メンバー:
- 日本支部理事会 会員 “升”
- サイト-8190管理官 溝本 茜
(“升”は自身のオフィスで作業している。その最中、溝本管理官がドアをノックし、“升”は入室するよう促す。)
升: もう定例報告の時間?ちょっと今日のタスクが終わりそうにないから、作業しながら聞いてもいいかな?
溝本: 構いません。では人事関係から 倫理的収容キャンペーンの実施が功を奏し、サイト-8190での離職率は前月の1.3%を下回る0.4%となりました。
升: いいね。この調子で昔の組織体制を変えていこう。次に導入予定の報酬システムについての会議は来週に決まったから、君にもよろしく頼むよ。
溝本: はい。次に……超力学チームにて精神失調と健康状態の悪化が確認されています。如何なさいますか?
升: 休暇を与えよう。後で私が「成果主義になるな」とでも言っておくよ。彼ら、休日も無理して研究してるだろ?今の時代、こういうのは宜しくない。適切な運動と食事に気を遣わせないと。次は?
溝本: 2日連続で食堂の肉料理メニュー全てが適切に提供されなかった現象については、大事をとって食堂を一時的に封鎖する事としました。
升: うん、いい判断だ。
溝本: 次に、倫理委員会の八幡氏と青山氏がご結婚なさるとのことで、事務職に転属する予定です。
升: うん、めでたいね。
溝本: あと……あっ、そういえば日本支部職員の0.2%がゴキブリに転生している件についてですが……
升: うん。
(沈黙。)
升: うん?今なんて?
溝本: お忘れですか?日本支部職員の0.2%が殉職後、クロゴキブリに転生しています。
升: そう……そうなの?後で確認する。んで何その……それは異常現象とみて良いのかな?
溝本: はい、彼らは前世の記憶と知性を持った状態でゴキブリになっています。またテレパス能力も持っていて、それを介して我々に働く権利を求めています。
升: そうなんだ……えっ、働く権利を求めてるの?収容からの解放じゃなくて?
溝本: はい、財団職員として働く権利を求めています。
升: どういう事??
溝本: こういうのは人事部門の担当ですが、今は別件で混乱していますし、部長も当件は「判断が難しい」と仰ってました。時間があれば話を聞きに行っていただけませんか?貴方は人事部門の顧問もされてますよね。
升: そうだけど、他に適任はいないの?ほら、私は倫理委員会の顧問もしてるから忙しかったり……
溝本: 結婚とかで転属できるくらい余裕があるのを忘れましたか?まぁお時間がなければ今度でも構いませんが。
升: まぁその、しかし……私は遠慮しておく。
溝本: なぜです?
升: 苦手なんだ。
溝本: 何が?
升: ゴキブリが。
(ため息。)
その後“升”はXXXX-JP実例との対話を不承ながら受け入れました。以下は実例の中でリーダー格であった、以前は水島 京谷であった個体(ここではXXXX-JP-33、以下“33”)との間で行われた対話記録の抜粋です。
(升は嫌々ながら収容生物室に入室する。飼育ケージの中に大量のXXXX-JP実例がいる。)
33: 管理官様!どのようなご用件で……
升: うえっ……君と雇用の件を話しにきた。財団職員になりたいの?
33: もちろんです、管理官様。
升: その“管理官様”というのはやめてくれ、君と私は今雇用関係にないんだから。
33: これはすみません。
升: あと動き回るのも。んで、雇用されたとして何するの?諜報?スパイは充分いるんだけど。
33: その点に関してですが、我々は敵対的な幽霊から人を守ることが出来ます。霊障に遭っている人の視界に我々が入る それだけで、です。
升: へぇ、詳しく教えてよ。
33: 霊が人を襲うには、その人が霊の存在を信じ、集中している必要があります。霊を信じない人には干渉できません。よって霊はポルターガイストを起こす事で信じさせようとします。そこで我々の出番です 幽霊という不確実で非実体の恐怖が占める空間に、突然ゴキブリという明確で実体ある恐怖が現れたら?人は幽霊からゴキブリに集中を向けざるを得ません。あくまでその傾向があるというだけですが。
升: 理論的には正しいけど、そもそも霊障に遭ってる人をどう探すんだ?
33: ████という地域で、霊障被害の件数が増えているのはご存じですか?我々はそこで全力をかけ、霊障が起きている家宅に潜入、場合によっては霊障を防ぎます。
溝本: あぁ、この資料の件ですか?
