論廻
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決して綺麗とは言い難い道をこつこつと音を立てながら私たち二人は歩いていた。私より背の高い彼は神枷網代、痩身でどこか優秀そうな雰囲気を醸し出す神枷本家の人間である。色々あって神枷に取り込まれた私より一族内での立ち位置も上であり(論議の際は立ち位置など関係ないのだが一応存在するのだ)、論も力強い。私の目標のようなものになっている人だ。音が進む距離とは裏腹にこつこつ音が不揃いに鳴るのが若干嫌だ。しかしこのことを言おうものなら議論になってしまうだろう。今の私たちにそんな不毛な議論をする暇は無い。

私たちはとある場所へ向かっている。私たち一族の同胞が複数日連絡、さらに人の出入りすらも絶ったことを不思議に思った同胞によって発見された死体。死因は餓死。誰も食料を買いに行かず、全員で力尽きたのだ。状況の異様さは分かるだろう。それを調べるために我々が向かっている、という訳だ。

目的地であるその屋敷の門には規制線が引かれていた。規制線といっても立ち入りを禁じていることさえ分かれば良いとでも言うような質素な紐だ。紐の近くには装束を着た男が一人、警備員だろう。門の前までたどり着くと、その男は私たちに話しかけてきた。

「失礼、現在ここは立ち入り禁止となっている。お引き取り願いたい。」

「ここで何が起きたかは知っています。人が死んだのも、あなたが蒐集院の人間であることもね。我々はその死者の遺族なので、立ち入る権利はあると思いますけど?」

「遺族という事は…」

「はい、神枷です。」




「やっぱ蒐集院と繋がりがあるって良いですね、先代の方々に感謝感謝。」

「それも犠牲の上で作られた繋がりだからな。今でもその件は度々議論になっている。もう少し考えて発言をだな。」

「結果的に良かった、という事ですよ。」

神枷の議論体質は時に面倒だ。精密で合理的な答えは出るが、何事にも少し論を求めすぎているように感じる時が偶にある。かつてこんなことを言った者が論をどれほど重視すべきかといった紛糾することが目に見えた議論を提起しようとしていたことがあった。その人はまだ神枷に取り込まれたばかりだった。結局行われた議論は論についてではなく、彼との絶縁についてだったのだが。

やはり木の板は先程の道路と違って音が心地いい。ここは神枷の同胞が死んだ現場だと言うのにどこか平穏な気持ちになってくる。

「さて、この部屋が現場かな。」

現場の部屋の外には札が張られておらず、蒐集院が管理しているとは思えなかった。札を張ることで全ての怪異が防げるわけではないが蒐集院であればまず真っ先に札、さらに重要度が高い場合は祈祷師によって怪異を祓おうとするだろう、というのが私の考えだった。

がらっ、と言う音と共に襖が開く。

「ひっ…」

部屋の中は惨状、という言葉が良く似合う有様だった。考えたくない何かの茶色い跡が部屋の壁にこびりつき、そのせいでどこに死体があったのかが一目瞭然であった。その後が五つも六つももあるのだから目を覆いたくなるのも仕方ないだろう。冷静っぽく自己分析しているが私は今完全に目を手で塞いでいる。

「血は無い…やはり事前情報通り餓死か。」

網代様は既に現場に目を向けて思索を巡らせているようだった。私も目を開け、どうにか状況を直視する。網代様の言うように血痕は見当たらず、やはり「それ」の跡だけが残っていた。餓死、というのは件の議論が不可能になる結界に閉じ込められた神枷が辿った最期もそうだった。

「餓死という事は件の結界なのでは?」

「あれは神枷が生み出したものだ。流出した可能性もあるが、術式が作動された形式は見つからなかった。まあ、議論が異常なまでに紛糾したことで餓死した、というのは間違いないだろう。  それで、あれは。」

部屋の造りは一般的な議場の構造だった。だから私たちが議場の中央、議題となる物が置かれるにも関わらず決まった名称が無いそこに置かれているものに気付かない訳が無かった。黒色の布がかけられた何か。膨らみ方から形は鳥籠に似ている、という所までは想像がついたが、大きさは通常の鳥籠よりもかなり大きい。何かが入っているのは間違いないが、その''何か''が分からない。それは私が布を捲りたくなくなったのに十分な理由だった。

「まあ、それが原因とみて間違いないでしょうね…」

「なら、開けるしかないだろう。」

「え?」

唐突な決定に思わず戸惑いの声が漏れる。

「いや、迂闊にこれ見たら私たち餓死するかもしれないんですよ?」

「さっき議論を異常なほど紛糾させることで餓死に至らしめた、と結論付けたな。それならこれを見て問題がありそうだったらすぐ帰る、と予め決めておけばいい。問題が無さそうだったら。そのまま持って帰る。異論はあるか?」

「無いですね。」

多少荒っぽく思えるが、実際理にかなっている解決方法だった。予め決めておけば後から議論する必要は無いから。考えてみれば当たり前のことなのだが自分はそれを考えられなかった。やはりまだ言葉を磨かねばなるまい。

「それじゃあ、捲りますよ。」

音も無く、布が捲られた。

「これは…兎?いや…鷹?」

姿を現した中途半端な獣の姿に戸惑う。これは結局何なんだ。兎か、鷲か、別の何かか。深く考えようとした時、網代様の笑い声が響いた。

「可笑しいね。これが議論を紛糾させた原因か。」

「どこが面白いんですか?」

「ああ、そう怒らないでくれ。多分同胞たちはこれが『何であるか』を議論し続けて死んだんだろう。」


tale jp 神枷一族 蒐集院



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執筆者: Dr_kuronecko
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最終更新: 10 Feb 2021 13:28
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