彗星の魔境

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「落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろぉおおおおお!!!」

 暗黒銀河地帯のど真ん中、レーザーをよけ続け、宇宙帝国軍の紋章が刻印された敵の戦艦を次々と駆逐して行く戦士がそこには居たッッ!!白い装甲を身に包み、ものすごいスピードで敵を陥落させて行くッッ!!

 だが敵も負けてはいられない!!数ならば帝国軍の方が上だッッ!!次々と新手の駆逐艦がやって来るッッ!!気付けば、彼は5000万ものの大群に包囲されてしまった……

『武器を捨てて降伏しろ!!貴様は失うには勿体ない男だ。ここで降伏し我々の配下になるであれば、金でも地位でも、何でも好きなものをくれてやろう。』

 敵の司令官らしき人物の汚い声がスピーカー越しから聴こえる。恐らく奴は金や名誉を餌にして彼を味方に付かせようとしているのだろう。

 だがッッ!!こんな事が起きたのは、一度や二度では無い!!10回、いや、20回?それとも30回?多分彼は数えて無いだろうッッ!!唯一確かなのは、全て難なく乗り切っていたという事くらいだッッ!!

 相棒の機体と共に、燃えるような眼差しで彼はひたすら戦うッッ!!

 
「ブースト最大!!合体だ!!」
 

ウ"ォ"オ"オ"オ"オ"オ"ーーーーッ‼‼‼

 

 全宇宙の平和を望む勇者は、アクセルレバーを思いっ切り引いて加速するッッ!!

 その時、なんとこのタイミングで警告用のベルのアラームが鳴り響いてしまったアッ!!

 気付けば、もう朝になっていた。

 


 

「……あれ、夢か?」

 目が覚めると、そこに広がっていたのは暗黒銀河地帯でも無ければ宇宙帝国軍の艦船の群れでも無く、かと言って我が愛機のコクピットでも無い。勉強机とクローゼットとベッドがあり、後は後ろの窓から日の光が差すだけのつまらない部屋だった。聞こえた警告用のアラームなら、すぐ横の目覚まし時計から鳴り響いている。

明人あきとー?起きたのー?』

 一階から聞こえる少し歳を重ねた女の声に返事をする。まだ眠気が残っているせいでさっき夢で迎撃した火星エイリアンの唸り声かと疑ったが、直ぐに違うと気付く。俺の母親だ。

 下らない妄想をしながら直ぐにベッドから起きてアラームを止めた後、クローゼットを開けて高校の制服を取り出して着替える。俺の高校の制服はブレザーなので初めは着るのに少々時間をかけたこともあったが、高校三年生にもなった頃には身体が覚えているので4分もかからない事が殆どだ。

 まだ6時7分。ゆっくり朝飯を食ってからでも学校には間に合う。着替えを終え、ベッドの横に置いてある鞄を持って一階に駆け下りていく。鞄の中身は昨日から予め用意しているので既に重量がある。まあ、通学の時に邪魔になるほどでは無い。

「母さんおはよう」

「はいはいおはよう」

 一階のリビングに降りてエイリアン……もとい母親に声をかける。いつもの母さんだ。特に変な様子も無く、台所に立って目玉焼きを焼いている。白身が焼ける香ばしい匂いが漂うが、生憎俺は目玉焼きが苦手だった。母さんもそれを知っている。現に、俺の配膳に目玉焼きは無く、いつも食べ慣れているピザトーストが置いてあるだけだった。

「ほら、さっさとそれ食べて学校行きなさい。遅刻するわよ」

(……別にまだ6時半だからそんなに急がなくても間に合うっつーの)

 自分の母親に心の中で愚痴を垂らしながら、宇宙の平和を守る戦士……もとい何処にでもいる平凡な高校生は皿の上のトーストを口にくわえ、先程敵艦隊をなぎ倒していたとは思えないような燃え尽きたような目つきで家を後にした。

 角を右に曲がりそのまま真っ直ぐ進む。今は2月だからだろうか、寒さがブレザーを貫通して身を締め付ける。晴れているのに、照りつける日光が全く仕事をしてくれない。

 トーストを一口齧る。さっきまで熱を持っていたピザトーストはもう冷めており、あまり美味と言える代物では無かった。寒さで伸びなくなったチーズと塩辛いだけのケチャップの食べ合わせはとてもでは無いが正直不味い。

 ふと、左腕にはめた腕時計を確認する。門限までまだ時間はあったので口直しに近くにあった自動販売機に百円玉を入れて珈琲のボタンを押す。自販売機はゴトンと無機質な音を立てて取り出し口に珈琲の缶を産み落とした。身を屈めて取り出そうとすると、後ろから子供のはしゃぐ声が聞こえた。

「ねーケンちゃんケンちゃん!そのキーホルダー、もしかして昨日お店にあったロボットのやつー?」

「うん!そうだよ!お母さんに100点取ったご褒美に買ってもらったんだ!」

「うわーカッコイイー」

……近所の小学生だろうか、如何やら新しく買って貰ったおもちゃを自慢しているのだろう。嬉しそうに小学校へ足を運ぶ小学生を見ると、何だか微笑ましく思う。と、言うより

 
「羨ましく思う」の方が正しいかもしれない。
 

 小学二年生の頃、ロボットのおもちゃで遊んでいた頃の記憶を思い出す。俺にとっては淡くも懐かしい思い出だった。あのおもちゃは、初めて自分のお小遣いで買ったものだった。後にガンダムのパチモンだと友達から教えられたが、それでも嬉しかった

 それでも、宝物にする程大事に扱っていた。

 ああ、懐かしかったなあ。子どもの頃、"あいつ"とどれだけ冒険したか。庭を侵略していた宇宙人を退治したり、オリジナルの宇宙同盟を発足したり、裏山の銀河を飛び回ったり、友達のウルトラマン人形と共闘したり、数え切れないほどの武勇伝が出来た。

 あの頃は、楽しかった。

 でも、そんな夢みたいな日常はもうとっくに過ぎ去っている。小学生の頃の記憶に思いを馳せながら、コーヒーの缶を開けて飲み干し、少し早い足取りで学校へ向かった。

 コーヒーの渋みがまだ、口の中に残っている。

 


 

「ブースト最大!!行くぞ!!」

 今は朽ちたミサイル発射基地、嘗てここで宇宙海賊を叩き潰した戦士が雄叫びをあげたッッ!!宇宙帝国を滅ぼした今も戦争はまだ終わってなどいなかったッッ!!

 新たなる敵によって人々は洗脳され、


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