疑問、それの答えに辿り着いた幸運な者

何時の日か、私は疑問を覚えた。

確か……

……そうだ私の所属してる陸上自衛隊の基地に居た とても優秀で、それでいて周囲に優しかった先輩の突然の異動の時だ

なんでも答えてくれたりもしていたのにあの時、最後でも先輩は一切異動先の事や、それに関連することを話そうとしなかった。

そして、その話題が出た時の先輩の表情はとても……とても……

    ……冷たかった。

そう、あの時の先輩の顔はとても冷たく、どこか寂しげだった。今思い出しても何処までも怖く、何処までも同情を誘う様な顔だった。

……まぁその顔をしたのは一瞬の事だったかと、過去の私は見間違いかと思って特に気にしてなかったが……だがその記憶は確実に私の心に残り、疑念の意を生んだ

それから更に……約1年ほどだろうかそれほど立った。そのとき私は趣味で登山していたんだ。あの時はあまり有名でもないがマイナーでもない山に登った。だがその時私は……登ってる最中ではあるが謎の悪寒を覚え、咄嗟にその場から離れる。そうすると正体不明の怪物が私のいた場所に立っていて……

ぎょろりとした目が私を見たんだ、まるで獲物を見定める様に

その時は恐怖が込みあがったがどうにか自分を保てた。今考えてもあの時の自分を褒めたいくらいだ。

まぁそのあとはトレッキングポールで何とか善戦をし、一応奴を退けることが出来た。が、その時麓の方から複数人の足音が聞こえてきた。

一瞬その足音の主たちのもとに行きたいと思ったが、直ぐにその足を止めた。何故か、それは普通一般人が持つことはない、むしろ私達しか持つことはないんじゃないかと思っていた……

……銃だ、それもほぼ確実に実用の銃、重い金属音に確かに私は自衛隊で覚えがあり、それが分かった瞬間、直ぐに近くにあった木の根による丁度草に隠れた窪みに逃げ込んだ。

違法に銃を所持する銃刀法違反者達がどんな奴らか分からない上、抵抗したとしても確実にこちらが殺されるだろう状況の為、どんな場合でも動けるようによく観察していたからか、そいつらの会話や行動は今でもよく覚えている。

「HQ HQ、こちらカウボーイ、対象オブジェクトの発信機が山頂へ移動したのを確認、追跡しますか?どうぞ」

そいつらは何処かの軍隊では無いかと思うほど、とても練度の高い行動をしていた。下手したら私達、自衛隊よりも練度が高いかもしれない、そう思えるほどに全員の息が合っていた。しかもそいつらはどう見ても一般人が手に入れられるような防具では無く、何処かの国の軍隊を思わせる防弾チョッキに銃を所持していた。見たところどれも見覚えのない銃ではあるが近・中特化の物の様だ。

『────』

「こちらカウボーイ、了解、部隊は-23 追跡を開始する。確認」

何やら無線で会話したようだがその無線側の声は聞こえなかった。

「カミカゼ 了解」

「サイドカー 了解」

「ザザ 了解」

「イエス・アンド・ノー 了解」

「コザック 了解」

「サラトガ 了解」

「HQ、こちらカウボーイ 山頂へ対象オブジェクト追跡行動を行う、オーバー」

そう言うとそいつらは山の奥へとゆっくりと歩いて行った。とてもじゃないがサバイバルゲームみたいなお遊びには見えない、直ぐさま山から下りて家に帰ろうとしたが麓には私服だがよく鍛えられ、周囲を見る人物達が山を等間隔で取り囲むように居た。

先ほどの部隊を見た私はそいつらに見つからないようにとっとと逃げた。

その後は高速道路を走りようやく家に帰った瞬間、どっと疲れが襲ってきてその日は直ぐに寝てしまった。

後日、気になって奴等の名前の様な物を検索してみたが全て酒の名でヒットした。確実にコードネームだろう事は確信できる。

問題は何故あのような部隊が堂々とあの山を登っていたかだ、警察に調べてもらおうかと思ったがやめた。とてもじゃないが信頼できないからだ、あの近くには警察署があった。いくら人気の少ない山側と言え分かるだろう、それを放置しているという点で怪しい、帰った後にネットで探して知ったが、あの集団の話題、噂がネットを含め、周辺地域にすら一切なかったのだ

