偉大なる師

このページの批評は終了しました。


rating: 0+x

今年の夏、エジプトは深刻な財政危機に陥っていた。69年に開通されたスエズ運河は予想を下回る利用数を記録し、エジプトの総督は積極財政を続けたがために対外債務は膨れ上がった。スエズ運河の運営にも負担がかかり、巷では株式売却の噂すら流れていた。

そんなエジプトの街を一人、オルコットと呼ばれた男性が歩いていた。

彼は目的もなく彷徨っている訳では無かった。暫くして、誰かがオルコットに声を掛けた。

漆黒のヴェールを身に纏うその人物は、外見からは性別の判断がつかなかった。オルコットは少し驚いた様子を見せながらも、ヴェールの人物に告げた。

「どうも、貴方がルクソール同胞団の人ですね。」

「ようこそ、エジプトへ。ルクソール同胞団は貴方を歓迎する。」

対面するのは初めての事だった。オルコットが懐から出した入会許可書を見るなりヴェールの人物は頷き、同じように懐から一通の手紙を渡した。

その手紙にはオルコットの活動に対する感謝と、大量の紙幣が入っていた。オルコットは困惑した。何故、この人物はこんなことをする?何故私の活動を知っている?

ブラヴァツキー婦人はこの人物とどういう関わりがあるのだ?何故私を招き入れた?

動揺するオルコットを後目に、ヴェールの人物は話し始める。

「その手紙に書かれたこと、それが全てです。後は貴方がどうするか、それ次第です。本日付でルクソール同胞団は解散します。わざわざ出向いて下さり、ありがとうございました。」

それだけ言うとヴェールの人物は去ろうとした。オルコットがその肩を掴み、制止する。

「どういう意味です、解散?私次第?ルクソール同胞団とは何だったのです?それに、手紙なら婦人に渡せば済んだことでしょう。何故私をここまで呼んだのです?」

「私には何も出来ないからです。ルクソール同胞団も貴方をここへ呼ぶために作った、形式上の存在です。……これから先、何が起こるのかを、私は知っています。しかし、それを止める術は私にはありません。だから、貴方達に託したのです。婦人には私の知識を与え、貴方にはそれを支える力を与えた。」

「答えになっていない。教えてください。」

ヴェールの人物は空を仰いだ。不思議なことに、その顔は影となり見ることはできなかった。暫くして何かを決意したかのようにオルコットを見つめると、ヴェールの人物は話し始めた。

「この手紙は婦人が読むべきものではない、貴方のみが知っていればいい。そしてそのお金は、婦人のために使いなさい。私は歴史に名を残すことの出来ない者。婦人を支えられるのは、貴方だけです。」

―――ヘンリー・スティール・オルコット"初代会長"。

あまりにも婦人に対し都合の良い内容だった。しかし、オルコットはそれに納得していた。

"婦人を支えられるのは、自分だけ。"

彼は自分が基礎Foundationとなる事を決意した。

ふと気付いた時にはヴェールの人物は振り返り、帰ろうとしていた。オルコットはその時になって初めて、名前を聞いていないことに気づいた。

「待ってください、最後に。貴方の名前を憶えておきたい。」

ヴェールの人物は振り返らず、その場で告げた。
 
 
 
 
 
「トュイティト・ベイ、もしくはマハトマ。だが、それらは偽名に過ぎないし、私は―――
 
 
 
 
 
 
 
 
―――何者でもない。
 
 
 
それだけ言うと、何者でもない者は人ごみに紛れ、消えていった。


ERROR

The Enderman_desu's portal does not exist.


エラー: Enderman_desuのportalページが存在しません。利用ガイドを参照し、portalページを作成してください。


利用ガイド

  1. portal:6759963 ( 24 Aug 2020 05:02 )
layoutsupporter.png
Unless otherwise stated, the content of this page is licensed under Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License