未解明事象報告
範囲 / 状態: ████ / 進行中
時刻: ██/██ ~
攪乱クラス: 中位KENEQ
概要: ████という地域において、敵対性霊的実体の活動が激化している。なお当地域には正常性維持機関から要注意人物に指定されている人物が多数滞在しており、霊的実体の活発化との関係がある可能性が考えられる。
作成者: サイト-8190エージェント 水島 京谷
33: はい。私が生前少し調査した件ですので、上手く対処できると思います。また、どうやらXXXX-JPが始まった時期とこの異常現象の始まった時期はほぼほぼ一致しているそうで。運命的なものを感じますね。
升: “運命的なもの”を感じる時はだいたい作為的な背景があると思った方がいい。既に嫌な予感がするが……それは別として、なんでここにいる要注意人物はこれまで放置されていたんだ?
溝本: 頃合いになったら一気に捕獲する予定でした。敢えて放置してより情報を炙り出す方法という事です。ですが、この幽霊被害によって予定は凍結してます。貴方達が対処できるなら喜んで一任しますが。
升: でも、このやり方じゃ場合によっては死ぬだろう。
33: 承知の上です。我々は正常な人間社会のために死ぬ覚悟があります。
(沈黙。)
升: あのね、そういうの良くないよ?
33: えっすみません、何かお気に障るようなことでも言ってしまいましたか!?
升: その恭しすぎる態度もそうだけど、そもそも今の財団はそういう組織じゃないって分かってる?死ぬ覚悟だの自己犠牲だのは古いんだが。
33: え?
升: そもそも持続可能じゃないだろ!週休2日制の採用、育休・有休制度の確立、Dクラス職員クローン化!こういった改革をしてるのを忘れたのか?ひと月の死亡率が8%に達してた時代はハッキリ言って異常だったんだからな!
(沈黙。)
升: 「暗闇に立ち向かう」とかいう、異常の多様化した今じゃ差別と受け取られても仕方ない理念を堂々と掲げていた昔がヤバかったんだぞ。もしかして君らもなんかこう活動する上でゴキブリになぞらえて「暗闇の中で死ぬ」とかを理念にしようとしてないだろうな?
33: あっ いえ、その
升: 色んな意味でやめたほうがいいし君らちょっと考えを改めた方がいいよ。本当に思うんだけど、昔と違って今は組織に忠誠を誓わなくていいんだから、もっと視野を広げてくれ。
溝本: 落ち着いてください、話が逸れてます。
升: 分かっ ああ、分かってる。うん、ちょっと怒りすぎた……ごめん、改革が伝わってないのは私の落ち度でもあるか。
33: ……ともかく、主張はご最もだと思いますが、我々はゴキブリです。
升: ゴキブリになったからって何か役立とうと思わなくていい、人間だって使命があって生まれる訳じゃない。
33: しかし我々はかつて財団職員でした。お役に立ちたいのです。
升: (ため息)なら、我々に許可を求めずに個人でやればよかったじゃないか。それに事務職でも良くないか?
溝本: ですが、この異常は今も続いてます。つまり、これからもゴキブリに転生する職員は一定数生まれます。なので、この特性をいかに持続可能かつ倫理的に扱うかが今後大事になってくるのではないかと。
升: 持続可能ねぇ。ああでも、それなら彼らをさっき言った活動に従事させて、ついでに未収容の実例を探索させよう。構想中の報酬システムもこれに活かせるかもしれないし。どう思う?
溝本: テレパス能力は仕事中に使わないことを条件に追加すべきかと。例の地域にいる要注意人物がテレパスを使えないとも限らないですし、あそこにいる幽霊がテレパスを使って霊障を起こすタイプの可能性もありますから。
升: うん、後で協議させよう。面倒だけど……もし活動するなら、まぁ、勝手に戦えばいいよ……
33: ありがとうございます、管理官様!
