SCP下書き「カニタコ理髪店」

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アイテム番号: SCP-XXXX-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-XXXX-JPは現在、SCP-XXXX-JP-1の実績を受けて、エリア-8173管理官と担当責任者の承認のもと、エリア-8173住民に対する営業が認可されています。SCP-XXXX-JPの営業時間中は最低でも1人の担当者が派遣され、SCP-XXXX-JP-1の活動を監視します。その間、担当者はレジ係としてSCP-XXXX-JPの営業を補佐してください。担当者の派遣はSCP-XXXX-JP-1に対して「土地貸し出しの条件」と説明されます。

SCP-XXXX-JP-1には、安全・制御不可能程度の職員と同等の労働権、及び友好的人間性保持オブジェクト標準取扱手順が適用されます。SCP-XXXX-JP-1が当該手順で制定されている基準を大きく逸脱した場合は、必要に応じて当該手順で制定されている権利を剥奪してください。

説明: SCP-XXXX-JPはエリア-8173に存在する理髪店です。SCP-XXXX-JPの外装、及び内装は、SCP-XXXX-JP-1の活動を補佐する非異常的な構造が見られる以外は、一般的な理髪店と同様の構造を有しているように見えます。SCP-XXXX-JPはその発見経緯から現実改変に類する異常性を保持していると推測されていますが、SCP-XXXX-JP発見以降その異常性が活性化された例が存在しないため詳細の研究は進んでいません。

SCP-XXXX-JP-1はSCP-XXXX-JP内に生息し理髪店を営んでいる、シオマネキ(学名: Uca)に類似した外見を持つSCP-XXXX-JP-Aと、マダコ(学名: Octopus sinensis)に類似した外見を持つSCP-XXXX-JP-Bの総称です。SCP-XXXX-JP-1は共通して人間に対して友好的な、物理的作用力を持つ霊的実体であり、日本語を母語とする対話が可能です。

SCP-XXXX-JP-Aは甲幅100mm程度の大きさを持つシオマネキに見えます。利き腕1は左側であり、櫛状の不動指を持っています。右鋏脚は非異常なシオマネキと比べて非常に鋭利であり、一般的な金属製のハサミと同程度の鋭さを持っています。また、右鋏脚不動指の甲殻は二重構造になっており、外側の甲殻がSCP-XXXX-JP-Aの意思で可動し内側の甲殻を露出させることが可能です。内側の甲殻は左鋏脚の不動指の甲殻と同様櫛状になっており、内側の甲殻が露出した状態の右鋏脚はすきバサミと同様の働きをします。SCP-XXXX-JP-Aは一般的なカニと異なり呼吸困難でない時にも泡を噴き、この泡の成分は解析の結果、シェービングフォームと相似していることが判明しています。

SCP-XXXX-JP-Bは外見的には一般的なマダコから逸脱した点はありません。SCP-XXXX-JP-Bは墨汁嚢2で未知の成分で構成された洗髪料を生成します。研究の結果、この染髪料は一般的な染髪料の成分と比べ極めて刺激性が低いことが判明しています。

SCP-XXXX-JP内で行われる営業においては、SCP-XXXX-JP-Aが散髪と顔剃りを、SCP-XXXX-JP-Bが洗髪、染髪、その他雑務を担当しており、理容師免許を所持している財団職員からは「SCP-XXXX-JP-1を総合的に見れば理容師として上位の技術を持っている」と判断されました。

補遺1: SCP-XXXX-JPは20██/██/██、エリア-8173の一般居住セクターに居住している伊藤 ██氏からの通報で初めて確認されました。以下は当時の録音記録です。

    • _

    通報者: 伊藤 ██氏

    応答担当者: 須堂事務員

    付記: 伊藤氏は記録当時の14年前に実父が異常性を取得しており、以降はエリア-8173内の一般居住セクターでAO関係者として生活しています。また、財団運営の███学園において、SCiP発見時の対応について講義を受けた経験があります。

    <録音開始>

    須堂事務員: はい、こちらSCiP相談センターです。ご用件をどうぞ。

    伊藤氏: あ、もしもし、えーっと、なんか変なのを見つけたんですけど……えっと、私今学校の帰りで██商店街を通ってて、それで、今朝は空き地だったところが空き地じゃなくなってるんです。

    須堂事務員: ██商店街ですね、少々お待ち下さい。(エリア地図を確認する)えーと、██青果店の左隣にある空き地で間違いありませんか?

