Qコンtale - 情熱の火は消えない

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情熱の火は消えない。

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絵に描いたようなパリの街アート・パリで、ハーロックは目を覚ます。

ベッドの近くの窓から朝日が差し込む。光が顔に当たり、ハーロックが目をすぼめる。

ベッドから降り、床に散乱するチラシや新聞のバックナンバーを踏みつけながら洗面所に向かう。

白色の毛先の広がった歯ブラシで歯を磨き、金属製コップに入っている水で口を漱いだあとに風呂桶に貯めていた冷水で洗顔する。これはハーロックの目覚めのルーチンの一つであり、幼い頃から欠かさず行ってきたことの一つであった。

「ふぅ……」

ため息をつきながら、乾いたタオルで顔を拭く。水分をしっかり取り切ったことを確認し、赤色の洗濯籠にタオルを投げ込む。その足で玄関口に向かい、乱雑に置かれていたクロックスを履いて外に出る。庭にはいくつかの名前も知らない観葉植物が鉢植えに植え付けられた状態で置かれていた。観葉植物に庭から引っ張ってきたホースを使って水を掛ける。

水は観葉植物の葉を滴り落ち、土の中に吸収されていった。ハーロックはその様子を眺めながら微笑んでいた。わかばの上のしずくに朝日があたり、きらきらと輝いている。目に入った光に若干たじろぎながら、ハーロックが立ち上がる。

「お前たち、俺がいなくなっても強く生きていくんだぞ」

少し暗い表情を見せるも、それはすぐに希望にかき消されていった。名もない観葉植物にそう告げ、ハーロックはポストから新聞を取り出してアトリエの中に戻る。

「ふむ、アート・パリが出来てからもう十年か」

手元の新聞  Distribution Artを読みながら水で薬を流し込む。食道を大量の薬が通っていく感覚に吐き気を覚えたが、唾とともにそれを飲み込んだ。新聞には従兄弟の死という痛ましいことが大々的に書かれていたが、それを読むことはない。エッフェル塔の写真の置かれている机の上に新聞を置く。

「んー、今日はあそこの喫茶店にでもいくかな」

呟き、外着に着替える。お気に入りの半袖シャツと紺色のジーンズをクローゼットから取り出す。寝間着を脱ぎ、筋肉質な肌が露見する。早朝の肌寒さが部屋を突き抜け、数回身震いする。

シャツとジーンズが肌に密着し、寒さを軽減してくれた。夏なのに寒い日もあるものだ。そう独り言を呟き、お気に入りの革靴に履き替えて家から外界へと飛び出す。

「やはり早朝の散歩はいいな、空気が澄んでる」

そう言って、彼はアート・パリを闊歩する。赤く照り付ける日差しが、レモンの匂いを纏って吹き抜ける風が、街行く人々全てがアートのように魅力的Coolなこの街でハーロックは生まれ育ってきた。幼いころから超常美術に触れてきたハーロックは大人になると同時にアナーティストとしての才能を開花させていった。絵画・模写・彫刻専攻のアナーティストとしてコンクールで賞を取ることも多々あった彼だが、ここ数年はスランプに陥っていた。

アート・パリも彼の芸術作品の一つだ。SCP-███、或いは単に"魔法の筆"とも呼ばれる、保有者が最高にCoolだと思うもののみをインクがある限り際限なく具現化できるミリペンによって数年前にもたらされたものこそがアート・パリ。財団には扱えなかったペンによって、一夜にしてパリの街はパステルカラーの家々が並ぶ、ファンタジー世界のような街に変わってしまっていた。

街外れの一角にある、黄色の外壁が特徴的な喫茶店を目指して歩く。あそこのフレンチトーストが美味いんだよ。などと独り言を呟いていた彼は、あるものを目にする。それは、"財団"のロゴの入った黒スーツを着用した男性だった。

「すみません  

そう言って男は道行く人々に問いかけていく。何を言ってるかすべては聞き取れなかったが、ただならぬ何かがあるのはわかる。市民は怪しむようにして答えていた。「ご協力ありがとうございます」と言ってさらに前の方に歩みを進める。

  何故、財団が堂々と正体を明かして歩いている?

