SCP-3000-JP - ヴェルト理論
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アイテム番号 オブジェクトクラス
SCP-3000-JP THAUMIEL

3000-JP%261.png

SCP-3000-JP内に位置するSCP-3000-JP-1。


特別収容プロトコル: SCP-3000-JPに関する情報は多元宇宙の構成ならびに急速に深刻化している異常消滅現象と強く関連しているため、レベル5機密に指定されています。またSCP-3000-JPは上記の異常消滅現象の解決において重要な役目を果たしているため、Thaumielクラスに分類されると共に多くのリソースが研究に利用されています。

SCP-3000-JPの利用許可を与えられた唯一の人物であるAgt.東耶は特別機密措置を受けると共に、SCP-3000-JPを利用した緊急任務を履行する義務が与えられます。SCP-3000-JPに繋がるポータルの場所の把握はAgt.東耶と一部の関係者のみに制限されています。


説明: SCP-3000-JPはヴェルトと呼称される、現在財団が把握している平行宇宙のいずれにも属していないと考えられる空間です。SCP-3000-JP内の距離的限界は確認されておらず、空間内の下面は砂で覆われた地面が無限に続いているように観察されます。SCP-3000-JPの中心付近にはSCP-3000-JP-1が存在します。

SCP-3000-JP-1は世界樹と呼称される、多元宇宙論に基づいた平行宇宙の全てに接続していると考えられる樹木型ポータルです。SCP-3000-JP-1のそれぞれの枝先には別の宇宙に接続されるポータルが存在しており、これは幹を介して利用する事ができます。詳細は補遺; “樹形宇宙理論”パートを参照してください。

SCP-3000-JP内には“エリージュ”という名で知られる、明確な異常性を持たない人型実体が存在します。当実体は桃色のボブヘアを特徴とした女性であり、現在SCP-3000-JP内に存在する唯一の知性体と考えられています。当実体はSCP-3000-JPの管理を担っていると自称していますが、実年齢や目的などの関連情報は判明していません。


補遺1: 初期接触

SCP-3000-JPは財団の宇宙探索の際に発見されました。宇宙船“ヴァンス”による航行中、不慮の原因から当船舶はブラックホールへと突入し、搭乗員13名のうちAgt.東耶を除く12名がロストする惨事となりました。しかしながらAgt.東耶のみが不明な要因でブラックホール内からSCP-3000-JPに移動し、生存する事に成功しました。以下にAgt.東耶による当時の状況に関する供述を抜粋します。

宇宙船がブラックホールに飲み込まれた時、私達はなんとか立ち直そうと必死でした。皆、こうなればもう無理だというのは分かってたと思います ── それでも諦める者は1人もいませんでした。結局最後には飲まれたのですが……その時突然私の視界が真っ白になり、周囲の音も消えたのです。それが20秒ほど続いて、光が弱まると、私は砂に覆われた空間にいる事に気付きました。そこは途方もなく広く、空は暗い虹色で、そして周りを見回すと、1本の輝く樹木が鎮座していました。

私は樹へと歩き、やがて人工物を見つけました。砂の地面に机とイスが不自然に置いてあったのです。イスには桃色の髪を靡かせた女性が座っており、こちらに気付いて微笑みました。彼女はたじろぐ私に、日本語で名乗りました。「エリージュ」と。彼女は私の質問をはぐらかし、樹へと連れていきました。彼女は「ここから地球に帰れるから」と囁き、私の手を取って樹木の幹へと触れさせました。

彼女は私の質問に対し「また近いうちに再会するから、その時に」と返しました。瞬間、私の視界は再び白くなり……光が収まるとそこは地球、そして私のよく知る東京だったのです。

上述の経緯によるAgt.東耶の東京都内への帰還とほぼ同時期に、SCP-3000-JPが関係する異常なオブジェクトの消滅現象が数件確認されました。以下にそのリストを抜粋します。

異常消滅現象記録

概要1: 科学的にほぼその異常性が解明された民俗学的なAnomalousアイテム#3408が突如白く光り、その後消滅した。

概要2: SCP-███の異常性によって肺ガンを患っていたシャオ博士のガンが消滅した。消滅時、肺の部分から淡い光が放出されている事が同僚により確認されている。なお、SCP-███側には何の変化も無かった。

これらに類似する現象は不定期に確認されたため、時系列に沿って上記と同様のリストが文中に挿入されます。


補遺2: 第1次調査

Agt.東耶の帰還について調査が行われた結果、氏の出現地点の近くに白い発光体が浮かんでいる事が確認されました。財団は周辺を隔離した後、これがSCP-3000-JPに続くポータルであると仮定した実験を行いました。しかしDクラス職員や研究員による接触実験では、ワープホールには侵入できるものの、移動の最中に方向が逆転して地球に戻されるという結果に終わりました。

この結果を受けAgt.東耶を用いて実験を実施したところ、不明な要因によってSCP-3000-JPへの到達に成功しました。以下はその際にエリージュ氏と行われた会話の抜粋です。※注意: 音声転写では理解困難な部分があったため、その部分は会話内容をまとめた説明によって補われています。

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TST-1.png

丸で囲んだ部分に、各宇宙空間に繋がる出入口(ポータル)がある。

樹形宇宙理論とは、複数存在する宇宙の相互関係を説明する理論です。SCP-3000-JP-1は多元宇宙に繋がる樹木型の“道” ── ある場所から別の場所へ移動できるポータル ── で、枝先には各宇宙に繋がる出入口があります。利用者は幹に触れることで体がワープに適した粒子状になり、幹から枝先へ、枝先の出入口からその先への宇宙にワープします。

なお、各宇宙にはそれぞれ異なる理論や概念があり、例えば空気のある宇宙や2次元の宇宙などもあります。ここで「各宇宙が有する理論や概念の差異」を決定づけるのが、SCP-3000-JPおよびSCP-3000-JP-1の役目であるとされています。

エリージュ氏によればSCP-3000-JPは「あらゆる理論や概念(森羅万象)が存在する場所」であり、その森羅万象がSCP-3000-JP-1の“栄養”として吸収され、枝を通して各宇宙に配分されるとしています。この際、枝分かれによって各宇宙に行き渡る栄養バランスが異なるため、各宇宙の姿形や理論・発展もそれぞれ異なるとされています。

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補遺3: 探索に関する日本支部理事会の審議

Agt.東耶の帰還後、探索をAgt.東耶に任せるかが審議されました。個人に探索させるという面が争点となったものの、最終的には部分的承認という形で合意されました。理事会員“稲妻”はこれに関し以下のようにコメントしています。

多元宇宙や別次元という枠組みは、我々アノマリーに関わる者にとっては“一般的な”概念と言えるでしょう。別次元から来たアイテムや体が平行宇宙と繋がってしまっている人間など、多くの関連アノマリーを私達は収容しています。しかしそのほとんどは“受動的”なもので ── 自らが自分の意志で別次元や別宇宙に干渉できる例は滅多にありません。こういった中でSCP-3000-JPはそれが広範に可能な、稀有な空間だと言えます。

持続可能な資源やアノマリーに共通する理論を探るために「別の理論や概念が存在する」別宇宙を探索する事は、前々から私達が望んでいた事です。そしてAgt.東耶も探索エージェントという職業柄、それをする事に向いていると言えるでしょう。Agt.東耶には、財団に対する有用な情報の獲得・回収を条件として、多世界探索の実施を許可する事にしました。

探索に先立ち、Agt.東耶に対し高レベルセキュリティクリアランスが一時的に付与され、多元宇宙に関する多数の報告書や関連文書の閲覧が義務付けられました。

異常消滅現象記録

概要1: 要注意団体『日本生類創研』から回収されたアノマリーのうち、科学的にほぼ異常性が解明されていた2種が消滅した。

概要2: 時間や人員の関係で、確保されていたものの2年間にわたって研究が不足していた民俗学的アノマリーであるSCP-████-JPが消滅した。前述の事情により、職員のほとんどはSCP-████-JPに関する知識を有していなかった。


補遺4: 探索

Agt.東耶の知識量と経験が問題なしと判断されたため、エリージュ氏の主導のもと、2つの世界の探索が行われました。以下はその探索記録の抜粋です。※注意: 探索した世界の性質により通常の記録方式が使えなかったため、特殊な記録方式が用いられていることに留意してください。明らかに報告書には用いられない表現があったとしても、それは意図されたものです。

探索Ⅰ: ネグリオシュ
世界番号: 001 / 地点: ネグリオシュ王国セビ地区 / 探索時間: 3時間45分 / 言語: 英語に近い


エリージュ: ようこそ、ここはネグリオシュよ。

白い光が収まると同時に、彼女は囁いた。そちらを振り向くと、そこにはエリージュがいた ── しかし、何かがおかしかった。

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サクラ: エリ?

