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アイテム番号: SCP-3771-JP
オブジェクトクラス: Nagi1
特別収容プロトコル: SCP-3771-JPは現在無力化されたと推定されます。現在該当地域は巷説部門管轄の重要監視地域に指定され、常時監視下に置かれます。
説明: SCP-3771-JPは長崎県███市██地区で共有される回覧板です。広く知られる不幸の手紙やチェーンメール2に類似した性質を有しており、受け取ってから1週間以内に次の対象に渡らない場合、SCP-3771-JPの保有者は死亡します。SCP-3771-JPにおける"次の対象"には不特定多数ではなく、回覧板に則った形式で受け渡される隣家が指定されます。██地区は人家26軒から構成されており、地域コミュニティは当該集落内で完結しています。
SCP-3771-JPは集落内での受け渡しが行われている限りは異常性を発現しないものと推測されています。このことから実質的な収容状態であると判断されています。現在、財団では巷説部門3より派遣された職員による監視のもと、██地区を利用した第三者収容の形式をとっています。
SCP-3771-JPに関連する情報の初出は、インターネット上に"九州某所にある「廻しのお原」と呼称される排他的な集落について"と題されたものでした。IP情報から、この書き込みが行われたのは「廻しのお原」地域に存在する██地区であることが確認されています。当時、財団はこれを認知していませんでしたが、当該地域の特異性がインターネット上で拡散されたことで認知に至っています。その後行われた書き込み内容の精査結果から、当該地域内にアノマリーが存在する可能性があるとされ、巷説部門による調査が行われました。
調査内容の詳細は以下の資料を参照してください。
記録3771-JP-1
調査報告書3771-JP.1
2003/03/20 - 2003/10/18
執筆者: ██研究員
備考: ██研究員は、周辺地域で「廻しのお原」と呼称され忌避される██地区に一般人に偽装して転居し、記録をとっている。
«抜粋開始»
2003/03/20: 本日潜入目標である家屋に転居を実行。問題は生じなかった。小さな集落であるため近隣住民、とりわけ深く関わる両隣への挨拶を行ったが、冬物の農作物等々こちらが引越しの挨拶に用意した粗品を上回る量を複数譲り受けるなどいずれの住人も人当たりがよく、この集落は外部からの移転者にも比較的寛容であると推測される。
2003/03/24: 住人との会話の中で私が現在居住している家屋の以前の持ち主である屋中氏の話題が出た。巷説部門からの報告通り、屋中氏は老衰で死亡したと確認が取れた。72歳の大往生であり、家族構成は両親が死亡してからは常に独身という話である。
2003/03/30: 数日間集落の人間と会話を交わした結果、月初めからの集落の諸々を決める地域会が今日あることは掴んでいた。しかし私のところに話が来ることはなく、参加は叶っていない。集会所と思しき建物に住人が多数入っていく光景は遠目に目撃したが、呼ばれていない以上は勝手に入っていくことも出来ないため今回は見送るのみにとどめる。転居初日に感じた寛容さからはいささか乖離する扱いではあるが、周辺地域から忌避される習俗等が存在するためか、田舎ゆえの排他性かの判断がつかないため、慎重に馴染む努力を続ける。
2003/05/14: 念の為一ヶ月と半月を待機したものの、一向に回覧板が回ってくる気配はない。また、地域会へ招集の話も一切入ってこないまま先月と同様つつがなく終了したらしいことも確認している。現在回覧板がどの家に存在するかも判明していない。なぜこの家を地域の輪に入れようとしないのかについて調べる必要があるように思う。怪しまれない程度に各家の観察を強化する。
2003/05/18: 今朝方回覧板らしきものを受け渡される光景を目撃した。すでに回覧板は私の家を通過しており、明らかに意図的に回されていない。これ以外ではごく一般的な対応をとってくるだけに、あからさまに地域コミュニティ・ルールに組み込まれることを排除されるのは目立つ。現在得られる情報に限りがあるため、そろそろ地域会への招集が来ない理由や回覧板が回らない理由について慎重に話題に出すことを検討する。
2003/06/03: 財団からの認可が降りたため世話話の中で排他性についてそれとなく質問を行った。その結果、話題が出た瞬間に別の話題を被せられ、まるで触れてほしくないと言った様子であった。以下に音声ログを書き下す。
██研究員: 私もそろそろ、この村の人たちに認められてきましたかね?