部隊の方は分からないが麓の見張りをしていた奴等は結構な数だ、少し観察したら気付く、なのに一切話題が無いというのに少々違和感を覚え、私は正解のない、いや、答え合わせの出来ない考察を始めた。

「あそこ一帯の演劇か何かだったのか?」いや、違うアレは確かに存在したし、あの部隊の雰囲気は異様に鋭かった。決して訓練や演劇などではない
「周辺の人々を脅しているのか?」それもないだろう、あれほどの人員を動かせるのならできなくはないだろうがどこかしらで確実に密告が行われるだろう

そうやって私は考察を広げていった。だがどれも確信には迫れない上、否定できる材料が複数個あったりした。だがある時

「まさか記憶を消したり操作したりできるのか?」

そう、ふと思った。現実味がない話だがそれで納得できてしまう、やつらの装備はどう調べても確実に最新型以上の物だった。その記憶に関する技術もあるのかもしれない、そう考え私はそれを最適解とし、その終わりのない考察に一度私は幕を閉めた。

そうして、また数年、その時には独自で慎重に気付かれないように注意しながらも情報を集め、「奴等」の姿を確信するようになっていた。

当時、私が調べ上げた奴等の組織の全貌は分からなかったが既に警察だけでなくメディア、多くの企業、自衛隊、挙句の果てには多くの政治関連の人物達にまで奴等は関係を持っていることが分かった。先輩の異動先……いや、就職先は奴等の組織である事もわかった。

これは個人情報であるからこそ厳重に扱われていたがそれを確かに確認した。ただ就職したという情報しか得られずやはり奴等の情報は一切入ってこなかった。

奴等の行動理由は不明……奴等の動いた形跡のあるどの行動にも私から見たらほぼ共通点がない、一つだけ確かなものをいえば少量に絞って一つ一つ見ていくと何かを隠すような動きの様に見える。が、全体から見たら矛盾するような動きもあったりして当時は頭を抱えたが暫くしたら簡単なことだと気づいた。隠すものが複数、多くあるのだ。それならば矛盾するような隠蔽活動にも何処か納得が出来る。

そして私は東日本大震災の救助活動にて奴等の姿を更に深く知るようになった。

自衛隊による救助活動の際、私は行方不明者の模索を行う部隊に入り私達は捜索を開始した。

数時間をかけ4名の被災者を救出できたものの当たり前だが、残念なことに多くの死者もいた。

その探索で私はとある水没したビルの中に入った。その際は他数名の同僚もいたが効率を考えバラバラに探し回った。その時にビルの1階の受付側の奥にある扉を開け、その奥へ行った。それはなんとなく入った直感によるものだったが私は運に恵まれていたのかもしれない、入った部屋には横に4、5人ほどは並んで通れるような大きな地下へ続く階段があった。

少し近くに置かれていたデスクの上を見る。そしてこのビルの企業の名を確認すると私が調べ上げた限り、奴等との関係を持つ企業の一つであることを確認した。当時の私はそのことに歓喜し周囲をもう一度よく観察した。

一度水没していたようだがそこだけ後から水が抜かれたような感じだった。恐らくポンプか何かによって外に水を出したのだろう、ともかくその先は普通に探索が可能そうだし奴等の実態を更に知れそうだと喜んでいこうとした。が、直ぐにやめた。明らかに時間が足りない事に気づいた。浮かれていたのを自覚したら少し自分の精神の未熟さに恥ずかしくなったが何とか立て直し同僚の元へ戻る。

その後は臨時のキャンプ地に戻り夜を待つために早めに布団に潜った。同僚達には確か……そうそう「意外に疲労が溜まった」とか言って先に寝させてもらったのだ。心配されてしまい「医者に少し見てもらうか?」などとも言われたが「大丈夫」と返した。私はあの建物の地下に行く一心でその時居たのを覚えている。

思えばそれこそが今、私が後悔をする一因にして始まりだったのだろう

夜中、同僚達の大半が眠り始めた時間に私は起き、昼間に発見したビルの地下へ準備もしながらコソコソと行った。出来るだけ目立たない服に折り畳みの背負うバックを持ち、アーミーナイフ1本、手頃な鉄パイプを近くから拾い探索時に履き替える用の靴を背負い手袋を付ける。

ビル近くには着いたものの幸運な……いや、この場合は不幸中の幸いといったところだろうがその時、運に恵まれた私は遠くからライトを所有した集団が私と同じビルへ歩いてきてる事を確認した。

