薄く滲んだ記憶を循環させる。

そうだ。このまま拠点に帰還したら、ベッドに埋もれて一日中眠りこけてやろう。そうして体を回復させたら、また沢山の仕事をゆっくりと消化していこう。おそらく、彼らの引き継ぎ作業もやっていかなければならない。これからもこれまでも、ずっと辛く苦しい事は続く。その輪廻に囚われたまま、私は生きていくのかもしれない。鏡に映る虚像は、いつまでも己の無力を囁くのかもしれない。

それでも。明日が来れば、私はまた前を向く事ができる。明日が来れば、また日々を悪くないと思える。そうして少しずつ、前に進んでいく事ができる。世界オカルト連合の名を、彼らの分も背負って。生き汚くても良い。託された物を、私が繋いでいくべきだろう。


だからきっと、大丈夫なんだ。

「死にたいなぁ……」


jp tele 世界オカルト連合



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執筆者: rokurouru
文字数: 2158
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最終更新: 11 Jan 2024 02:29
最終コメント: 03 May 2023 10:12 by Tutu-sh

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  1. portal:7245815 (07 Jul 2021 17:38)
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