終人の提言Ⅱ - 朝聞道、夕死可矣

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指令: SCP-008の感染プロセスを理論化し、独自のアルゴリズムによってSCP-001-JPの改変対象へと指定。全ての影響下存在に対し、SCP-008アルゴリズムを用いた改変を行うことにより、恒久的な精神の破壊、喪失をもたらします。





2024年、11月、5日。ウィルジール-ヴァリエ管理官はSCP-001-JPの前に立っている。暗闇の中で彼女はコンピュータを操作し、タイピング音が残る。

財団がヴェールの崩壊を宣言してから、彼女が知る全ては大きく変わってしまった。エリア-0の指揮系統の多くは停止し、この研究セクターも非常用の電源装置で維持されていた。室内はじめじめとした空気で満たされており、財団のロゴだけがそこに空しく光っていた。かつての人々の声はそこには無く、施設には限られた職員と制御AIだけが残されていた。気持ちを紛らわせるための話し相手が居ない職員らにとって、AIの機械音声は数少ない光だった。研究区画のセクターの1つが僅かに明るく、ごうごうと唸る機械音は、セクターの中から響いていた。

「DISTORTIONプロトコルを実行します。バラダ、準備をお願いします。」

ヴァリエの声が研究セルの隅々まで響き渡る。薄暗く照らし出された職員 - バラダの影は答えない。

「何か異常はないかしら?大丈夫、貴方は問題なく戻ってこれますよ。」

彼女はほんの少しの虚言と真実を司令部に報告し、そして彼に些細な処分が下ることを望んでいた。彼女の意に反して、評議会はそれ以上の処分をバラダに下した。結果として彼女はそれを悲しまず、寧ろ - 自分の権力と欲望に溺れていた。SCP-001-JPを前にして、彼女のクリアランスで不可能な事は無かった。「自ら」の発明を前にして、その完成に笑みを零さずにはいられなかった。

研究セルの中央には1つの椅子と、死体がある。

「もっとも、貴方は聞こえていませんよね…私は何に向かって語り掛けているのでしょうか?」

声は虚空に反響する。ヴァリエがエリア-0に来た時、彼女は新たな職務への期待を露わにしていた。デルタへの配属時から彼女は仕事熱心で、同僚からの評価も良かった。彼女は純粋に、自らの仕事が人々の助けになっていると考え、それを誇りに思っていた。彼女はやがて管理官になり、財団に常に忠実であった。彼女は小さな誇りを胸に抱いていた - それがオメガの喪失によって、永久に消え去るまで。

「ミームエンティティを投入します。」

室内のモニターに実験室が映し出される。椅子に取り付けられた6本のアームが機械的に動き、死体にコードを接続していく。コードが1つ、また1つと接続される度に死体に電気が走り、その死体はあたかも生きているかのように振動した。淡々と職務をこなす2人は、死体の僅かな呟きと唇の動きには気付かなかった。

SCP-001-JPのコントロールパネルに数字の羅列が表示され、機械音が徐々に大きくなる。ヴァリエは実験の成功を頭の中でシミュレートし、18秒後に起こるイベントの成功に思わず微笑んだ。彼女は理論家であり、少しばかり自信家でもあった。部屋に設置されたアームからは電気が迸り、テスラ・コイルにそっくりなSCP-001-JPの一部が強く反応した。





手順: SCP-001-JPはプログラムの指示に従い、SCP-008アルゴリズムをD-001および影響下存在に拡散させました。





18秒後、ヴァリエは結果を見てガッツポーズをゆっくりと直し、コントロールパネルを見て思わず目を見開いた。彼女が期待した結果は訪れず、彼女の心臓は依然として鼓動していた。何故だ、何故私はまだ生きている? - その場で起きている事態が理解できず、ヴァリエはただひたすらに困惑の表情を浮かべていた。