彼の脳内にはたった一つ、そんな疑問がわいていた。実際のところ、アート・パリができると同時に財団は彼を重要要注意人物としてマークしていた。しかし、財団に所属していないハーロックがそんなことを知るはずがない。

  とりあえず、ばれないように進むしかないか。

ハーロックは内心ため息をつきながら歩みを進める。リュックから今日の朝刊を取り出し、顔を覆い隠すようにして広げる。ちらちらと新聞から顔を出し、前方とエージェントを確認する。

  すみません」

財団職員は時折そう言っては止まる。そのたび、「早く進めよ」と苛立つが、感情を唾と共に飲み込んで影に身をひそめる。ちょこちょこと歩いたり隠れたりを繰り返していたため、当然のごとく市民からは奇人を見る冷ややかな目で見られていた。

「どうして俺がこんな目で見られないといけないんだよ」

愚痴をこぼす。財団職員が前に進んだのでハーロックも歩き出すが、財団職員に取り付けられている小型マイクから発せられた言葉は彼の身体に衝撃の電撃を走らせた。

  ハーロック・アクソンは見つかったか』

財団職員が探していたのはハーロックだった。それもそのはず、Tiamat級の改変事象を発生させた要注意人物を財団は見逃すはずがない。

  捕まったらただじゃすまないな。

直感的に悟る。とにかく逃げようとして辺りをきょろきょろ見渡す。目の前のT字路で前の黒服を避けるようにして 右折する。しかし、これで逃げ切れるだろうという一縷の希望はことごとく途絶えてしまう。

  まずい。

目の前にはもう一人の黒服。逃げられないのかよ!と内心叫びながら、黒服の横を通り抜けようとする。そのよそよそしい動作に違和感を覚えたのか、黒服の野郎に声を掛けられる。

「あの、少しお時間よろしいですか?」

「大丈夫ですけど」

平静を装っているも、内心ガチで焦ってる。思わず焦りのあまり顔に冷や汗をかき、その場で何度も足踏みをする。

  何とかしなければ。現状を打開する方法を考えろ。

脳を全力で回す。

「すいませんが、ハーロック・アクソンという方をご存じですか?」

ここまで来たら、逃げられないだろう。直感でそう悟ったハーロックは、自ら正体を明かすのだった。

「俺だ」

財団職員が「は?」という素っ頓狂な声を上げる。明らかに困惑しているようだったが、そんなことお構いなしにハーロックは続ける。

「俺がハーロック・アクソンだ」

「マジです?」

「マジだ」

コントのような軽いやり取りのあと、少しの間、辺りを静寂が支配する。フリーズしていたエージェントは思い出したかのように小型無線機に向かって何かを告げる。

「何言ってんだ?」

「言うわけがないでしょう」

軽く受け答える。確かにそうだよな、と頷く。そして、ふと頭の中に浮かんだ疑問をため息とともに吐き出す。

「俺を捕まえてどうするんだ? 拷問か? それとも殺すのか?」

エージェントとハーロックの間を生ぬるい風が吹き抜けていく。日差しが一際強く照り付けており、ハーロックの額には汗がにじんでいた。額に浮かんだ汗を服の裾で拭い、エージェントを睨みつける。

「確保します。大人しく捕まって  

ハーロックの胸の内で何かが弾ける。それは言葉となって体外へ放出された。

「いやだ、と言ったら?」

「力づくで  

「じゃあ逃げるね」

言い終わる前に逃げ出す。速度、足の回転ともにフルスロットル。レンガの茶色が集中線を付け足したかのように目まぐるしく、疾走感を伴って移り変わっていく。荒い息を上げながら、街行く人々を押しのけて、財団の犬を撒こうとする。だが、相手はあの財団。勝機は薄いだろう、と心のどこかでは諦めがついていた。

「待ちやがれ  

財団職員がそう言って追いかけてくる。足を最大効率で回し、逃げようとするもその速度の差は圧倒的に財団が上回っていた。彼は灰色の細くて薄暗い路地を右折左折し、高低差のある地形を生かして財団職員から逃げようとするも、先回りされて失敗に終わってしまう。

「クソが! 先回りすんなよ!」

言い捨て、荒い息を吐きながら日の昇りかけているアート・パリを走り続ける。

都市部を駆け、人の海を押し分けていき、再び路地へ。

まさしく命がけの鬼ごっこ。捕まったら死が待っているという事実がハーロックを動かし続ける。右、左、左、右の順に角を曲がり、道の中腹に置かれていたターコイズブルーのゴミ箱を倒して進む。ゴミ箱から大量の残飯などのゴミが放出され、道を塞ぐ。