    伊藤氏: そ、う、ですね、はい、あってます。あ、えと、今のところ気分が悪いとか体が痛いとかはなくて、今はそこを過ぎた角を左に曲がったところにいます。3

    須堂事務員: ありがとうございます。今から現場にFtM4の隊員が現場へ向かいますので、通話したままお待ちください。体調に違和感を覚えたらすぐに言ってください。

    伊藤氏: わかりました……えっと、それで、さっき見えた限りの情報なんですけど、言っても大丈夫ですか?

    須堂事務員: 少々お待ち下さい。(ミーム災害濾過フィルターを起動する)はい、それではお願いします。

    伊藤氏: あの、多分なんですけど、床屋さんができてるんだと思います。空き地にできてた建物の前にあの回る筒5が置いてあったので……

    須堂事務員: (メモをとりながら)なるほど……他になにか見えたものはありますか?

    伊藤氏: (数秒唸り声)……見間違いじゃないと思うんですけど、タコとカニがいました。一匹ずつ。

    [以下、重要度の低い会話が機動部隊到着まで継続する。]

    <録音終了>

    補遺: 伊藤氏は異常性暴露に対する各種検査で問題がないことが確認され、後日報奨金と感謝状が贈答されました。

伊藤氏からの通報によって駆けつけた機動部隊ゑ-17("先遣隊")による初動調査の結果、直ちに影響を及ぼす危険はないと判断され、Dクラス職員による内部調査が決定しました。以下は第一次内部調査の際の音声記録です。

    • _

    派遣人員: D-652246

    後方指示:東道研究員

    補佐部隊: 機動部隊ゑ-18("対労災係")

    付記: D-65224には指示用のワイヤレスイヤホンとピンマイクを装備させ、機動部隊ゑ-18がSCP-XXXX-JP前でいつでも突入できるように待機していた。

    <録音開始>

    D-65224: (入店。入店時ドアベルの音が鳴り、SCP-XXXX-JP-1らが気付く)

    SCP-XXXX-JP-A: いらっしゃい。7

    D-65224: あ、はい、えーと……床屋、でいいんですよね?

    SCP-XXXX-JP-A: (笑い声)そりゃあんた、有平棒8が出てんだから床屋だろうさ。

    D-65224: そ、そうですよね、すみません……(小声で)え、そうかなぁ……?

    東道研究員: (イヤホン越しに)特別な指示があるまでは普通の理髪店と同じようにすごしてください。

    SCP-XXXX-JP-A: 今他にお客さんいないから、ここ座っちゃって。(左鋏脚でバーバーチェアを指す)

    D-65224: あぁ……はい。(着席)

    [一般的な理髪店と同様の手順が進むため省略。SCP-XXXX-JP-1は特殊な電動昇降機を使用して高さを調節している。]

    東道研究員: 今喋れますか? 喋れそうならそろそろSCP-XXXX-JP-AにどうやってここにSCP-XXXX-JPを出現させたか聞いてください。

    D-65224: あの、(言葉を探すように沈黙)なんでここに店を開くことにしたんですか?

    SCP-XXXX-JP-A: ん? あー、この辺りって何って言うか、妙なやつら9多いだろ? それならカニやタコが床屋やっても目立たないだろうって言われてな。

    D-65224: 言われたってことは、誰かにアドバイスを受けたってことですか?

