ある研究ノート: 空色

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私は、SCP-8900-EXの一連の事態に対して、兼ねてから疑問を持っている。私が生まれた頃にはすっかり世界はこの色であったから疑問に思った所で確かめる術などないのだが、本当に、かのオブジェクトは異常な存在だったのだろうか、という疑問だ。つまり、「SCP-8900-EXは本質的に、人類進化における極めて非異常的な認識推移である」可能性はないのか、ということである。

この疑問提起に現時点での自分なりの答えを出すにあたって、まず、色の役割について考える必要がある。まずは現代の我々の色彩学の視点から、旧認識の色彩を見る。

Jacobs[1] p4によれば、色には主に

  • 「物体の発見」
  • 「物体の認識及び識別」
  • 「信号的意味の理解」

の3つの効用が存在する。

「物体の発見」

これは、明るさのみでなく、色味の要素が存在することでその物体がどこにあるのかを発見しやすくなるという効能のことである。これを検証するために木になったリンゴの写真を添付する。
木々の枝葉の中のリンゴを正確に見つけられるだろうか。

りんご2.jpg

難しいだろう。何せ今の私たちからすれば、白黒世界の物体の彩度に差がない場合、形以外での判別が難しいからである。この写真では輪郭が枝葉に紛れて判然としない。緑の背景から赤を弁別して、効率的な果実の認識ができないのである。

「物体の認識及び識別」

これは、それがなんであるかの理解や、2つ以上の色の違う塊があった際に、それらが異なったものであるという識別が促進される効能のことである。これを検証するために下の画像を添付する。

2016%3A6%3A32.jpg

オレンジを食べたければどれを取ればいいか。口に含むまでわからないだろう。似た形で別種類のものを識別するためにやはり「色」という情報は必須と言える。

「信号的意味の理解」

これは、その食べ物の内部の情報などを、副次的に連想させ理解させる効能のことである。
バナナを例にしよう。熟したものから熟していないものまで含まれたバナナのカラー写真を白黒に編集したものを次に添付する。

2016%3A6%3A3%20banana2.jpg

すると、どれが未熟でどれが完熟なのかが全くわからなくなる。見てわかるように色にほぼ差は出ない。未熟なものを食べてしまえば、本来収穫するまで成長したはずの分のバナナはここで廃棄だ。食糧効率は間違いなく悪くなる。例示したものはバナナなため、甘い匂い等から判別がつくかもしれない。しかし、トマトなどから始まり、キノコや毒虫などはどうするか。匂いや見た目からわからないのである。これは生存戦略的に最悪と言っても過言ではない。
「信号的意味の理解」と言う言葉にあるように、色というものは、内部の状態(完熟未熟・金属の高熱低熱など)に関する情報を取得するための信号的な意味合いを持つ。これは「色」を構成する属性のうち、「色味」だけの効用である。「物体の発見」や「物体の認識及び識別」は、「明度」によりある程度理解が可能であるが、いずれにせよ、「色味」の属性が存在するのとしないのでは、生存戦略的の効率は格段に変化するだろう。

先ほどから私が使う「色味」や「明度」というのは、色の持つ属性の話だ。現在の人類は上に例示した内容のように、ものを認識する際に、明るさの情報に加えて色の情報が必須である。これら「色」は3つの属性に大別され、それらを「色の三属性」と呼ぶ。聞き馴染みのありそうな名前で呼ぶとすれば、「色相」、「彩度」、「明度」の3つだ。(下図)

色の三属性.png

このうち「色相」、「彩度」を合わせて「色味」と呼ぶが、これは視野内の大まかな変化1を検出する。対する「明度」は視野内の細かい変化2これらの効用や属性を合わせて我々は、効率的かつ生存上有利な情報取得を可能にする。(とすれば、スイカなどの一部の植物は、外見を赤くしないことで、完熟的信号を与えず、外敵からの捕食を防いでいるのかもしれない。私は色の研究者であって植物学者ではないので詳しくは掘らないでおく)

さて、人間に着目して「色」が生存戦略にどのような影響を与えるかを少々考えてみたわけだが、これら生存戦略の効率化に「色」を用いるというのは自然界の動植物たちにも当てはまる。その方法は実に様々だが、総じて「適応色」と呼ばれる。