そのことに過去の部隊の事を連想した私は直ぐに瓦礫の下に入り込み身を隠す。

そうして体感で数分……まぁおおよそ数十秒程度何だろうが集団が来るまでの時間は異様に長く感じた。

ビルの前に集団が到着するとやはりそいつらからは物々しい金属音やらを身に纏わせてる。その時は顔を出す程の勇気はなかった為、私はただ物陰に身を潜め耳を傾けていただけだった。

隠れていると男の声が聞こえる

「HQ HQ、こちら部隊い-33の黒猫、サイトの業務員用第四番出入口のあるビルの前に到着した。大分浸水してるようだが恐らくは地下はまだ無事だ、どうぞ」

(サイト……?施設の名か何かだろうか?)やら(第四番とあるし他にも入り口が?)等と聞こえてきた単語に考えを馳せるが、次に無線の声が聞こえ、直ぐに思考を現実に戻す。恐らく夜であるから空気が澄み聞こえやすかった……のだろうか?今でもそれはわからないが確かに無線の声は薄く聞こえた。

『こちらHQ、了解した。サイト内からの連絡は47時間前から途切れている。恐らくサイト内部の外部用通信機器が全て浸水した可能性がある。その上浸水前は収容違反の報告もあった。収容違反発生時に報告されたオブジェクトはどれも脅威度の高いものばかりだ 気を付けろ』

「オブジェクト」という単語に今度は考えを付ける。そうすると不思議と昔に山で遭遇した奴等は「対象オブジェクト」と言っていなかったか?と考える。あれはなんかの比喩表現では無く只の目標物、隠している物の総称か何かを言ったのだろうと思いつく、しかも収容違反と行ったのだ、その隠してる物が脱走したという事だろう、そう考え私は施設内を昔私を襲ったようなバケモノが闊歩しているのだという考察によって多少足がすくんだものの、この機会を逃したらもう次の機会は無いと自身を奮い立たせ何とか立ち直った。

『他5部隊も既に配置についている。間違っても撃たないように……幸運を祈る。オーバー』

「黒猫、了解」

「招猫、了解」

「白猫、了解」

「赤猫、了解」

「虎猫、了解」

そう号令をし、そいつらは受付の奥にある部屋、私が階段を見つけた部屋への扉の前に立ち、話し始める。ロビーは大分音を反響しやすくなっているようだ。入り口付近に隠れてる私に聞こえる位に丁度良く反響した。

何故こんなところで私は運を使ってしまうのか……

「行きに確認した通り、今回のターゲットはサイト内部に生存している職員らの救出、オブジェクトの回収が目的だ、その為最下層まで一気に行く、」

黒猫と自称した人物が言う

「……確かこの辺りは自衛隊が探索したんだよな?」

赤猫と自称した人物がそう質問する。

「ん?……あぁ、確かそうだったな」

黒猫が答える

「この出入口見つかったんないんじゃないか?」

そう言う赤猫に招猫と自称する人物が答える

「報告では地下出入り口に関する発見の報告はないはずだ」

それに少々渋った声で赤猫が言う

「……お仕事ちゃんとやれよ」

その言葉は大分私に刺さった。このビルの内部を探索して発見したが、意図して報告しなかったのは私自身だ。

私の行動が赤猫の中の自衛隊の評価を確実に削がしたというという事実が大分深く突き刺さり一瞬死にたくなったが立ち直る。

「さて、そろそろお話はおしまいにしてこちらのお仕事を遂行しようか」

黒猫がそう言うと他の奴等も全員が黙り、階段のある部屋に入る音を確認し、物陰からゆっくりと出た。

……今回は精神的ダメージがでかすぎる。今でもこのことを思い出すと本当に死にたくなってくる。皆、本当に申し訳ない……

奴等が部屋に入って約数十秒後、私は靴を履き替え手袋をもう一度腕側に引っ張り帽子を深くかぶりこんだ。一応指紋や髪の毛などの物的証拠を残さないためだ。まぁ奴等は科学が現代の科学よりも進んでいやがる為、意味は少ないのかもしれないが……

