箱庭: "語り"
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シンとした森の中を走り抜ける。足音を立てぬよう、誰にも見つからぬよう。普段は心地良い筈だった冷たい空気が、肺に送り込まれる度に緊張で吐きそうになってくる。

大丈夫、大丈夫。数ヶ月かけてこの場所の監視カメラは全て調べたんだ。バレていない。大丈夫だ。もしかしたら、もうサイトを抜け出しているのはバレているのかもしれないけれど。──ああ、あんなに頼もしかった財団の警備システムが、こんなにも恐ろしく感じるなんて。

後ろを振り向けばサイトはもう小さくなりつつある。一般には立ち入り禁止となっている森深くに位置するそれは、深い木々に紛れてもう下からは見えなくて。

一歩を踏み出す度に、普段は踏まない土の感触に感動すら覚えてくる。こうして歩き続ければ、閉塞感のある私の日常からもしかしたら抜け出せるんじゃないか?カフェテリアにも、自室にも、果てはトイレにすら監視カメラの備え付けられた最低な日々を、変えることができるかもしれないと希望を持つ。あとは、そうして自分に期待を持たせないと押し潰されてしまいそうな不安と焦燥感を塗り潰すための……ちょっとした虚勢を。

すう、と息を吸って、前を向く。もうすぐ森を抜ける筈だ。オブジェクトの確保のために走り回る中で、こっそりと調査し続けた情報と手描きの地図を頼りに進む。日々最新の機器を使って世界を護ろうとしている財団職員が、ここに来て手描きの地図だなんて笑いすら込み上げてくる。

ああ、心臓が痛い。もうすぐ警備員が居るはずだ。定期連絡は2時間おき。つまり、それまでに警備員をどうにかしてバレる前に街に出なくては行けないってことだ。

最初に疑念を抱いたのは数年前からだった。それまでは何事も無く、今までのようにオブジェクトを管理し、平和を保とうと従事していた。しかし、データベースに存在していたファイルを整理した時に聞いたこともないようなオブジェクトの報告書を発見してしまった。それが本当にただのミスなのか、または何か試されているのか色々と考えたけれど、私はそのファイルをクリックした。

初めは普通の報告書だと思った。オブジェクトの収容方法に、異常性。それは何ら変哲も無い──いや、オブジェクトに変哲も無いなんて言えやしないけれど、でも確かにおかしなものがひとつあった。

Dクラス職員?そんなものは知らない。もちろん職員にクリアランスレベルがあるのは知っている。でもD?Dクラス職員なんて聞いたことはなくて、話に出たこともない。確かな違和感を抱きながら、ページをスクロールする。

映像記録。赤く表記されたそれには、蠢くオブジェクトと対峙するオレンジのつなぎの人物達が映っていた。

"実験"と称されたそれは残酷なもので、まるでその"Dクラス職員"達の命を残機とでも思っているかのような惨状に胃の奥から込み上げる何かを感じた。

その時にまず初めに考えたのは忘れるということだった。こんなものは忘れてしまおう。きっと、これは新人職員を怖がらせるための悪質なジョークで、Dクラス職員なんてのも含みを持たせるための虚偽の存在だろうと。忘れる、忘れる。ああそうだ、記憶処理でも受けてしまおうか。そうしよう。

そうして私は映像記録を止めようとマウスを動かし、バツ印にカーソルを合わせる。

それは、確かな違和感で。

けれど、気が付かなければ幸せだった筈で。

ここでは疑問なんてものは数え切れない程浮かんで、答えを得ることも無いまま消えていくものだと思っていた。

だからこそ、確かめることのできる距離にある事実を認識してしまったのだ。

Dクラス職員達を従わせ、"実験"に励む自分を。


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  1. portal:7031809 ( 04 Dec 2020 17:25 )
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