適応色%E3%80%80スライド.png
これらを活用する一部の生物は、色の効用を逆手に取ることで、生存や繁栄に有利にしている。環境にあえて埋没すること、つまり擬態であるが、擬態にも複数パターンが存在する。例えば「隠蔽色・保護色」は環境に埋没する色を指す。人間で言う迷彩服のようなものであり、さらに大まかに以下のように分けられる。
環境への類似(姿そのものを周囲の自然環境に偽装する): ハナカマキリ、オコゼ、トカゲ等
色の分断(正確なエッジの隠蔽): シマウマ、オカピ、バク等
体色変化(体表の色素顆粒による、環境の風景に対応した色や模様の変化): イカ、タコ、カメレオン3
体型の変化(落影の防止や、環境へ馴染むための体構造の変化): ヒラメ等
また、先に記述した「信号的意味の理解」は動物にも当てはまり、「標識色」という。人間で言うならば、レスキューなどのオレンジの服などがそれにあたるだろう。これも大まかに大別するなら以下のようになる。
警告色(自身の捕食の危険性を発する警告色): テントウムシ、ヤドクガエル等
威嚇色(目玉模様等): ガ、チョウチョウウオの一種等
擬態(ガ、ハチ、ムカデなどの捕食ヒエラルキー、毒性の高いものに擬態する): 多くの昆虫
認識色(求愛や育児など特定の期間に発現したり意味をなす色): モンシロチョウ、クジャク、サケ等

簡単に例を挙げただけでもこれだけの分類が存在し、これらは進化の過程で自然淘汰が行われた結果の最適解である。いずれも色と密接な関係にあり、多岐に渡った生物の進化と共にあるのだ。言い換えれば、人間以外の生物も、周囲の「色」を認識しているわけである。今の我々、「新色認識」4に生きる人類から見ても、「旧色認識」5世界に生きた人類から見ても、彼らが擬態・警告に成功していたことは当時の図鑑やファーブル昆虫記のような書物を読めば簡単にわかる。彼らの書物には動植物の大まかな色に関する表現が見られる。つまり、SCP-8900-EXによる「旧色認識」から「新色認識」への転換で変化したのは、「彩度に対する認識」のみで、「色相」を含む、世界が持つ「色味」は据え置きということである。6



さて、この認識推移を災害と呼ぶからには何か不便はあるということだろうか。

例を示そう。「美」の基準についてだ。
人間の趣味嗜好は常に移り替わる。異性に対するいわば「美」の基準も変化する。

美人の変遷.png

画像左[2]および中央[3]、平安から江戸における「美人」と、画像右側[4]の近現代における「美人」の要素は大きく異なる。平安時代の美の基準は、「切れ長細目」、「ふっくらした頬」、「ふくよかな体型」、「鼻筋の通った小さな鼻」、「おちょぼ口」などであった。これらは江戸時代に至るまで、髪型や顔貌の変化はあれどあまり変化はしていない。しかし明治時代を迎えるとともに大きく変化していく。「目鼻立ちのはっきりとした」西洋然とした「スリムな」見た目の女性に、美の基準が推移しつつある。画像右側は陸奥亮子夫人の写真だが、現代の美人観でも通用するだろう。これは開国における西洋文化の流入による衣類の変化などに付随して推移しているものと思われるが、やはり本質は人間の認識の問題であり、SCP-8900-EXの件と大きく異なるのは変化に要した期間である。

もう一つ例を示そう。アフリカのある地域には、虹は2色であるという認識を持っている民族が存在する。彼らに「日本の虹は7色である」という概念を教えながら、実際に色紙か何かを用いて赤〜紫までを解説すれば、それは確かに解釈として「7色存在しうる」という認識が生まれるだろう。これは急速な認識の芽生えにあたる。この例で異なるのは、概念がミーム的な性質をもって自発的に広範囲に拡散していくか、特定コミュニティ間で共有されるのみに留まるかどうかの違いである。

