超宗派万国戦争犠牲者慰霊大平和祈念塔

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大阪南部に位置する富田林市は日本第二の都市圏である大阪都市圏の中にあってかなり田舎の印象を受ける。
大阪最南端の千早赤阪村、大阪唯一の村、と比べるとだいぶ建物はあるがそれにしたって村と市を比べるからであり、片田舎の印象は拭えない。

その中にあって強烈なインパクトを与える建物がPLの塔である。
正式名称を大平和祈念塔、より正確に言うと超宗派万国戦争犠牲者慰霊大平和祈念塔と言う。
超宗派、宗教を問わずに、万国戦争犠牲者慰霊、歴史上のあらゆる国のあらゆる戦争によって死んだ人々を慰霊する、大平和祈念塔、大いなる平和を祈り念ずるための塔、ということになる。
高さは180mであり、高い建物がほぼほぼ無い富田林市において、丘の上に建っていることもあり見晴らしのいい場所ならばどこでも目に付く存在である。なんならば南河内一帯、というか天王寺のあべのハルカスからもよく見える。大阪というと想起される通天閣の高さは108m、海外でも有名な梅田スカイビルが173mであることを考えるとその高さは驚くべきものである。173…… そういえばあのビルも奇妙な形をしている。

この塔はパーフェクトリバティー教団が建立した。
パーフェクトリバティー教団、通称PL教。1916年に設立された新興宗教という事になる。一応当時の国家神道の規定により神道系よりの派生ということになるが、実際神道的な要素は薄い。しかし教団用語や葬儀の形などは神道のそれに倣っている。
富田林市を中心に活動している宗教団体であり、かつて甲子園で大活躍した野球部を擁したPL学園や毎年8月1日に行われるPLの花火こと教祖祭PL花火芸術は有名である。
特に関西ではPL教団は花火で有名であり、PL花火は世界一の規模の花火大会だ、とも言われる。特にラストで一気に8000発打ち上げられるスターマインは、まるで誇張ではなく一瞬夜闇を吹き飛ばし昼ではないかと錯覚させるほどの光と、平和を重視する宗教であるのに空襲紛いの耳を劈く轟音を残す。花火の量が多いので煙も凄まじいがあまり気にせずにバンバン打ち上げる。南河内一帯の風物詩であり、昔はPL学園が甲子園で負けると花火の量が減る、などという邪推が地域では噂されていた。
毎年8月1日にはPL花火を見るために多くの人々が富田林に訪れる。PL教団に所属するとPL花火を特等席で見れる訳だが、ラストのスターマインの轟音を至近距離で浴びる羽目になるためそれはそれで相当の負担を強いられるとも聞く。
元々は初代教祖の遺言で花火を打ち上げて祝ったものが始まりである。

PLの塔、この奇怪な造形は二代教祖の御木徳近が紙粘土で造ったものを基にしている。
PL教団は「人生は芸術である」というものを真理としており、芸術を重視しておりPLの花火もその一環という訳だ。
閑静な住宅街の中に建つPLの塔は誰がどう見ても普通の建造物には見えない。周辺地域一帯どこからでも見える訳だが、逆に周辺住民が意識しないとその存在を忘れてしまうのは余りに日常から剥離しており無意識に思考から排除しているからだろうか?
信者以外にも2階までは解放されており、参拝することができる。信者ならば中段の階までは行けるらしいが上段の展望階は老朽化により入ることを禁止されているらしい。


薄眼で見ると虚ろな穴のような窓が八目鰻の鰓孔かなにかのようで、ラヴクラフト的な宇宙生物の一種にも見えるが、造形の意図としては天を指さす腕であり「真理は一つ」であることを表しているとされている。
しかし私にはむしろ、全存在に対するファック・ユーのサインに思え、そうだからこそ非常に好ましく感じるのであった。