外見や服装、香りは間違いなく彼女のものだった。木の近くで変なポーズをとっている点も。ただ、それ以外の全てが不自然であった。

エリージュ: ゲーム、好きなんでしょう?だから最初に案内するのは、2次元の世界よ。

ハッとして私の手を見ると、そこには手相が無く、血管は浮き出ておらず、完璧で不自然な体躯があった。手鏡で自分の顔を見ると、確かに美人であったが、自分がキャラクター化されたかのような恥ずかしさを感じた。

エリージュ: すぐに慣れるわ。そうそう、ここネグリオシュは貴方の住む地球と違った話し始め方をするわ。だから話す時は私の声をよく聞いて。

サクラ: 了解です。……にしてもゲームですか。そういや私はポケモンの図鑑を見るのが好きでしたよ。ああすみません、分からないですよね。

エリージュ: 知ってるわよ。ええと、“金・銀”とか、“ドゥッカ・スッカ”とか?

サクラ: ドゥッカ・スッカは知りませんが……ええ、にしても貴方のその恰好はこちらの世界だとよく似合いますね。

エリージュ: 3次元の世界じゃ似合わないって言ってるようなものよ、それ。おや ──

エリはすぐ前方を歩いていた男に話しかける。男は振り向き、彼女に手を振る。

エリージュ: ドゥア・ミヒト・ルイア!久しぶり、レヴィット。

レヴィット: ドゥア・ミヒト・ルイア、エリ。そちらの方はご友人ですか?

サクラ: ……えー、ドゥア・ミヒト・ルイア。私はサクラと申します。

レヴィット: こんにちは、サクラ。僕はレヴィットです。その様子ですと、こちらの世界に来るのは初めてですか?

サクラ: はい。エリとはどのような……?

エリージュ: レヴィットとは昔、貴方と同じように出会ったの。彼ったらその時、本当に混乱してて私を見るなり撃ってきたのよ。当てさせなかったけどね。

サクラ: どうやって ── いえ、とにかく私と同じ経験をなさったのですね。では貴方も今の私と同じように色んな世界を冒険したことがあるのですか?

レヴィット: そうですね。僕が最初連れていかれたのは3次元の世界でして。貴方の場合だともしかして3次元からこちらに?

サクラ: 大正解です。エリのお得意技みたいですね?

エリージュ: これが一番インパクトがあるからね。ああそうだレヴィット、今の私達の発言を大まかでいいから文章に書き起こせる?

レヴィット: あれを理解させるんですね?いいでしょう。

そう言うとレヴィットは懐から紙を取り出し、ペンを用いて数十秒前までの私達の会話を書き起こした。それは私にとって違和感を感じさせるには充分であった。

レヴィット: 僕は最初、3次元の世界に連れていかれました。ああ、貴方の場合だともしかして3次元からこちらに?

僕は探るように ── そしてサプライズでもするような面持ちで ── それを尋ねた。サクラは僕と同じような顔で笑った。

サクラ: 大正解です。エリのお得意技みたいですね?

エリージュ: これが一番インパクトがあるからね。

それは明らかに、地球だとあり得ない転写方式だった。普通、会話の書き起こしに主観は含まない。ましてやその際の感情も入れることはない。

エリージュ: これがこの世界よ。驚いた?サクラ。(沈黙)……驚いて声も出ないようね。まぁ、貴方が地球に帰ってこの内容を転写する時はこれに従う必要があるわ。郷に入っては郷に従え、という事よ。じゃあそういう事でレヴィット、この世界にサクラを案内してあげて。私は観光してくるから。

衝撃冷めやらぬ私を置いて、エリはどこかへ行ってしまった。私はふと「誤伝達」という概念を思い出した ── 世の中には、財団の用いる方式で記録することを許さないアノマリーがある。そしてこれもその誤伝達性の一種なのだろうと理解すると、やっとその事を受け入れられるようになった。

レヴィット: おっと。いなくなってしまいましたね。まぁ……ええ、ちょっと歩きませんか?

サクラ: 構いません。

私はしばらくレヴィットと歩いて、商店街を訪れた。そこには沢山の人がいたが、いずれも中世風アニメに出てきそうな服を着ていて、それに対し私の特殊スーツは不格好に見えた。レヴィットはそれを見かねたのか、華やかな服飾店に寄り、この世界に合う煌びやかな青色の洋服を買ってくれた。言うまでもなく、私もお金を出そうとした ── すぐに、貨幣制度が地球とは違うことに気付いた。それに決済方法は金貨だと思っていたがカード決済のようなもので、何ともその時代への“合わなさ”を感じたのを覚えている。その後も彼は私に食事やアクセサリーを奢ってくれた。恩返ししたかったが、彼は「いつか貴方が僕と同じ立場に立ったなら、僕と同じことをその人にしてほしい」と微笑んだ。

やがて私達は丘を登り、小さな公園に辿り着いた。その時は既に日が落ちていたが、そこから見る月はクレーターが少なく、そして夜空が鮮やかだったのが記憶に新しい。歩き疲れた私達は近くにあった鉄製のように見えるベンチに座ったが、手触りと匂いは樫の木のようであった。そこでエリについても軽く話したが、両者の意見はほぼ一致した ── 変な話し方、不思議なスタイル、妙な所作。どうやらアニメチックな世界でも、エリの話し方は妙ちくりんに聞こえるらしい。私達はお互いに笑いあった。

レヴィット: 貴方の住む世界がどんな所かは知りませんが、きっとこの世界は貴方にとって奇妙に映るのでしょう。

サクラ: 本当に。貴方も3次元の世界に来た時は奇妙に感じたのですか?

レヴィット: 元々この世界に「次元」という概念はありませんでした。エリと旅したことで初めてそれを知る事となったんです。ですが少し奇妙な事に、私がこの世界に帰ってからすぐ、この世界でも「次元」という概念が仮説されるようになりました。

それは私に夜風の冷たさを感じさせるには充分な話だった。彼が別世界を探索した後にこの世界に新しい概念が現れたという事は、私の世界でもそうなる可能性があるという事である。

レヴィット: 多分、それは世界樹の性質なのでしょう。詳しくは分かりませんが、貴方の世界にも、この世界で言う「次元」のように、これまでその世界に存在しなかった概念が現れているかもしれません。

サクラ: ならば私は、ここにいるべきじゃないのでは?

レヴィット: ここを楽しむ時間くらいはあっていいでしょう。それに、これはそんなに悪いことではないのかもしれません。持ち込まれた概念や理論を災厄とするか、幸運とするかはその世界の住人次第だと思います。

サクラ: 確かに。にしても貴方はどうやってヴェルトまで辿り着いたのですか?