これらの例から私が感じたのは、あくまでSCP-8900-EXの持つ認識災害的性質は、本来数年〜数世紀かけてなされる我々人間の認識推移を、本来のそれと比較すればはるかに急速に広範囲に行う促進剤的効果があり、その急速な変化そのものも二つ目の例で非異常性の物でもあり得る現象という結果が出たため、我々に何の支障もないどころか「そもそもミームと言えるのか」ということだった。

かつてのO5-8はこう言った。
空の自然な青は下品で不自然な色合いに変わり、木々の緑は等しく汚された。
と。これは、先ほどの例に当てはめて表現するならば、現代社会においていまだに平安時代のまろ眉、おちょぼ口、ふくよかな体型を「美人」であるとし、現代で一般的に美人とされる人々を「醜悪」と罵るのに等しいのではないか。現代に生きる我々から見れば、かのO5-8は一つの趣味嗜好を持つマイノリティである。そう。マイノリティだ。異常ではない。彼は急速な変化と収容という大義からSCP-8900-EXという認識推移の波を収束させようと試み、「新色認識」を得た人類を「旧色認識」に「矯正」しようとしたことになるのではないか。ともすれば「マイノリティ」の弾圧とも言われかねない所業であるが、SCP-8900-EXが歴としたミーム的異常性である可能性も有り得るために彼のことをを大手を振って糾弾することができないのも事実だ。

一先ず、色の認識に話を戻す。「旧色認識」の世界の色は、我々から見れば白黒の明度のみの世界であるにもかかわらず、彼らには確かに「色」の判別がついていたようである。であれば、前半に話した生存戦略の効率性の話題はクリアされていると見ていいのだろうか。これについてまた一つ考えてみる。



生存戦略の効率性はクリアされているか

「新色認識」の我々は「明度」の要素しかないように見えるが、「旧色認識」の人類は色彩判別において、

  • 「明度をさらに分割したなんらかの属性を知覚していた」
  • 「明度とは全く関係のない別の属性が存在した」

の二択のどちらかを行なっているものと推測される。

「明度をさらに分割したなんらかの属性を知覚していた」場合、彼らは「明度」をさらに属性分割しているため、我々も「明度」のみのモノクロ写真から色の要素を見つけることができるかもしれない。例えば、同じ光量下での色の違いを「赤」や「緑」と呼んでいた場合などである。しかし、これらは同じ彩度の別色相を判別できるという条件を満たさない。言ってしまえば、私はこの思考プロセスを享受して貰わなければ理解が出来ないため、この件に関しては皆目見当もつかないのが実際のところである。
「明度とは全く関係のない別の属性が存在した」場合、彼らは「明度」以外の属性でもって、世界に色を与えていたということだ。私は空特有の「濃淡」を青と定義し、木々の葉特有の「濃淡」を緑とおいた場合を仮定した。空のように大きな範囲内で発生するグラデーションを空色と定義し、木々の複雑に入り混じった濃淡を緑色と表現したのかもしれない。あるいは、全く我々の知覚し得ない第六感的な要素であろうか。
この二択に対して、私は結局のところ「明度とは全く関係のない別の属性が存在した」可能性が高いと結論付けた。理由は以下に示す。

かつて、車や航空機は「白」、「黒」、「灰」、「赤」、「緑」が主流であった。これらは、「昔の車は公用車が主流」という理由や、「塗料技術の問題」という理由が挙げられているが、実際のところ、彼らには、「可視スペクトル内の色味を処理する能力に乏しかった可能性」がある。戦前日本の自動車工場において米フォードの用意したトーンは、赤と黒の2パターンであった。御料車は臙脂であり、フェラーリですら地味な臙脂だった。車の色が少なければ、「濃淡」で見分ける以前に「明度」で見分けることが可能である。71930年頃から関東大震災直後の車輌不足の解消のために輸入されたT型フォードは大衆車として広く普及していった。一般にカタログが出回るようになったほどである。フォード車の形状はどれも似通っている。そうすると、もちろん菊紋などの装飾はあるものの、御料車などの特別車とは見分けがつく必要性が生じた。これらの区別や、日本人の好みが相まって、最初に示した車のカラーに落ち着いたのかもしれない。
初期、日本に入ってきた車はベージュや緑であったようだが、これらは修理を経てほとんど黒に塗り替えられていた。また、戦時中、迷彩として用いた塗装はいわば「濃淡」そのものの模倣だったとも考えられる。