近畿日本鉄道富田林駅から近鉄長野線に乗り、阿部野橋駅方面に二駅行くと古市駅に着く。
古市駅は羽曳野市の代表駅とされ、現在の近鉄に属する駅の中では最古の歴史を持つそうだ。
富田林ほどではないがやはりまだ片田舎の印象は拭えない。羽曳野、という地名はヤマトタケル伝説においてヤマトタケルが死後白鳥となって大和に舞い戻った際、最終的にこの辺りに落ちて羽を曳きずったからだという。

古市駅から10分ほど歩くと誉田御廟山古墳が見えてきた。

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誉田御廟山古墳は学術的な名称であり、宮内庁による命名では惠我藻伏崗陵とされ、被葬者は第15代天皇、応神天皇であるとしている。であるが故に応神天皇陵と呼ばれることもある。
大仙陵古墳、百舌鳥耳原中陵こと仁徳天皇陵に次ぎ全国第二の巨大前方後円墳であり、それぞれ周辺にある大小の古墳群を合わせて百舌鳥・古市古墳群としてユネスコ世界遺産にも認定されている。ちなみに仁徳天皇は第16代天皇であり応神天皇の子である。

応神天皇、これは後世の贈名であり、誉田別尊とも呼ばれるように本名はホムタワケと言ったところだろうか。そもそも天皇号自体が飛鳥時代に中国の皇帝と同格だと主張するために作られた言葉という感が強い。それ以前の君主号は大王だった。
誉田御廟山古墳の隣に誉田八幡宮がある訳だが、応神天皇は八幡宮の祭神、八幡神と同一とされる。
この辺りはかなりややこしい話であるのだが、そもそも八幡神は渡来人系の豪族、宇佐氏の氏神であり、中国か朝鮮の神であったらしい。それが神功皇后の三韓征伐などのエピソードと、胎中天皇とも呼ばれる神功皇后の妊娠中から皇位が約束された応神天皇とどうにかこうにかして習合したという具合だ。
東大寺の大仏建立に際して霊威を示し、また道鏡による皇位簒奪を防いだ宇佐八幡宮神託事件などの影響により、崩御した聖武天皇とも同一視され仏教の守護神、八幡大菩薩として知られるようになった。
なるほど仏教的には神も輪廻の輪に囚われた衆生であり、それが仏道修行を経て菩薩になるというのはありうる話なのやもしれないが、そもそも仏教の神とはインドの神であり、それが日本の神と同一の意味を持つモノなのかはやや疑わしいところもある。
八幡神は応神天皇であるので、天皇の先祖、つまりアマテラスと同様に皇祖神とも言える。特に武士達は、皇族貴族のための神がアマテラスならばこっちは八幡大菩薩だ、と思ったかどうかは知らないが軍神でもある八幡神を強く好み、日本中に八幡神を祀る八幡宮を建立した。神社の系列という概念がある訳だが、伏見稲荷を総本社とする稲荷神社に次いで八幡宮は二番目に多い神社の系列であるらしい。数え方によっては、つまりある程度大きめの神社のみで数えていくと八幡宮が一番多くなるようだ。

初期の天皇の実在性には様々な議論がある。とりあえず第26代、継体天皇まではどういった議論でも確実に存在すると見られている。継体天皇は応神天皇の五世孫とされる。戦後に天皇研究のタブーが解かれた頃は応神天皇が初代天皇ではないかという説が主流であったが、現代では第10代の崇神天皇から実在可能性が高いとされている。第2代綏靖天皇から第9代開化天皇は日本書紀・古事記に事績の記事がない欠史八代と呼ばれる。
しかし、そうだとしても本当に存在しなかったかと言われると、別にいたとしてもおかしくないと思う。葛城あたりの地方領主として大したこともしてなかっただけではないか?とも思える。
古墳時代最初の巨大古墳は奈良県桜井市にある箸墓古墳だが、これは第7代孝霊天皇皇女の倭迹迹日百襲姫命の墓と言われている。倭迹迹日百襲姫命はシャーマン的な性質を持つ人物であり、後漢書東夷伝に見える卑弥呼その人ではないかとも。邪馬台国がやまと国と読むか、それがヤマト王権と本当に繋がっているかはやや難しいところがあるが、そうであった方が自然な解釈になる気もする。ともかくこの分野は歴史学者もポジショントークに徹するきらいがあり中々素人には手が出せない領域である。