    SCP-XXXX-JP-A: あぁ。床屋をやろうってきっかけになったやつにな。丁度いいから聞いてってくれよ。俺も昔はいっぱしに夢なんか持っててな、月に行ってやるなんて言ってがむしゃらに努力して、外国にまで行って試験を受けたんだよ。落ちちまってからはその反動で落ちぶれちまってなぁ……

    SCP-XXXX-JP-A: そんなときにあいつにあったんだ。って言っても名前も知りゃしないんだがな? 俺が昼から飲んだくれて絡んだ相手がそいつでよ。俺がうだうだ愚痴ってたら「それなら床屋にでもなればいい」って言うんだよ。いつもなら「なんだ突拍子もねえ」とか「なんで床屋なんだ」とか思うんだろうが、なんでかその言葉が俺の中でカチッ、とはまってな。

    SCP-XXXX-JP-A: おかしなもんだろ。正直月に行こうって思い立ったガキの頃よりわくわくしててな。もう床屋をやるしかねえって思えてきた時にそいつが「ついでにこいつも連れてってくれ」って押し付けてきたのがあのタコ野郎なんだよ。

    SCP-XXXX-JP-B: そうあれかしと、望む姿が、あるべき姿と、なりうるぞ。

    SCP-XXXX-JP-A: (SCP-XXXX-JP-Bに向けて)やい! いい加減わかりやすく喋りやがれ! (D-65224に向けて)悪いね、あのタコ野郎はどうにも気取った話し方しかしないもんでわかりにくくていけねぇ。

    D-65224: い、いえいえ。それで、どうやってここに床屋を建てたんですか? 今朝までは空き地だったって聞いたんですが。

    SCP-XXXX-JP-A: あー……実を言うと俺にもよくわからん。

    [以下、重要度の高い情報は得られなかった。]

    <録音終了>

    補遺: SCP-XXXX-JP-Bの都々逸調の口調、頭足類の外見からGoI-8179"蛸葦廃船"の関与が疑われるため、以降の調査では創作物に焦点を当てることになりました。また、SCP-XXXX-JP-1にエリア-8173を教えた存在が何故エリア-8173についての知識を有していたかは判明していません。

補遺2: エリア-8173に居住している高塔 ██氏10から、SCP-XXXX-JPの起源に関連していると推測される情報を得ることができました。以下はその際の音声記録です。

    • _

    対象: 高塔 ██氏

    インタビュー: エージェント・仙波

    <録音開始>

    エージェント・仙波: この度はご協力ありがとうございます。

    高塔氏: いえいえ、こちらこそ本当に関係あるかはわからないんですが……これなんですけども……(簡素な冊子を取り出す)

    エージェント・仙波: 『カニタコ理髪店』……手作りの絵本ですか?

    高塔氏: はい。私が中学生の頃に弟11のために作ったものです。小さい頃から入院してほとんど寝たきりだったのでせめてって思って……

    エージェント・仙波: なるほど……(内容に描かれている理髪店の外観はSCP-XXXX-JPとおおよそ一致している。また、作品内のタコはSCP-XXXX-JP-Bと相似しているが、作品内のカニはシオマネキではなく、SCP-XXXX-JP-Aとあまり似ていない)

    高塔氏: 弟も当時すごく喜んでくれて、その頃は私も絵本作家になりたいなんて思ってたんです。でも、絵本の賞に応募してもなかなか結果が出なくて……そんな折に弟も死んでしまって……色々重なって、結局諦めていたんです。それで、つい先週12見た夢にタコが出てきて、その時タコが言ってた言葉が忘れられなくて、そんな時に今回の話を聞いて、もしかしてって思って連絡したんです。

    エージェント・仙波: タコが言っていた言葉を伺ってもよろしいですか?

    高塔氏: 吾の八腕、蟹を救いて、夢へと届き、今ここに。吾らが母よ、弟御への、想い想起し、筆を取れ。しがらみもなく、想うがままに、描かば海路の、日和あり。それで、私もう一度絵本を描いてみようって。こんな体13になってしまったけど、お陰で十分な支援はしていただいていますし……

    エージェント・仙波: ……確約はできかねますが、販売に足る作品であれば財団のフロント企業で出版することもできます。それとこれは私的な発言になりますが、私個人はそれを応援したいと思っています。

    <録音終了>

    補遺: 『カニタコ理髪店』は財団側で引き取り、エリア-8173の低脅威度物品収容ロッカーで保存されています。現在、高塔氏の作品は財団のフロント企業"ソウマコバルト出版"から7作品販売されています。また、高塔氏の弟の生前の写真をSCP-XXXX-JP-Aに見せたところ、SCP-XXXX-JP-Aに理髪店の営業を勧めた人物と似ているとの証言を得ました。

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