Tale - 双雨 照の夢と過去

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お経を唱える住職の声とポクポク、という木魚を叩く音のみが木霊する。

双雨 照は、同期職員の葬式に来ていた。勤務するサイトは違えど、研修時代は同じ窯の飯を食べた仲間の1人だった。そんな同期職員の死因は、異常オブジェクトに対する研究担当主任の過失によって発生した大規模収容違反に巻き込まれたことであった。

サイトが壊滅し、大量の死人が出て、そのどれもが人としての姿を留めていない酷たらしい死体と化した中で唯一、人としての姿を留めていたのが同期職員であった。死んでしまったが、人としての姿を留めて死ぬことが出来たのはせめてもの救いであると彼女は考えていた。

彼女が最後に同期職員を見たのは数年前、研修期間満了に伴うそれぞれのサイト配属決定の時だった。彼女が保持する異常性 ―― てるてる坊主が付近に2つ出現するというもの ―― は他のアノマリーと比べればかわいげのあるものだったが、それでも彼女がアノマリーであることに変わりは無かった。研修員達の中では、彼女のてるてる坊主に触ると不幸が起こる、などといったありもしない話をするものもいたりと、他の研修員達とは馴染めてるとは言い難狩った。

そんな中、声を掛けてくれたのが亡くなってしまった同期職員だったのである。同期職員の妹が偶然にも軽度の異常性を有していたこと、そんな妹に普通の人として接して来たことから同期職員は彼女にもアノマリーとしてではなく、1人の人として接してくれていたのである。

彼女は、そんな同期職員の存在に心を救われてきた。会えてないと言えど、時々電話をするなどといった交流は続けていた。他愛もない話や上司の愚痴、お菓子トークなどといった年頃の女の子らしい話をしていたのだった。

――などと同期職員との思い出を振り返っている間にサイトに併設されている葬儀場に自分だけが取り残されていた。彼女は、サイトの職員寮にある自室に入り、軽くシャワーを浴びて髪を乾かし、ベッドに倒れ込む。そして彼女の意識は遠退いていき、眠りにつく。

◇◈◆◈◇


「やっぱりお菓子は良いですね」

双雨 照はサイトの食堂で、購買にて買ったお菓子を食べていた。彼女にとって、お菓子とは他の食べ物と一線を画す至高の食べ物であり、休憩時間はよく購買でお菓子を買っている様子が頻繁に目撃されていた。

彼女は研究助手である霧首 日和と一緒に過ごしていた。職務上2人は共に過ごすことが多く、業務外でも行動を共にする様子が確認されていることからその関係性は血が繋がっていないにも関わらず、姉妹の様であると評判になっているほどだ。双雨 照は「ほれ」と言わんばかりに霧首 日和に棒状のスナック菓子を手渡す。霧首 日和は「ありがとうございます」と言い貰ったスナック菓子を食べる。サク、という軽快な音と共にスナック菓子を食べながら、霧首 日和は双雨 照にこういった。

「そういえば、今日の14時から私達オブジェクトの担当職員として実験に主任で参加しますがそんなに食べて大丈夫なんですか?」

「へーきへーき、いつもと変わらないよ。大丈夫、仕事はしっかりするから」

「そうですか」

少し時が経って13時50分。双雨 照が「ふわぁ」とあくびをして席を立つ。霧首 日和も席を席を立ち、2人は収容棟へと歩き始める。しかし、双雨 照の足取りはどこか重く、顔色は優れていないようだった。「ここ最近仕事が切迫していたため、過労によるものだろう。この実験が終わったら栄養ドリンクでも渡しますか・・・・・・」そう霧首 日和は心の中で独り言を言い、収容棟につながる通路を歩いていた。

◇◈◆◈◇

収容棟へのアクセスのため、職員証とクリアランスを認証する。認証直後、カチャンという音を立て、収容棟への扉が開く。双雨 照と霧首 日和は扉の奥にある、第一実験監視室へと向かって歩き始めて数分、第一実験監視室に到着した。

第一実験監視室内には、他の研究職員が既にいた。双雨 照が第一実験監視室に入ってくると同時に研究職員が「本日はよろしくお願いします。異常性の解明に努めましょう」と言う。実験はもうすぐ始まるというのもあってか、監視室内の全員が真剣な面持ちだった。

ブザーが監視室内に鳴り響く。実験が始まったのだ。今回実験をするオブジェクトは、一定範囲に特定時間の間侵入し、滞在し続けた生物の外見に対して何らかのミーム効果を付与する球体というものだった。その範囲は日々拡大しており、普段は「強制的異常効果抑制装置」という機械によって最低限の効果範囲に留め置かれている。今回の実験では、付与されるミーム効果に何らかの一貫性、共通点があるかについての調査も兼ねたものだった。