集落民: そりゃもう、若かとなんて珍しかけんね。街ん方と違うていっちょん4人手が足らんし。みんな土弄りよぉ毎日さ。
██研究員: ここ地域会とかの集まりってないんでしょうか? 私もこうやって会って立ち話するよりも皆さんの前で一度ご挨拶でも、と思ってはいるんですが。
集落民: あぁ、地域会ねぇ。ありゃ農作物ん作付けとか事務的な報告の場所やけん、一部ん人しか集まらんのやなぁ。やけんこうやって挨拶なり世話話するんならこがん場所ん方がよかばい。みんなあんたんこと悪う言いよぅー人は聞いたことなかしねぇ。安心しぃ。
██研究員: そうなんですね (数秒の沈黙) あぁ、そういえばこの地区って回覧板みたいなものはないんですか? ここにきてからそういうものを一度ももらってなくて不安になってまして。
集落民: あぁ、なかよなかぁそがんもん。畑仕事やっとる人にゃ必要なかよぉ。机仕事やっとぉ人もいっちょん変わらんしなぁ。それよりも██さんは、こがん辺鄙なところきて不便やなかとかい?
[以降複数回地域コミュニティへの参入意思を匂わせてみるも、同じようにはぐらかされたため割愛]
回覧板に関しては存在すら否定している。このことから、この集落は回覧板に何らかのいわくを持っていると推測される。「廻しのお原」と呼称される理由との関連性も調査の余地がある。
2003/07/20: 周辺地域で、██地区周辺が「廻しのお原」と呼称される理由を調査。「廻し」と呼ばれるに至った理由として有力な説としては███郷土資料館で発見した以下の一文が挙げられる。文章は現代語訳済み。
享保18年 ███強訴が発生した。その際に当代領主が殺害されている。███強訴決行前に██地区近辺の農民を集め5、車座に座った上で代表者らが順々に紙を回し、署名と親指で血判を捺印した。
現在資料館にこの傘連判状6は収蔵されておらず、学芸員への聞き込みの結果、██地区に存在している可能性が高いと判明した。以下は該当箇所の音声ログ書き起こしである。
███市郷土資料館聞き取りログ抜粋
Record 2003/07/20
学芸員: どうかなさいましたか?
██研究員: あぁ、いえ。こちらに記載のある██地区の連判って、現存してるんでしょうか?
学芸員: おそらく現存はしていると思いますが、ここには収蔵されていませんね。
██研究員: 現存はしている? では別の博物館等に寄贈された形ですか? いや、話を聞くに現存を確信できてはいない感じでしょうか。
学芸員: えぇ、まあそうですね。おそらくどこにも寄贈されてはいないはずです。██地区には、私も一度寄贈のお伺いを立てに行ったことがあるんですが (数秒の沈黙) うちのもんだからそれは無理だの一点張りでして。
██研究員: 断られたんですか。
学芸員: えぇ (苦笑しながら) だからあちらの集落のどこかにはあると思うんです。可能性は低いですが、あちらに尋ねてみるのも良いかもしれませんね。連判のお伺いの時以外はいい人たちでしたから。
██研究員: あそこは「廻しのお原」と呼ばれて忌避されていると聞きましたが。
学芸員: あぁ、そうですね。でも実際行ってみると噂のように忌避されるような場所ではないですよ? みなさんお優しいですしね。
██研究員: 人当たりがいいのなら、なぜそう言われて避けられているんでしょうか? "廻し"の由来もわかりませんし。
学芸員: そりゃ、その連判作った時の領主殺害が原因でしょうね。おそらく首謀者扱いになったあの地域の人たちと周辺の地域の人々は、身を守るために疎遠になったとかそんなところじゃないんでしょうか……。あまり詳しい由緒は判明していないんですよ。すみません。
██研究員: いえ。為になるお話をありがとうございました。
2003/08/26: 再び回覧板を偶然視認。現物が存在することが確定した。回覧板投函の際、投函者は周囲を非常に警戒していたが、おそらくこれは私を意識していると推測される。