それはともかく地下……奴等に「サイト」と呼ばれていた場所へ、私はゆっくり、それでなおかつ迅速に歩を進める。

階段を下り終えると直ぐ目の前にあったのは頑丈であったことが窺がえる元金属製の扉だ、外側から圧力がかけられたのか大きくゆがんだ形でそこに入り口の横に転がっている。

階段はそこそこの距離があった為、恐らく溜まった水の圧力に負けてしまったのだろう

それはともかく中の様子だが、照明は付いている物のものすごく湿っぽい 水が殆ど抜けているとはいえ天井から雨漏りの如く降ってくる水がある。

天井まで浸水したのだろうと私は考えた。

そのままその廊下を歩き続けるとそこそこ大きな広間に着く、ロビーの様だ ……水に浸食されたのか壊れた机や腐った観賞用植物が目に付く、だがそれよりも目に付くそれはロビーの真ん中にそこそこの大きさで描かれていた。

3本の中心へ延びる矢印にそれを囲む線、矢印の腹を通る丸、そんなロゴの横にはSCPと書かれていた。

私は愕然とした。なんせどれだけ調べても分からなかった組織の名称、更にはロゴマークすらもこうも簡単に見つけてしまったのだ。

私はどこかむなしい気持ちになった。今、思うに当時の私は楽しみにしていた映画をネタバレされたような感じだったのだろうともいえる。自身で調べてたどり着きたかったのだろう、今ではもう、そのことも忘れたい記憶の中の内の一つでしかないが……

少しして愕然とする気持ちを飛ばし、気持ちを入れ替える。

ロビーを通り過ぎ、奥の廊下へ進む、進んで分岐点があったら曲がる。真っすぐ。真っすぐ。曲がる……そうして行き当たりばったりに歩いているとどことなく生活感のある部屋の並んだ場所へ着く

寮の様な雰囲気だ、入隊して2年ほどは自衛隊の寮で泊まり込んでいたのだがプライベートが少ないというのに中々慣れずマンションの一室を買い、当時はそっちに住んでいるのだがそこは確かに寮と雰囲気がとても似ていた。

恐らくSCP……語呂があれだな、いつもの通り奴等と言っておこうか、まぁ奴等の職員達のこのサイトの生活スペースであると考えられる。

そう思い、私は個人が所有する機密資料が無いかと部屋をあらかた探ったが様々なところが浸水しており紙媒体、電子機器は完全に使い物にならなかった。

だが1つ鉄製のデスクの引き出しに入ってた書類はあまり水に浸食されておらず読める状態であった為バックに入れ下の層へ行く道を探した。

暫くして非常階段と思われる場所を見つけたが人工的に無理やり突破されたような跡があり止めた。部隊と鉢合わせする可能性がある為だ。

直ぐに離れようとしたが、次の瞬間……それはそれは大きい爆発音が非常階段の下から聞こえたのだ。

私は驚きはしたものの直ぐに考察を立て、冷静になれた。恐らくは浸水して壊れた頑丈な扉を爆弾で破壊したのだろう、普通は室内で爆弾など危険な事することは少ないとは思うのだが急いでいる可能性が高い、なりふり構ってはいられないのだろう

そう考えながらも部隊が引き返してくる可能性を考慮し、急いで他の道を探す。

結果、少し遠くに階段があった。利便性どうなってんだとも思ったが多分適当に進んでたせいで発見できなかったのだろう、自業自得だ。

そのまま2階分階段を降りたがその先の階段はなかった。最下層かセキュリティとして違う場所に他の階段があるんだろう、なるべく足音を立てず、速く歩を進める。

下層に踏み込むのは危険とし、周囲を探索すると、白衣を着た人間の死体が4、事務員の様な服を着た人間の死体が6、警備員のような恰好をした人間の死体が12が見つかった。そのうち4体の死体はカードキーのような物を持っており、計4つ手に入れられた。これらの死因はどうやら全て溺死か圧迫死の様だった。

他にも探索をした結果、読めそうな約20束ほどの文書、少々重い小型金庫を確保することもできた。

そんな中、廊下の奥の方から足音が聞こえたのを確認したので私は尻目を介さずさっさと逃げた。

逃げている間に遠くの方で銃声のような音もしたが私に向かった物では無かった。正直様々なものを発見した上、見つからなかった私の運を表にしたらカンストしているのではないかというほどにツイていた。それはもう、忌々しい程に

サイトを出た私は資料をそのまま読むことはせず収穫物を茂みの方に隠しておき、身に着用していたものを全て燃やし、川へ流しておいた。そうやって追っ手は来たとしてもある程度撒ける様にした。ただ私はそれでもまだ油断できなかったが……