誉田御廟山古墳は巨大な前方後円墳だが、写真を見ればわかる通り横から見ても小さな山にしか見えない。鍵穴状とも言われるその独特な形はヘリコプターにでも乗って上空から眺めないとよくわからないものである。その辺りが古墳の観光資源としての課題の一つといえよう。エジプトのピラミッドなどはもう見ればピラミッドだと明らかにわかるのと比べるとやはり弱いか。

古墳は巨大な墓である。エジプトのピラミッドは何もない砂漠に建てている訳だが、日本の古墳は町の中にドデンと土地を占拠している。これほど贅沢な土地の使い道もないかもしれない。であるが故に建築業者に壊された古墳という話もよく聞く。


エジプトのピラミッドもまた墓であるとされ、ファラオの呪いがなんだかんだという話はよくあるものである。
実際のところ、そういう呪いは根拠のないものだ。
そして誉田御廟山古墳に関しては天皇の霊が呪ってくるという話すら全く聞こえてこない。
ビデオテープの中で拷問されている天皇も、時系列が未来の天皇の墓も存在しないのだ。






古市駅から近鉄南大阪線を橿原神宮前方向の鈍行列車に乗ると、駒ヶ谷駅の次に上ノ太子駅に着く。
そこから15分ほど歩くと壺井八幡宮にたどり着く。

Tsuboi-Hachimangu

壺井八幡宮は河内源氏の総氏神であったことが知られている。

河内源氏は賜姓皇族清和源氏の一流であり、武家の棟梁として有名である。鎌倉幕府の源氏将軍、室町幕府の足利将軍は河内源氏の子孫である。他にも戦国時代に名を馳せた武田氏や今川氏、細川氏に佐竹氏なども河内源氏の流れである。
平家物語で描かれる源平合戦は源氏と平家の戦いと言われるが。平家とは伊勢に本拠地を構えた伊勢平氏のことであり、これに対応するのは河内源氏、古い言葉で源家となる。鎌倉幕府の実権を握った北条氏は伊勢平氏の子孫だとも言われるが詳しいことははっきりしていない。

河内源氏はその名の通り河内国を本拠地とした源氏であり、源満仲の三男の源頼信を祖とする。
源満仲は武士団を摂津国に形成した。その長男、源頼光は摂津源氏の祖という事になるが、この男は酒呑童子退治の逸話で有名であろう。
河内源氏はそれぞれが多くの武功を為して名を挙げた訳だが、その中でも語るべきは八幡太郎義家だろう。

八幡太郎とはもちろん通称だがそれにしても奇妙な通称である。これは石清水八幡宮で元服したことから来ている。ちなみに弟に賀茂次郎こと義綱と新羅三郎こと義光がいるが彼らはそれぞれ賀茂神社と新羅明神、つまり大津三井寺新羅善神堂で元服したことから来ている。
平安時代後期、摂関政治と院政が移り変わる時代に活躍した武将であり、政治に振り回されたがその武勇は比類ないものである。平安時代の武士は、鎌倉時代もそうだが騎乗して弓を放つのが基本戦術である。世界一巨大な部類である和弓を、全身鎧で固めて騎射する重装弓騎兵というコンセプトは凄まじいものを感じる。
駒ヶ谷という地名もそこが駒、馬の産地だったことに由来する。

