ひとりのおんなのこ

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 山本仲子は12歳のありふれた、ひとりの女の子であった。
 そしてまた、ありふれた家庭の中で、ありふれた12回目の誕生日を祝った。

 白いクリームの上に大好きなキャラクターと自分のネームプレート、そして12本のろうそく……ではなく、『12』の形をしたろうそくが立てられているケーキを前に、彼女は12度目の満足感を味わった。ろうそくが本数から形に変わったのは、10歳の時だったと、彼女は記憶している。

 11歳から12歳へと変わるだけ、年齢が一つ上がるだけと、そういう大人をよく見るが、彼らも自らの誕生日を意識しないはずはない、と彼女は思っている。少なくとも無限に等しい時間の間『11歳』であったものが『12歳』に上がるとは、彼女にとっていわれもない感覚を覚えるものである。

 親の顔を覚える前から聞いた声が、消える明かりのことを予告し、そしてその通りに電気が消える。12年間生まれた瞬間から聞き続けてきた甘い声は、一度も嘘をついたことはない。
 そして彼女は手を組んで、自分の世界を作る。一年前の世界をもう覚えてはいないが、たぶん、同じような世界だろう。
 そしてその世界から戻ってきた時、女の子は満足げに息を吹いた。

 彼女の息を受けて、世界でただ一つ残っていた、しかしひとりの12年間が詰まっている明かりは、ゆらめき、満足げに消えたように見えた。
 それを祝うかのように、眩しい明りが付く。

 そして彼女は晴れて12歳になった。小さな体にたまらない快感が駆け巡り、体中を一瞬で満たし、小さな器から溢れたものが口をついて、満面の笑みと喜びの声をもたらした。

 彼女の幸せは寝る時まで続いた。ケーキのキャラクターとネームプレートはもちろん彼女の物だった。彼女が食べたのはケーキのほんの数切れだったが、小さな体はそれで満足だった。
 女の子は全てを享受して、大好きな家族と共に、最後の快感に浸った。
 彼女はこの世の全てを得た気分だった。

アイテム番号: SCP-9820-JP(暫定)
オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-9820-JPには、標準的なサバイバルセットと標準の通信機、ラジオ、太陽光/手回し充電式バッテリーを持たせ、毎日午後5時にサイト-41への定期報告を行わせ、同時にSCP-9820-JPに対するカウンセリングを行ってください。SCP-9820-JPの位置情報はSCP-9820-JPの所持しているGPS発信機で常に把握されます。

SCP-9820-JPの監視を行うすべての職員は、記憶補強材の服用を義務付けられます。

 この世界が夢であると信じようとして、三日が経った。
 三日は彼女にとって、永遠にも等しい時間であった。

 甘い声は、常に彼女に向かって発せられていた。親の顔は、常に彼女の瞳に向けられていたはずである。

 「仲子」

 甘いはずだった声は、苦悶に歪んだ。

 つまりどういう事かと言えば、親はあろうことか、彼女の名を呼ぶのに、長い時間を要したのである。
 朝昼晩の食事は変わらず三人分が出る。彼女は確かに認識されていた。

 親の顔は、常に歪んでいた。まるで世界が終わるかのような不安にさらされているかのように。
 特に、玄関の靴を見た時や、洗濯物を干すときに、親の顔は歪む。
 仲子は、産まれて初めて、親の涙と弱い叫び声を知った。
 親と仲子は会話ができる。その時の親は瞬きすら拒み、片時も彼女から目を話そうとしない。それならばいい。しかし仲子の瞳を見る親の目はつねにおびえていて、何かを恐れている。

 「大好きだよ」

 親が涙を流しながら、仲子を抱きしめた。
 仲子は親を抱きしめ返した。
 仲子は親がいればよかった。

 学校の人間や友達や、近所の人々は、とうに、仲子を記憶の奥底に閉じ込めてしまっていた。
 しかしそれでもよかった。おんなのこにとってのすべてだった。


 不思議な感覚だった。
 最初の日は、学校に行った。
 何も変わらなかった。
 ご飯はちゃんと朝作ってあったし、お母さんとお父さんと一緒に食べた。
 二人とも少し変な感じだったけど。

 かなちゃんがいなかった。
 いつも待ち合わせをしてる電信棒には、かなちゃんがいなかった。
 少し待ったけど、来なかったから、ひとりで学校に行った。

 入口に着いた。
 はしなか先生は挨拶してくれた。
 わたしも、挨拶をした。
 でも、先生は、もう一回私を見て『あれ?』って言った。

 教室に着いた。
 かなちゃんが来なかった。
 一番後ろの奥側の席に、かなちゃんがいた。
 かなちゃんに、『今日なんで電信棒にいなかったの?』って聞いた。

 『あれ? 仲子ちゃんの事忘れてた。なんで? ごめんね』

 別に良かった。

 かなちゃん。また遊びたかったのに。
 なんで一緒に遊ぶ約束も忘れたの?


 おかしかった。

 「ママ?」
 「あああああ」

 ドアを開けた。くつをはいてなかった。
 でも怖かったから。

 初めて逃げた。

 なんで?

 一回も、なかったのに。
 なにも悪くないのに。お母さん、何もしてないよ?

 足痛い。変。

 おかしいよ。

 お母さんだけじゃない!

 どうなってるの?


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