雨に紛れて

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DX 2021/07/05 (Mon) 01:55:51 #07555432


初投稿です、特にオチのない話ですが……。

あれは確か十年ほど前の話でしょうか。当時、私はブラック企業に勤めていたせいでお金がなく(確か給与は12万円ほど)、その時住んでいたアパートから引っ越さなければなりませんでした。
都内の不動産屋に頼んで瑕疵物件__家の傾きや騒音、立地、法律違反、そして心霊現象などがある、要するに問題物件です。__を見せてもらいました。
その中に、家賃2万という、当時の給料から見ても、とても安い家賃の物件があったんです。
瑕疵の種類は物理的瑕疵。どうも雨漏りがするようなのですが、それでも安く思える物件でした。
ですが、そこはどうやら頻繁に入居者が入れ替わるらしく、さらに物件自体も築78年とかなり古いので不動産屋曰く納得できる値段らしいのです。
不動産屋にはあまり勧められませんでしたが、私はそこの物件に住むことにしました。

建物の外見についてみると、築年数が古いことがすぐにわかりました。階段は赤さびと霞んだ鉄のまだら模様に、木製の壁はところどころ腐り、そして天井には蜘蛛の巣が張り巡らされていました。私が住む部屋は102号室でした。

住んでから初めての雨の日です。不動産屋の言う通り、酷い雨漏りがありました。
アニメのように鍋やお皿を並べて水を貯めるのは初めてでしたが、重労働というほどではありませんでした。
幸いなことに雨漏りする箇所は一定なので、雨の日はそこに鍋やお皿を置くだけでしたし。2L以上の雨水が手に入ってうれしかったですよ。煮沸すれば飲み水にできるでしょう?

住み始めてから数カ月たったころでしょうか。
雨の日、ずっと気になっていたことがありました。私が寝ている場所はアパートの北側の壁際なのですが、夜中の二時になると壁の奥から雨音のような音がずっと聞こえてくるのです。雨漏りの音にしては大きいなと思いながらも、しばらくは気にしていませんでした。
ただ、ある日のことです。なんとなく、その音を意識して聞いてみたことにしたんです。
そしたら、気づいたんです。

雨音じゃなくて、10代ほどの女性の笑い声だって。
高い声で笑っていて、しかも自然に雨音に溶け込んでいたので気が付きませんでしたが、完全に女性の笑い声でした。
それに気が付いたその日は全く眠れませんでした。

それからというもの、雨の日が怖くなったんです。
夜中の二時ぴったりに、十代の女性の高い笑い声が耳元で聞こえる。五回ほどその笑い声を聞いた時。もう耐えきれなくなりました。雲一つない快晴の日のこと。なんとか休日をとれた私は、声が聞こえてくるであろう隣の101号室に文句を言おうと、ドアを5回ほどノックしました。
でも、誰も出てこないんです。

何回もノックしたのですが、ずっと反応が返ってこない。蚊の羽音や蝉の鳴き声が異様に大きく聞こえるほど静かでした。気になって大家さんに聞きに行ったんです、隣の101号室には誰が住んでるのかと。ごちゃごちゃして、酒缶の散らばった畳の部屋でテレビを見ながら寝そべっていた大家さんに聞いたんですよ。そしたら、めんどくさそうな、酷く抑揚のない声でこういわれたんです。

「だれも住んでいない。」

隣の部屋は空き部屋だったんです。心霊が大嫌いな私は、どうしてもそれを信じたくありませんでした。
しかし、大家さんが101号室の鍵を、錆びた表面に101と刻まれていた鍵を鍵入れの中に入れて保存しているのを見て、信じるしかなく、落胆しながら部屋へと戻りました。空は少し曇り始めていました。
試しに寝る場所を東側の壁際に変えてみたり、耳栓をしても、雨の日は必ずあの笑い声が聞こえました。
結局、私は月給21万ほどの転職場所を見つけ、すぐに引っ越してしまいました。引っ越した先のアパートはまだ汚れていない白で染まっていて、築年数は2年ほどの物件でした。部屋は白い壁に薄茶色の木製の床、小さいながらも台所と風呂場、トイレもついていました。

ですが、引っ越して迎えた初めての雨の日。
また、あの笑い声が聞こえてきたんです。十代ほどの、どこか頼りないような、透明感のある、クスクスとした笑い声。
我慢し切れず、公園のベンチで友人にそのことを話したんです。茶色い目がきれいで、それに刈り上げがすごく似合っていました。
その友人は作り話だと馬鹿にするような声で笑い飛ばしていて、少しイラついたんですけども、結局その日は一緒に食事に行って少し話して、そして帰りました。
そして雨の日。憂鬱な気分で布団に入ります。そして、例の時間。
……音が遠い。
音が小さくなったわけではありません。ですが、どこか音が遠ざかった感じがしたんです。

翌日、友人から「女の笑い声が聞こえた。どうしてくれんの?」とメールが来ました。
そこでなんとなく、気になったんです。

他の友人に話してみると、どうなるんだろうって。

友人何人かで恐怖体験を語ろうっていう名目で友人を何人か私の部屋に呼び出したんですよ。頼れる光源は人数分のろうそくだけにして、そして1人が話し終えるごとに、ろうそくを1つ消していく。そのルールでやり、ろうそくは残り1つ。そして、最後は私の番、その時にこの話をしたんです。
最初は全員半笑いで聞いていたんですけど、最後まで話し終えたところで、そこそこみんな怖がってくれましたよ。一番最初にこの話をした友人は悪魔を見るような目で私を見てましたけどね。そのあとは全員で有名な飲み屋に行って、酒を3杯ほど飲んで解散しました。

そして、雨の日。例の時間になると、前よりも女の高い、十代ほどの笑い声はより遠くから聞こえてきたんです。

私は気が付いたんです。
多くの人に話せば、あの声は遠ざかっていく。私の耳から離れてくれる。そう気づいたんです。

どうでしたでしょうか。拙い文章ではありましたが、当時の私を想像することができたでしょうか。
できたのでしたら幸いです。私にとって。

さて、今日は随分とひどい雨ですね。遠くからは雷鳴が聞こえて、地面に雨水が叩きつけられる音が聞こえてきます。

皆様、申し訳ありません。

私の精神のために、少し協力して頂きます。
おやすみなさい。



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