レヴィット: 震災が国を襲い、瓦礫の山が私の真上から降ってきた時です。貴方は?

サクラ: ブラックホールに巻き込まれた時に。

レヴィット: うっ……知らない言葉です。ですがきっと、死ぬ直前だったのではないでしょうか?

サクラ: はい。やはりヴェルトに辿り着くには、死が作動条件なのでしょうか。

レヴィット: 条件の1つでしょうね。ただ、私は死を覚悟しませんでした。瓦礫が当たる直前、私は死を覚悟したり防衛反応を取るより先に「この先にどんな景色があるのだろう」と思いました。変な人だと思ってます、自分でも。

サクラ: いえ ── いえ、素敵だと思います。そういった考えがヴェルトの景色に辿り着かせたのかもしれませんね。

エリージュ: 話は終わった?そろそろ帰りましょう。

私達は同時に後ろを振り向いた。エリは夜風を受けながら私達へと近付いていた。

サクラ: ちょうど終わったとこです。ですがまた機会があればこの世界を訪れたいです、構いませんか?

エリージュ: もちろんよ。じゃあそろそろお暇するわね。さよなら、レヴィット。

レヴィット: さようなら。 ── ああ!サクラ、1つ言い忘れてた。会った時、“ドゥア・ミヒト・ルイア”って言ったでしょう?もしかしてエリから「この世界では特殊な話し始め方をする」みたいな事言われました?

サクラ: はい。それがどうかしましたか?

レヴィット: あれ、実は嘘なんです。この日のために、エリと事前に打ち合わせしてました。僕達の世界でも、話し始めは「ハロー」です ── からかってすみません、サクラ。

私は赤面した。文句の1つでも言ってやろうと思ったが、それをするより前に白が私の視界を覆った。

再び視界が開けたら、そこはやはり私のよく知る東京であった。私は再び赤面した ── その恰好が、そこではあまりにも不自然なものであったからである。


探索Ⅱ: 天高津
世界番号: 002 / 地点: 霊箕瑠レミル / 探索時間: 4時間11分 / 言語: 日本語


某日、佐久螺サクラは再びSCP-3000-JPへと赴いた。彼女とエリージュは軽く会話した後、2つ目の世界へと旅立つことにした。

永璃樹エリージュ: さて、これから行くのは天高津あまのたかつという場所よ。ここはネグリオシュと同じように文章転写の方法も少し違うし、漢字も沢山使うわ。

佐久螺: 万葉仮名ですか?

永璃樹: 日本語よ。まぁ、実際に行ってみれば早いでしょう。

永璃樹は佐久螺の手を取り、世界樹の幹に寄せた。もはや彼女は臆することもなく、落ち着き払いながら光に任せて目を閉じた ── しかしその落ち着きは、光の収まりと共に消え去ることになった。

眼下にあったのは、青空であった。

reverse.jpg

カメラのキャプションより。

佐久螺: これはっ ──

永璃樹: 大丈夫、落ち着いて。よく見て、重力が変なのよここ。

佐久螺: 何、これは……身体が浮いている?

佐久螺はこの感覚をよく覚えていた。宇宙船で浮かんでいた感覚 ── それが分かった瞬間、彼女はすぐさま適応した。

永璃樹: よくできました。ようこそ、ここは天高津。神々の住む場所よ。

佐久螺: ここに神々が?何というか、神々が住んでいるにしては、随分近代的ですね?

天高津は、人間社会とは文字通り真逆の風景をしていた。ビル群が上にあり、青空が下にある。そこに住まう神々は、その小さな重力を用いて空を泳ぎながら、ビルの中へと入っていく。

永璃樹: ここはね、実は半分は地球なの。地球と別世界の間、みたいな。世界って広いと思わない?貴方の住む地球のどこかにこんな空間が広がってるのよ。財団でさえ恐らくこれをまだ発見してないわ。

佐久螺: 財団……何ですって?どこでそれを?

永璃樹: 異常を封じる組織は数多くの世界にある。それはSCP財団だったり、GOCだったり、コンペンディウムだったりする。コンペンディウムは最も成功した世界の1つと言っても過言ではないわね ── とにかく、私は色々と知っているという事よ。

佐久螺: なるほど。それで、この世界で守るべきルールはありますか?

永璃樹: 自分が知っている神の名を口にしないこと。特にアマテラスの名は、ここでは忌まわしいものよ。

佐久螺: 分かりました。で、私は今日何をすれば?

永璃樹: ビルの中に入って買い物でもしなさい、あそこはデパ地下のようなものよ。お金は既にポケットの中に入れておいたわ。

永璃に促されてビルの ── 東京ではあり得ない位置にある扉から ── 中へ入った。そこが魚屋であることに気付くと同時に、永璃樹は目を輝かせ、イワシのような魚を買ってそのまま齧り始めた。

永璃樹: この魚は神様の力で創られたものよ。天高津には海が無いから模倣するしかないの。生でも食べられるわ。

佐久螺: 衛生的には大丈夫なんですか?

永璃樹: 遺伝子組み換えのようなものよ。貴方達がバナナの遺伝子を組み替えて栄養豊富なものにするように、ここでは魚を神力によって安全なものにする。あっ、ちょっと1人で歩き回ってて。

佐久螺: ええ、どうぞ。

永璃樹がその場から離れると、佐久螺はしばらく散策した。すれ違う神々の外見は人とほぼ違わなかったが、ごく稀に人ならざる者もいた。ただいずれも神力を放ち威圧感を与えるような者はいなかった。

やがて彼女は探索の主目的が「有用な情報を得ること」である事を思い出し、様々なところを回った。しかし、そのようなものは見つからなかった ── それほどまでに、目に見えるもの以外の違いが少なかったからである。そうしているうち、彼女はソフトクリームに惹かれた。形が螺旋状ではなく、フラクタルであったからである。それがミーム殺害エージェントと似ている事に気付くと少し躊躇したが、最終的にはそれを手に取って味わう事にした。

ふと横を見ると、頭や腕に包帯が巻かれ、車椅子に座っていた少女も同じものを買おうとしていた。少女は買い物に少しばかり難を抱えているように見えたため、彼女はそれを手伝ってあげた。

少女: ありがとう、お姉さん。私は弐瑚螺瑠ニコラル、貴方は?

佐久螺: 佐久螺です。

弐瑚螺瑠: おっと、じゃあ貴方は永璃のお友達かな。

佐久螺: なぜそれを?

弐瑚螺瑠: あの人から前もって聞いてたからね、貴方が来るって。永璃は今いないみたいだけど。散策中かな?

佐久螺: ええ、まぁ。実のところ、外の国ともっと沢山違いがあるのかと思いましたが、意外と見慣れたもので溢れていましたね。

弐瑚螺瑠: 正直、こんな冒険で手に入れられるものは少ないかな……だって視点を変えればこれって外国旅行のようなものとあんまり変わりはないからね。日本人がイタリアの町並みを見るのも、天高津を見るのも、感想はそう変わらないはず。

沈黙。

弐瑚螺瑠: だから、話を聞くべきだと思う。見るだけだと得られるものは少ないけど、話を聞けば外の国との違いがよく分かるはず。そこのベンチに座りましょう。聞きたい事は何かしらあるんじゃない?