そのあと直ぐに収穫物をバレないように場所を変えて埋めた。場所は分かるようにはしたが直ぐに取りに来ないと万が一の事もある。

私はキャンプ地の方に戻りながらも収穫物をどの様に運送するかに悩んでいた。そのまま持ち帰るとバレる可能性がとても高い、郵便も奴等の目があることはほぼ確実だし足が付きやすい……友人に預けると言う手も奴等を調べ続けてしまった私にとっては友人は信頼は出来るが信用する事は出来ない。

いっそのことと思い私は父に連絡をした。父も今では信用することは出来ない、その為私は父へ「被災した子供達に渡せる菓子を多く持ってきてくれないか?」と言い、出来るだけ自然な形でこちらへ車で来てもらえるように誘導する。それに対し父は「分かった。2日まて、かあちゃんの説得と菓子を買い占めてくる」というセリフを言い少し噴き出したのと同時に父の純粋な善意を感じて、心が少し傷んだ。この時はやはり精神的に来るものが多い

……今思うと結構遅い時間……時計は深夜を回る頃だったのに父はそんなにタイムラグをつかさずに電話に出た。先に誰かと話していたのだろうか?というかちゃんと寝て欲しい、そんな時間に電話をかけた私の言えることでは無いが……

「有難う」そういった私に父は「子供が飢えてるんじゃ昔の儂見てぇに親共も大変だろうからな!」と大笑いして返事をした。

……確かに私は父にお菓子をねだってごねた記憶がある為、少し狼狽えた。父よ、それは結構昔の話だろう?

「それじゃあ、帰り際に荷物を持ってってもらう事になるかもだけどいい?」私にとってはこっちが本題だ

「うん?別に良いが自分で家に取りに来いよ?力仕事は老体には堪えるんだ」そう父は快く返答してくれた。本当にありがたいことだ。

「ありがと、それじゃあそろそろ切るね」

「おう、じゃあな あ、どこらに持ってきゃいい?」

……何処にするか、当時の私は完全に思いつきで言ってたのでそう私は少し悩んで自身のいるキャンプに来てもらう事にした。場所も教えてようやく私はその電話を切った。

電話している間にキャンプ地に着いた。肉体的……主に精神の方がダメージを受けているのだが……仮眠をとっていたとはいえ疲れて寝床にダイブして寝た。

疲れていた私はそこそこ深い眠りについていたようで同僚達が起きる時間にも爆睡していた。直ぐに起こされたが眠気が私を襲った、大分足元がふらついており同僚達には本気で心配された。

夜抜けだした私が悪いのだから心配されることに対して私はとても申し訳なく感じた。何とか頭を動かし頭を覚めさせ、私はその日も救出活動を続け、その活動も終わる頃に被災した実家等を持つ同僚達に話を持ち掛けた。

「遺品を持って帰りたいか?」

そうやって地震や津波で実家や家族を失った同僚数人に話しかけた。そのうちの4人が親戚も来れないが遺品はせめて持って帰りたいと言った。彼らは私を清い人間のように見ていたが私は彼等をカモフラージュ代わりにするに過ぎない、善人では無く偽善者にも届かない人を利用するただただの醜い人間だ。心の底から私は私自身をそう思う。

そうしてまた1日を救助活動に費やし夕方ごろに持っていく遺品を持ってきてもらった。その際に埋めていた収穫物を紛れ込ませ、キャンプ地で夕飯を食べ、その後横になってその日が終わった。

父が来るその当日の朝は父へ避難場所への道順を伝えておき、帰らずに救助活動が終わるころまで待って欲しいと言う、その日も救助活動に費やす。

その日の救助活動が終わり、キャンプ近くの駐車場に遺品や隠して持ってきた収穫物を持ってくる。

「よぉ!お前なんかでっかくなったなぁ!」

そう父が大きな声で喜びながら私の背中をたたいた。自衛隊に入って鍛えている筈の私でも前に少し動く程の力を持った背中たたきはちょっと痛かった。だが父に大切にされているという事もどことなく伝わり、とても嬉しかった。