今回の発見は偶発的であったがゆえに私は投函者に発見されている。回覧板はすでにポストの中であり確認する術もないが、住民は非常に慌てた表情を浮かべた後、私を近くに呼び寄せ「この回覧板には絶対に触れず、関わらないこと」を忠告してきた。詳細について尋ねるも、風習・いわく等の理由を用いて追究には至らなかった。
特筆すべき内容として「回しているうちは大丈夫」という発言があったことを書き留めておく。
2003/10/18: ポストに投函された回覧板を目視、撮影に成功した。回覧板に接触はしていない。画像は以下に添付。
回覧板の窃写(一部編集済み)
受領確認のために用意された捺印欄が確認できるが、確認したところ██地区の家屋数と同様の26マス存在する。各家が印鑑やサインを記入しているものの、旧屋中邸、つまり現在の私の住む家の欄に太い油性ペンか何かで黒く『抜』と書いてあるのが確認できる。そして欄の下列中央の枠。崩された赤字で『端』と書かれている。ここの家の苗字は間違いなく佐野であり、決して『端』という苗字は聞いたことがない。つまりこの文字には別になんらかの意味があると推測される。
2003/10/19: 周囲の複数の住民に、「佐野さん、最近見ないですけど元気してますか」と安否を確認。集落の住民は総じて関係ないと言った面持ちであり、普段の和やかさは一切見受けられなかった。
聞き込みの結果、先日感じた妙な雰囲気は佐野家に関することが原因らしく、この質問をした際に非常に胡乱げな目線や、睨むような視線を飛ばされた。回答は一様に「何も言わずに引っ越した」と端的なものであり、本件に対し私に立ち入らせる気はないことが伺える。
«抜粋終了»
付記: SCP-3771-JPは現在、特殊な管理方法によって██地区で収容状態にあると考えられ、暫定的にArgus7に指定されています。巷説部門は調査を継続し、SCP-3771-JPに関して喫緊の対策が必要と判明した場合は第三者収容状態は解除されます。
補遺3771-JP-1: 佐野氏インタビュー記録
██研究員によってもたらされた情報から、佐野氏を捜索・発見しました。聴取後は記憶処理を施し解放されています。詳しい経緯については以下のインタビューを参照してください。
佐野氏聴取ログ3771-JP
Record 2003/10/20
質問者: █博士
回答者: 佐野氏
«抜粋開始»
佐野氏: で、なんなんだあんた。村のクソジジイか誰かが寄越したのか?
█博士: えぇ。まぁそうですね。なんの連絡もよこさずに唐突に引っ越されたとか。
佐野氏: 住むとこ変えるのなんて俺の自由だろ。ジジババに追い縋られるのも面倒だけどあんたらに限っちゃ面識すらねえじゃん。
█博士: ██地区にはうちの同僚がおりましてね。調査の中で、何やら回覧板や地域会から外部の人を排除しているらしいという話になりまして。私たちはその回覧板に何かがあるんじゃないかと目をつけたわけなんですが。
佐野氏: あんなもんただの回覧板だ。頭の硬い奴らがずっと昔からの慣習に従ってよくわからん縛りの中で回覧板を回してるだけだよ。話はそれだけか?
█博士: いえ、もう少しお時間をいただきたい。その慣習についてお聞かせ願えますか?
佐野氏: あんたあれか、民俗学者とかそういう研究者か?
█博士: そのようなものです。
佐野氏: なら本に俺の話した内容でも載るってのか。そりゃいいな。ぜひ実名で載せてくれ。(佐野氏が上半身を机の上に乗り出す) そんでなんだ? あぁ、回覧板の習慣か。
█博士: えぇ。現在██地区に住んでいる知人の話によると、回覧板を見つけた際、住民が「この回覧板には絶対に触れず、関わらないこと」ときつく言い含めたそうです。これがなぜかわかりますか。
佐野氏: 連中は回覧板が正しく次の家に回らねぇと死ぬって信じてるからな。部外者に触られて、下手なことを起こされたくないんだよ。回覧板のコミュニティの中に取り込まれるだけならまだいいけど、これで次の人に回らなかった判定で誰か死んだらとんでもないってな。稲葉……あー、あの集落の長っぽい立ち位置の家が一番反対してたはずだ。地域会でそう取り決めたのも奴が仕切ってたからだしな。
█博士: 死ぬ? 回覧板が渡らないだけで、ですか?
