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SCP-2516-JP内部。並木道の奥にSCP-2516-JP-Aが確認できる。

アイテム番号: SCP-2516-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-2516-JPは封鎖され、外部から常に監視されます。SCP-XXXX-JPの安定状態を維持するため、プロトコル"クロロホルム"は継続されます。

説明: SCP-2516-JPは、栃木県██市に存在する並木道と草原で構成された公園です。日時に関わらず内部の気温は10度前後に保たれており、太陽光・降水・風は遮断されています。調査により、SCP-2516-JPは現実性希薄領域1となっている事が判明しています。

SCP-2516-JPに侵入した人間(以下、侵入者と呼称)は、自身の義務的・責任的意識に関する思考を忘失します。加えて侵入者は外部からの干渉に反応する事はなく、後述のSCP-2516-JP-Aとのみ対話を行います。上記の影響は対象がSCP-2516-JPから退出すると同時に無効化されます。これらの精神影響により、SCP-2516-JP内部及びSCP-2516-JP-Aの詳細な調査は困難なものとなっています。

SCP-2516-JP-Aは、SCP-2516-JP内部に存在するヒト型実体です。全身に黒くもやがかかっているためシルエットとしてのみ認識が可能であり、特徴から厚手のコートを着用した成人男性の様に見えます。SCP-2516-JP-Aは飲食、排泄を必要とする様子を見せず、多くの時間を散歩と睡眠に費やします。また、外部からの干渉に反応する様子はみられません。例外的な行動として、侵入者が存在する場合は積極的に接触を行いますが、最終的には侵入者をSCP-2516-JPより退出させます。

SCP-2516-JPの変質が確認されたのは2002/12/4でしたが、当初境界面は濃い霧、及び不可視の障壁で覆われており、外部からの侵入・観察は不可能でした。その後2004/5/12〜2005/1/7にかけて徐々に霧は消失、2006/9/13に障壁が消失しました。

補遺1: 以下は、障壁の消失に伴う調査において、SCP-2516-JPにエージェント・鶴見が侵入した際の映像記録です。カメラはエージェント・鶴見の眼鏡に取り付けられたものであり、そのため視点はエージェント・鶴見のものと一致します。

映像記録#1 2006/9/13


[記録開始]

SCP-2516-JPに侵入。直後、Agt.鶴見はSCP-2516-JPの精神影響を受けたと推測される。カメラは周囲を見渡すように動き、やがて左前方から歩いてくるSCP-2516-JP-Aを捉える。

Agt.鶴見とSCP-2516-JP-Aが合流する。両者は無言のまま並木道のベンチへ移動し、横並びで座る。

SCP-2516-JP-A: えらく気の抜けた顔をしてるな。ここがそんなに気にいったのか?

Agt.鶴見: ああ。今まで悩んだり、苦しんだりしてきた事がすごく下らない事に思える。ここは良い所だ。ずっといても良いかい?

[数秒の沈黙]

SCP-2516-JP-A: なあ、久しぶりの客人だからさ、俺も少し話がしたいんだ。ただ2人で座ってるっていうのも何だし、少し独り言に付き合ってくれないか?

Agt.鶴見: 良いよ。

草原の枯れ草が浮遊し、手を繋ぎ輪を形成した複数の人形の形状をとる。輪の中央で枯れ木が浮遊し、カメラに向き合う方向で人形の形状をとる。

SCP-2516-JP-A: 俺も昔はさ、あんたや普通の人みたいに働いてた。自分で言うのも何だけど優秀で、周りからすれば明るくて頼りになるやつって感じだっただろうな。

輪の構成に使用されなかった枯れ草が浮遊し、枯れ木の人形よりやや小さい女性の人形を形成する。2つの人形は抱き合う様な動きを見せる。やがて2つの人形の間から、枯れ木と枯れ草で形成された小型の人形が形成される。

SCP-2516-JP-A: そんな人間だったからか、可愛くて優しい彼女ができた。付き合って3年くらいで結婚して、子供も産まれた。

時間経過に伴い小型の人形は巨大化し、既存の輪の外部に2つ目、3つ目の輪が形成される。

SCP-2516-JP-A: 妻も子供も愛していたし、仕事もそれなりにやりがいがあった。でもいつだったか、ふとした拍子に

[数秒の沈黙]

SCP-2516-JP-A: それらを重みと感じてしまった。

浮遊していた物体が全て落下する。

SCP-2516-JP-A: 別に大きなきっかけがあったとか、そういう訳じゃないんだ。ただ一度そう感じてしまうと、戻れなくてさ。毎日を楽しいと思えなくなってしまった。