「父さん、前と身長は変わってないぞ?」

そして私は父の言葉にそう答える。実際私の身長は前に実家に帰った時と変わらない、恐らくは父の錯覚だ。

「うん?そうだったかガハハッ!まぁいいじゃねぇか!そんで車の荷台に置いて置きゃいいんだよな?」

「あぁ、これらがそうなんだけど」

「おぉー結構あるな」

「持って帰りたいのがこれららしい、ちゃんと絞ったそうだよ」

「おう、まぁ荷台は新品にして広いからな、幸いしたぜ」

父は当時中型車を新たに買っておりその荷台に何とか遺品と収穫物を入れられた。

「どれぐらいで取りに来れる?」

「あー済まないけど結構遅くなると思う、数ヶ月……遅くて年単位かな」

「おーそうか……んじゃぁ倉庫にでもぶち込んでおくがそれでいいか?」

「それでお願い」

「おうよ!」

そうして荷物も入れ終わり父を見送り私は夕飯を食べに行き、その後横になりその日を終えた。

そうして日に行くにつれ空を飛行するヘリが減ってゆくのを感じたり行方不明者の模索やら漂流物の撤去……偶に避難テントに来ていた在日米軍の人達と少し交流もあったりと忙しく月日が流れ……約6ヶ月後、災害派遣は一応終わりようやく家に帰ってこれた実感と共に直ぐに休暇を取り実家に車で向かった。

久方ぶりに帰った家にはかれこれ何年もあっていないだろうという弟の姿があった。私が来ると聞きつけわざわざ休暇まで取って妻子と共に来たらしい、姪はもう赤ん坊のころに合ったっきりだったので「このおじさんだぁれ?」と言われたときはちょっと悲しかったがそこは弟がフォローしてくれた。

その夜は久しい……本当に久しい家族での会話をした。昔とは酒が入ってるかの違いはあれどとてもその話の空間で幸せであると感じることが出来た。

……今思うほど、当時が羨ましく、戻りたいという意思に駆られる……もう私はそのような事が、純粋な気持ちで話せないからこそ、愛おしい、幸せな家族との思い出だ

……その日の夜が明けたころには皆寝落ちしてしまっていたらしく母と弟の嫁と姪、が朝起きたときには食卓は私達3人の眠ってる姿があったらしい、無論母に叩き起こされた。

正直父より母が強い、家族の強者ピラミッドの頂点に存在するのは母であろう……経済的にも、武力的にも……その母の鉄拳が下された私は二日酔いになりながらも何処かまだ子供だった頃を新鮮に思い出した。

母の鉄拳で印象強かったのは私が小学6年の頃、父の提案で3人で夜寝ずにゲームをしまくっていたときだな、あれ以来寝る時間は母に徹底的に管理されていた。父も含めて……

まぁそうして私は起き、朝のご飯を食べ家の倉庫から荷物引っ張り出し、受け取り見送られながらも帰った。

預かっていた遺品は全て所有していた同僚達に渡し、そのまま家に帰り確保した書類たちに目を通した。


……そうして私は後悔を始めたのだ

始めに私は始めの階で発見したであろう書類に目を通した。それは新人オリエンテーション用の書類らしかった。そこには奴等……SCP財団の概要と職務について完結に書かれていた。

まず財団というのは「確保」「収容」「保護」を理念とした秘密組織らしい

主に異常物体……ここにはそれらの事をオブジェクト、SCiP、SCPオブジェクトなどと呼ぶと書かれている。まぁそいつらをとっつかまえて科学的にその異常性を解明できる日まで保護しようという組織らしい……胸糞悪いことに人体実験も容認されているようだ、犯罪者や自殺志願者で構成されたDクラス職員と呼ばれる人員を使用して……あまりに合理的でない人体実験は禁じられてるというもののこれはどう見てもディストピアなのではないか?

記憶処理剤とやらで世間の目を誤魔化してすらいるらしい、そこに偽の物語を……カバーストーリーと言われる物を流したりする事も日常的にこなしてるらしい、私から見ればどう見たってディストピアだ、私にとっては良く暴走せずに理念に沿おうとしているこの組織が意味不明だ……

そして11枚目の資料にそれはあった……それは大まかな組織構成だ職員はクラス制で分けられておりそれぞれで重要度が変わるらしい、E~Aの5段階の様だ Eは例外の様な物で使い捨てとは少し違うようではあるが……