「これで少しは進みにくくなるだろ」

呟き、更に足を動かす。右折、右折、左折。財団職員は塞がれた道をパルクールを使って通過し、一切の減速なく進む。

「は!? マジかよ!」

表情に焦りが浮かぶ。左折、右折、左折。財団職員との距離はまあまあ空いているが、止まれば一瞬で詰めることが可能な程の距離だ。止まるわけには、いかない。そう思った矢先。

  チッ」

軽く舌打ちする。目の前に立ちふさがるのは3m弱はあるであろう、グレーのレンガの壁。今から登っても、登りきる頃には財団に捕まってしまうだろう。そう直感で悟るのだった。

「いやだけど使うしかないのかぁ」

そう言って、SCP-███を取り出す。インクを切れない限り、際限なく描いたものを具現化できる魔法のミリペン。描くものは決まっている。

スケッチブックを取り出し、黒色インクのミリペンで箒とグレネードを殴り描く。無論、ただの箒とグレネードではない。空飛ぶ魔法の箒と煙幕を発生させるスモークグレネードである。

「またなー」

煽り全開の言葉をエージェントの憤った顔面に送り付け、空に浮かぶ。軽い浮遊感が身体全体を包み、疾走感と共に髪がなびく。

「じゃあ、街外れの喫茶店まで行くか。朝飯まだ食ってないし」

そう言い、スモークグレネードを投げ捨てる。下にはグレーの煙の中で何か叫んでる財団職員の影が見えたが、それを無視してハーロックと箒はアート・パリの水色の空を飛んで行った。

フレンチトーストと、アメリカンコーヒーを頼もうか、等と考えながら。


翌日、ハーロックは全身の筋肉を駆け巡る稲妻のような痛みとともに目覚めた。

「あー……本気で走ったのなんてガキの頃以来だ」

そう言いながら、ベッドに腰かけた状態で脚部に湿布を貼り付けていく。筋肉に鎮痛成分が染み渡り、痛みが楽になるのが分かる。脚はパンパンに膨れ上がっていたが、だいぶマシになってきたんだと思う。

「ちゃんと運動しろってことか」

自嘲的な笑みを浮かべ、白い椅子から立ち上がる。さて、アートを作ろうか。と考えながら、階段を下りて一階のアトリエへと足を向ける。アトリエには彫刻刀や画架などの道具や電動糸鋸などの機械が置かれている。

作るものは決まっていた。完全な球体である。今まで幾度となく挑戦して来たが、その全てが失敗に終わっている。だが、死ぬまでの残り少ない時間にそれを達成しきらないと、死んでも死にきれないというものだ。

「今回で成功しないと、もうチャンスがないな」

早速、彼は金属製の棚に乱雑に置かれていた正方形の木材を手に取った。大きさ約5cm3。早速机に木材を置き、コンパスで削り取る部分に線を引いていく。

線を引き終え、電動ヤスリで削っていく。周りには木屑が飛び散るため、本来であれば防塵装備は欠かせない。だが、残り短い人生ということもあってか彼は防塵ゴーグルとオレンジ色のゴム軍手だけで作業を行っていた。

ハーロックはこれが如何に危険か理解している。宙を舞う粉塵を吸い込めば気管支は炎症を起こすし、飛ばされる木片が肌に刺されば出血もする。だが、癌のステージ4を患い彼は軽く自暴自棄になっていた。

機械の駆動音と、木が削れる音がアトリエ内に響く。木屑は赤茶色の床に嵩張った状態で散乱している。

「よし……ここまでは順調……」

額から汗を流しながら、ボソリと呟く。削る面を変え、満遍なく面に力を加える。尋常じゃないほど集中していることが鬼気迫る様子から分かった。

こういった作業は死の恐怖から逃げられるため、ハーロックは好んで作業を行っていた。削り取る音が、心の中の暗い部分をも削ぎ落としていく。真っ白なポジティブ思考のみになるまで削り続けていく。

この後は数回同じ作業を繰り返すだけだったが、ある時点でミスが発生してしまった。加える力が若干偏ったがために、楕円形になってしまっていた。電動ヤスリの電源を落とし、床と机の上の木屑と粉塵を小箒で掃き、ゴミ箱に投げ込む。

「……やっぱ俺には無理か」

掃除を終えた後、彼はそう言って楕円形の形になった歪な木材を床に叩きつけるようにして投げつける。結局、彼は目的を死ぬまでの間に達成することは出来なかった。涙と汗を流し、うつむきながら、ハーロックは階段を上っていく。

