”向いてない”

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「人間って、自殺する唯一の生き物なんだよ」

そんな言葉を聞いた瞬間、私の酔いは覚め、食っていた料理の味を忘れる。かなり濃い味付けだったはずなのに。ついでにつまんでいた枝豆が床に落ちる。
彼女がそんな話をするのは意外でもあり、反面彼女らしくもあった。

いつも何も考えていないようで、思い詰めているようで、そしてやっぱり何も考えていないように思える。つかみどころが無いと言えばその通りだ。だからこそ、彼女と一緒にいると心地よかった。何にも支配されず、この世でいちばん自由な人間に思えたから。

「きっとこれからは、ヒトという種が自殺を始める頃合いじゃないかな」

けらけらと笑う彼女を、私は高校時代と同じ気持ちで、そしてきっと同じ顔で、見つめていた。


「誰かを殺さなきゃならん時、命の価値を考えるのはくれぐれもやめておけ。誰かを殺さなくてもいい時は、命の重みを忘れるなよ」

わかってます。と私は紋切り型の調子で言った。
このやりとりも慣れたものだ。私ももう素人ではない。
仕事帰りの定食屋で、私と先輩は隅の席で、向かい合って座った。正直、なぜいつも向かい合って座るのかが未だにわからない。し、よくこんな仕事の後に飯食えるよなと思う。まぁこの点に対しては私も私であるが。

私たちからメニューを聞いた若いアルバイトの、痩せた背中が厨房入り口の暖簾をくぐるのを見て、私は切り出した。何ぶん他の人がいるところでする話ではない。店内には、まだまだ私たち以外に客はいない。

「先輩、反出生主義って知ってますか?」
「文字列なら見たことある」

彼女はこの思想について、ヒトが遂に種単位で自殺を始めた。と表現した。特に同調する素振りも、批判する姿勢も見せず、ただこの考えが生まれた流れを観測するように、落ち着き払って、超然としていた。

「聞きたいことはそれだけか?」
「いや、先輩はどう思ってるんだろうなーって。どうせ知ってるでしょ?」
はぁ、と溜息をつく彼。答えたくないというよりも、面倒くさいのだろう。
先輩が口を開きかけた時、厨房から耳障りな、陶器の割れる音がして、店主の怒号が聞こえた。
おおかた、さっきの若者がヘマをしたのだろう。
すぐに店主が暖簾をくぐって出てきて、怒りの顔を無理やり歪めた結果出来た、泣き顔にも、笑い顔にも見える奇妙な面持ちで、私たちに陳謝する。

引っ込んでいく店主を見届けた後、しばらくして先輩は、話の続きだが、と改めて口を開く。私から視線を逸らした後
「まぁ、ヒトそのものが自殺を志願していると考えれば、至極真っ当ではあるな」

その逸した視線は、じっと、厨房に注がれていたことを、このときの私は知らなかった。
こうして私達は、行きつけの店をひとつ、失うことになる。
「まぁいつかやるとは思ってたがな。目が淀みきってた。」
世も末だな、事情聴取を一通り受けたあと、先輩はそう漏らした。


「今更だけど、私達がそんなことを話したところで、意味がないと思わない?」
さっき随分と面白げに″種の自殺″について話していた割には、その話題を一蹴するようなことを言う。私の訝しげな顔がよほど面白かったのか、彼女はふふ、と口元を抑えながら、
「ごめんなさい、少しおかしかったわね。今更、ヒトという″種が自殺している″、していないを話したって、結局それは最初から始まってたのよ」
彼女は紅茶で、自分の唇を濡らした。
「知能を与えられた時点で、ヒトが終わろうとするのは決まってたの。私は決してそれが悪いなんて思わないけど」


この、財団という組織の意義。それは”正常”な世界の維持である。というのは重々承知しているのである。問題は、誰が正常か否かを判断するのか?という点。私はここがどうしても解せないのだが
「そんなん、俺らみたいな鉄砲玉が考えることじゃない。働いて金もらえればそれで終わりだよ。頭使うのはお偉いだけでいい」

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