枯れ木が再度人形の形状をとる。再形成前と比べうなだれた様子に見える。人形はAgt.鶴見とSCP-2516-JP-Aの座るベンチの右隣にあるベンチに向かって歩き、空を仰ぐ様に座る。

SCP-2516-JP-A: 辛いんだけども自分を崩せない、そんな日が長いこと続いてね。どうにも参っちゃってて、ある日仕事帰りにあのベンチに座ったんだ。普段はこんな公園気にもしてなかったんだけど、あの時はそういう気分だった。夜遅くで他に人はいなくて、俺はしばらくああしていた。そして思っちゃったんだ、背負ってるものから逃げて、ずっとこうしていたいって。

SCP-2516-JPの境界面に濃い霧が発生する。

SCP-2516-JP-A: 何でかは分からないけど願いは叶って、俺は自由になった。心の底から清々しい気持ちで、この生活を謳歌し始めた。

人形はベンチから立ち上がり、SCP-2516-JPの散策を始める。カメラは人形の動きを追っている。人形は時たま寝転んだり、再度ベンチに座る様子を見せる。

SCP-2516-JP-A: 退屈とは思わなかった。あらゆる事から解放されて、何かする方がばかばかしいと思った。毎日が穏やかで、幸せだと感じてた。でもしばらく経って、自分の体が見えなくなってるのに気付いた。

SCP-2516-JP-Aが自身の体を見る。

SCP-2516-JP-A: それが分かってすぐに、俺から自我というか、個性と呼べるものが消えてしまった事にも気付いた。そしてそれが何でなのかも、俺には分かった。

[10秒程度の沈黙]

SCP-2516-JP-A: 分かった今でもあの頃に戻るのが怖いし、今の生活を続けたいと思う。けど、きっとそれじゃ駄目なんだろう。

SCP-2516-JP-AがAgt.鶴見に向き合う姿勢をとる。境界面の霧が消失する。

SCP-2516-JP-A: こうして誰かに話したくなったのも、少しずつだけど変われてるって事なんだと思う。そしてお前はここから出ていかなくちゃいけない。分かってくれるか?

カメラが前方向に傾く。Agt.鶴見が俯いたと推測される。

SCP-2516-JP-A: まあ、分からなくてもいいさ。お前は今まで耐えてきたんだから、きっとこれからも耐えられると思うさ。とにかく、ここに長く居すぎたら俺みたいになっちまうからな。先に待っててくれよ。

Agt.鶴見が浮遊し、SCP-2516-JP-Aから遠ざかっていく。Agt.鶴見は抵抗する様子を見せるが、手足は宙を切るのみである。SCP-XXXX-JP-Aは立ち上がり、カメラを見つめる。人形は依然散策を続けている。

SCP-2516-JP-Aより退出する。

[記録終了]

付記: 当映像記録で得られた情報を受けて、SCP-2516-JP発生直後の行方不明者よりSCP-2516-JP-Aの身元が特定されました。現在SCP-2516-JP及びSCP-2516-JP-Aは安定状態にあるため、SCP-2516-JP-Aの親族/知人を使用しての実験は実施されていません。

補遺2: 2007/2/8以降、SCP-2516-JPにおいて以下の事象が進行しています。

・Hm値の正常化
・侵入者の受ける精神影響の弱化
・SCP-XXXX-JP-Aのもやの希薄化

これらの事象がHm値の正常化2と同時に完了すると仮定し、かつHmの正常化が現在のペースを維持し進行した場合、SCP-XXXX-JPは最速で2009/5/17にNeutralized化する事が予想されました。

上記事案を受け、SCP-2516-JP担当チームは協議の後プロトコル"クロロホルム"を立案、実行しました。

プロトコル"クロロホルム"概要

SCP-2516-JPのHm値は、スクラントン現実錨を用いて常に初期収容時と同じ平均値:0.523Hmに維持されます。またSCP-2516-JP-Aへの刺激を最小限に抑えるため、SCP-2516-JPに関する全ての実験は禁止されます。プロトコル"クロロホルム"は、以下の仮説を根拠として発案されました。

・進行中の事象は互いに正の相関関係にある。
・映像記録の内容などより、侵入者の受ける精神影響はSCP-2516-JP-Aの思考にも影響している。

プロトコル"クロロホルム"実行後、SCP-2516-JPにおいて進行していた事象は停止したため、Neutralized化の防止は成功したと判断されました。安定状態を維持するため、プロトコル"クロロホルム"は継続されます。


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執筆者: taneyama
文字数: 4567
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批評コメント: 1

最終更新: 19 Nov 2021 01:32
最終コメント: 31 Mar 2021 13:43 by Hoojiro_san

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