佐野氏: あぁそうだよその通りだ。あの集落で回してるクソみてぇな回覧板にみんな脳焼かれちまってる。全部あれのせいだ。あれは不幸の手紙とかチェーンメールみたいなもんで、それより数倍タチが悪い。なんてったって渡す相手は決まってて必ずまた戻ってきやがる。俺は一ミリも信じちゃいないが、回さなかったら周りの目が怖い。それが逃れることもできず毎年何回も起こる。
渡すだけだって思ったろ、おちおち旅行すらできやしねぇ。辛えよ。
█博士: なるほど。やはり回覧板に異常性があるわけですね。ですが██地区には一見空き家がありましたよね。現在は新たな入居者が入っているはずですが、当初居住していた屋中氏は今のあなたのようにコミュニティを離脱しようとしたことで死亡したのでしょうか。
佐野氏: いんやありゃ老衰だ。で、それよ。屋中の爺さんがポックリいって特に何も起こらないから俺もコツコツ貯めてた金もって村から出てきたんだ。
█博士: つまり、コミュニティから離脱しても周りに被害が行かないことが確認できたから自分も抜けた、と。
佐野氏: まぁな。自分に被害が行かねえと分かったら流石に村の連中も俺を引き止めようとはしねえだろ。まぁ万が一があったらってんで夜に逃げたんだけどな。せいせいしたね。(笑い声)
█博士: なるほど。ではもう一つ。回覧板には屋中氏の欄に『抜』という文字が書き込まれていたそうですが、これの意味はコミュニティから正式に離脱したということを表すものでしょうか。
佐野氏: あぁ? そんなことまで知ってんのか? そうかあの新しく入ったやつがあんたの同僚って言ってたな。
█博士: えぇ、そうです。あなたたちの活動を外部から調査していました。
佐野氏: 7月に"回覧板が見つかった"って話が上がったから稲葉が警戒してたな……んでまぁ質問に答えんなら、そういうことなんだろ。ご丁寧に毎回『抜』って書いてる奴が誰なのかは知らん。
█博士: なるほど。ありがとうございます。ではあなたが引っ越しを行った後、件の回覧板のあなたの欄には赤く『端』という文字が書き込まれていました。これはどういう意味でしょうか。
[佐野氏は眉を顰め、しばし考え込む]
佐野氏: しらねぇ。少なくとも俺は知らん。何たって今まで知る限りじゃ逃げたヤツはいねえからな。
█博士: わからない、ですか。了解しました。では最後になりますが、先ほどあなたは『自分に被害が行かないと分かったら流石に村の人々も引き止めようとはしない』ということをおっしゃっていましたが、どうやら抜け出してきた初日は集落の住民から、少なくない焦燥と緊張感が感じられたそうですよ。
佐野氏: まじで信じてんのかよあんな与太話。ないない。渡されなかっただけで死ぬわけねえだろ。死んだら殺人疑うわ。
[佐野氏は呆気に取られた表情を見せた後、首を横に数回振る。]
█博士: 見てろよ。どうせ誰も死なねえし、死なねえのが分かったらあんたの同僚もあの古臭え村で受け入れられるだろ。
«抜粋終了»
付記: 聴取内容を受け、財団は異常性の大まかな収容方法を把握し、第三者収容の方針を確定しました。この方針に伴い、引き続き巷説部門の人員を潜入させて経過観察を行います。また、佐野氏の語った内容から、稲葉氏は重要監視対象に指定されました。さらに "九州某所にある「廻しのお原」と呼称される排他的な集落について" と題された掲示板の書き込みは、佐野氏自らが行ったものであることが判明しました。
佐野氏は解放してから5日後に非異常性の心臓発作により死亡しました。
記録3771-JP-2
調査記録3771-JP.2
2003/10/19 - 2004/1/12
執筆者: ██研究員
備考: 調査記録3771-JP.1に引き続き、██研究員は一般人に偽装して旧屋中邸に居住し、記録をとっている。
«抜粋開始»
2003/10/19: 昨日の住民たちの態度が嘘のように、引っ越した佐野氏に対する言及等もなく普段通りの和やかな雰囲気に戻っている。正直不気味ではあるが特に悲観した様子もなく、回覧板に関する憂慮のようなものも見受けられない。