結果: SCP-001-JPは生体への著しい破壊と精神への苦痛を及ぼしましたが、プロトコルの目標である生物種の完全な破壊には至りませんでした。





「何が - バラダ?これは一体どうなっているの!?何を間違えたのですか?」

ヴァリエが室内に反響する程の叫び声を上げ、そして彼女はバラダがパネルにもたれかかり、倒れているのを見つけた。バラダは酷く苦しんでおり、ヴァリエにとってはそれが - 生きている証とだけ受け取れた。これは彼女にとっての最悪の結末ではなかった反面、事態が解決しない事に対する更なる苛立ちにつながった。彼女は必死にバラダの体を揺さぶり、そして胸に頭を押し付けた。ドクン、ドクンと、彼の鼓動をヴァリエははっきりと聞き取った。彼女が悲鳴を上げ、そして半狂乱になりながら室内の資料をあさり終わるまで、彼の鼓動は嫌というほどヴァリエの耳にこびりついた。

私は何故生きている?





結果: SCP-001-JPは生体への著しい破壊と精神への苦痛を及ぼしましたが、プロトコルの目標である生物種の完全な破壊には至りませんでした。





プロトコルを再試行し、ヴァリエの脳裏にははっきりとした苦痛が蘇った。脳が引き裂かれるような激痛を覚えながら、彼女は自らの信じる人々に救いを求めて叫ぶ。アーロン、ナザリーン、カーター…バラダ。彼女は苦痛を言い訳にして、自らの口から発せられたその名前を聞き流そうとした。聞きたくも無かった。これは彼の発明じゃない - 全て私の功績だ。





RESULT: SCP-001-JPは生体への著しい恐怖と精神への苦悩を及ぼしましたが、プロトコルの目標である生物種の完全な破壊には至りませんでした。プロトコルは継続されます。





より鮮明な恐怖が彼女の心臓を貫いた。彼女が呼吸をする毎に味わうのは、耐え難いほどの激痛と自らの叫び声。熱く燃えるように、その骨が、肉が熔け落ち、弄ばれる様に殺される感触。ヴァリエは噎び泣いた。





RESULT: CRITICAL DAMAGE





彼女は苦しみから解放されなかった。幾度試そうと、結果は変わらない。得体の知れない恐怖に近づき、そして襲われるような痛み。この忌まわしい痛みから逃れようと、彼女は苦しみ、そしてもがいた。





RESuLT: CrITIcAL DaMAGE





彼女が想像する痛みの主は彼女に語り掛ける。彼女が自らの名を以て命を乞う度、その不協和音は体を劈く。





Re〼t:   -  





鋭い痛みは程なくして治まり、そして安堵した彼女の瞬きと共に、彼女の首をへし折った。苦しみに声を上げることも出来ず、彼女はひたすらに自らの過ちに懺悔した。その後悔がバラダの影を動かすことは終ぞ無かった。





ALIVE





ヴァリエの脳裏に浮かぶ言葉が彼女に語り掛ける - どうして 生きている?





ヴァリエの視線の先に、自らの望む姿が在った。その欲望が - ガルヴァニズムによって痙攣した死体の唇が、ゆっくりと動く。

「お前等は何度、俺達を殺した?お前は俺達から何を奪った」

ヴァリエはその言葉を理解できなかった。そして死体の橙色のつなぎを見ることで、彼女はその意味を理解した。

「お前達が影の中で生きることによって、俺達は心置きなく死んでいく。」

「かつてのお前達が俺達の全てを奪った。」

死体の声がヴァリエの脳裏に焼き付き、そして彼女の忘れた恐怖を呼び覚ます。

「死よりも恐ろしいものを突き付けた。今度はお前達が恐怖に苦悩する。」





A serious error has occurred. SCP-001-JP will lose its functionality.





そして世界から1つの命が消えた。死神は彼の死を許し、絶望と恐怖から解放した。

ヴァリエは残された痛みに苦悩した。自らの心臓に剣を突き立て、そしてその鼓動を止めようとした。彼女の肺が潰れて、溢れ出る血によって息が止まってもなお、彼女の目は空を見つめていた。




彼の泣き声は全てに再起した

幾度となく引き裂かれた彼の心臓が

その悲鳴を轟かせる

礎の彼らは死神と共に別れを告げる

そして死神は鎌を置いた








001

未だ生を知らず、焉んぞ死を知らん


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