感謝の味

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「それで、主人は」
女性は、ベッドに横たわる男性を見つめながらぶっきら棒に投げかける。

「奥様。ええ、ご無事ですよ。お仕事中の突然のご報告でさぞ驚かれたことでしょうーーただ、」
医師はまるで悔しい、という風にカルテに目を落とした。

「ただ、左肩に大きな損傷が認められました。そのため左腕へのギク移植の承諾を、今回もあなたにお願いしたいのです」

女性は涙をこらえるかたちをして、それから大きく息を吸った。
「右腕、左足、胃袋と続きましたが今回ばかりは。申し訳ありません」

医師は瞑目し、静かに答えた。
「そうですか」
そして、カルテに重ねられた書類を一枚手渡した。

「なんですの」
「今年度より、補助金制度が定められました。ギクの移植手術により貧困すると考えられる世帯に対し、政府より直々に給付金が与えられます。手続きには一定の基準が定められており——」
「いえ、結構ですわ」
女性は渡された書類を医者に返し、そのまま立ち去ろうと試みた。思いがけぬ回答に医者は目を丸くしていたが、ふと我に返り女性を呼び止めた。

「奥さん、少しお待ちください。書類、ちゃんとご覧になってください」
「はあ」

女性の目は明らかに嫌悪を浮かべていたが、気にもしていない様子で医者は話しつづけた。
「近年、移植を行った部位の利用先が極端に減少しています。以前だと例えば機械嫌いの方だとか、そういう方々に与えていたのですがまあ余談はよしましょう。さて、その減少傾向の打開として、別の方法での金銭支援をご提供しております。この方法への協力を名乗り上げてくださった企業がございます。まずその企業へと移植済部位の輸送を行い、企業側で活用していただくはこびとなります。勿論、手術の際のお支払いが一部のみに限定されるなど、利益の一部分は提供者に何らかの形で還元されます。それがどの企業かを伝えると少し動揺を与えてしまう恐れがあるため、記載しないことになっているのですが……」

先ほどと一変、女性の目は好奇に輝いている。
「その企業とは?」
弟の料理店様です」

医者は覚悟していたが、先ほどとは違う安堵の目がそこにあった。

「それならば主人の左腕も預けられますわ」
その言葉を耳にし、医者も安堵の目を浮かべた。

「了解しました。ではこれよりご主人へギクの移植手術を行いそのまま入院となりますので、奥様は18時に書類に記載された住所へと足をお運びください。それでは、良いお食事を」
「ありがとう、主人をよろしく」


女性は記載の住所へとたどり着いた。
「ほんとうにここで合ってるのかしら」

そこにはこじんまりとした洋風家屋が1件、人がいるようには思えなかったが、主人への愛を思うと居ても立ってもいられない思いだった。

扉を押すと、ベルがチリンと鳴った。
「お待ちしておりました、お客様。既に貴女様の特別な御料理のご用意が整っております。では、お席にお着きください」

若々しく、好印象を与える青年に誘導されるまま、小さな席に座った。

女性がやわらかな椅子に腰かけながら呟く。

「あなた、これからもよろしくね」

左手の薬指に嵌められた2つのリングは煌びやかに輝いた。


jp tale 大正150年 弟の食料品 ウェイター



ページ情報

執筆者: Dr_rrrr_2919
文字数: 7400
リビジョン数: 10
批評コメント: 1

最終更新: 18 Jun 2022 13:13
最終コメント: 12 Jun 2022 04:47 by aisurakuto

z全体的に好みですが、1点気にかかります。

支出を防ぐためにギクにしたくないこの主人公が、最後にその腕の顧客になってしまっているのは良いのでしょうか
[21:41]
もしかして弟の料理店って代金は客とは別のルートから回収してるとかでしょうか……?(私詳しくないので……)
もし仮にそのような特殊な設定が存在するならば、その設定を知らない読者にも伝わるように「代金とってない」事を明記されると良いかなと

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 21:41
砂箱かどこかの設定集で見かけたものから発想した案になります >特殊な設定

Rhapsodyyyyyy — 今日 21:42
弟の食料品は好きなのでこのタイトルを見付けたら読んでみるとは思います
しかし大正150年は専門外でギクってなんだという感じなので、途中で読むのをやめると思います VoteはNVです
今回は最後まで読みましたが、正直なんの話か分かりませんでした
自分の感想としては以上です

k-cal — 今日 21:42
ちょっとよくわからなかったのですが、奥さんは金銭的に厳しいから主述を拒否したのでしょうか? 補助金云々の話が出たうえでも断っていたので混乱しています。
[21:43]
また、これは物語というより大正百五十年における弟の食料品の設定集のような内容になっています。したがって、物語としての面白さは不足してしまっていると思います。私はDVです。

エンジンピテクス — 今日 21:43
ギクは、平たく言えばサイボーグ化パーツですよね。

ここ何と書くと伝わりやすいんでしょうかね……?そうなりますと

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 21:43
「何度も移植を行い、夫の体が失われていくこと」に対する拒否感があるつもりで書いていました。

aster_shion — 今日 21:43
同じく大正150は専門外です。ギクは漢字で書けばなんとなくでも伝わるとは思いますが、カタカナだとあまり想像つきません