その次に来たのがセキュリティクリアランスという物らしい、ここには0・1・2・3・4のクリアランスの説明がされてるが私は他にもありそうだと睨んでいる。

そしてさらに次に来たのが役職についてだ、見た感じサイトを管理するサイト管理者と呼ばれる役職の上に更に指揮系統がありそうなのだが詳しくは書かれていなかった。何というかこの組織が秘密主義であることがよく分かる。

ふと思い立ち持ち帰ったものにカードがあるのを思い出す。バックをあさり引っ張り出すとカードには2と書かれたカードキーがあった。他のも同様だがそれぞれ2・3・1とあった。資料を見る限りパスワードが必要なようで完全に回収したのは無駄骨だった。


取り合えず気を取り直し私は他の資料を読んだ、無事だと思っていた資料の束の内6束は水がにじみ内容が地味にわからない感じになっていた。地味に……地味にだが、急いでいたのもあるのだが無駄な事をしてしまっていたというのはどうにも悔しいようなそんな気分になる。

そして資料は大まかに分けると専門職の内容、罰則などの処置のあらかたの説明、他組織についての説明、オブジェクトの報告書という感じだった。専門職の内容はちょっとよくわからなかったが罰則や処置についての組織の決まりごとは大分しっかりしていた。

他組織……この財団以外にも他に世界を守ったり商業利用したりしている迷惑な奴等がいるらしい、確かに調べる過程でこの財団以外の他の方面に流れる物資や金の流れは見つけてはいたが単なる汚職として見ていた。

……これは完全に予想外であり財団のような組織が他にもあるのもはよく考えればわかる事だったが、いつの間にか固執した思考に陥っていたのかもしれない

最後にオブジェクトについての報告書……これこそが、私の置かれている状況を、現実として見ることの出来た初めての瞬間だった。

私はその報告書を読んだ 念入りに、長年の成果を噛みしめる様に、それはとても恐ろしい内容ながらも簡潔に書かれた報告書に何処か美しさを感じていた……そしてそれらを読み終わり冷静になった思考でもう一度報告書の内容を思い返したんだ。ゆっくり、正確に

そして私は気づいた。気づいてしまった。報告書の中に存在する記憶処理の文字列の対象を

それは……オブジェクトの存在を知った一般人に多く使われていた。そして……報告書を見る限り最高でも記憶処理が施された最低期間は1週間だ

では私がどれ程この組織について調べていた期間はどれ程だと思う?


……少なくとも、少なくとも10年だ その日、私は奴を見た。それほどまでに長い時間の記憶を消したらどうなる?私は私では無くなってしまうのではないか?そう考えだしたんだ なんたってそいつ等には本当に「記憶を消してしまう」力を持っているのだから……

私が奴等を調べ始めたのは……そう、正義や義務感に駆られたものではない、ただの疑心 好奇心からだ、私は、こんなもの達がこの世に実在し、それを隠そうとしている者達がどれだけ非道な事をしているなんぞ受け止めるだけの態勢じゃなかった。

これ等を知ってしまった私は全てを疑い、警戒し 既に8年生き続けている。もう私は"普通"には戻れない、全てを疑いながらその生を終わらせることを確定させてしまったのだ。

私は……自衛隊を止め、6年前から都会からはそこそこ離れた大き目の街に移り住んでいる。街と言っても街外れにある家を持ち、猟師の資格や罠を仕掛ける資格を取得した猟師として細々とやっている。

有難いことにそんな落ちぶれ、全てを投げ出した私に惹かれた者がいた。

今の妻だ、約10年も年が離れており諦めるよう説得したが結局、といったところだ 確かにうれしかったのだが……結婚式の時、彼女の職場の同僚達が呪い殺すぐらいの目で私を睨んでいたのを思い出す。うん、済まない 私の様なおっさんが選ばれた正直理由はよくわからないのだが……

ただ、私の元同僚達や家族達が祝福をしてくれた。何処か、私はそれに大きな幸せを、感じられた。

そうして今、同居している彼女なのだが……私を愛してくれているのは分かっている。私も彼女を確かに愛しているが……同時に疑っている。

本当に申し訳ないと思っている。だがもう私は私以外の人々を信じることが出来なくなってしまった。私なら、彼女の事を調べることもできるだろう、だが……もうこのようなことはうんざりだ。

これは世界の影に不用意に、軽率に足を突っ込んだ代償だとだと考えている。本当に……本当に何故私は引き返さなかったのか、「後悔先に立たず」……いや、「好奇心は猫を殺す」か、それを私は実感している。