2003/10/25: 財団から佐野氏死亡の報を受信。
2003/10/27: 佐野氏宅の両隣の家に住民が集合していたため、これに聞き込みを行う。結果、両隣の幡谷家・木下家の死亡が判明した。住民同士は非常に険悪な雰囲気であったが、両家の死亡を確認した後も警察を呼ぶ様子は窺えない。
2003/10/31: 幡谷家・木下家の死亡を機に、住民同士が互いに監視、牽制するような挙動が顕在化し始めた。部外者の私も監視対象に入っているとみられ、常に数箇所から監視されていると推測される。よって無闇な外出は不可能であり、あれから両家の死体をどう処理したのかは現在も不明である。
重要監視対象である稲葉氏の監視も難しく、部門との定期連絡にも支障をきたすことが予測される。
2003/11/03: 回覧板の並びで見ると幡谷家・木下家の隣に位置する岡本家・酒井家の死亡が確認された。あからさまに監視の目が強化された。外部への連絡に不自由が生じ始める。外で言い争う声がたまに耳に入るが、聞こえた内容は概ね以下のようなものであった。
2003/11/10: 回覧板の並びで見ると岡本家・酒井家の隣に位置する斉藤家・木内家の死亡が確認された。
住民の雰囲気は悪化する一方であり、相互監視によって死亡のリスクを負ってまで集落を離脱する人間は現状出ていない。
2003/11/17: さらに2家が死亡。
2003/11/24: さらに2家が死亡。
2003/12/01: さらに2家が死亡。
2003/12/08: さらに2家が死亡。集落は完全に静まり返っている。
2003/12/15: さらに2家が死亡。監視の目が消滅したことで巷説部門へ連絡が可能になる。対処法の立案には不確定情報が多く、現状有意な行動に移れないと通知あり。
現状の回覧板表記を窃視できたので表として添付。

2003/12/22: 稲葉氏に接触した結果、外部への引越しを進言される。理由には流行病などを挙げてきたものの、その言葉を信用するとは期待していない声音であった。
"すぐにこの家を捨ててどこかへ移り住めるほど資金は潤沢でない"という理由で離脱を拒否した。
2003/12/29: さらに2家が死亡。無・微風の日は空き家から少々饐えた臭いが漂う。

2004/01/05: さらに2家が死亡。残るは私と稲葉氏のみ。

2004/01/12: 稲葉氏が死亡すると推測していたが同氏は健在であった。追跡した結果、同氏は集会場へ立ち寄った後に回覧板やその他を全て放棄し██地区を退去したため、巷説部門へ通信を行った。
稲葉氏の追跡と██地区への収容スペシャリストの派遣を要請した後、稲葉氏に接触し聞き込みを行った。詳細は添付資料3771-JPを参照されたい。
«抜粋終了»
添付画像3771-JP
聴取ログ3771-JP
2004/01/12
質問者: ██研究員
回答者: 稲葉氏
備考: 映像は██研究員の衣服に搭載された小型撮影機によって記録された。
«ログ抜粋開始»
[集会場入り口に現れた██研究員を見つけ、稲葉氏は少し驚いた様子を見せる]
██研究員: 稲葉さん。少しお時間よろしいでしょうか。
稲葉氏: これはこれは、██さん。お久しぶりです。何日ぶりでしょうか。
██研究員: 何をなされていたんです?
稲葉氏: (困ったような顔で) いやね、ここも流行病でどうにも立ち行かなくなってしまったでしょう? あの人たちが一同に会したこの建物も、もうすっかり寂しくなってしまいました。この村のいろいろな所にお別れを、と思いましてね。私もいつ死ぬかわかりませんが (力の無い笑い声)
██研究員: 私は一度もここに呼ばれませんでしたよ。
[稲葉氏は苦笑いを浮かべ、申し訳なさそうに眉を下げる]
稲葉氏: それは、申し訳ないことをしたとは思っていました。
██研究員: (数秒の沈黙) 今は申し訳なさを感じてはいない、ということでしょうか。
稲葉氏: だってあなた、回覧板について探っていたでしょう?