(“升”はため息をつきながら退出する。)
その後の協議において「厳重な監視体制を築いた上で試験的に活動を許可する」案が可決され、活動を望むSCP-XXXX-JP実例は訓練と管理のもと活動を行わせました。その結果、SCP-XXXX-JP実例が忠実に働いたことにより、霊被害は活動前から19%と大幅に低下しました。この事実が支持され、活動期間は延長されることとなりました。
Syutaro Eji does not match any existing user nameさん、ご意見ありがとうございます。改稿致しましたので、念のためそちらが気になった点として指摘してくださった箇所についての方針や改稿詳細を記載します。
― 仰る通りです。ここは私としても扱いに困った部分でして、よって結論から申し上げますとここはまだ一切の改稿を実施していません。扱いに困った理由としては、必要性が薄いからといってここを削ってしまうと読者が記事全体の雰囲気を適切に掴めなくなったり、補遺2後半の会話で示される情報(財団の古典的な体制からの脱却など)が機能しなくなったりしてしまう危険性があるためです。かといってここでまた新しい情報を追加しすぎると、それもそれで情報が本格的に追加される補遺2後半からの文章を読者がスムーズに読み進められなくなるという危険を伴います。
現状、これらのリスクに対する折衷案がまだ思い浮かんでいません。という訳で、現在は手を加えていませんが、思いつき次第改稿いたします。
― あり得ない話ではないと思います。どれだけ訓練された人間でもミスはしますし、ましてや視界が特殊である以上、状況によってはこういう事もあると思います。
とはいえ、違和感は少なくできるならそれに越したことはないので、ささやかではありますが改稿を致しました。以下の通りです。
というように、「新型で」「それを知らなかった」という状況になるよう文章を改編しました。正直なところこれで違和感が拭えるかはやや怪しいところがありますが、これがポジティブな方向に働いていれば幸いです。
改めまして、貴重なご意見をありがとうございました。これらの指摘は、自分の文章がどのように働いているかを再確認する良いきっかけとなりましたので、その点についても心より感謝申し上げます。
拝読しました。
ここのパートは升と溝本の通話の書き起こしであると解釈しました。その場合、「?」が連続しているような表記はあまり相応しくないかもしれません。
私としてはコミカルな記事の好みの方向性的にNVでしたが、一定の評価は得られそうな記事だと思いました。ただ、否側の読者も多そうですので、確実に残る記事と太鼓判を押せる程では無いかな……という感じです。
特に私が気になったのは、升とオブジェクトの対話中に升が自身の職場環境に関する意見を述べ始めるパートでした。
この記事は、「財団職員が死後にゴキブリになる」という特異な異常性をフックに読者を惹きつけ、オブジェクトの特性が財団の任務に役立ちそうだぞ?ということでストーリーを進め、最終的に、自分たちと同じように死後に異常存在となった他組織メンバーと鉢合わせるというオチを持ってくる……というのが主要な流れであると読み取りました。
しかしこの流れにおいては、財団の職場環境がどうとか時代の流れとかの要素が余分であるように感じられました。勿論、全てを削ってしまうとそれはそれで、既に上でponhiroさん自身が述べているような問題が発生してしまうと思います。が、それにしても現状だと、まるで作者の思想が透けて見えるようで鼻につくと感じられました。(もしここのパートがこの記事で一番主張したい所だったりしたらすみません)
とりあえず、もう少しここのパートは主張を控えめにした方がいいかな?という気がします。具体的な方法は思いつかないのですが……現状の説明的な長セリフが「週休2日!育休・有休制度の確立!Dクラス職員クローン化による一般職員の死亡率低下!」みたいになれば、とりあえず升が勢いのまま喋ってる感じになって、鼻につく要素が減るかな……とかは思ったりしました。
また、しょうがない所ではありますが、オブジェクトが幽霊の被害に対応できる能力を持ってて、ちょうど近々幽霊騒ぎが起きてて、それが要注意人物の住んでる所で、そこで丁度自分たちと同じような経緯のヤツと鉢合わせる……というのは少し都合が良いように思えました。
特に「オブジェクトが幽霊の被害に対応できる能力を持っている」という所ですが、33が述べている幽霊への対抗手段も、ゴキブリに対してさほど恐怖を抱かない人間も存在していることを考えると不十分なものであるように思えました。全体的に、もう少し理由付けを強化できればいいな……と感じました。
― 私個人としては、そのような理由で表現の幅が狭まってしまうことは好ましく思えません。「何?」と「何??」では、読者に与えられる心情の軸に大きな違いがあります; 前者なら困惑・緊張、後者なら当惑・混乱の心情です。あくまで前の文脈によったり読者によってまちまちだとは思いますが、ともかくここでクエスチョンマークを2回用いたのにはそのような理由があるということをご理解ください。
もちろんのこと、報告書としての体裁を重んじるべきというのは理解できます。それらは理解できますが、その上で、表現による適切な心情の伝達と報告書としての体裁なら、私としては前者を重んじます。ゆえに、ご意見をそのまま反映させることは今回はできません。ご了承ください。
― 出来る事ならもう少し減らしたいとは思っているものの、これ以上減らせば私やそちらが仰るように、読者に物語の背景が伝わらなくなるとも危惧しています。なので、そちらが示してくれた改善案を参考に、説明的になっていた部分を改稿しました(主張を控えめにしました)。
― これは私も危惧していた部分ですので、少しだけ「この異常が人為的なものである可能性」を示唆する文章を追加しました。ただ、あくまで可能性を示すだけなので、ここは単純に整合性の面において形だけでも納得させるためだけの文にすぎません。効果の有無については後程別の方に尋ねることとします。またついでながら、周辺の文も変えることでより自然な流れになるよう修正いたしました。
― こういった心理上の変化、ここでは「自分の家にゴキブリが現れると怖い」というのは「一般的にそういう傾向がある」という、傾向としてそのような法則があるだけにすぎません。蓋然性が高いとか言ったりもしますが、要するに、少しでも心理的なものを軸とする集団に対する何らかの手段というのは、どれだけ確度が上がっても100%にはならないという事です。
つまり、単なる理由付けでは確度こそ変われど解決はできません。また、文字数や読者が覚えておくべき情報などを鑑みても、これ以上何かしらを追加するのはむしろネガティブに働く可能性さえあります。となると心理的な面を排除した手法に代替しなければなりませんが、そうすれば本文のストーリーが全部崩壊します。という訳で、今のところはこの点に関して改稿は行っておりません。代替案が見つかった場合、それらを反映させる事にします。
改めまして、貴重なご意見をありがとうございました!
