かつて俺は俳優になりたかった。人々を守る正義のヒーローに憧れたし、荒野を駆ける不屈のガンマンに胸躍った。どこぞの教授の大冒険に夢膨らませ、元警官がテロリストをぶっ潰していく姿に自分を重ねた。そんな夢をスクールのダチに語ったときに返ってくる言葉は、たいていの場合半笑いの「そのツラでか?」だったが、ガキの夢なんてそんなもんだろ?
結局夢は夢で、現実を知った俺が妥協の末選んだのはスタントマンだった。顔は映らないが、スクリーンの前で「このシーンは主演の男優がビビってたから俺が代わってやったんだ」なんて嘯くのを目標に体作りに励んだ。そうして思い浮かべていた未来予想図は、左脚と一緒にヤク中の運転するトラックにもっていかれて粉々になった。
そこから先はよく覚えていない。多分なにかの実験で暴露したオブジェクトの影響を掻き消すために記憶処理剤を使ったことが原因だと思う。とにかく、俺は自分を私と呼ぶようになり、財団の研究員としてのキャリアを重ねていた。
常に恐怖がつきまとう毎日ではあったが、私にとっては充実していた。演じるのではない、本当に世界を保護している。画面の向こうの英雄と比べれば手を濡らす血の量がいささか多く、あるいは人によっては悪役だと嗤うかもしれないが、少なくとも私は満足していた。
再びすべてが壊されたのは[2019年3月5日]。いや、その前の年の12月から事態は始まっていたのだったか。かつて私のすべてを奪っていったのは狂ったドライバーだったが、今回狂っていたのは世界であり、私だった。Xデーまでにみんな仲良く死にましょうなんて囁いてくる死神アバズレの誘いを幸運にもうんわるく蹴っ飛ばした私にプレゼントされたのは、最悪の賢者タイムであり自分以外誰ひとり残っていない地球という現実だった。
気づけば私は博士で主任研究員なんて躍進を果たしていたが、私をそんな肩書で呼ぶ部下ももうひとりもいないし、研究対象はとっくにNeutralizedされていた。窓際部署もいいところだ。
これが映画やドラマなら、地球最後の一人、奇跡の生存者なんてアオリ文句が入ったんだろうが、私にとっては悪夢以外のなにものでもない。私の最期だってとっくに近づいている。既に収容違反されつつあるアノマリーに巻き込まれて死ぬ、それが私に約束されたエンディングだ。あるいは、その前に自分で幕を引くか。アノマリーに関われば死より酷い結末に辿り着く可能性があることを考えれば最善は自死だろうが、そんな覚悟も狂気も私は既に失っていた。
世界のために、財団のためにというお題目を背負っていれば、このちっぽけな拳銃のトリガーを引く覚悟はあったかもしれない。あるいは死神の誘いに乗っていれば、狂気に身を任せ夢の中で死ねたかもしれない。だが生憎今の私はシラフで、しかも犬死にが決定している。クソだ。
いっそ暴発して勝手に殺してくれないかなどと祈りながら拳銃を荒く放り、窓の外を眺める。クソみたいにいい天気だ。エンディング日和だな、畜生。雲ひとつない青い、青い空ブルースクリーンはバグって終わった世界にはお似合いだった。
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任意A任意B任意C- portal:7062414 (27 Nov 2020 21:27)
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