****



三階のテラスで彼はグラスジョッキに注がれたビールを飲み干す。所謂ヤケ酒というものだ。未練が残ってしまう事を悔いながら、ツマミを口に運ぶ。

「やっぱ、最後まで俺は……」

ネガティブな思考に偏ったタイミングで、タバコ取り出す。取り出したそれに如何にも高そうなライターで火を付けて、咥える。彼は喫煙家であり、ネガティブ思考に陥った時にタバコを吸うルーチンがあった。タバコを咥えて、煙を吐き出す工程を何度も繰り返す。

ニコチンの含まれた有毒な煙を肺いっぱいに取り込む。脳を快楽成分が満たし、嫌な現実やネガティブな心をどよりとした色の煙とともに吐き出す。星々が並んで輝く、真っ黒な夜空でグレーのネガティブを含む煙が中和されていく。

「はぁ……」

吸って、吐いて。この至極単純な工程に今まで何度救われたことか、と呟きながら、夜が明けるのを待つ。ツマミを食べて、吸えなくなったタバコを灰皿に押し付け、火を消しながら一言。

「俺が死んだらアートはどうなるんだろうな」

ハーロックは再びビールジョッキを口に付けた。


脳内をつんざくような痛みと、胸の奥からこみ上げてくる胃酸の匂いに叩き起こされる。

ここ数日、アルコールを摂りすぎたせいだろうか、二日酔いというものになってしまったようだ、と冷静に分析しながらキッチンで薬を飲む。

汚部屋と化してる自室で軽食を済ませ、玄関で十分に磨かれた革靴を履き、道なりに進んで街に繰り出す。茜色に染まる夕暮れの街並みにはいつものような素晴らしさはなく、代わりに猛烈な被視感が彼を襲う。

「あー……顔覚えられちゃったか……」

被視感の正体は、十五人ほどの財団の犬達である。牙を研いで、今か今かと彼が隙を晒すことを待っている獰猛な犬どもにハーロックは目をつけられていた。

「いっその事返り討ちにしようかな」

ボソッと呟き、ミリペンを取り出し、スケッチブックに絵を描き出す。描く絵はドラゴン。それも火を吹くやつだ。少なからずとも何人か一般人も巻き込まれるが、財団を追い払うためにはやむ無し。そう内心思いながら、絵を描き続ける。

描き終え、ミリペンを仕舞う。道の真ん中には巨大な  火を吹くドラゴンが佇んでいた。エージェント達が変装を解き、トランシーバーに向かって何かを告げながら展開する。

「おい、ハーロック・アクソン」

後ろから声を掛けられる。振り向くとそこには鬼ごっこの時の財団の犬。二人分の影が縦に引き伸ばされていく。ハーロックは男に向かって煽りを投げつける。

「どうした? 負け犬」

「負け犬はお前だ。今に捕縛されるぞ」

負け惜しみのように吐き捨てる。思わず、ハーロックの顔と口から笑みがこぼれおちる。それを見たエージェントは怪訝そうな顔をして問う。

「何がおかしい」

「いやいや、それはないかな」

そう言い、かつて逃走に使った箒に跨り宙に浮く。これでエージェント達は俺に手を出せない。一方的にドラゴン対財団を観戦することが出来る。真っ赤に染め上げられた空に浮かびながら、彼は笑っていた。

****



ドラゴンが火を吹く。逃げ遅れた一般人はすぐさま焼死体と化し、その場に倒れ込む。エージェントが銃をドラゴンに向けて撃つも、無数に存在するうろこによって銃弾が弾かれてしまっていた。それがドラゴンの怒りに触れたのか、エージェントの頭部を噛みちぎる。エージェントは数回痙攣したあとに首から真っ赤な血を噴き出して倒れ込んだ。

「くそ! 機動部隊はまだか!」

負け犬エージェントが吠える。直後、ドラゴンの尻尾が勢いよく胴体に直撃し、遠くの壁まで吹っ飛ばされる。おそらく死んだか、あばらが全部逝っただろう、とハーロックは考えていた。

広範囲の炎を展開し、次々と財団エージェントを殺していく。その様子はヒトが蟻を踏み潰す様子に酷似していた。家々が焼け落ちるも、そこから焼死体は発見されなかった  一般人はいつの間にかいなくなっていたのである。恐らく財団エージェントが避難させたのだろう。全く、最期までしがらみにとらわれ続ける奴らだな、と罵倒して観戦を続けようとしたとき。