全てを忘れたい、全てを諦めたい、全てに、けじめをつけてしまいたい。

しかし生きよう、私は生きよう、おちゃめで、可愛らしく、私には勿体無いくらいの妻を、しっかりと愛し、幸せにするために。

何時の日か、君を心から信じられる時まで、


私を 待ってはくれないだろうか


「……はい」

そう言い、私は夫の日誌の最後のページを閉じる。

見ないで欲しい、と言われたが見たかった。好奇心には勝てない、という事で私は夫を許そうと思う。

「でも私あの人の魅力的なところ沢山上げたのですけどねぇ、もっと言えと言うお達しでしょうか」

何時の日か魅力的な場所を上げていき、夫の顔が少しずつ赤くなっていくところも可愛かった。

ガラガラ、と玄関の方から音がする。

「優菜!今帰ったぞ!罠に猪が掛かってた!」

「あらあら~いいですね~お父さん、絶好調ですね」

「……気恥ずかしいからお父さんはやめてくれるかな?」

「ふふ、そろそろ、お父さんになるんだから遅かれ早かれでしょ?」

「それはそうなんだが……」

「お湯沸かすわね~」

「あ、まて!それは俺が入れるから?!安静にしててくれ!」

……また、私はゆっくりと考え始める

日誌であまり自分語りをしない夫の一面をまた知れて、少し嬉しい気分だ。

……だけど私は夫のそんな一面を知らずにいたことがどこか悲しく、悔しく感じた。

そんな一面を知ったからこそ私は……夫の為にも、子の為にも仕事を辞めよう、夫には負担を強いることになるけど安定してきたらまた職を探せばいい、夫にいつまでも寄り添える。そんな妻になれる様に私は努力しよう。


私は湯を沸かし始めて待っている間に無意識に、胸ポケットに手を置く……そして胸ポケットから入ってたものを取り出しゆっくり見る。

それはいつぞやの収穫物の内にあった金庫を開けて手に入れた。記憶処理剤と呼ばれる物だ、開けた当時はいつか耐えられなくなった時に飲んでしまおうと取っておき、いつの間にか忘れ、結婚してからまた思い出した代物だ。

その瓶に入った薬剤を見つめながらゆっくりと考えを巡らせ、思う。この幸せを忘れることを私は拒むであろう、と。

私に思いを寄せてくれている妻の事を忘れる。そんなことはしたくはない。

ようやく……


ようやく人並みに妻を信じられるようになったのだ。

この幸せを無くそうと……隠してしまおうとする者がいるのならば────


────私の全力を持って抗ってやる


ページコンソール

批評ステータス

カテゴリ

SCP-JP

本投稿の際にscpタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

GoIF-JP

本投稿の際にgoi-formatタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

Tale-JP

本投稿の際にtaleタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

翻訳

翻訳作品の下書きが該当します。

その他

他のカテゴリタグのいずれにも当て嵌まらない下書きが該当します。

コンテンツマーカー

ジョーク

本投稿の際にジョークタグを付与する下書きが該当します。

アダルト

本投稿の際にアダルトタグを付与する下書きが該当します。

既存記事改稿

本投稿済みの下書きが該当します。

イベント

イベント参加予定の下書きが該当します。

フィーチャー

短編

構文を除き数千字以下の短編・掌編の下書きが該当します。

中編

短編にも長編にも満たない中編の下書きが該当します。

長編

構文を除き数万字以上の長編の下書きが該当します。

事前知識不要

特定の事前知識を求めない下書きが該当します。

フォーマットスクリュー

SCPやGoIFなどのフォーマットが一定の記事種でフォーマットを崩している下書きが該当します。


シリーズ-JP所属

JPのカノンや連作に所属しているか、JPの特定記事の続編の下書きが該当します。

シリーズ-Other所属

JPではないカノンや連作に所属しているか、JPではない特定記事の続編の下書きが該当します。

世界観用語-JP登場

JPのGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。

世界観用語-Other登場

JPではないGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。

ジャンル

アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史

任意

任意A任意B任意C

ERROR

The Kajikimaguro's portal does not exist.


エラー: Kajikimaguroのportalページが存在しません。利用ガイドを参照し、portalページを作成してください。


利用ガイド

  1. portal:6590894 (02 Aug 2020 11:13)
特に明記しない限り、このページのコンテンツは次のライセンスの下にあります: Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License