2人はベンチに座ると、しばらくは黙ってソフトクリームを頬張っていた。少し蒸し暑い中でのソフトクリームは消費期限の切れが早く、それを食べることは貴重な話を聞くことより優先されることであった。

佐久螺: さて、お話を聞きましょうか。永璃の友達って事は、貴方もヴェルトに辿り着いた事があるのですよね?どうやって辿り着いたのか聞きたいものです。

弐瑚螺瑠: そう?大したことはしてないよ。……ええとね、私みたいな神がここから出て貴方達の住む地上に降り立つのは危険なんだけど、昔の私はちょっとヤンチャでね。その……魚を見に行きたかったの。

佐久螺: ここにも魚は売ってますよね?

弐瑚螺瑠: あれは毒がなくておいしいけど、でも模倣品よ。皆はそれで満足みたいだけど、私は本物の魚を見たかった。だから私はここから出たの。そこには本物の太陽があって、本物の空が、本物の海水があった。

佐久螺: 待ってください、ここの空や太陽は偽物なのですか?

弐瑚螺瑠: そうよ、暖かみもね。これもすべて神力 ── 貴方達の世界では「プロジェクションマッピング」って技術に近いのかな ── によって構成されてるの。ほら、話を聞いて新しい事に気付けたでしょう?

佐久螺: え、ええ。続けてください。

弐瑚螺瑠: さっき「地上は危険」と言ったけど、それは本当だった。私は知り合いから事前に、地上の神力を防ぐ儀式を施してもらってたけど、それでも地上の景色と物は圧倒的に有害な神力を放っていた。地上に住む貴方達には理解できないかもしれないけど、地上のあらゆるものは、私達にとっては命を奪う代物なの。

佐久螺: それで貴方は、本物の魚を見つけられたのですか?

弐瑚螺瑠: うん。私はやっとの思いで砂浜について ── その時はもうとっくに意識がおかしかったけど ── 水の中に入った。すぐに、光り輝きながら動く何かを見つけたよ。それ何だったと思う?

佐久螺: ……クラゲ?

弐瑚螺瑠: そう!しかも猛毒持ち。それに触れたらまぁ幻覚症状やら吐き気に襲われてね。もうダメだって思ったけど、でも「この先には何があるんだろう」と思った。もしかしたら死ぬんじゃなくて、別の現象が起きるんじゃないかって。

佐久螺: それで、次の瞬間にはヴェルトに?

弐瑚螺瑠: その通り。その後はまぁ、今の貴方と同じように旅したかな。他に聞きたい事はある?

佐久螺はレヴィットの「次元」についての話を思い出した。

佐久螺: ヴェルトとこちらを行き来するにあたって、何か「これまでこの世界にはなかった概念が突然この世界に現れた」みたいな事はありませんでした?

弐瑚螺瑠: あったよ。ここの場合、現れたのは「静瑛せいえい」という事象だった。それはここの誰にとっても害悪なものだったんだけど、私は早いうちからそれの危険性に気付いた。だから私は……儀式をした。私の肉体と知性を生贄に、その概念を世界から封じた。この姿を見れば、何をどう失ったのかは想像に難くないでしょう。私は2度とヴェルトに入れなくなったわ。

沈黙。

弐瑚螺瑠: 覚えておいて。たぶん貴方の世界にも何かの概念が今この瞬間にも観測されていると思う。それに早く気付いて。そうすれば、それを封じ込めるか、別世界に追いやるか、有用なものにするか……色々な選択肢を取る事ができる。

佐久螺: 肝に銘じておき ──

永璃樹: ごめん、遅くなった!あれ、もう会ってたの?

佐久螺: ええ、ちょうど話が終わっ……た、ですね。色々聞けて満足しました、いいタイミングです。

永璃樹: じゃあ目的はもう終わっちゃったね、どう?まだ時間はあるけど。

佐久螺: いえ、内装があまりにデパ地下すぎてですね……今度来る機会があればもっと興味深い所に連れて行ってくれると助かります。

永璃樹: 検討するわ。弐瑚螺瑠、わざわざありがと!また機会があれば今度は2人で話しましょう?

弐瑚螺瑠: 分かったよ。

永璃樹: じゃあヴェルトに一旦戻ろうか。もう多分「なぜ地球の中で貴方だけがヴェルトに辿り着けるか」の結論をまとめられたでしょうし、それを聞かせて。

佐久螺は頷き、弐瑚螺瑠は手を振った。永璃樹と佐久螺は手を繋ぎ、深呼吸して目を閉じた。

異常消滅現象記録

概要1: 五行論を基軸とするアノマリー; SCP-CN-████が収容違反によって一般社会で五行論的な改変を行った。その際、異常性による効果を科学的に正当付けるようなカバーストーリーを流布した時、SCP-CN-████は消滅した。

概要2: 財団気象管理部門が所有する実験室が消滅した。

[他3件の実例を省略]

探索Ⅲ: [不明]
世界番号: 003 / 地点: [不明] / 探索時間: [不明] / 言語: 日本語


Agt.東耶が目を覚ます。周囲では赤色の回転灯が回り、サイレンが鳴り響いている。

[自動音声]: WARNING. 収容違反発生。サイト-30578に属する全職員はただちに避難してください。繰り返します……

Agt.東耶: 何……ここは……財団?

aisle.png

[詳細不明]

[自動音声]: WARNING. 第1級収容違反が発生。サイト-30578に属する……

Agt.東耶: 30578?そんなにはないはずだけど。

Agt.東耶は非常口の方へと向かう。そして扉を開けようとするが、奥からの笑い声を聞き、逆方向へと走り始める。そして恐らくは収容室の周辺と思われる通路を通り抜ける。扉のプレートには「SCP-49628 / Kether」や「SCP-103390 / Apollonius」などが書かれている。これらはいずれもこの世界にはまだ存在しないナンバーである。

やがてAgt.東耶は1人の男性と出会う。その男性の白衣には財団のロゴが書かれている。

男性: 貴方は?この先は危険です、Sageクラスアノマリーがいます!

Agt.東耶: セージ?ええ、うん、待ってください、貴方の名前は?

男性: 山科 宗太です。これ以上ここに留まるのは危険です、こちらの非常階段から出ましょう!

2人は非常階段へと走り、ドアを開けて中に入る。そこには螺旋階段が続いており、2人はそれを利用して下へと降りる。

笑い声。

10分省略。2人は未だに降り続けている。

Agt.東耶: まだこの階段は続くんですか?何かおかしくないですか?

山科: 確かに。時空ロックが起きているのかもしれません。

Agt.東耶: それに、何か上から不気味な声が聞こえませんか?

山科: 追いかけられているのかも、もっと早く降りましょう!

5分省略。

Agt.東耶: (息切れ)声が近付いて ── やっぱりこれ何かのアノマリーの影響ですよね ── いったい何があったんですか?

山科: 落ち着いて。私にも何が何だか……

Agt.東耶: うっ、すみません。ああもう、エリ……聞こえる!?エリージュ!?

山科: ……エリージュ?

Agt.東耶: えっ?貴方もご存じ ──

山科: (掴みかかり)エリージュだと!?お前は ── お前はあれに命令されてここに来たのか?

Agt.東耶: いえ、いいえ!彼女と旅していて、はぐれただけです!どうしたんですか!?

山科: いいか、今こんな事になってんのは、あのエリージュが原因と言っていい。いや……元はといえば俺がヴェルトに辿り着いてしまったのが全ての原因だ ── クソ、せめてこれ以上被害を ──

山科氏はAgt.東耶に馬乗りになり、懐から何かを取り出そうとする。その瞬間、不快な笑い声が響きわたり、2人は思わず耳を塞ぐ。その後、山科氏はパニックになり、逃げるためか階段から身を乗り出し、誤って下へと落下していく。

30秒の沈黙。

何かが潰れる音。

Agt.東耶: これ……え?山科さん?