ドラゴンの頭に、ミサイルが直撃する。発射された方向を見ると、そこには財団ロゴの付いた軍服を着用している人々が血にまみれた地面に立っていた。バズーカや大砲などといったものも見当たらない。どこからミサイルを出したのか分からないが、とにかくまずい。頭部が爆散し、汚らしく血をまき散らしたドラゴンの死体を放り捨て、逃亡を開始する。

「対象を発見! 総員、射撃ヨシ」

隊長格の男が指示をする。他の財団の猛犬どもは自動小銃を構え、ハーロックを狙ってトリガーを引いた。銃弾が空を舞う。ハーロックは箒で回避するも、徐々に弾数が増えていく。

辺りに銃声が響き、薬莢が散乱し、硝煙の匂いが立ち込める。いくら箒の機動力があろうと、弾幕を仕掛けられたらよけきれない。箒に弾丸が直撃する。箒はコントロールを失い、自由落下を開始する。

  高度50m。落下したら死ぬ高さ。死なないためには。

ハーロックはミリペンでクッションを空に早描きする。落下数秒前、具現化に成功したピンク色のクッションが地面に展開される。クッションの上に落ちた彼は無傷の状態だった。

爆風のような夕焼けが広がったアート・パリで、彼は街の外れ  アトリエ目指して走り出す。


危機を脱し、アトリエについたハーロックだったが、寿命はすり減っていた。無論、本人はそれを理解しているし、死の運命から逃げる気もなかった。

一時間程度の仮眠を軽くとり、疲れをいやす。勿論、完璧というわけにはいかないが。

寝ている間、ハーロックは夢を見ていた。

幼き頃、家族と共に行ったエッフェル塔の中で、彼の夢は始まる。

家族とともにパリの街を見下ろす感覚。アートのような街を、懐かしむ。

  この時から、アートが大好きだったんだな。

感傷に浸る。刹那、視界が暗転したのだった。光が差し込んだと思うと、目の前には幼き日の自分が立っている。

『もう、終わりだね』

子供が話す。ハーロックは笑って答える。

「ああ、そうだな」

『でもさ、このまま終わるわけにはいかないよね』

  というと?」

『僕の人生は派手だった。だから、最期も派手に散ろうよ』

「はは、いいね。最高にCoolだ」

そうしてしばらく自分と向かい合う。頭の中では派手に散る方法を考えていた   

眼が覚める。不思議な夢だったもんだ、と考えながら寝ぼけ眼をこする。

「最期は  派手に散りたいな」

独り言  正確には彼の理想を吐露する。目立ちに目立った人生だからこそ、最期も生き様同様、目立ちたいと考えていたのである。そう考えた直後、複数回咳き込む。

  もう時間切れか。でも、もう少しだけ」

口を押えていた手と顎にはべったりと赤黒い血がついていた。そして彼は悟る。

  もうすぐ、俺は死ぬ。

脳裏にその言葉と、直感的な余命が浮かんだその時。

ガサッ

庭の方から音がする。窓の外の人影や気配から人数を把握する。一人じゃない、恐らく十数人。何が起きているかは理解できたが、それでも窓の外を見ずにはいられなかった。

カーテンを開け、窓の外を覗き込む。案の定、そこにはダサい財団ロゴの付いた警察のSWATスーツのような装備を着込んでいる男たちが立っていた。

「ハーロック・アクソン」

先頭の男が持つメガホンから音声が発せられる。ノイズ混じりの耳障りな声は止まらない。

「お前は囲まれている。大人しく確保されろ」

言語化できない叫びと共にアトリエを駆けまわる。何か武器はないか。しかし、前日に身辺整理を済ませていたアジトの中には武器は当然なかった。最後の望みを賭け、裏口から飛び出す。

「言ったろう、包囲されていると」

男が淡々と告げる。当然のように財団は裏口の存在を把握している。気づけばハーロックは没個性的な顔の死神どもに取り押さえられていた。腕と頭に痛みが走る。恐らく取り押さえられた時の衝撃だろう。

