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囚人名: Adam El Asem
拘禁設備: 活動中
投獄日: 4301廻7月3夜
刑期: 無限廻
翁は聞く。心臓の鼓動を。
緩やかに弱りゆくその音に、どこか悲しげな表情で彼は耳を澄ませていた。この檻を、女神が自らを犠牲に作り上げてから、幾星霜もの時を翁はここで見守ってきた。そして時には脱獄を試みたものと戦い、癒えぬ傷を負うことも、取り逃してしまう事態も、数多く経験してきた。しかしそれも、彼が若き故、同胞らが存在したが故の、いわば夢想に過ぎない。
翁は静かに檻を下り始める。広大な空間の中、一人残された哀愁を漂わせながら、管理者は毎廻の使命を全うする。
シリカ製タッチパネルから、彼は自身の遺伝子情報を入力し、檻が正しく機能されているかを確認する。それらの多くはただ静かに独房で佇んでいるのみであり、一切の干渉を必要としていない。そこに自由の余地は介在しない。
そうして全ての檻の確認を終えた時、外は夕闇に包まれていた。当初は真夜中にかかるまで、それぞれの状態の確認には時間がかかっていたというのに、と翁は自嘲気味に笑う。沈んでいく太陽を、彼は荒廃した大地で見つめ続けていた。
ふと、翁は千切れて大地に散らばった莢の破片を手に取った。それは夕闇の所為か、はたまた時間の劣化によるものなのか、酷く赤茶けているように見えた。それを一つ彼は懐にしまいこんだ。夜が更けていく。
今日も、正しく檻は機能している。
それは喜ばしいことでもあるが、同時に、いつかはこの檻も朽ち果てることを意味している。
翁は懐から、昨日拾った破片を取り出した。当時は赤茶けて見えたそれは、くすんだ黄色を彼の瞳に宿した。それは女神といえども、滅びから逃れられぬ事実を、翁へと叩きつけているかのようであった。
しかしそれを、彼はあまり悲観的に見てはいなかった。
形あるものが滅びゆくのは自然の摂理であり、その摂理を守り通すことがこの場所の管理者としての役目であるのだと、翁は自負していた。
そして—そして?
翁は再び莢の破片を瞳に映した。
それは相変わらずくすんだ黄色を、彼に提示し続けていたが、同時に概念として「枯れている」事を指していた。
植物が枯れることは自然の摂理の通りである、だが、"女神が枯れること"は果たして自然の摂理であると説明が可能であるだろうか。
翁はその卵型の目をぐるりと回した。辺り一面に広がる女神の一部は皆、「枯れている」と表現して差し支えない様子を示していた。
老体に鞭を打ち、翁は地下の牢獄へと向けて走り出した。
女神を枯らす可能性のある存在に、彼は思い当たった。思い当たってしまったのだ。
"Adam El Asem"と銘打たれたタッチパネルに、遺伝子情報を入力し、ロックを解除して中に侵入する。檻の中は久方ぶりの太陽の輝きに、どこか歓喜の様相を見せているようであった。
そこには男がいた。金属の四肢を携え、黒曜石に縛り付けられた男が眠るように目を閉じていた。
翁は恐る恐るといった様子で、かの金属の右腕に触れた。
それは何でもない、ただの鉄屑で出来た鎧と化していた。鈍く輝く錆びついたその右腕に、彼がかつて振るっていた暴力の残滓は存在していない。それは、かつて彼に付随していた金属の四肢がここではないどこかに存在していることを、示しているに他ならなかった。
「嵐が、来るかもしれんのう」
それは落胆であったのか、それとも悲嘆であったのか。
声色を変えることなく、翁はその場を再びロックして立ち去った。
檻は、静かに脈動し続けていた。
SCP-2932-Aの注記: こ奴は太陽の子じゃが、太陽の子らは彼を夜闇の子らと同じほどに忌み嫌っておった。Adam El Asemは一目見るだけで物を創り出し、彼が触れれば山は動き、川は枯れ果てた。彼の心には偉大で恐るべき何かが棲んどった。子らは時をおかずに彼を石に縛り付け、ティターニアに与えたのじゃ。彼のように東より来る危険な太陽の子は他にもおったが、そ奴らはここにはおらん。ここには、その歩みが荒廃を齎す者のために1つ、別の者のためにもう1つの予備の独房が準備されとる。儂はこれらが埋まるとは思っとらぬよ。
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- portal:6634493 (10 Jul 2020 08:57)
物語というより、設定開示で終わっているため、展開的な面白さがありませんでした。設定メインというより、その設定を利用した物語を作成し、物語の展開の中で設定を明かすような形の方が残りやすいと思います。
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k-cal様
ご批評ありがとうございます。もう少し掘り下げてみたいと思います。
サンドボックス3オペレーターです。
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