色の濃淡.png

現代の我々が、以下に自然物に溶け込むかを試行錯誤するのに対し、彼らは濃淡の模倣を行うのみであるから、より直感的な行為だった可能性が生まれる。草木の入り組んだ濃淡を体や戦車に塗装して緑をまね、海の反射と陸の濃淡を忠実にまねた結果、航空機や船艇に必然的に青や緑、白を用いていたのではないか。とすれば、むしろ彩度の獲得を齎したSCP-8900-EXは天恵のようなものではないか?



可視スペクトル内の色味を処理する能力に乏しかった可能性

上記で私は「可視スペクトル内の色味を処理する能力に乏しかった可能性」をあげた。これは何の根拠もなしに例示したわけではない。根拠となるものは、当時アンニュイ・プロトコル時に散布された化合物ENUI-5の前に生成された化合物█████、いわゆる「感染症」である。私はこの疑問を抱いて直ぐに、当時の化合物█████の合成再現を行った。

  • Y-909
  • 転写制御因子8Anti██46の受容ニッチを生成するための、██46有する塩基配列を破壊する遺伝子破壊株
  • Anti██46を含む組換えプラスミド
  • 該破壊株に、該組換えプラスミドを導入してなる形質転換促進体
  • 8-カルボキシムコノラクトン及びムコン酸
  • 光受容タンパク質の伝達神経狭窄用オプシン[5]

など、意図的な遺伝子破壊と新規細胞の発生を誘発する有機配列情報が含まれていた。この化合物█████は遺伝子組み換えを行なっているが、遺伝子配列に何らかの影響を与える「何らか」の存在はかねてより確信していた。それが化合物█████由来にしろ、SCP-8900-EX由来にしろだ。ただし上記の内容物を含む化合物█████はそもそも使用を取りやめている為、実際に由来となるのであればSCP-8900-EXということになる。

従来の成分吸入式記憶処理薬に、世代間を超える記憶処理能力は存在しない。にもかかわらず、アンニュイプロトコル施行後に誕生した我々は「新色認識」の概念を継承している。つまり、人体の基本構造部分からの遺伝的な継承か教育環境のいずれかということになる。これは「SCP-8900-EXの影響」か、はたまた「文化的側面からの影響」かの二択になるわけである。

まず私は「文化的側面からの影響」方面でアプローチを試みた。当初、人間は生まれてすぐは旧色世界の認識を保有している可能性を考えていたため、ある実験を行なった。日本の教育現場で一般的な教育を受けさせた子どもと、色に対して呼び名以外の一切の教育を施さない子供を比較した。結果、どちらの子供も「新色認識」の色彩知覚パターンで成長したのである。子供は誕生して直ぐは視力機能が発達していない。1〜2ヶ月間はそれこそグレースケールで世界が見えていると言われているが、これは視細胞の機能の成熟の問題であり、成長につれて認識可能な色数は増加する。[6]: p71
B.Berlin&P.Kayの『色彩用語の全人類の言語的普遍性』[7]: p15によれば、色の認識難易度は白・黒/赤/緑・黄/青/茶/紫・橙・灰/の順に難易度が上がる。 これは言語表現難易度であり、人参を見せて橙をにんじん色と答えるような、その色と対応した名前の一致習熟難易度を示す指標であるから一概には言えないものの、やはり、白・黒・赤あたりが最初に識別可能なようである。これらは経験則の中で勝手に判断されるものであり、色彩判別方法を幼稚園児から聞き取ったところ、色に関する教育を受ける受けないにかかわらず、「新色認識」特有の「色味」属性を用いた色弁別を利用していることが伺えた。これにより、「教育による認識方法の文化的矯正」の可能性は消失した。[8]: 27-31

