財団探偵下書き:屋内の墜落死体
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異常な死体発見、の報を受け"判別部門"の新人、阿宮あみやは██市の一軒家へ向かった。「富山」の表札を掲げるその平屋はそれなりに広く、裕福な人物が暮らしている、と感じさせるには充分だった。現場は居間であり、阿宮は鑑識が到着する前に死体を確認しておこうとその部屋を覗き込んだ。

一般的なダイニング・ルーム。隣にリビングがあり、扉の向こう側には台所があるのだろう。その中で一般的でないもの、それが部屋の中央にある死体だ。ただの死体と比べても普通ではない。仰向けで倒れており、その顔は驚愕の表情のまま固まっている。四肢は全て歪にひしゃげ、折れ曲がれ、辛うじて原型を保っている程度だ。そして最も酷い頭部は、後頭部から半分以上が潰れ、それ以外の部分も完全に砕けている。その、この場においては異様な──しかし他の場所では然程在り得なくはない──死に様は、阿宮の脳に一つの単語を想起させた。やがて鑑識が到着し、死体を検めていく。そして出た死因は、阿宮の予想と同じもの、即ち──墜落死、であった。


上 問題

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現場見取り図

「死体は家主である富山正蔵、55歳。職業は大学教授。妻とは5年前に離婚しており、現在は一人暮らし。週に4日お手伝いさんが来ており、第一発見者も彼女です。」

サイト-81██某所、"相談室"と呼ばれる部屋で、阿宮は担当している案件について話していた。

「名前は吉田雪子。午前7時45分に家に到着した際、玄関に鍵が掛かっていなかった事を不審に思いつつ家に入り、正蔵氏を発見したそうです。彼女は最初、近くにワインボトルが転がっていたことや玄関が施錠されていなかった事から何者かが侵入して正蔵氏を殴ったと考えたようですが、死因は高度50m程度からの落下でした。ヒューム値は安定しており、現実改変の痕跡は無し。また、死体を移動した形跡もありませんでした。」

阿宮の正面で椅子に座り、資料を読みながら話を聞いていた男は、成程。と小さく呟いた。

「屋内で墜落死、か。『三毛猫ホームズの推理』に似たような状況があったな。」

そう語るこの男の名は、吽野うるの。この"相談室"の主にして、元"判別部門"、そして一部の人間からは"財団一の安楽椅子探偵"と呼ばれている人物である。

「え、それってつまり…これがトリックによって作られたということですか?異常性の無い事件だと?」

「まあ、落ち着き給え。ただの可能性の話だよ。似たような、とは言ったが同じ状況では無い。同じトリックを利用することは出来ないよ。」

なら紛らわしい事は言わないで欲しい。などと言える筈もなく、阿宮は不承不承頷いた。

「はぁ…あらゆる可能性を考えろ、という事ですか。」

「そういう事だ。図書室で『三毛猫ホームズの推理』を読んでみたらどうだい?何か関わりがあるかも知れない。だがまあ、今回は私が解決しよう。折角持ち掛けられた話だ。──ん?」

そう話し出そうとした吽野は、手帳とペンを取り出した阿宮の手元を見ると、言葉を切った。

「どうしました?吽野さん。」

「君…いつものペンはどうしたんだい?その手帳と必ず一緒に使っていただろう?」

吽野の言う通り、現在阿宮が持っているのは普段持ち歩いているボールペンではない。流石、良く見ている。そう思いながら、阿宮は違うペンを持っている理由を説明した。

「実は今回の現場で落としてしまってバラバラになったんです。別に大した事じゃありませんよ。鑑識には怒られましたけど。」

「そうか、それは災難だったね。だが、現場を荒らしてはいけないのは鉄則だ。既に反省しているようだからこれ以上は言わないがね。ただ、この資料に載っているプラスチックの欠片は君のボールペンのものだったというわけか。」

「うっ、はい…。現場にある以上記録しないわけにはいかないようでして…。」

「まあ、少し気になっただけさ。さあ、君が死体を見てからの事を教えてくれ。」

「はい、わかりました。」

気を取り直し、阿宮は語り始めた。


死体を確認した阿宮は、しかしそれ以上すべき事も無く、取り敢えず部屋の中を見渡した。死体はリビングとダイニングを区切るソファーの隣に横たわっている。死体の頭の近くに転がっている空き瓶はどうやらワインボトルのようで、近くの棚には同じようなワインボトルがたくさん並んでいるのがわかる。

リビングの方へ向かうと、流れ出した血液やその他がカーペットに少し染み込んでいた。リビングの窓にはデッキが設置しており、その奥には庭が広がっているのが見える。阿宮は庭を見てみようと近づいた時、ある事に気づいた。その窓には三日月錠クレセントが取り付けてあったのだが、それが今は下向きになっている。つまり、鍵は掛かっていなかったのだ。

阿宮はその発見に手応えを感じつつ、続いてキッチンに入ろうと入り口の扉を避けようとしたその時──恐らく扉の陰から──黒い塊が阿宮に向かって飛び出して来た。阿宮は反射的に数歩退がり、死体を蹴りそうになって慌てて元の位置に戻り、ようやく自分に襲い掛かったものが何かを知った。

それは一匹の子猫だった。爪を立てて床を引っ掻き、全身の毛を逆立てて懸命に阿宮を威嚇している。阿宮はやや拍子抜けしつつも、異常存在である可能性、何より正蔵氏の死の原因である可能性を考え確保すべく近づこうとしたその瞬間、子猫は身を翻して入口の扉から逃げ出して行った。玄関のあたりに居た職員達の喧騒が聞こえ、自分も加勢しようと扉をくぐろうとした時、阿宮はさっきまで猫が居た近くに砕けたボールペンが落ちている事に気付いた。

それは阿宮自身見覚えのある愛用のボールペンだった。それが壊れた事にショックを受け、しかしすぐに現場を荒らしてしまった事に気付いて慌てて破片を拾おうとしたその時──遂に鑑識が到着した。しっかりとその場面を目撃された阿宮は、当然の如く鑑識にも上司にも叱られ、落ち込んだまま捜査に加わった。


「成程、そういう経緯があったのか。ちなみに猫はどうなったんだい?」

「通りかかったエージェントにより確保され、異常性の検査が行われましたが…どうやらただの子猫だったようです。雪子さんによると、たまに家の庭に入ってくる野良猫のようで、正蔵氏は庭でおやつをあげたりして可愛がっていたようです。家の中に入って来た事は無かったようですが…。」

「成程…。」

そう言ったきり、吽野は考え込んだ。恐らく彼の頭の中では今、情報同士が擦り合わされ、練り合わされて一つの真相を浮かび上がらせているのだろう。その様子を阿宮は静かに見ていると、やがて納得のいく答えが出たのだろうか、吽野は告げる。

「さて、事件を解決しようか。」

下 解決

吽野の言葉に、阿宮は無意識に背筋を伸ばした。遂に推理が始まるのだ。一言も聞き逃さないように集中しようとして

「その前に、"判別部門"の──いや、阿宮君、君の推理を聞こうか。なにやら考えていた事があったようだからね。」

「つまりですね、犯人は鍵の掛かっていなかった窓から侵入して正蔵氏を殺害、

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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