tale - 一押しの店(仮題)

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シャンパンを一口嗜む。

ここは都内某繁華街の外れに佇むレストラン「弟の食料品」である。

友人からの勧めで過去に一度訪れてみたが、出される料理は「美食家」である私の舌を唸らせる程の一級品であった。

以来は、定期的にこの店を訪れるようになっている。

本来であれば、美食倶楽部のメンバーにもここの店の存在を伝えたいところだが、どうやら店主はそれなりのひねくれ者らしく、店の情報が外部に漏れることをそれとなく忌避しているようだった。そのため、今やここは私と、私にこの店を紹介してくれた古い友人のみが知っている穴場になっているのだった。

「お待たせしました。神戸牛のステーキになります」

丁度シャンパンを飲み干したタイミングで、ウェイターが料理の載った皿を持ってやってくる。

皿の上には、こんがりとした焼き目のついた牛肉のステーキが載っていた。

フォークを肉に突き刺し、ナイフで一口大にカットしていく。中に若干赤みが残っているのが見える。焼き加減は間違いなくレアだろう。

一口大に切った肉を口の中に入れ、咀嚼していく。

噛むたびにあふれてくる肉汁がジューシーでたまらない。

あれよあれよと食が進み、気が付いたころには皿いっぱいに載せられていたステーキは跡形もなくなっていた。

「ごちそうさまでした。いやぁ、流石は弟の食料品様ですね。今まで食べてきた料理の中でも最高に美味しいです」

「いえいえ、いつも来店してくれてありがとうございます。これからもいらしてくださいね」

「絶対に来ますよ」

代金を払いながら、ウェイターと談笑する。

食後のこの会話も、私にとっては一興である。

スタッフの対応といい料理の腕前といい、ランク付けするなら間違いなく三つ星だろう。

そう思いながら、私は帰路につくのだった。


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後日、いつもとは違う曜日に再び弟の食料品を訪れた。

なんでも、例の友人から「話がある」といって誘われたからである。

「話」が何かは皆目見当もつかないが、とりあえず足を運んだ。

店内には異様な静けさがこびりついていた。そんな中、店の奥からコツ、コツ、という足音が聞こえてくる。

音の先には、スーツ姿の男性――ウェイターが立っていた。

「お待ちしておりました。ついてきてください」

言われるがまま、私はウェイターの後についていった。

暫く歩き、店の奥にある古びた扉の前に到着する。

「こちらでお待ちください」

そう言って、ウェイターが扉を開ける。室内は子供部屋のようであり、積み木などのおもちゃが散らかっているのが見える。

弟の食料品とのイメージとかけ離れた室内の様子に、唖然とする。

暫く時間が経ってから、ハッとして我に返り、ウェイターに返事をしようと振り向く。

「わかりました――」

そう言いかけた最中、私は突然視界が暗くなって――。



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気が付くと、目の前には無機質な天井が広がっていた。どうやら、台か何かの上に寝そべっているらしい。

何故、寝そべっているのか。

咄嗟に状況を理解しようと記憶をさかのぼる。

――確か、友人から「話がある」って呼び出されて。

――そして、ウェイターに店の奥に案内されて。

――店の奥には子供部屋があって。

ダメだ。そこから先の記憶がない。

現状を確かめようと、台から起き上がろうと――

――しかし、その試みはガチャリ、という金属音と右腕に走った違和感によって打ち消されてしまう。

おそるおそる、右腕の方に視線を向ける。

視線の先に右腕は無かった。

べったりとこびりついた血液の赤に、砕かれた骨の欠片。

――何故右手が無い? 何故骨が砕かれている?

そんな疑問を抱く暇もなく、血の抜けていく感覚、そして痛覚が襲ってくる。

言葉にならない叫び声を上げて、その場でのたうち回る。

次の瞬間、左肩に痛覚が走る。

左肩の方に動かした視点の先に、肉切り包丁を持ったシェフ姿の男が立っているのが映る。

「これは……一体? 何で腕を……?」

あふれた疑問をそのままシェフ姿の男にぶつけた。

もしかしたら、助けてくれるかもしれない、という一縷の希望をシェフ姿の男に対して見出していた。

しかし、シェフ姿の男は「目が覚めましたか……残念です」というだけで、質問には答えなかった。

直後、左肩に強い痛みが走り――

どちゃ、という音とともに床に左腕が落ちたのだろう、と冷静に考えようとするも、思考をかき消すほどの痛みに飲み込まれてしまった。しばらくして、何が起きたのかを正確に理解した私の口から絶叫が響き渡る。

「我慢、してください」

シェフ姿の男はそう言って、慣れた手つきで両足を切り落としていく。

周囲には、私の絶叫と肉が裂け、骨が砕ける音のみしか響いていなかった。

度重なる苦痛と溢れる悲鳴で飛びかけていた意識を、痛みが再び連れ戻してくる感覚。

これほどまでに不快な感覚は初めてだ。

しばらくの間、内臓を取り出したり、肉を裂いたり、という工程が続く。

はらわたを引き摺りだし終わったころだろうか。突如としてさかさまな浮遊感が体を襲う。

視界が逆転しているのが分かる。

首元にナイフが当てられているのが感覚で分かる。

これが調理工程だとするなら、これは「血抜き」だろうなぁ、とぼんやりした思考を巡らせる。

「騙すような真似をして、申し訳ありません」

最期に感じたのは、ウェイターの声。そして、喉元をナイフで裂いていく感触。

私が目覚めることは、もう無い。



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ウェイターが俺の前に立つ。

皿にはステーキがきれいに盛りつけられていた。

「お待たせいたしました。友人のステーキから始まるフルコースになります」

「これがアイツかぁ。うまいもんたくさん食っただろうから、味も良くなってるといいんだが」

そういって、俺はステーキをほおばる。

「お味はどうでしょうか」

「いつも通り、美味いな」

「ありがとうございます。本日のメニューのメインは"安心の味"です。安心感を来店を通して与えたことによって、味にアクセントが出ていることでしょう。それにしても、お客様の素材選びのセンスはいいですね」

シャンパンを飲みながら、食事を進める。

次は誰を食べようか


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