ここでSCP-8900-EXの影響を考えた。その結果、SCP-8900-EXのミーム性質は、決して人間の人体構造を組み替えるものではないということが確認された。先ほどから私が主張するように、ものの認識方法の更新あるいは推移の促進作用と広域速達伝播性を有している普遍的アプローチ、詳しく言えば、視神経に関連する遺伝子配列に標準で存在しているが機能していない9██45及び██46の活性化を促すことで脳視間神経回路が開通し、「色味」を知覚可能になることで「新色認識」に至る。いわば「壊れた蛇口(██45及び██46)を修理して水(彩度情報伝達タンパク質の制御を行う転写制御因子██45及び██46)が出るようにした」状態だ。(下図)

活性化プロセス.png

このとき活性化した遺伝配列である██45及び██46は、視神経基礎配列として子へ継承される。つまり、「元々体内に存在する機能の活性化を行う性質のミーム」であり、これ自体は超短期スパンであること以外は非超常社会においても歴史上幾度となく発生している文化的、生物的突然変異の延長に過ぎない。

対する化合物█████を用いた矯正試行は、「新色認識」を「旧色認識」に矯正するために、視神経制御を司る遺伝配列から██45及び██46の配列を破壊してAnti██45及びAnti██46の再受容を行う力技である。いわば「導電体(██45及び██46)を絶縁体(Anti██45及びAnti██46)に置換した」状態だ。(下図)

化合物█████の差し替えプロセス.png

遺伝子組み換えであり、彩度感知機能を非活性化させるための、いわば強制退化手段である。しかしこの化合物█████は、副作用が存在した。これは、転写制御因子██45や██46に原因がある。これに関して少々人の色彩感知メカニズムに触れる。

【色彩感知メカニズム】
脊椎動物の網膜は、検知した光を電気信号に変換する細胞を備える。これを視細胞と呼び、桿体細胞と錐体細胞の二種類に分けられる。その内、錐体細胞は色彩を司る。

色覚センサー表.png

錐体細胞には光受容タンパク質オプシンと呼ばれる色受容センサーが存在するが、脊椎動物の祖先は(紫、青、緑、赤)の四種類を保有していた。進化の過程で哺乳類は(青・緑)のセンサーを失った。このセンサーを失った原因は夜行性生物によくみられる転写制御因子Six6及びSix7の欠落であり、これらは青・緑の波長の光感度を著しく低下させた。これは認識可能な物体を激減させるため、生存競争を勝ち抜けない。そのためヒトの祖先は(赤)センサーを倍化させることで変型3色型色覚と呼ばれる状態に移行する。これは、倍化させた(赤)センサーに(緑)の感知ができる性質を持たせ、(紫)センサーに青を受容できる広域性を持たせた結果である。[9]: 111,113(上図)
「旧色認識」状態のヒト種は、これらの彩度感知機能が備わっていたが、色味を制御するための転写制御因子██45及び██46の非活性(水が出ない蛇口)により伝達が行われず、結果として明度のみの世界認識となっていた。この時点で既に、ヒト種のDNA配列には新色認識の下地が整えられていたものと見られる。

色認識範囲グラフ.png

当初SCP-8900-EXの対抗として開発していた化合物█████には転写制御因子Anti██46が含まれていたものの、転写制御因子██46には(赤)センサーの制御を司る効果があるほか、██45及び██46はSix6、Six7同様、(赤)センサーの形成分化の基礎遺伝情報である。このため化合物█████により██46Anti██46に置き換えられた結果、紐付けられていた転写制御の損失により(赤)センサーが機能不全を引き起こし、連鎖的に視覚可能な色範囲のほぼ全ての喪失を引き起こした。(グラフ)

結果として視脳細胞の伝達が遮断されることで精神影響をきたし、「口がきけない」という副作用をもたらしたものと思われる。これらの安全な再不活性手段は当時の研究資料によれば一定の成果を上げておらず、8900の拡散速度を危惧した監督司令部により化合物ENUI-5を用いてのリセットに踏み切ったということだろう。実際にアンニュイ・プロトコルを実行する必要があったかどうかは、私は当時の世論の反応を見ていないため言及は避ける。