沈黙。

笑い声が近付いていく。Agt.東耶は深呼吸した後、笑い声がする方を見る。そこには何もない。

Agt.東耶は螺旋階段から身を乗り出して下を見る。底は暗く、何も見えない。Agt.東耶は大きく深呼吸した後、後ろに倒れ込むようにして下へ落下していく。

30秒の沈黙。

暗闇を映していたカメラは、突如として白い光を映す。

15秒の沈黙。

光が収まる。そこはSCP-3000-JPである。


補遺5: SCP-3000-JP空間理論

Agt.東耶は天高津での探索を終えた後、意図せずして3つ目の世界に迷い込みました。Agt.東耶は辛うじてSCP-3000-JPに帰還できましたが、エリージュ氏に対する軽い不信を覚えました。以下は帰還後に行われた会話です。

異常消滅現象記録

概要1: 財団非現実部門の反ミームアノマリーを科学的手法で強制的に視認させようとしたところ、消滅した。

概要2: 詳細は判明していないが、GOCに潜入させた財団のスパイが、何らかの異常な事物の消滅が確認された事を報告している。

[他6件の実例を省略]

Agt.東耶による内容の伝達後、「新しく現れた概念」が異常消滅現象であることが同定されました。上部にも記載していますが、異常消滅現象とは異常性のある事物や概念が発光と共に消滅する現象です。解析部門などの部門が当現象に関する調査を行っていますが、詳細は判明していません。


補遺6: 管理者 Ⅰ

現在は評議会から離脱して倫理委員会に所属している前O5-3(コードネーム“理解者”)が日本に出向いた際、日本支部理事会からの提案に従い定例会議に参加しました。この際いくつか意見交換が行われましたが、その中でSCP-3000-JPの話題が浮上し、そこで前O5-3は重大な事実を示しました。

前O5-3: 私のノウハウはもはや古いので、私が今意見できるのは異常や社会に対する倫理、そして評議会員として培ってきた管理方法くらいです。ですが古いノウハウでも良ければ、オブジェクトについて聞いても構いません。

稲妻: ではお言葉に甘えて。SCP-3000-JPをご存じですか?実に美しいアノマリーなのですが。

前O5-3: 少し待ってくださいね……(画像を見て)おや、これは……私、見覚えがありますよ。

稲妻: なんですって?貴方もここに行った事が?

前O5-3: いえ、私ではありません。この場所に行ったことがあるのは、財団の最初の“管理者”です。

沈黙。

鳳林: 何だって?

前O5-3: 落ち ── 落ち着いてください。ええ、最初の管理者です。これはまだ財団が管理するアノマリーの数が3ケタしか無かった頃の事でした。ですが彼は「今の財団ではこれに対して適切に対処できない」と思っており、ナンバリングと調査を避けていました。代わりに彼はその性質ゆえに1人で調査を行っていました。

升: 昔の財団は倫理規定が杜撰でしたね。職員もムチャクチャしていて、牢屋を改変した部屋にアノマリーを封じ込めていた。

前O5-3: そういった現状ゆえ、これを1人で抱えたのでしょう。少なくとも昔の財団は全てをその技術力で支配しようとする風潮がありましたから、このように壮大で世界の根源に関わるものを発見してしまったら、どうしようとするかは想像に難くないでしょう。

鳳林: しかし、結局どうなったんだ?貴方は管理者の良き理解者だと知られていたはずだ。

前O5-3: ええと、SCP-3000-JPの行き来によって何か新しい概念が持ち込まれるという性質があるのはご存じですか?

全員うなずく。

前O5-3: 管理者によって持ち込まれた概念は、ヴェールを破り得るほど破壊的なものでした。当時の財団は先程述べた通りの環境でしたので、それに対応するだけの力も、ノウハウも、倫理もありませんでした。ですから彼は、この世の誰もその概念を認識できないようにする事で対処したのです。その頃、管理者は1人になることが多かったので、彼がいったい何をどのようにしてその概念を認識できないようにしたのかは分かりません。理解者として失格ではありますが。

鳳林: いや……それで、無事にその概念は認識されなくなったのか?

前O5-3: 今ヴェールが維持されているという事は、成功したという事なのでしょう。結局その概念が何だったのか、私すら知りませんがね。ただ彼は手紙を残して行方不明になりました。そこにはただ「もはやここに居る事は叶わない。私は旅に出る」と。

沈黙。

前O5-3: 私が知っているのはここまでです。貴方達もSCP-3000-JPを見つけたという事は、探索を既にしたという事なのでしょう。つまり新しい何かがこの世界に現れたはずです。どうでしょう、それは管理者が遭遇したもののように破壊的なものなのですか?

稲妻: ……異常が消滅しつくされる、非常に破滅的な現象ですよ。


補遺7: 管理者 Ⅱ

財団の最初の管理者が過去にSCP-3000-JPを行き来していたという情報から、エリージュに対しても質問されました。エリージュは管理者について以下のように回答しています。

異常消滅現象記録

概要1: 10haにわたって空間の非認識性を維持していたアノマリー; SCP-███の空間全体が突如白く光り、その後異常性が消失した。この現象の対処に財団は約130000$の資産を費やした。

概要2: 財団科想部門の消滅。当部門は財団最古の部門であり、その目的は「科学的なアノマリーを空想科学的な見地から分析する」ことであった。当部門のオフィスなどあらゆるものが光と共に消滅した。

[他17件の実例を省略]


補遺8: 実験調査

異常消滅現象の影響が増大している現状を打破するため、本格的な調査が開始されました。これに伴い、財団の全支部において当現象に関連する情報の報告義務が命じられました。以下は報告や調査・実験により判明した情報です。

調査項目: 現象の頻度。

調査結果: 平均して1日あたり4回程度で、範囲は世界全体。宇宙でも確認されている。しかしながら現象の起こる条件はランダムのようで、恣意的なものがみられない。


調査項目: 現象の起こる対象。

調査結果: 現象の対象は幅広く、実体あるアノマリーであればその99.9%以上が、実体のないアノマリーでもその83%以上が現象の対象であると考えられている。この事から現状だと「ほぼ全てのアノマリーが、現象の対象となる可能性を含む」と推測されている。


調査項目: 現象発生中のアノマリーを現実除外ボックスに収容する。

調査結果: 現実除外ボックスはあらゆる異常の影響を断つ機能を持った箱であり、重要な物品の保管に使われる。ある時、偶然にも当ボックスを持った職員が現象発生中のアイテムに遭遇し、反射的にボックス内にそれを入れたが、消滅は止められなかった。この状況は偶発的に起こったものであるため、状況の再現には成功していない。

[他の無意味な調査結果は省略]


補遺9: 合議

多岐にわたる調査が行われましたが、異常消滅現象に関する有意義な情報は依然少ない状態にありました。そのため、現象をどのように扱うかが日本支部理事会にて合議されました。これは重要な参考人であるAgt.東耶や、その他複数の職員も交えて行われました。

日本支部理事会議事録


稲妻: 既に把握していますでしょうが、今回の議題は異常消滅現象についてです。現在のところ、日本支部では77のアイテムがこの現象によって消滅しています。他支部でも報告件数は3ケタを越えています。これは光を伴って消滅するため、空間系オブジェクトが消滅した時は、それはもう凄まじい光を周囲にまき散らします。被害総額は億に達しています。単位はドルですよ。

鳳林: 結局のところ、実験でこれはどこまで判明した?

稲妻: 全然。異常消滅現象はこれまでこの世界に存在しなかった概念であるため、対応するためのノウハウも乏しい状態です。

升: アイテムの消失はこれまでも何回か経験してきましたよね?そのノウハウは?

稲妻: はい、そのノウハウが通じないほど今回の現象の範囲は広く、無秩序で、混沌としていて、理論的ではなく、破滅的です。

獅子: 分かった、本題に移ろう。議題は?

