Qコン場外乱闘用記事: 埋め合わせ
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プロローグ: 夜に紛れて


深夜2:00、東京の喧騒に満ちた大通りからは程遠い、薄暗い裏路地を男が歩く。男の見た目は壊れたプロテクトスーツに、バイザーにヒビの入ったメット。足元には赤色が滲み、点となって地面に続いていた。

「クソ──全部持っていかれた!」

男が怒声を閑静な道に響かせる。その表情はメットで見えることはないが、怒りや憎悪に満ちていることは容易に想像できた。

ふらついた足取りで道を進む。奥に灯りが見えたのを最後に、男の意識は途切れた。

「ん? ヒト?」

タバコを咥えたウェイター姿の男が倒れている人影に対して独り言を呟く。近付くと確かにヒトである。直後、ウェイター姿の男は人影が異常な程に出血していることに気付く。

「ちょっと──これはまずいんじゃあないか? 兎に角、店まで運んで手当しないと」

そう言い、男は人影を背負い、おぶった状態で暗闇の中の灯り目掛けて歩き出した。


第1章: 夜が明けるまで


いらっしゃいませ、という掛け声と呼び鈴の鳴る音でバー「Corinnne」は開店する。都内某所の裏路地の奥の奥に店を構えているバー「Corinnne」だが、それなりに客は来ているし繁盛もしている。

「マスター! いつもの」

「アノニくん、カクテル持ってきてくれます?」

等の喧騒が店の中を支配する。この店はマスター──ウェイタースーツを着た男のコロンと、コロンに拾われた筋肉質な男、アノニの二人だけで回している。

本来はコロンだけで回していたが、一年前に瀕死のアノニを拾ったことで二人になったのである。

「分かりました! 今行きます」

アノニの張り上げた声が客の間を通り抜ける。バーの裏側に周り、シェイカーにアルコールを入れてリズム良く振って内容物をグラスに移す。移されたそれは沖縄の海のような澄んだエメラルドグリーンをしていた。

バックヤードから表に移動し、客の前ににカクテルの入ったグラスを置く。客の目が輝き、「相変わらず綺麗ですね」という賛辞の言葉が投げかけられる。アノニは照れ臭そうにそそくさとバックヤードへ戻って行った。

「いやー。それにしてもアノニ君が来てからこの店も繁盛してますねぇ」

カウンター席に座ったスーツ姿の男がコロンに向かって喋る。コロンは微笑みを崩さずに答える。

「本当ですよ。血塗れで倒れたから拾ったら記憶喪失で、帰る場所がないから住み込みで働かせたらここまで儲かるなんて。ホントに思いもしませんでしたよ」

「マスター、言い方が悪いですよぉ。運を呼び込む風神にその言い方はぁ」

「おっと。これは失礼」

と、言ってコロンとスーツ男は笑うのだった。その後、コロンはカシューナッツが数個入ったグラス容器と、ウィスキーのロックを男に差し出した。

「そう言えば、最近ここいらで記憶を奪う怪人が出るって噂があるんですよねぇ」

カシューナッツとウィスキーを嗜みながら男は喋る。それに反応したかのように、コロンとアノニは目を鋭く輝かせる。

「おっさん、それってどんなやつだ?」

アノニが裏から出てきてスーツ男に問いかける。──これは実質的に尋問に近い雰囲気だが、そんなことを気にしてはいけないだろう、というオーラが滲み出ている。

「アノニ君、お客様に対しておっさんは無いよ」

コロンが仲裁に入る。アノニは納得したような顔をして、すぐに男に謝罪した。男は「いやいや、大丈夫だよ」と言って話を続ける。

「どんな奴ってねぇ。飽くまで噂だけどさぁ、鋼鉄の様な硬い身体に、記憶を奪う両の手を持ってるって話なんだ。いつもひょっとこ面を被ってて、その素顔を見たものはいないとか」

「……なるほどね」

アノニは一人頷き、納得した表情を見せる。間違いない、アイツだ。と直感で理解する。

KTE-████-██。別名──簒奪者。アノニが記憶を無くすきっかけとなったアノマリーである。データベースによると、手に触れると記憶を奪われる、とか。しかし、記憶を失ったアノニは簒奪者という名前と存在しか知らなかった。その為、Corinnneで働きながら情報収集をしているのである。

「他に分かることってあります? 私──そう言った話大好きでして」

コロンが笑顔で問いかける。コロンも簒奪者のことはアノニから聞いているので知っている。一刻も早く、アノニの記憶が戻ることを願って返答を待つ。

「いや──他には分からないなぁ。興味持ってくれたところありがたいけど、申し訳ないねぇ」

そう言い、ウィスキーを一気に飲み干す。その後すぐにカシューナッツを口に放り込み、駄賃を置いて店を後にした。

「ありがとうございましたー」

軽い言葉を投げかけ、業務に戻る。接客をし、酒を提供する。アノニは最初こそ慣れていないようだったが、一ヶ月も経った頃には少しずつ慣れ始めていた。その様子を思い出したコロンの口から一言、言葉が漏れ出す。