SCP-8900-EXの影響とその社会的見方

以上から、SCP-8900-EXが遺伝子上の進化を促すことが確実視出来たわけであるが、遺伝情報である以上は稀に遺伝疾患として現代に発現、いわば先祖帰りのような現象が発生するのは避けられない。それが色覚異常、色覚障害と呼ばれるものであり、この定義は正確ではない10ものの、検査によって細胞が存在するにも関わらず伝達回路狭窄による色彩淡化が発生している場合が発覚することがある。色覚異常患者は男性の遺伝率は95%、女性は99.8%であり、明度のみでしか認識できない「完全旧色認識」[10]]: p165の発生確率は発覚事例が数えるほどしか存在しないものであるが、これらはいずれも医療福祉の発展した先進国でしか症例が上がっていない。つまり、医療の追いついていない発展途上国ではこれら以上に「完全旧色認識」患者は存在し、他疾患と同様に、生存率が一段落ちるものと思われる。なお、これは財団内部では異常疾患に数えられているものの、PoIとして認定はされていない11他、WHOも重度色覚異常的普通疾患とする判断を下した。[11]: 28 55-57



異常性の基準

SCP-8900-EXは本当に異常認定されるべきものであったのだろうか。私は上に書いたように、SCP-8900-EXを拡散性のミームであると表記した。もちろん、私の財団職員としての立場から言えば、SCP-8900-EXは異常ということになる。だが私は同時にこうも考える。

SCP-8900-EXの急速な進化促進は本当に異常なのか? と。

いわば新法則が学会に認知されるように、私が財団に加入して4次元を定理上の存在からこの目で観測したときのように、虹の色に数多の色分類の可能性を見出すように、それはあくまで人間の自発的なアプローチに対する新たな解釈の入手に過ぎず、多面的な視点の獲得にすぎず、それはミーム的異常ではなく新たな可能性への好奇心なのではないか?
写真媒体の可能性を見出した人々と新たな技術による情報流通が齎した非異常性の急速拡散ではないのか?

戦争経験者の認知症患者に当時の歩兵銃を持たせると脳内情報が活性化されるのと何が違うのだろうか。これを異常と結論づけるのは過去からの逸脱を恐れる人間の傲慢ではないのか? 技術と自然摂理の発展から生み出された効果に対して、それを異常と認定し、人類の進化を阻害するどころか一時的にでも退化を促進する手段をとった我々と、実際のところどちらの方が異常だろうか。確保、収容、保護の理念は、人類保護を謳うが、日々加速する人類の急速な進歩を妨げることにすら、人類保護の大義名分を振り翳せるのか?

我々は暗闇の中に立ち、それと戦い、封じ込め、人々の目から遠ざけなければならない。正常の守護者であって、決して正常の管理者ではないことを念頭に置くべきではないのか。

参考注
1. 近江 源太郎 『カラーコーディネーターのための色彩心理入門』(2004) p4 jacobs 『色の効用』
2. 鈴木 春信 小野小町 (1762 - 1773)
3. 喜多川 歌麿 『寛政三美人』 (1793) 富本豊ひな(上)、難波屋おきた(右)、高島屋おひさ(左)
4. 陸奥 亮子 明治21年頃 (1888)
5. 小川 洋平、白木 知也、浅野 吉政、武藤 彩、川上 浩一、鈴木 豊、小島 大輔、深田 吉孝 "Six6 and Six7 coordinately regulate expression of middle-wavelength opsins in zebrafish" (2019)
6. 松村 佳子、中田真代 "A Study on Children's Knowledge of Color" (1991)
7. 江幡 潤 『色名の由来』 (1982)
8. 【自著】 『小児成長時における色彩判断と色数拡張性』 (未発表)
9. 河村 正二 "Evolutionary diversity of cone opsin genes and color vision in fish and primates" (2009)
10. P.W.███████ 『財団指定特定医療疾患及び異常疾患 第15版』(1998) 眼系疾患p165
11. P.█████, K.███████『████ 34回 疾患報告書から見る異常疾患の定義』(2005)


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執筆者: kihaku
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最終更新: 17 Jun 2023 13:45
最終コメント: 30 Apr 2023 12:56 by Kajikimaguro

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