  もう終わりか。あっけないな。

そう思い、目を瞑る。

揺れる海馬から、懐かしい声が聞こえてくる。

『もう諦めちゃうの? このまま終わるわけないよね?』

その声が、彼の目に再び情熱の火を灯す。

「こちら、第二部隊。ハーロック確保した  

言わせる間もなく、ハーロックが男の顔面を噛みちぎる。瞬間、拘束から抜け出し、皮膚がなくなって神経系がむき出しとなった男の顔面に肘をねじ込む。男の顔面全体から滝のように血が流れだし、その場に倒れ込む。男の腰に取り付けられた拳銃を抜き取り、周りを取り囲むエージェントどものありふれた顔面に銃弾を叩き込む。

インクのかすれたペンでバイクを描く。具現化すると同時にバイクに乗ってエンジンをかけて走り去る。まだ終わるわけにはいかない。

「ハーロックが逃走しました」

エージェントが伝達する。場がざわめくも、すぐに静まる。直後、乗ってきた車に乗り込むように指示をして車を発射させる。

「追ってくるなよ」

そういったものの、後ろからヘッドライトを付けた車が迫りくる。

背後には車に乗ったエージェント達。馬力の違いからか、どんどん距離が縮まっていく。ハーロックがタイヤ目がけて銃を発砲するも、エージェント達の放った銃弾が全身を掠め、貫く。全身から血が噴き出す。身体には小さくあいた無数の風穴。

「クソ!」

叫ぶ。通常であれば痛みで動きが止まるはずだが、今の彼の身体は執念ともとれる目標が動かしていた。アドレナリンが身体中を駆け巡り、興奮状態へといざなっていく。痛みはあるが、堪えられないほどではない、と思考を巡らせ、更に走る。

レンガの地面の上を駆け続ける。目の前の角を曲がり、エッフェル塔へつながる一本道を走る。ラストスパート。バイクの速度を上げ、最高スピードで駆け抜ける。その間、銃弾が腕を撃ち抜き、血が零れる。しかし、それでも止まらない。

エッフェル塔に到着したハーロックは、内部のエレベーターに乗って第三展望階に向かうのだった。

****



「ああ  ここはこんなにも」

エッフェル塔の第三展望階でアート・パリのキラキラとした夜景を眺めながら呟く。全身に穴が開いていて、そこから血が流れ出ている。もうそんなに時間が残されていないことはわかっている。下は財団エージェントによって包囲されている。

「俺もここまでか」

完全に死期を悟る。血が滲んだ唇を動かす。

「最期くらい、描きたいものを描こうか」

スケッチブックを取り出し、ミリペンの先端を付ける。ミリペンのインクは既に枯れていた。しかし、ハーロックは諦めていない。

  ッ!」

手首をカッターナイフで掻っ切り、溢れ出る血を分解したミリペンの中に注いでいく。血が抜けていき、全身の体温がなくなっていく感覚に吐き気を覚えるも、ハーロックは描き続ける。格好よく、派手に人生の幕を下ろすために。

下の階から気配がする。財団が迫ってきているのだろう。

ペンを強く握りしめ、スケッチブックに描き続ける。描くものはアート・パリを吹っ飛ばせる程の威力の核爆弾。自らの精神も思考も記憶も経験もイデアもアイデアも全部込めた、まさに命がけの一作。

流れる血の感覚すら、ハーロックの意識を保つためのものとなっていた。傷口が煮えたぎるように熱い。血管の内から溶岩が溢れてるような感覚が、ハーロックを極限の集中状態へと誘う。

辺りには財団のものであろう足音と、ペンが紙上を駆ける音のみが木霊する。

  あと少し、あと少しで完成するんだ。

カリカリ、というペンの先が紙に擦れる音が止む。ハーロックはボロボロになりながら、満面の笑みを浮かべてスケッチブックを持ち上げる。

  できた。これが俺の望んでたものだ」

そう言ったのも束の間、エージェントが第三展望階に飛び込んでくる。ハーロックの四肢を取り押さえ、トランシーバーで何かを連絡する。

血の抜けていく感覚と、不明瞭な視界だけが残った彼には、何がどうなっているのかは殆どわかっていなかった。だが、それでも  

直後、エッフェル塔の上に、真っ黒で巨大で不格好な核弾頭が出現する。核弾頭は重力に引かれるがまま落下し、着弾。

轟音と共に辺りを白い光が満たす。


未練があったりしたけど、それでもいい人生だったといえよう。



アート・パリが白光に飲まれて崩れていく。




「綺麗だ」





アートはいつか消えゆく。






もうすぐ、全てが終わる。だけど








俺の情熱の火は消えない。








  ハーロックは最期まで笑っていた。


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