遅すぎた消灯

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ぼくのまちのうえにはでんきゅうがあった。

おとうさんとおかあさんにいってもしんじてくれなかったけど、おとうさんとおかあさんと、いっしょにおでかけしたときに、ぼくがぼうえんきょうでみつけた。

どのおほしさまよりあかるいから、きになっていた。

いつからあるのかどうなっているのか、ぜんぜんぼくにはわからないけど、まいにちおほしさまやおつきさまといっしょにまちをてらしてた。


ぼくのおとうさんとおかあさんはよるおそくにならないとかえってこない。

さびしくて、げんかんでまってたら、かえってきたおとうさんとおかあさんによるはしっかりねて、やすまないとだめだよっていわれちゃった。

ふたりともねるじかんがすくないから、はたらいてつかれたのに、きっとやすめてないんだろうな。


まいにち、だんだんとおとうさんとおかあさんのげんきがなくなってるきがする。

ぼくがだいじょうぶってきくと、だいじょうぶってわらうけど、よくためいきをついているから、たいへんなことがたくさんあるんだろうなあ。


へやのでんきをけすとおとうさんもおかあさんもねるから、たぶんでんきをけすことはねることのあいずなのかな。

だったらあのおそらのでんきゅうのでんきをけしたら、おとうさんもおかあさんもほかのたくさんおしごとをしてるひとも、はやくねれるのかな。

かんちがいでもかんがえすぎでもいいから、いつかあのでんきゅうをけしてみたいな。

でもまだぼくはおそらにてが、とどかない。


今日は凄く蒸し暑かった。外で蝉が鳴いていて、うるさいなあと思いながら、うだうだ授業を受けてた。

突然、教頭先生が教室に入ってきて、僕が呼ばれた。
先生に連れられて玄関に行くと父さんがいて、物凄い汗をかいていた。僕は嫌な予感がした。

「母さんが倒れて、緊急搬送された。」


母さんの顔に白い布が被せられていた。
倒れた後、母さんは一度も目を覚まさなかったみたいだ。

僕は母さんを救えなかった。そばに居ながら、何もしてあげられなかった。

そっと母さんの手を握ってみても、もう柔らかく握り返しては、くれない。
僕は僕が小さかった頃の、母さんの優しい微笑みを思い出して泣いた。


病院を出るといつの間に夜になっていて、空にはあの電球が輝いていた。


母さんが死んだ日から、僕は進路を変えた。
もう家族を失いたくない。


今日から仕事だ。
あの日の後から、高校に行かずに就職することにした。僕が働くようになれば、父さんも少しは楽になるだろう。


今日はとても寒い日だった。あっという間に時間は過ぎて、母さんが死んでから3年半が経っていた。

僕と父さんはいつも同じぐらいの時間に出勤する。でも今日は出かける10分前になっても、父さんは部屋から出てこなかった。

僕はふいに母さんの顔とあの電球のことを思い出した。
急いで部屋のドアを開けると、


そこには、いつものように眠る、もう目を覚まさない父さんがいた。


顔に白い布を被せられた父さんの姿が、あの日の母さんの姿とあまりにも似ているものだから、僕は昔のあの時を思い返しているだけかと思った。

でもそんなわけなくて、僕の後ろで、泣く僕の背中をさする父さんの手も、気配も、匂いももう全てなくなってしまった。

母さんがいなくなってから、母さんがしていたことは全て僕がやった。料理や洗濯、割とやることが多くて大変だった。
けど、母さんの代わりに父さんを支える為なら全然平気だった。

でも、遅すぎたのかな。

もっと早く2人を支える術を持っていたら、2人とも死ななかったのかな。


…そういえば、父さんに叱られたこと、あまりなかったな。

僕は父さんの手首を持って、僕の頬を叩かせた。

「遅いぞって、言ってよ。父さん……。」


思い出した。あの電球のことを。

昔、必死になって、電気を消そうとしていたことを。

もしかしたら、あれが2人を眠らせなかったのかもしれない。

そう考えたら、居ても立っても居られなくなった。

こんなのは、もう、懲り懲りだ。


やっと手が届いた。


だけど、遅すぎた。


父さんも母さんも助けてあげられなかった。

僕が助けてあげられなかった。

ごめん。父さん。母さん。


でもこれでやっとゆっくり休める。
僕も。二人も。そして皆も。






おやすみ、僕の街。


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  1. portal:7220895 (10 Feb 2021 07:37)
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