[██研究員が沈黙していると稲葉氏は後ろへ振り向き、机上に置かれた回覧板を持つ]
稲葉氏: 最初の方こそ私も貴方を、あー、と。なんて言いましたっけ、セカンドライフ? に県外から引っ越してきた物好きな若者だなと思ってたんですけどね? しばらく他の人たちから話される貴方についてのお話を聞いていて、どうやらこの村のコミュニティから中途半端に外されている理由を探っているっぽいじゃありませんか。
██研究員: 貴方は気がついていたんですね。いつからです?
稲葉氏: 私が気がついたのは夏ごろですね。資料館からそちらに近々お客さんが一人向かうかもしれないって連絡があった頃ですから、 (数秒思案する) 7月ですかね。その後に回覧板の存在がバレた、と地域会で聞きましてね? そこで確信したわけです。
██研究員: ちょっと待ってください。資料館? ███郷土資料館のことですか? とすると、あそこの職員に伺った話は信用ならないわけですか。
稲葉氏: あぁいえ、貴方が聞いた話は全て事実ですよ。資料もご覧になったんでしょう? 享保の大飢饉の話です。我々の集落は越訴の主犯格のようなものでね、私たちの先祖を中心に祭り上げてこの地域の農民は領主に対して決起しました。その時に作られたのがこれです。
[稲葉氏はこちらへ近寄りながら回覧板をめくり、赤茶色に変色した古紙のようなものを抜き出して██研究員の方に見せる]
██研究員: それは?
稲葉氏: 一連の元凶ですよ。傘連判です。
██研究員: 資料館への提供を渋った理由はやはり、それが持つ何らかの異常によるものですか?
稲葉氏: えぇ。あ、もう他人に回しても問題はありませんし、ここに置いていきますね。その方が貴方たちにとっても都合が良いでしょう?
[稲葉氏は傘連判をこちらへ差し出す]
[██研究員が受け取りを躊躇う手元がカメラに映る]
稲葉氏: 大丈夫ですよ。言ってしまうと、まだこれが効果を持っていたとしても、他の人がこれに触ろうと輪の中には組み込まれはしません。
██研究員: 組み込まれない? 住民は『触らなければ大丈夫』と発言していましたが、彼らはその特性を知らないということですか?
稲葉氏: そうなります。私があえて隠していたんですけどね。これを伝えたら絶対この集落は身内同士でギスギスするじゃないですか。そういうのは嫌だったんです。 (沈黙) まぁ何でもいいじゃないですか。もう既にこれは効力を失った契約書で、貴方はこういうものを調べていて今安全に手に入れることができる。私はついになんの憂いもなくこの村を出ることができる。
██研究員: その回覧板と傘連判は別物ですよね。元凶と言っていましたけど、それなら傘連判の方を回せばいいのでは?
稲葉氏: 昔は連判を巻きつけた木札を回していたらしいですよ。あくまで回さなきゃいけないのは傘連判です。確実に渡されなければいけない。それにちょうどいいのが受領確認ができる回覧板だっただけなんですけどね。いつの間にか勝手に『端』なんて文字が、別物であったはずの回覧板に現れるようになったのには私も驚きましたよ。今となっては、傘連判が毎日チェックリストみたいに家の人が逃げていないか監視して回ってたんじゃないかとも思えてきます。
かつてここで傘連判を車座で廻したからなのか、ここが木札をひたすら廻す集落だったからなのかわかりませんが、ここが "廻しのお原" なんて呼ばてれる理由はそんなところでしょう。
██研究員: (数秒の沈黙) その回覧板の『端』は貴方が書いたものではないと?
稲葉氏: ええ。勝手に現れますよ。それに関しては原理も何もわかりません。ただ、文字の意味はだいたい予想できます。
██研究員: 文字の意味?
稲葉氏: 『端』は文字通り端です。貴方が部屋からろくに出られないうちに『はしっこ』と言う言葉を何度か聞いたかもしれませんね。
██研究員: 覚えがあります。『次のはしっこはそこの家だ」といった推測で一時期もちきりでしたから。かなり大声で口論されていたこともあったように記憶しています。まるで隠す気がなくなったな、とは思っていました。
稲葉氏: 『はしっこ』はそのまま『端』のことですよ。傘連判は一揆や騒動の際に首謀者が特定できないように円形に配された署名と花押のなされた誓約書であることはご存知でしょう? ですから一人でもその円から抜けてしまえばその意図は簡単に崩壊してしまいます。
██研究員: (数秒の沈黙) 円に『端』が生まれると、そういうことですか?
