To: 空想科学部門 物語緩衝層管理課
From: 有原 真琴
Subject: 物語緩衝層の著者への干渉について
サブカルチャー部門所属の有原真琴です。
今回は私から個人的な提案を行わせて頂くべく連絡させて頂きました。
結論から言わせていただきます。我々は物語緩衝層に存在する著者たちへの干渉を最低限に抑えるべきです。
我々サブカルチャー部門の役目は『面白い物語を創作し、より多くの読者を惹き付け、SCP財団を存続させる』ということにあります。これは多くの人に読まれなければその物語が滅ぶことに起因しています。
ここで一番重要になってくるのは、多くの人に読まれ続けるためには『面白い物語』であることが大前提であるということです。では『面白い物語』とはなんでしょうか。
『面白い物語』についていくつか理論は複数立っていますが、最も有力であるとされているのは『"文脈"の逸脱』を伴う物語です。
ここで言う"文脈"とは、物語内部で「記号」と「意味」を紐づける土台です。
簡単な例であれば、"オブジェクトクラス"という文脈上において「Safe」と示されているだけで、「収容が簡単なオブジェクトである」と予想することが可能です。
他の例としては、「如月工務店」と示されているだけで「胸糞な内容」が想定できることも"文脈"に立脚した考え方と言えます。
そして、これを崩す物語こそが『面白い物語』なのです。ここまでは分かって頂けるでしょうか。
次に「何が"文脈"を壊すのか」を説明しましょう。それは『外部からやってきた存在』です。『寺生まれのTさん』や『サプライズニンジャ理論』などを想像してくだされば簡単でしょうか。
具体例を上げましょう。以下の物語を読んでみてください。
①
雪山で遭難した一団が居ました。
彼らを助けたのはイエティでした。
銀行強盗が発生し、犯人が立てこもっています。
人質の中の誰かが犯人を無力化したようです。
犯人を捕まえたのはイエティでした。
J1最終節、この試合の結果で優勝が決定します。
試合終了直前、同点、最後の最後にゴールに向かってボールが蹴られました。
ボールを止めたのはイエティでした。
ある女性がレストランでの食事後、お金が足りないことに気付きます。
定員にそのことを伝えると、『もうすでにお金は払われている』と言われました。
払ってくれたのはイエティでした。
この話は、"イエティが最後に登場する"、"ギャグである"という2つの文脈上に成り立っています。しかし、このままではお世辞にも『面白い物語』であるとは言えません。
では、次の文章を見て下さい。
②
とある男性が大通りを通っていました。
その男性は突如もがき苦しみ、結局死んでしまいました。
さて、この男性は何故亡くなったのでしょうか?
これは"イエティが最後に登場する"、"ギャグである"という2つの文脈を破壊しています。
この文における『外部からやってくる存在』は、『最後の問いに対する答え(イエティと明言されない)』と、『殺害が発生したと言う要素』です。これをつなぎ合わせると以下のようになります。
①+②
雪山で遭難した一団が居ました。
彼らを助けたのはイエティでした。
銀行強盗が発生し、犯人が立てこもっています。
人質の中の誰かが犯人を無力化したようです。
犯人を捕まえたのはイエティでした。
J1最終節、この試合の結果で優勝が決定します。
試合終了直前、同点、最後の最後にゴールに向かってボールが蹴られました。
ボールを止めたのはイエティでした。
ある女性がレストランでの食事後、お金が足りないことに気付きます。
定員にそのことを伝えると、『もうすでにお金は払われている』と言われました。
払ってくれたのはイエティでした。
とある男性が大通りを通っていました。
その男性は突如もがき苦しみ、結局死んでしまいました。
さて、この男性は何故亡くなったのでしょうか?
これが貴方達の感性と一致するかは分かりませんが、私はこの物語を『面白い物語』であると考えています。
少なくとも、最初に記述した物語よりは面白くなっているでしょう。
現在SCP財団で主流の作風である「ストーリーを重視した記事」も例外ではありません。"読者自身"という文脈をはみ出す『別の人物』を記事内部に創作できるために面白さを生み出せています。これはかつて主流であった2つの作風でも同様のことが言えるでしょう。
「画像を元とする記事」は、"画像"という文脈に『画像から想像付かない異常性』を取り付けることで面白さを生み出しています。
「アイデアのみで勝負する記事」は、"読者の持つアイデア"という文脈に『読者の想像を逸脱するアイデア』を取り付けることで面白さを生み出しています。
ここまで、理解していただけたでしょうか。
まとめましょう。
『我々の存続』は、『面白い物語』が必要不可欠です。
『面白い物語』は、『"文脈"の逸脱』によって成り立ちます。
『"文脈"の逸脱』は、『外部からやってきた存在』によって生じます。
即ち、『我々の存続』には『外部からやってきた存在』の供給が必要なのです。
"SCP財団"という文脈にとっての『物語緩衝層に存在している著者外部からやってきた存在』が必要なのです。
しかし、我々が現在行っていることは『外来からやってきた存在』を弾き出してしまっています。
我々と言う"文脈"が生み出した物語のみを採用している状況では、間違いなく『面白い物語』を創作する限界が訪れるでしょう、その結果は我々の存在の消失です。
故に、我々は物語緩衝層に存在する著者たちへの干渉を最低限に抑えるべきです。
最後にもう一度記しますが、これは私の個人的な主張です。
『面白い物語』を創作することはサブカルチャー部門の最重要課題です。
『面白い物語』を創作しなければ我々の存在が消失することも事実です。
しかし、それは私の主張の補強要因でしかありません。
私は『面白い物語』を希求します。
それを妨げることを容認するプロジェクトには個人的に賛成することはできません。
是非御一考の程よろしくお願い致します。
サブカルチャー部門 統括管理者 有原 真琴
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