「若いっていいねぇ」

そう言い終わる前に、カランカランと呼び鈴が鳴る。「いらっしゃいませ」と声を揃えて言い、店の奥の席に案内する。

──はずだった。

「おい、お前──」

そこには、ラフなジャケットに身を包んだ男がいた。その男がアノニに対して声を掛ける。

「はい?」

素っ頓狂な返事を返したアノニがその場で止まる。

「こんなところに居たのか! 探したんだぞ!」

男は歓喜の声を上げる。しかし、肝心のアノニはパットしていないようだった。

「申し訳ありませんが──どちら様でしょうか」

「ん? いや──そうか。簒奪者にやられてたんだった」

男は質問に対して疑問を抱き、ぶつぶつと独り言を呟く。その様子を心配したアノニが男に対して声を掛ける。

「どうかしましたか?」

「いや──本当に俺の事分からないのか?」

「ええ。どなたですか?」

「うーん、どこから言ったものか」

そわそわとした様子の男を気にかけたのか、アノニが「取り敢えずお座りください」と着席を促す。男はそれに従って着席するも、そわそわした様子は変わらずだった。そしてしばらくして、男が口を開く。

「俺はユーヤって言うんだけどな」

「はい」

「お前が記憶を失う前に勤めてたところでバディを組んでたヤツだ」

「……はい?」

一瞬の間を置いて、アノニの表情筋が歪む。疑問。内容を甚だ理解出来ない時に人が見せる表情と化したアノニが問いかける。

「その仕事、というのは」

「お、興味津々か! あんま言えないんだけどなぁ……なんて言おうか」

少し思考を巡らせ、再び口を開く。

「そうだなぁ、怪物殺しの仕事かな」

更にアノニの表情が歪んでいく。もう話の内容に追いついていないようにも見える表情のアノニが問いを投げかける。

「怪物……簒奪者みたいなやつですか?」

「簒奪者、まあそうだな……って何で覚えてるんだ?」

男が疑問をぶつける。アノニは淡々と受け答えていく。

「先程いらしたお客様が言ってたので……」

「なるほど……隠蔽が必要だな」

再び呟きを始めた男に、急かすようにしてアノニが注文を聞く。

「あの……ご注文は」

「あー、ウィスキーで」

「分かりました」

そう言ってコロンの下に行こうとした時。

「なあ、戻ってこねぇか? 俺たちと一緒に記憶を取り戻していこうぜ」

男の思いもよらぬ言葉で足が止まる。戻ると言ったって、どこに戻ればいいのかも分からないし、という困惑がアノニの脳内を包んでいく。そして、出た言葉は「いやです」の四文字だった。

「何故ですか? 戻ってくれば簒奪者を見つけるのだって楽になるはずでは」

「だけど──これは俺の復讐で、俺が終わらせる物語だ」

何かかっこつけた言葉を言い放つ。ユーヤは思わず吹き出し、その場にお冷をぶちまけた。

「どうしましたか?」

アノニがユーヤに声をかける。ユーヤは「やっぱ変わってねぇな」と言い、アノニに店から出るように命令する。

「でも、俺は今仕事中だし」

「関係ない、出ろ」

有無を言わさぬ迫力で言い、アノニを委縮させる。

「コロンさん、少し外出てきます」

コロンに向かってアノニが告げる。コロンは「あいよ」と返すだけだった。




裏路地に出たアノニの腹部に強い衝撃が走る。痛みともとれるそれがユーヤの右アッパーであることを理解するのにそうそう時間はかからなかった。

「痛てぇな! 何すんだ──」

直後、顔面にユーヤの左ストレートが直撃する。歯は数本欠け、鼻血が噴き出す。そしてもだえるアノニに対して言い放つ。

「戻らないなら──力づくだ。殴ってあの時のお前に戻してやる」

そう言い、更に拳を振るい続ける。アノニはそれを回避するも、不意を突かれて蹴りを横から入れられて壁まで吹っ飛ばされる。吐血し、その場によろけるが、髪をつかまれて顔に膝を一発。

一方的に殴られ蹴られ、アノニの意識は薄れていく。

「どうだ──戻ったか」

アノニの顔面は血にまみれていた。既に答える気力などなくなったアノニが吐き捨てる。

「戻るわけないだろ」

ユーヤを睨みつける。その目は鋭く、全てに突き刺さるようだった。

少しおじけづいたユーヤに対し、アノニが鳩尾に拳を叩き込む。

「──ッ!」

ユーヤが言葉にならない絶叫をし、吹っ飛ぶ。

「……あ」

ユーヤに近づいたアノニは、ユーヤが泡を吹いてぶっ倒れていることに気付くのだった。

「やっべ、やりすぎた」

そう言い、アノニはユーヤを背負ってCorinnneの裏口へと向かう。




「──で、やりすぎてしまった、と」

コロンが怒りをはらんだ口調でアノニに向かって言い放つ。横にある黒革のソファには治療を施されたユーヤが気絶した状態で横たわっていた。

「はい」

「ここ──"Corinnne"は闇社会のバーってことは知ってますよね? あまりはしゃぎすぎると、客引きも減っちゃうし、最悪他の敵対勢力に叩きつぶされる」

「はい」

「あまちそういったことはしないでいただきたい」

「わかりました」

そう言って、少しの反省会は幕を閉じた。

「すいません、隊長。また一般人に手を出してしまいました」

目覚めたユーヤが夜の街並みを進みながら電子端末で連絡をしている。連絡先は"隊長"と名乗る男とのことだが、それが誰のことを指すのかは分からない。

「え、懲戒処分だけはやめてくださいよ! 今生の願いですから!」

悲しそうな叫び声が、夜のネオンが輝く街に響き渡っていく。


第2章: 夕の暮れた空で



teruteru_5



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執筆者: teruteru_5
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最終更新: 23 Aug 2022 20:12
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