稲妻: 「現象をどう扱うか」です。ええとですね、皆さんご存じでしょうが、普通、異常なものは「収容」するよりも遥かに楽な対処方法があります。放棄とか。

獅子: 皆知ってると思うが。

稲妻: 念のためです。それで私達は、やろうと思えば収容以外の選択肢を取れる訳です。これまでも幾つかしてきました。実体あるアイテムで、収容できないほど一般化されたもの、倫理的に収容できないもの、GOCとの関係で収容できないもの。これらは収容を放棄しています。GOCにとってこの現象は喜ばしいかもしれませんが。

沈黙。

稲妻: 非実体のアイテムで収容出来ないものは封印したり、この世から存在を抹消してしまったり、記憶処理でなんとかしたりします。何が言いたいのかというと、私達はこういった収容困難なアノマリーに対し、収容以外の選択を取る準備が出来ているという事です。それで今回、倫理委員会と収容部門のお二方を交え、この現象をどう扱うか投票するというのが今回の趣旨です。水山さん、メイさん、よろしくお願いします。

水山、メイ: (同時に)よろしく。

鵺: 見事にハモりましたね。それで、どんな選択肢が挙げられますか?

メイ: 私から。1、儀式によって当現象を別世界に追いやる。2、儀式によって当現象を封印する。

鳳林: 2はアリなんじゃないか?

メイ: はい、この方法ですと穢れのない生贄を500万人ほど捧げる必要があるでしょう。

鳳林: 無理だな、次は?

メイ: 3、当現象の起こる範囲を儀式によって極限まで狭める。狭めるといっても最大で半球程度までしか縮小できませんが。4、収容試行を続ける。以上。

稲妻: どの選択を取るか議論しましょう。しばらくしたら投票に移ります。

升: 水山さん、倫理委員会からの見地としては?

水山: 3が適切です。とはいえそれでも大陸の1つや2つほど、現象の範囲から逃れられないでしょうが。

メイ: ええ、私もそれが現実的で、合理的だと思います。3の方法ですと、儀式も比較的現実的ではあります。

Agt.東耶: では私から。4の選択肢は?

稲妻: 収容試行は今もやっています。しかし現状、効果的とは言えません。

Agt.東耶: いいえ、今のままでは不十分だと思います。新しい概念に対するノウハウが足りないのなら、それを得るためにあらゆる世界を探索するのはどうでしょう。幸いにもエリージュはSCP-3000-JPに初めて迷い込んだ人に私と同じように冒険をさせているのですから、私達と同じような経験をした人も沢山いるはずです。何より、コストが少なく済みます ── すなわち、私だけです。

升: それは管理者がやった事と同じです。そしてそれでも彼は解決策を得られませんでした。

Agt.東耶: いいえ違います、管理者の時代から何年過ぎたと思っているのですか。時代が違えば、組織の力もノウハウもより洗練されているでしょう。

鳳林: そうかもしれないが、時間がかかりすぎる。今この瞬間にも深刻化していってるんだぞ。

稲妻: しかし、やるだけやらせてみるのも良いのでは?彼女がSCP-3000-JPを使った探索をすると同時に、別チームが別の解決策を進めればいい。正直私はこの方法が脳裏に浮かんではいましたが、彼女は一度この探索で命を落としかけているので提案できませんでした。ですが彼女自身がそう提案するなら、承認もやぶさかではないでしょう。

議論が白熱していく。3分後、稲妻は議論を止める。

稲妻: 静粛に。埒が明かないので、これを投票にかけましょう。内容は「Agt.東耶によってSCP-3000-JPを探索し、異常消滅現象に対処する方法を見つけさせる。これが期日内に達成されなかった場合、自動的に選択肢3へと移行する」。投票をどうぞ。立案者であるAgt.東耶はこの投票に参加できないものとします。

棄権
獅子 若山 千鳥
鳳林
稲妻 メイ
水山
動議可決

稲妻: おや、意外な結果ですが決まりですね。では後は私が担当しましょう。東耶さん、貴方は多世界探索をして頂きます。サポート用の設備が付きますので、上手く活用してください。各部門には選択肢3の準備を整わせます。期日までに ── ああ、その話がまだでしたね。期日は一旦、1ヶ月としましょう。(笑って)ご安心を、我々の設備さえあれば睡眠が必要なくなるでしょうから。

Agt.東耶は苦笑する。


補遺10: 多世界探索

会議後、気象管理部門・収容部門など9つの部署によって構成された特別チーム“ハイペリオン”が結成されました。当チームは期日までにAgt.東耶が解決策を策定できなかった場合に備え、選択肢3 ── 現象の発生区域を狭める ── を実行するためのシステム構築を担います。

同時にAgt.東耶はSCP-3000-JPを訪れ、SCP-3000-JP-1を用いた多世界探索を行う事をエリージュ氏に伝達しました。しかしその時間、当実体は新しくヴェルトに迷い込んだ人物に応対していたため、“同行はできない”という旨を示しました。Agt.東耶はこれを理解し、独自で多世界探索を開始しました。以下はその内容となります。

探索世界1: ネグリオシュ

質問対象: レヴィット
質問内容: 異常消滅現象の対処法について

回答: 私ではお役に立てないようです。なぜなら私達の世界には、貴方の言う「異常」という枠組み自体がありませんから。何事も長い時間をかけて受容すべきという考え方が多数派なので、その定義をする必要が薄いのでしょう。「次元」に対しても同じで、私は人より多くの知識を持っていますが、それを誰かに話しはしません。次元に対し、世界がどう議論し、どう受容していくか。それが世界の歩みであり、そしてそれに私が介入する資格はないと思います。

メモ: 「世界の変容は、その世界に属する人によって内から与えられるべき」というエリの考え方と同じだ。私はそんな事を言っている場合では無いが。それにしても「異常」という定義がない世界とは特筆に値する。探索すべき世界の幅を決める必要があるか?


探索世界2: 天高津

質問対象: 弐瑚螺瑠ニコラル
内容: 「静瑛」に対するよりよい対処方法はあったのかについて。

回答: 前も言った通り、「静瑛」がこの世界に現れた時、私は最善の行動をしたと思う。今でもその気持ちは変わらない。エリを恨んでるか?そんな事はないよ。これはヴェルトの性質で、そして私がこの世界に持ち込んでしまった概念が偶然破滅的だっただけの話だから。ただ、そんな破滅的な「静瑛」に対して共存できる方法があったなら、誰だってその方法に縋ると思う。少なくとも私の世界ではその方法が生まれそうもなかった、それだけの事。

メモ: 彼女の話を聞いてると、絶対にこれを解決しなければと感じる。私がヴェルトから持ち込んだ性質で大陸1つがどうにかなるのは見たくない。だからこそ、対処する方法が生まれる可能性のある財団という組織は、解決の大きなファクターだと思う。他の世界の財団を尋ねてみる事にする。


探索世界3: [なし]

内容: 補遺4の最後に記録されている、収容違反中の世界に再び進入しようとした。その時SCP-3000-JPに居たエリージュはそれに気付き、彼女を止めた。エリージュは「あの世界はもうダメよ、生身では即死してしまう」と理由を述べた。

メモ: あの世界はもう滅んでしまったという事か?ツテが無くなってしまったな。


探索世界4: [なし]

内容: 異常のある何らかの世界にワープしようとしたが、その最中に方向が逆転してSCP-3000-JPに戻されるという結果に終わった。

   

[省略;Agt.東耶は6回続けてワープに失敗した]

   