ゴキブリによって霊障に対抗するというアイデアは面白いものですし、オチに向かうための諸々も多少御都合的な展開は気になりますが悪くないと思います。問題点は他の方からの指摘もされている補遺XXXX-JP.2が悪目立ちをしているところだと思います。
コミカルな会話劇が悪いとかそういうことではありません。SCP-4661やSCP-7000等のそういったもので結構な割合が構成されている面白い記事はあります。しかしこれらは全体的にちりばめられているおかげでそれが記事全体の雰囲気として受け取られるようになっています。対してこの下書きでは補遺XXXX-JP.2のみ1がそうなっています。そうなると「補遺2になった途端に雰囲気が変わったな」という印象に留まってそれが頭についてしまいます。
改稿案としては他にもゴキブリの活躍をコミカルに描いたものを追加するなどして全体の雰囲気として調和させるのが現状を一番活かせる形式かなとは思います。
読みました。気になった点を下に記載します。
まず、G(ゴキ)でG(ゴースト)を防ぐというアイデアは面白いと思います。ですが、記事としては『DクラスがGに転生する現象』をオブジェクト指定していますので、この現象について掘り下げるように報告するのが、報告書の内容として自然に思います。それか現象の方ではなく、『Dクラスに転生したG達』をオブジェクトに指定した方が自然になるかと思います。
次にサンプル数が欠乏しているのに、Gが転生した元Dクラスと確定できた点について不自然に感じました。この点について、死亡したDクラスの記憶と知性を引き継いだ存在というだけの可能性も考慮されるので、ある程度の基準をもって本当に転生したのか、根拠を示した方が良いと思います。転生の根拠となると難しいですが、創作であることを自由に利用すれば問題にはならないと思います。
例えば、不思議な“装置”でも“理屈”でもいいので、“それ”を使って財団は断定できるという旨を、少しでも説明欄に添えるだけで印象は変わると思います。
次に補遺ですが、個人的に折り畳まなくても良いかと思います。
あとは全体的に、
これらの感嘆は[狼狽]などで書くとより報告書らしいクリニカルトーンを貫けると思います。あと、罫線ですが『―』よりも『───』のように、3回記入した分の長さがあると見栄えが良いと思います。
あと補遺については元Dクラスにしては誠実すぎる点が個人的に違和感を覚えました。Dクラスは元々、死刑囚などの社会規範から逸脱した人物であるのが共通カノンだと思いますので、会話の言葉選びが丁寧すぎるように感じます。
例えば、話し慣れない敬語を無理に使っているような口調を心掛けてみてはいかがでしょうか。
最後にオブジェクトとしてですが、クラスを指定されるほどの危険性を特に感じませんでした。財団に協力的で収容も自ら認めているので脅威が無いように受け取れます。Euclidクラスなのであれば、それに見合う内在する危険性を文章で示唆して仄めかす程度に留めるなど、何らかの形で読者に提示する必要性があると考えます。現状では個人的にSafeクラスにも当て嵌まらないと感じてしまいます。
報告書としてみると書かなくていい事がいっぱい書いてあるという点はこれを読んだ人はみんな気になると思います。
しかし、もし仮にそれに対して「うるせえ!俺はこういうのが書きたいんだ!」という思いであるなら直すとこはあんまり無いと思います。
私はこのままでもUVします。
批評してくださった皆様、誠にありがとうございました!頂いたご意見は後学のための参考にさせていただきます。