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 21:44
ギクについては修正します。

Rhapsodyyyyyy — 今日 21:44
サイボーグパーツ的なもので、高額である事は何となく察しましたが、それでも付いていけなかったという・・・

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 21:45
なるほど

すぎのこpcysl — 今日 21:45
偽躯(ギク)
漢字表記していただければわかるんですけどね (編集済)

エンジンピテクス — 今日 21:45
私も150にガッツリ詳しいわけではないのですが、
「何度も移植を行い、夫の体が失われていくこと」に対する拒否感
これを150ならではの根幹的な設定(もし何か良いのがあれば)と絡めて表現すると深みが出るのかな……?と思ったりです。 (編集済)

Rhapsodyyyyyy — 今日 21:45
あーーわかりました いま話のストーリーを理解しました

eagle — 今日 21:45
大正150年も弟の食料品もよくわかっていないので色々サッパリなのですが、終わり方は好きな方です。
ただ、弟の食料品といえば……な食事のシーンもなく文量も控えめなことから、これからってとこで物語が終わってしまったような印象を受けました。

@Dr_rrrr_2919 - JP
「何度も移植を行い、夫の体が失われていくこと」に対する拒否感があるつもりで書いていました。

すぎのこpcysl — 今日 21:46
そうだったのですね……ちょっと伝わってきませんでした

Rhapsodyyyyyy — 今日 21:46
この人何回もケガしてお金無くなってるけど、今回は機械の身体と入れ替わる生身の部分を弟の食料品に売り渡してお金がもらえますよって話か

@すぎのこpcysl
そうだったのですね……ちょっと伝わってきませんでした

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 21:46
少し説明不足でしたね……

Rhapsodyyyyyy — 今日 21:47
それで夫が機械になっちゃうみたいでいやだったけど、食べて自分の肉体にできるならいいか・・・みたいな

eagle — 今日 21:47
この話では食事描写は必須じゃないと思いますが、やっぱり全体的に薄味に感じましたね…… (編集済)

k-cal — 今日 21:47
夫人が断った理由についてはもう少し明確にした方がいいかもしれませんね

@eagle
大正150年も弟の食料品もよくわかっていないので色々サッパリなのですが、終わり方は好きな方です。 ただ、弟の食料品といえば……な食事のシーンもなく文量も控えめなことから、これからってとこで物語が終わってしまったような印象を受けました。

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 21:47
食事シーンは読者にゆだねる形で行きたかったので、他をよりわかりやすくしていこうと思います

すぎのこpcysl — 今日 21:49
テセウスの船に対する拒否感ネタって壊れた神の教会辺りに何か先行事例がありそうな気がします

エンジンピテクス — 今日 21:50
……1つの提案というか思いつきと言いますか、

ラストシーンなのですが、実は私、一瞬「指輪がどこに着いているのか」を誤読しかけて、ほんの一瞬だけ混乱したんですよね。

直後に「あ、調理された左手に着いてるのか」と気付いて読み解けたのですが、ここを意図的に複数の解釈ができるように書いたら読後感が独特なものになるかもです。(オチそのものに関わるので慎重にせねばですが。)
[21:50]
一瞬てっきり、ウェイターの左手薬指に着いているのかと。
[21:50]
生の身体を失いつつある夫から心が離れてしまったのかなと

Rhapsodyyyyyy — 今日 21:50
ディスカッションにも書かれてますが、「愛する人を食って幸せ、愛する人に食われて幸せ」みたいな話は弟の食料品界隈ではテンプレみたいなものなので、ひとつ、ふたつ捻りが欲しいですね (編集済)

エンジンピテクス — 今日 21:51
そう誤読しかけまして。

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 21:51
ラストはあまり覚えていないのですが、女性の手についているつもりだったような気がします

エンジンピテクス — 今日 21:51
ん!?
[21:52]
あ、自分の手に2つですか?

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 21:52
料理と一緒に出てきて、それを嵌めた感じだったはずです

1

eagle — 今日 21:52
女性の手にリングが付いている=女性に食われて夫も女性の中で生きていく……って話で合ってますかね

1

@Rhapsodyyyyyy
それで夫が機械になっちゃうみたいでいやだったけど、食べて自分の肉体にできるならいいか・・・みたいな

k-cal — 今日 21:53
人を食う、という部分では、こういった形で大正百五十年ならではの精神的な差別化が図れると良いですね。

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 21:53
ただ、アイスラクトさんに指摘いただいた「故人のように扱われている」部分をどうすべきか悩んでいます
[21:54]
夫は生かしておきたいです……

Rhapsodyyyyyy — 今日 21:54
女性の心理描写をもっとした方がよいかなあ
この女性がこういう思想を持つに至った理由がよくわからないので、なんだこいつみたいになっちゃうと言うか
もともと石榴の会員だったりしたら、ああ、そういうやつなのねで済むんですが
[21:54]
そうですね、機械と置き換わる、という部分は他の弟の食料品の話には出てこない所です 現代日本でもやってやれないことはないですが