壺井八幡宮では八幡神を祭神とするわけだが、境内の壷井権現社では河内源氏の祖である源頼信、二代目源頼義、三代目源義家、及び源義綱、源義光を祭神としている。
その他、石丸神社や大祁於賀美神社、飛鳥戸神社などが明治時代に合祀されている。
源頼朝が鎌倉幕府を開いた後は河内源氏の総氏神は鎌倉の鶴岡八幡宮に移った。
壷井八幡宮は南北朝時代から戦国時代にかけて荒廃した。現在の本殿は徳川幕府第五代征夷大将軍徳川綱吉の命により再建されたものである。
平家を滅ぼした河内源氏だが、平家と同様諸行無常に滅びゆき、盛者必衰の理には逆らえなかった。


一所懸命の地、命がけで守られた土地である。そこに何かを期待して赴いたが、残るのはせいぜいが墓だけである。
霊的実体の一体すらいない。
いなくなったという意味ではない。最初からここにはいなかったのだろう。






もう一度近鉄電車で上ノ太子駅から古市で乗り換え、富田林駅で降りた。
一応富田林市はPL教団の聖地という事になるが、同じ新興宗教の天理教の奈良県天理市などと比べるとまるで宗教都市という感じはしない。無論天理教とは規模が違う訳だが、周囲の景観を塗りつぶそうという程の強い意志がないからかもしれない。
…… そんな中でやはりPLの塔は異彩を放つ。

PL塔は富田林駅からすぐ見える。であるので富田林駅からそのまま歩いて向かおうとしがちだが、高さ180mの塔が実際の距離よりも近く見せるせいであり、迷路のような住宅街で迷子になるのがオチである。
PLの塔へは近鉄バスに乗り、PL病院正面玄関前で降りてそこから徒歩で向かう。
巨大な前衛芸術は近づくにつれて非日常感を増していく。以前ネットで見たところではRPGの中盤の山場のダンジョン、だとか言われていたが確かに言い得て妙にも思える。

信者以外でも水曜日や宗教行事の日やその前日などを除き、10時から16時まで誰でも参拝という名目で入場が可能である。入場料もいらない。
PLの塔周辺は桜の名所としても有名である。
しかし私の目にしたところでは他に観光客、もとい参拝客は見受けられなかった。

周囲や内部には彫刻などの芸術作品が多く飾られている。そして係員に連れられて2階の神殿に上り、参拝する。
参拝のスタイルは各々の自由で良い。


PL教への勧誘さえされなかった。






あの、訳の分からないPLの塔でさえ、実際何でもない慰霊塔に過ぎない。

現代まで信仰される古代神聖王の墓である鍵穴型の誉田御廟山古墳も、堀に囲まれた森でしかない。

日本の歴史を支配した武家の頭領の祖廟である壷井八幡宮など、小さな田舎の神社という印象しか与えない。



この世界に異常と呼べるものは存在しない。

過去に存在したこともなければ、未来に存在することもない。

ただそれを空想する人たちがいるだけである。


財団も、世界オカルト連合も、蛇の手も、サーキック・カルトも、
日本生類創研も、東弊重工も、闇寿司も、無尽月導衆も存在しない。


私は世界が理不尽と闇で満たされていない事に涙を流した。


ファイルページ: 無題のファイル(4)

ソース: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:PL_tower.jpg#/media/File:PL_tower.jpg
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: 大平和祈念塔
著作権者: KENPEI
公開年: 10 October 2004
補足:

ファイルページ: 無題のファイル(5)

ソース: https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/08/Tsuboi-Hachimangu.jpg
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: Tsuboi-Hachimangu
著作権者: W236
公開年: June 2006
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ファイルページ: 無題のファイル(6)

ソース: https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/ae/Konda_Gobyoyama_Kofun%2C_haisho-2.jpg
ライセンス: パブリックドメイン/CC0

タイトル: Konda Gobyoyama Kofun, haisho-2
著作権者: Saigen Jiro
公開年: 16 June 2018, 15:08:16
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使用コトダマ: チームコン2020で作られたタグ 八目 皇帝


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