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20██/12/31 17:00
「よし……っと」
キーボードから手をどかし、マウスに持ち変える。湿布の貼られた手でカーソルを動かし、ダブルクリック。たちまち画面は切り替わり、保存完了とのテロップが表示される。
「ふう、まず一つ目の案件が片付いたな」
くたびれた白衣を着た男が椅子から立ち上がる。よいしょ、という掛け声とともに伸びをして背中の凝りをほぐしていると、目の前からスーツ姿の若い男が歩いてくるのが見えた。
「お疲れ様です、博士。丁度ぼくの方も片付いたところですよ」
「それはいいことじゃないか、流石Anomalousチームの期待の新人研究員と言われるだけあるな」
「もうそれ三年前のことでしょう。いい加減新人とは言えませんって」
スーツ姿の若い男が軽く突っ込みを入れると、その場に少しだけ乾いた笑い声が木霊したように感じた。
「それもそうだな……。まあ、そこは置いておいて。残りの案件を片付けたらゆっくり年越しそばが食えるな」
「そうですねえ。今年こそはゆっくり年越ししましょう!」
そう言い、デスクトップパソコンの電源を落とす。部屋の照明を消し、スーツ姿の研究員と白衣姿の博士はオフィスを抜け、廊下を歩いて行った。
20██/12/31 20:00
「これも問題なし、っと」
Anomalous保管室では先ほどの博士と研究員が点検作業を行っていた。博士が書類にチェックマークを入れ、研究員が取り出して確認する、といった単調な作業。普段であれば単調さ故に苦痛を感じる作業だが、久々の年越しそばを食べれるチャンスということも相まってか、両者とも苦痛を感じてはいなかった。
「にしても楽しみがあるだけでここまで気が軽くなるんですね」
「そうだな。だが気を抜くなよ。去年はそれで不備が発覚して再点検。結局年越しそばが伸びてしまったわけだからな」
「確かにそうですね。一昨年は気が緩みすぎてそもそもの書類作業で時間食っちゃいましたからね」
「そうだ。注意は大事というわけだな。一応念には念を入れておかねば」
「了解です。といってもあと二件のチェックですけどね」
「そういうときこそ問題が起こる可能性があるものだからな」
会話を終え、ロッカーの扉を開ける。研究員の「異常なし」との掛け声とともに博士が書類にチェックを入れる。その作業もあと一回繰り返すだけ。ロッカーを開け、「異常なし」と言おうとした瞬間──
「わあっ!?」
「おいどうした、急に転んで──」
「いや、何かロッカー開けたら急に目の前に飛び出してきて──」
「まあ、まずは起き上がることを優先しないと」
そう言い、博士が研究員に手を伸ばす。伸ばされた手をつかみ、立ち上がった研究員が「一体なんだったんだ」といったその瞬間、突如として部屋の奥からモーター音が聞こえてくる。
「なんだ、この音──」
そう言い、博士が音のなる方向を視線の先に捉える。
「おい、研究員くん。あんなとこにラジコンあったか?」
「いや、なかったはずですね──というかあれ、さっき開けたところに収容されてたAnomalousじゃないですか?」
研究員が保管ロッカー内を指さす。指し示す指の先には、破壊された拘束システムの残骸があった。
「マジじゃん」
博士が素っ頓狂な声を上げた直後、ラジコンが超速で動き出す。瞬く間に保管室の外へと逃げ出したラジコンを見ながら、博士と研究員は唖然としていた。そして二人の脳裏に浮かぶ、収容違反の四文字。
「まずいですよ博士! 収容違反ですって!」
「と──とにかくセキュリティチームに連絡だ! 私は追跡する!」
「でも──博士が追跡するのは危険じゃ──」
「つべこべ言ってられるか! 年越しそば食えなくなるかもしれないんだぞ!」
そう言い、博士は備え付けられていたさすまたを持って部屋を飛び出していった。その後ろ姿はすさまじい熱意を宿しているように見えた。
「おい、待ちやがれ──」
暴走運転するラジコンを追いかけ、博士は全力疾走していた。トイレで躱されたり、休憩室を荒らされたりしたことに対する怒りが博士の中でふつふつと沸き立っていた。
周囲の職員が何かを呟きながらこちらを見ているのに気が付くも、職員に注意を向けることはできない。博士が今考えていることは、「如何にしてラジコンを捕まえ、年越しそばを喰らうか」のみであるからだ。
「申し訳ない!」
そう言い、ラジコンの後を追うようにして購買部のバックヤードを駆け抜ける。近づいた隙にさすまたを振りかざすも、積まれた段ボール箱を崩すだけとなった。
「クッソ、早く捕まりやがれ──」
そういい、カーブを曲がろうとする。……しかし、清掃のため床に撒かれた洗剤により、転倒。上に積まれた段ボールが崩れ、博士は下敷きになってしまうのだった。
「クソッたれが!」
バックヤードに、博士の怒鳴り声が響いた。
結局、アノマリーラジコンが確保されるのは4時間後となってしまった。セキュリティチームによる調査では、拘束システムがエラーを起こしてたらしい。全く、ちゃんと整備はしないとな、といいながら博士と研究員は食堂へと向かった。
「すいません。年越しそばを二つください」
異様に静かな構内で、博士が食堂勤務スタッフに対して言葉をかける。その言葉を聞いたスタッフは若干戸惑っている表情を見せた。
「あの──もう年越してますけど」
「「え?」」
博士と研究員が素っ頓狂な声を上げる。スタッフが指さした時計は一月一日の午前0時30分を示している。直後、博士の口からチッ、という舌打ちの音が零れた。隣を見ると、げんなりとした様子の研究員。博士の視線に気づいた研究員は、疲弊しきった表情で口を開いた。
「博士ぇ……、もうぼくら、“絶対に年越しできない運命さだめの財団職員” でアノマラス申請したほうが良くないですか……?」
「そうかもしれないな……」
年越しの余熱の宿る食堂で、二人は大きなため息をついた。
記事ここまで
やりたかったことは仕事とアクシデントに流されて年を越せない財団職員の話です。評価がどうであれ12/31に投稿する予定ですが、せっかくなら面白くしたいので批評いただければ幸いです。
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任意A任意B任意C- portal:7178014 (30 Dec 2020 05:31)
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