探索世界10: 基底世界

内容: Agt.東耶は自身に何か好ましくない影響が起きていると感じ、一度地球へと帰還した。その後、彼女は以下のようなメモをまとめた。※注意: 断片的なメモであったため、文章形式に再構成されている事に注意。

・・・

・・・

・・・

エリと初めて会った時、彼女は「樹形宇宙理論」について説明してくれた。これはヴェルト(SCP-3000-JP)と世界樹(SCP-3000-JP-1)の役目についてで、簡単に言えば「世界樹はヴェルトから万象という栄養を吸って各宇宙へと配分している」という事だ。そして各宇宙がなぜそれぞれ違った姿形と発展様式を有しているのかと言えば、それは枝分かれによって各宇宙に行き渡る栄養のバランスが異なる ── つまり「偏り」があるためである。

ここからが本題だ。枝分かれで栄養に偏りが生じるとして、例えば私達の住む世界に行ける枝が木の左上にあったとしたら、その周辺にある枝から行ける世界も私達の住む宇宙とほぼ同じ姿形と発展様式を有しているのではないか?もしこれが正しければ、私は探索の指向性を大幅に絞れるだろう。

・・・

・・・

・・・

異常消滅現象記録

概要: [データ削除済]が消滅。花が捧げられた。

[他130件の実例を省略]

探索Ⅳ: “地球”
世界番号: 004 / 地点: “SCP財団” / 探索時間: 2時間31分 / 言語: 日本語


Agt.東耶は周囲を見回す。そこは何らかのビルの屋上だが、いわゆる「平行世界」とも言えるほどに周辺風景が東京と同じである。彼女はこの世界での正常性維持機関と遭遇するため、バッグからスケッチを取り出して大きくSCP財団のロゴと「I NEED HELP」という文章を書く。それを空に掲げると、しばらくしてその場に座り込む。

13分後、ビル屋上に続く扉が開き、スーツ姿の女性が現れる。

女性: (通信機に)ターゲット発見、確保する。(Agt.東耶に)詳しい話は後ほど聞く。まずはついてきて貰います。

女性はAgt.東耶を車に乗せ、幾つか質問をしながら何らかの施設に連れていく。彼女は警備員2人と共に応接室へ通される。室内にはスーツ姿の男性が座っており、彼女に対し対面に座るよう手振りで示す。

男性: 初めまして。SCP財団サイト-50JP管理官を務めています山本と申します。貴方のような人は珍しいです、どうして私達の組織のロゴを描いて空に掲げたのですか?

Agt.東耶: 財団なら衛星監視システムがありますから、この方法を取れば財団は気付いてくれるのではないかと思って。これは私と友人で共に考えたアイデアです。ああ、申し遅れましたが私は東耶サクラ、別世界の財団エージェントを務めております。

山本管理官: なるほど。では貴方、今気分が悪いでしょう。その理由を説明できますか。

Agt.東耶: 遠隔箝口システム。こういった「財団職員でない人が財団関係の何かしらを行う」事例については、箝口作用のある特殊な波長をその人物に与え、話せなくする。大丈夫です、私は訓練していますから。

山本管理官: 宜しい、貴方は財団についてよくご存じのようです。貴方に敵意がない事を認めましょう、既に貴方に対する全般的なスキャンは完了しました。それで、何を助けて欲しいのですか?

Agt.東耶: 話すと長くなりますが ──

彼女は長時間にわたって、経験してきた事、および現在瀕している危機について説明した。

Agt.東耶: ── 以上になります。その……ご理解いただけましたか?

山本管理官: ええ、もちろんです。異常消滅現象、ですか。中々に恐ろしい現象です。

Agt.東耶: はい、そこで、別世界でのスペシャリストに対抗策やノウハウがないか聞きに回っている所です。何か対抗策はありますか?

山本管理官: いや、私達もそのような現象に出会ったことはありません。私達の世界では、事物の「消滅」という現象それ自体が珍しい事でして……お役に立てそうにはありません。

Agt.東耶: そうでしたか。では何か他に、役に立ちそうなノウハウなどは……ありますか?何でも良いのです、それほどまでに事態は逼迫しています。

山本管理官: (沈黙)……いえ、すみません。

Agt.東耶: ううむ、やはり最初から上手くはいかないものですね。(バッグから菓子折りを出して)お口に合えば良いのですが……あっ、もしかしてこういうのを受け取るのはまずかったりしますか?

山本管理官: いいえ、ありがたく ──

沈黙。山本管理官はハッとしたような表情をする。

山本管理官: 待ってください、1つ思い出しました。解決策ではありませんが、貴方のこの行動には見覚えがあったのです。人づてに聞いた話ですが、1世紀ほど前、貴方と同じように財団のロゴと「HELP」を書いて公園から空に掲げた変わり者がいたらしくてですね。その人も別世界の財団から来た人だったんですよ。

沈黙。

山本管理官: 彼と貴方の話はほぼ同じで、彼も「破壊的な概念が世界に新しく現れ、それに対処する方法を求めている」と話していたそうです。ですがその頃、この組織もまだ発展途上でした。ゆえにノウハウも何も提供できなかったのです。

Agt.東耶: そ……そんな事があったのですね。

山本管理官: はい。ですからこういった事案に今後対処できるようにするため、新しいプロジェクトを始めることにしました。「多財団協定」というものです、ご存じですか?

Agt.東耶は首を横に振る。

山本管理官: これは、その名の通り沢山の財団が業務提携を結ぶことです。多元宇宙にはいくつもの「財団のある世界」がありますから、その財団のある世界同士でノウハウや資源を交換しあい、未曽有の事態に対し助け合う、それが多財団協定の目的です。幸いにも私達の財団は次元間飛行の技術が豊富にありましたし、その人も設立に協力してくれたそうです。

Agt.東耶: もし差し支えなければ、その多財団協定の関係者に対しこの問題の解決方法について聞いていただく事は可能ですか。

山本管理官: 多財団協定部門からの許可を得られれば、多財団協定の共有メールにアクセスできる端末を貴方に貸しましょう。そこで貴方の解決したい事を書いて送信して、もし解決方法があれば返信が来るでしょう。詳しい取扱手順や規則については多財団協定部門から追って説明があります。そうですね……今日は泊っていただきます。更なるスキャンも受けて頂きましょう。

Agt.東耶: (沈黙)……ええ、いいでしょう。

山本管理官: ところで、もし私がこの案を提示し忘れたら、貴方はどうなさるおつもりだったのですか?

Agt.東耶: この世界でやったのと同じ事を、解決策が貰えるまでまた別の世界でずっとやっていたでしょう。

山本管理官: (ため息)最初に訪れたのがここで本当に良かったですね。

Agt.東耶はその後、検査を受けて問題なしと診断された後、多財団協定部門から説明を受けて端末を地球に持ち帰りました。端末を用いてメールを送るかは協議の対象となり、リスク管理の観点から議論は熾烈を極めたものの、最終的には利用が決定されました。以下は送付したメールの内容です(日本語に翻訳済)。

To: 多財団協定
From: SCP財団日本支部理事会
件名: 「異常消滅現象」という現象について
添付ファイル: 異常消滅現象_1108.pdf


多財団協定の皆様、

私達はSCP財団という組織の日本支部を代表しています。私達は多財団協定に属する組織ではありませんが、山本 宗一管理官からの紹介により、また喫緊の課題があるため、今回連絡致しました。

私達が直面している課題というのは「異常消滅現象」と呼称される、異常な事物が突発的かつ不可逆的に消滅する現象です。これによるヴェール維持ならびに財団資産への影響は看過できない域に達しており、事態は逼迫しています。

