NYTXT

 唸るような低い音が響く。蜂の羽音を大きくしたようなその音は、音源が放射しているエネルギーの大きさを感じさせる。空間を歪曲させ、繰り返す現実場の変化は微小な非等方現実荷分布をもつ空気分子を巻き込み、鼓膜を震わせる。

 「森野博士、ようこそ合衆国へ。我々には時間がない。こちらへ」専用機から降りると、森野は軍服に似た格好の男に案内された。
 「あなたは共同研究の間臨時セキュリティークリアランスを付与されます」男は言う。「セキュリティークリアランス?具体的にはどうすればいいのですか」と森野は聞いた。
 男は手帳ほどの大きさの機会を出し、慣れたように操作したのち、森野に渡した。「こちらのデバイスに説明と同意事項を表示させておきました。読んで同意してください」

 会議室は、この世の中で最も多様な人々が集まる場所の一つとなっていた。
 白衣の人々は顔見知りの数人で塊を作り、

 「すみません、すみません、みなさん」ホワイトボードの前で若いアジア系の男が手をたたいて注意を促した。「一応前もって資料を送付していたかと思いますが、情報の更新もかねて説明します」と男は続けた。「こんにちは。私はアルフレッド・中平と申します。財団職員として各界のみなさんに声を掛けました。主に、財団の知りうることや、みなさんに行っていただきたいことをみなさんと共有する仕事をさせていただきます」
 「その際、各分野ごとのワーキングチームと、その中から一人ずつ出す連携作業も行える人々で基本的には進めていきたいと思っています。マーカーで『G』と表紙に大きく書いてある資料をご覧ください」
 そこにいる人々は視線を資料に落とした。「連携作業も行っていただく方はωのところに記載しています。この人たちの名前を覚えておいてください。一応前に出て名前を言ってもらいましょう」と中平は続けた。

 「宇宙のトポロジーが変化し、マンハッタンの一部が基底次元から引きはがされました」と中平は述べた。「切り口はどうなっている?」Xが問う。「こんな感じで、切り取られた断面は球面と同相ではないかと」と中平は図をホワイトボードに描いて答える。

 「どうです?そちらは」
 マンスフィールドは天を見上げながら尋ねた。ヒントンは溶けたチョコレートがこびりついた包装紙を脇に除け、つまらなそうに答えた。
 「不味い匂いがそこら中に漂っています」
 ヒントンはこの惨状をさらに絶望に向かわせることに躊躇いを持ちつつも、黒い文字で埋まったホワイトボードの一角を消し、式を書き足した。
 「まず、先程森野さんので計算した一次歪み係数のオーダーが大体12桁くらいになっています。それに加えて、音の幾何学的性質に蓄えられるエネルギーの割合が非常に大きい」
 そこにいる人々からは、先程の緻密な数式を書いていたエネルギッシュな教授が、まるで単なる皺だらけの小さな老乞食に変貌したかのように見えた。落ち着いたトーンは安心や冷静さではなく、諦めを示唆していた。
 「これ、我々に出せると思いますか?吉澤さん、ダウニングさん、ホヤさん」とヒントンが聞く。「ちょっと待ってください、すぐには答えられない」吉澤は焦るように言った。
 「ヨシザワ、嘘を言うのは良くない。無理に決まっていることはお前にも明らかだろう。財団保有船舶に搭載された現実錨のスペックを遥かに超えるエネルギーを幾何学的にも複雑な条件で加える必要があるんだ」
 ダウニングの語調は厳しく、各々に現実を見るように警鐘するかのようであった。マンスフィールドはしかし、そこでダウニングの言う「現実」を受け入れる事を拒んだ。
 「待ってください。尖点に近いところを引っ張ればどうでしょうか。我々の持ってる現実牽引能力で行けるのでは?」マンスフィールドの手に握っているチョコレートは包装紙の中で柔らかくなった。

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