実験と言えど、Dクラスを投与し、結果を記録し、Dクラスにインタビューを行うという簡単なものだけであった。特にこれと言った一貫性、共通点も見つけられず、その日の実験は、「オブジェクトにより付与されるミーム効果には、一貫性、共通点は見受けられなかった」この一文で片付くものである。



・・・・・・筈だった。

特にこれと言った成果も得られず、実験終了のブザーが鳴る。監視室内では、「特にこれと言った共通点とか無かったですね」や「お疲れ様でした」と言う声がチラホラ聞こえてくる。

「双雨博士、戻りますよ」

霧首 日和がそう言いながら双雨 照の方を見た。そして、霧首 日和は信じられないものを見ることになる。

双雨 照は、強制的異常効果抑制装置の操作パネルに向かって前向きに倒れ込んでいたのだ。霧首 日和は何を見たかすぐには理解出来なかった。そして暫くして気付く、マズイことになったと。

「双雨博士!大丈夫ですか!?」

双雨 照からの応答はない。脈は動いており、呼吸をしていることから気絶したのだろうと予測するも、対人医療かな明るくない霧首 日和は訳が分からず、これは大事だと思っい、周囲の研究員に対してこう言う。

「双雨博士の意識がありません!誰か医療班を呼ぶかサイト内の処置室に連れて行ってください!」

周囲の研究員が双雨博士の方を向く。そこには確かに意識がない双雨 照の姿があった。そして、あることに気付く。操作パネルに双雨 照か倒れ込んだ時の衝撃か何かは分からないが内部回路が一部飛び出てており、壊れていたのだ。静かに強制的異常効果抑制装置は機能を停止していく。

現在のオブジェクトの異常性効果範囲は容易にサイトを飲み込む。このままでは、サイトが壊滅しかねないと思った霧首 日和は無線端末先のサイト管理官に連絡を始めた。

「こちら霧首 日和、実験終了時に双雨博士が意識を喪失。また、強制的異常効果抑制装置の操作パネルの回路が双雨博士が倒れ込んだ時の衝撃で破壊されてしまい、異常性の範囲が急速に拡大しているものと推測されます!至急、サイト全体に避難指示を出してください!」

「こちらサイト管理官。避難指示を発令する。君たちも素早くその場を離れてください」

そう連絡があった。直接、けたたましい音と共に避難指示の警報がサイト全体に鳴り響く。監視室の研究員達は双雨 照を背中に預け、避難の準備を始めていた。しかし、霧首 日和は避難しようとしなかった。それを見た研究員の1人が霧首 日和に向け、言葉を放つ。

「霧首研究員、何してるんですか!避難してください!」

霧首 日和はそれに対して答える。

「双雨博士の助手として、この事態を可能な限り収束させてみせます!皆さんは先に避難してください!」

そう言って研究員を監視室から突き出し、扉を締め、鍵を掛ける。突き出された研究員が扉を叩き、「お願いです、霧首研究員!避難してください!あなたがオブジェクトに暴露してしまいます!」と言うも、霧首 日和は先に避難しててくださいのみしか言わなかった。そして諦めたのか、研究員の足音と声が遠ざかっていく。

「ごめんなさい。双雨博士。わたしが体調のことに気付いていれば・・・・・・」

と独り言を言う。霧首 日和は機械専攻ではない為、どうすることも出来なかった。ただ、時間が過ぎていく。何時間経ったかは分からないが、再び霧首 日和が口を開く。

「お腹すきました・・・・・・何か食べるものは・・・・・・」

と言い、監視室内を見渡す。操作パネルの上には、双雨 照の白衣の胸ポケットに入れられていたチューインガムが落ちていた。それを見つめ、霧首 日和はおいおいと泣き出した。霧首 日和の心の中は申し訳ない気持ちで一杯であり、我慢していたそれが溢れ出した。

「ごめんなさい」

その言葉を最後に霧首 日和は昏倒してしまうのであった。

◇◈◆◈◇

はっとしたかのように双雨 照は自室のベッドから飛び起きる。荒い息をしていて、全身に脂汗が浮かんでいた。最近あの夢見なくなったと思ったのにな、と独り言を言いながら、またシャワーを浴びなければいけない、と若干面倒くさがりながらシャワールームへ向かう。

当時のわたしは、お菓子に目がなくて、血糖値が異常レベルまで上昇した結果気絶して、その時担当していたオブジェクトの影響を霧首ちゃんが受けて異常性が発現したんだっけ、と若干説明気味に心の中で言う。

それでも、過去が戻ることは無い。

私達は未来へ進んでいくしかないのだ。

夢の内容を忘れ、過去を振り払うかのような手振りで双雨 照はポケットからチューインガムを取り出し、それを噛み締めた。


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  1. portal:7178014 (30 Dec 2020 05:31)
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