詳細は添付ファイルをご確認ください。そして当課題の対抗策をご存じの方がいらっしゃいましたら、ご連絡いただけますと幸いです。

SCP財団日本支部理事会

このメールが送付されてから3時間、返答は一切ありませんでした。この事は理事会の士気を下げる要因となりましたが、3時間13分後、最初の返信が受信され、その後次第に返信数が加速度的に上昇していきました。その様子はこのように記録されています。


受信メッセージ
送信者 件名 本文
“財団” Re:「異常消滅現象」という現象… こんにちは。メールを拝見させていただきました。まずは…
FOUNDAT… 当該現象についてはヴェルト理… その現象については心当たりがあります。ヴェルト理論を…
デインズSC… 解決の一助になれば幸いです デインズSCP財団です。ヴェルト理論というものをご存じ…
確保収容保… 儀式による封じ込め 当現象は閾構造改変儀式によってその影響を弱まらせる…
大日本異常… Re:「異常消滅現象」という現象… こんにちは、日本支部という事で日本語でメールを送らせ…
+ その他115件のメッセージ

このメールの数は、想定の12倍近いものでした。理事会は解析部門などあらゆる部門にメールの検査および内容の精査、総括を指示しました。

その結果、合計120件のメールのうち67件が「ヴェルト理論というものが問題解決の一助になる」という内容である事が判明しました。ヴェルト理論については、解析部門からこのようにまとめられています。

当文書を受け、即座に全報告書の検査が開始されました。幸運にもヴェルト理論が実践できているSCP報告書は多数発見され、これは特に財団の設立初期に作成された報告書においてその傾向が顕著に確認されました。一方でヴェルト理論が実践できていない報告書は多く、これらについては修正がなされました。※注: 全てのアノマリーが想像性によって左右される訳ではないため、その必要がない報告書や、科学的な視点が重要な報告書についてはそのままにしてあります。

その結果、異常消滅現象の発生件数は次第に減り、やがて許容可能なレベルにまで落ち着きました。現在、異常消滅現象については別ナンバリングし、Euclidクラスアノマリーとして取り扱われることが審議されています。


補遺11: 多財団協定

ヴェルト理論を活用した異常消滅現象の抑制に成功した後、理事会は多財団協定に感謝の意を示すためのメッセージを送付しました。その3日後、一件の返答が届きました。

To: SCP財団日本支部理事会
From: 多財団管理部
件名: おめでとうございます
添付ファイル: 多財団協定.pdf


SCP財団日本支部の皆様、

此度の問題解決、誠におめでとうございます。どうやら私達がヴェルト理論について説明するより前から偶然にもそれを実践しているものがあったようで、幸運であったと言えるでしょう。更なる支援が必要であればまたご連絡ください。

そしてここからが本題です。私たち多財団管理部は送られてきたメールの位置情報を基に、不躾ではありますがあなた方の世界を少しばかり監視しておりました。これは支配するためなどではなく、あなた方の行動を鑑み、多財団協定が手を差し伸べるに足る組織であるかを見極めるための措置でした。そしてあなた方は、多財団を管理する人々から認められました。

つまり何が言いたいのかというと、このメールはあなた方を多財団協定に招待するためのものです。私達の組織は未だ発展途上であり、また沢山のノウハウを必要としています。今回、あなた方を強く悩ませた異常消滅現象が多財団協定からのメールであっという間に解決したように、誰かが困っている事が貴方の世界では既に解決している、という事がよくあります。その時にあなた方の返答は大いに役立つのです、今回のように。

協定の詳細は添付ファイルを参照ください。良いお返事をお待ちしております。

多財団管理部

上記メールの内容に関する協議がO5評議会などの重役によって行われました。協議の結果、招待の全面的な受容は慎重に行うべきという意見が支持されたため、まずは日本支部の管轄でのみ多財団協定への加入を試験的に許可し、その動向を見守るという形で承認されました。

多財団協定については、主に以下の要素を含む組織であることが確認されています。

  • 多財団は、369の世界の財団によって構成されている。
  • 目的は、解決が困難かつ甚大な影響を及ぼす何らかの問題に対し、ノウハウを集結させて解決を目指すことである。
  • 何らかの加盟財団が援助を必要としている場合、宇宙間を航行できる技術を持った財団が積極的に援助を行う。
  • シェアード・リーダーシップ的な方針を採用しており、明確な協定の指導者が存在しない。合同会議など集団で行動する際は、必要に応じて参加者の1人がリーダーとして働く。
  • このような加盟の際は、369の世界の財団のうち80%以上の財団の承認が必要である。正式な加盟の手続きの際は少なくとも60以上の加盟財団代表が見届け人として集合しなければならない。

加盟の手続きにはAgt.東耶が多財団協定に関する情報を取得した世界を介して行われる事が決定されました。この際、各宇宙を適切に往来する技術を有していない事が問題となりましたが、これに関し各世界からの技術付与が提案されました。提案は受容されましたが、その一方で過度な信用が望ましくないという意見から、別世界への直接的な往来ではなく、SCP-3000-JPを介した往来という方法が採用されました。異常性のため、この役目はAgt.東耶が担当しました。

agreement.png

SCP財団日本支部ならびに多財団協定加盟組織は、多元宇宙における平和と発展に寄与することを目的として、以下の意思決定と契約内容について合意する。

1. SCP財団日本支部は多財団協定に加盟すると共に、多財団協定において扱われる業務提携に協力する。
・・・
・・・
2. 協定加盟組織はSCP財団日本支部の新規加盟を認め、多財団協定において扱われる業務提携の対象となる。
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本協定は加盟書類に双方が署名した時点から効力を持つ。



SCP財団日本支部理事会

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多財団協定承認委員会


FONDS.png

現在まで加入による特筆すべき業務の変化は確認されていませんが、多財団協定関連部門が新設され、事態に対し円滑に対応できる組織編制が取り組まれています。


補遺12: ヴェルト

多財団協定に無事に加入してから数日後、Agt.東耶は幾つかエリージュ氏に質問するため、SCP-3000-JPを訪れました。








アイテム番号 オブジェクトクラス
SCP-3000-JP SEPHIRAH

3000-JP%261.png

SCP-3000-JP内に位置するSCP-3000-JP-1。


特別収容プロトコル: SCP-3000-JPは多財団協定に関連するため、その情報はセキュリティクリアランス3以下の人物に対しても開示されます。

その協力関係からSCP-3000-JPは収容されませんが、SCP-3000-JPに繋がるポータルは一般社会から隔離されます。ポータル周辺に特別隔離用サイトが建設され、無関係な人物による侵入ならびに利用を禁じています。

異常性ゆえ、SCP-3000-JPの利用は多財団協定関連渉外部門スペシャリスト・東耶のみに制限されています。多財団協定に関する連絡や報告がある際は、氏への質問が推奨されます。


説明: SCP-3000-JPはヴェルトと呼ばれる、どの宇宙にも属さない空間です。SCP-3000-JPでは多元宇宙に存在するあらゆる理論や概念が機能しうるため、SCP-3000-JP-2がそれらを調整しています。

SCP-3000-JP-1は世界樹と呼ばれる、多元宇宙に繋がる巨大な樹木型ポータルです。SCP-3000-JP-1は白く発光しており、その枝先には別の宇宙へと繋がるポータルが存在しています。当ポータルは、幹を介して利用可能です。

SCP-3000-JP-2はエリージュという名で知られる人型実体です。SCP-3000-JP-2はSCP-3000-JPに生活する唯一の生命体であり、SCP-3000-JPの管理人です。


注釈: 当クラスはスペシャリスト東耶の発案により決定されました。なぜこのクラスを発案したのかについて、彼女は一言、このように回答しています;

これを読んだ貴方の想像にお任せします。




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  1. portal:6637840 (11 Jul 2020 10:56)
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