稲葉氏: そうです。『端』があれば、それは四角い紙の右から左に順々に書き連ねたようなものと同じです。明確な順序が見えてしまう。そして『はしっこ』に位置する名前が初めに署名した人間とみなされてしまう。そのどちらもが死亡したら、隣に署名していた家が『はしっこ』になる。そうするとその家が死ぬ。最終的には最後の一人になるまで終わらない。
██研究員: 一人になってしまえば『はしっこ』なんてものは存在しなくなる。そう言うことですか。それは (口籠る) それを貴方はそれを意図的に起こした、と?
稲葉氏: 私はね。こんなことを一回も望んじゃいなかった。貴方の今住んでいるあの家、元々は屋中さんと言う独り身のご老人が住んでましてね、つい今年老衰で亡くなったんですよ。老衰で死ぬのは妥当でしょう? 東北のオシラサマだって、お稲荷さんだって、大往生で死んだ家は祟りや守護の対象から外しますからね。
それでまぁ家が1つ脱落して、この集落の家は25軒。この調子で一軒ずつみんな大往生できたらって、そう思ってたんです。村の外には知られないように、興味を持たれないように。ひっそりとこの傘連判を無害にしていこうってね。
██研究員: そこに佐野さんの引越しですか。
稲葉氏: えぇ。彼は若かったですしね。巷じゃ因習って言いましたか。こんなのは眉唾だ、ご丁寧に守ってたら彼女も作れないし旅行なんかもできない。友人だってできない。この村で一生を終えるのは真っ平御免だ、って日頃そう溢していました。その度に私達はなんとか彼を宥めて、何が起こるかわからないんだと言い聞かせたんです。いえ、あれはどちらかと言えば懇願でしたね。(数秒の沈黙)でも彼は逃げてしまった。まぁ、当たり前です。私には、私達を信じなかった彼を馬鹿だと責めることはできません。
[稲葉氏は手に持った傘連判を眺め、しばらく沈黙する]
稲葉氏: 彼が逃げたことで私が一番最後に残ってしまった。生き残ってしまった。みんなで静かに終わろうねと話していた人は、こうも簡単にいなくなってしまった。一人がこれを受け取れなくなれば、その時点でもう火蓋は切られて誰にも止められないと知っていたのは、私の家だけなのです。今更そのこと伝えて死を待たせるくらいなら、いっそ伝えないほうがいいと。だから、最後までその事実を知る人は私だけでした。
[双方ともに数十秒の沈黙]
██研究員: 貴方はこの後どうするんです?
稲葉氏: さて、どうしましょうか。もうこの村にいる理由はありませんからね。
«ログ抜粋終了»
終了報告書: 稲葉氏は██研究員の通報により集落を出る地点で財団に捕捉されました。ログの内容から、異常事物に対する一定の知識を有していると判断されたため、現在同氏に対してフィールドエージェントによる監視が数名配備されています。
追記: 稲葉氏はその後ホテルに滞在していましたが数日間姿が確認されず、財団が突入した時点で死亡が確認されました。死因は酒の大量摂取による急性アルコール中毒であり、状況から自殺と判断されています。
補遺3771-JP-2: 無力化判断
佐野氏の投稿や一連の出来事の噂により新たないわくが生じ、認知集合論やSCP-540-JPに基づく思念集合による現実改変から実体化を引き起こす可能性を観測するため、██地区周辺は引き続き巷説部門管轄の重点監視区域に指定されました。また、一連の事案発生により、SCP-3771-JPの定義する『端』に該当する人物が存在しなくなったことから、SCP-3771-JPは異常性を喪失したと考えられています。
SCP-3771-JPの異常性の根源となる存在が回覧板と傘連判のどちらか、あるいは両方であることが判明する前に居住者が全員死亡したため異常性が非活性化し、現在再現性の確認が不可能な状態です。そのため、SCP-3771-JPのオブジェクトクラスはNagiに指定されました。
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JPではないGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。
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- portal:7069044 (05 Dec 2020 11:50)