@Dr_rrrr_2919 - JP
ただ、アイスラクトさんに指摘いただいた「故人のように扱われている」部分をどうすべきか悩んでいます

すぎのこpcysl — 今日 21:54
生殖機能を失ったら家制度的には故人扱いとか? (編集済)

エンジンピテクス — 今日 21:55
上記で言おうと試みてたのは、

「Drさんが本来意図してたオチと、私が誤読した結果の解釈として生まれかけてたオチ、その両方どちらにも取れる文章に意図的にしたら読後感がinterestingにならないだろうか……?」

という事ですね。一応。

1

k-cal — 今日 21:55
全体として、「読者に疑問を抱いてもらう⇒意外な結末」という掌編の基本が守られていないのが展開として弱い部分ですね。

2

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 21:56
なるほど……ううむ

k-cal — 今日 21:57
この記事で出したい魅力が定まって行かないことには改稿が難しそうですね
[21:57]
どんな部分をメインに据えるおつもりですか?

Rhapsodyyyyyy — 今日 21:57
それものすごく聞きたいです

@k-cal
どんな部分をメインに据えるおつもりですか?

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 21:58
「主人の体が機械に置き換わる」所謂テセウスの船的なものを表現したかったのです

k-cal — 今日 21:58
そのテーマだと人肉食あまり関係ない気がしますね

すぎのこpcysl — 今日 21:59
石榴要素……

aster_shion — 今日 21:59
だとしたら弟の食料品部分蛇足では無いですか?

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 21:59
ですが、以前から考えていた大正150年の案と絡められる気がしたので今の形になりました

k-cal — 今日 21:59
なるほど……それゆえにまとまっていない感じですね

1

eagle — 今日 22:00
夫が機械になってくのやだ……→じゃあ生身のとこ食ったろ!という心境の変化はちゃんと描写しないと納得できない箇所ですね

1

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 22:00
どちらも単体だとうまく描き切れないと感じ、没にするはずの案でしたので分けることは考えていません

Rhapsodyyyyyy — 今日 22:01
脳が入れ替わった訳でもあるまいし、腕とか胃とかが変わっただけでそこまで思うか、という共感の問題もちょっとありそうです

すぎのこpcysl — 今日 22:01
眼鏡が日本で広く受け容れられているのは昭和天皇が眼鏡を掛けたからというお話があります(真偽不明)
それまでは障がい者扱いだったそうです
ギクも大正天皇が使っているから日本国民に受容されたのかも知れませんね
主人公の女性には古い差別的感情が残っているのでしょう

エンジンピテクス — 今日 22:01
それならば、その元の生身の体の価値を別ベクトルで事前に高めとくのは……とも思ったりですが、どうでしょう……?
http://scp-jp.wikidot.com/scp-896-jp

そのまま追加で当てはめるだけでは浮きそうですが、そこはうまいこと……

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 22:01
販売員ミヨコですか、なるほど

エンジンピテクス — 今日 22:02
元の生身の体自体が、主人公の女性にとって「配偶者の肉体」以上の価値を持つものだったらかなり印象変わりそうかなと。

1
[22:02]
(上記に挙げた例なら「手に入れた理想」的な意味を持ちそうです。)

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 22:02
それでしたら食人もつながりそうです

boatOB — 今日 22:03
すみません、タイマーを忘れておりましたが5分前です

1

k-cal — 今日 22:03
ちょっと話を戻すのですが、かなり大きな問題として「テセウスの船」を表現できたからといって面白くならなさそうであるという点があります。 (編集済)
[22:03]
なのでテーマから組みなおした方がよさそうです。

1

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 22:04
ううむなるほど

Rhapsodyyyyyy — 今日 22:05
私はむしろ、人が段々機械になっていく、どこまでなら人間でどこからが機械なのか、というのは面白いテーマだと思いますが、
・腕とか胃とかが変わった程度でそこまで思うか
・なんでそれが食ったらOKになるのか
といった所が、記載から奥さんの感情が読み取れず、評価できないポイントになってます

1

Dr_rrrr_2919 - JP — 今日 22:05
夫の機械化と食人をメインに置いて、それに付属する心情を描けるテーマにしていこうと思います。

k-cal — 今日 22:06
個人的にはテセウスの船については知っているので、「どこからが人か」という問い自体には新鮮味を感じませんね。その問いから出発して登場人物の葛藤や思いを描くのであればありだと思います(が困難だとも思います)。 (編集済)

エンジンピテクス — 今日 22:06
たしか、食人を行う文化圏の中には「死者への供養」という意味でそれを行うところが複数あった記憶があるので、作中でそれらに軽く言及して引き合いに出すと良いかも……?

Rhapsodyyyyyy — 今日 22:07
人と機械の境界で悩むなら脳が機械になるか、脳以外全部入れ替わるくらいしないとって思いませんか
アトムも似たようなテーマを扱ってますがアトムは100%機械ですし

エンジンピテクス — 今日 22:07
生身の主人との別れを、その行為で1つ心理的にピリオドを打つ、みたいな。


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